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<ペテルブルグ最新事情>I play good music. レーナ・ポポワ ? ロシアで最初のDJ

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1997/03/30 - 1997/03/30

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 一年前には、DJが夕一ンテーブル上のレコードをコンピューターと手で操作してハウス・テクノ・レイヴを流すクラブより、ロックバンドの生演奏が売り物のライヴハウスの方が、元気があった。ペテルブルグではこの一年で情勢が逆転、ナイトライフの主流は深夜12時から始まるレイヴパーティーになった。それに伴って、「人気のあるバンド」と同じレベルで「人気のあるDJ」が出現し、彼らは一晩で数件のクラブをかけもちすることもある。そのうちの一人がレーナ・ポポワ、28歳。

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 初めて彼女を見かけたのはクラブ“トンネル”。元は防空壕だった巨大な地下空間を利用したクラブ。午前4時。300人はいるだろうと思われる細長いダンスフロアの先頭で、鉄格子の中の舞台で一人ミニスカートで足を踏ん張り、髪を振り乱し、肩でヘッドフォンを押さえながらレコードを操作する人がいた。彼女はここ“トンネル”で3年前にデビューした。ロシア最初の女DJというのは、もちろんしゃべりのラジオDJではなく、コムソモール主催の健全ディスコのDJでもなく、クラブDJのことだ。

それ以前本人の言葉によると「彼氏モドキ」がドイツにいて、半年ほどドイツに滞在していた。そこで目にしたレイヴ・パーティーは、まだロシアにはないものだった。かっこいいと思った。自分にもできるのではないかと思わせた。と同時に、こんな音楽はロシアでは受け付けてもらえまいとも考えた。ペテルブルグに戻ると“トンネル”に「試しにDJをやらせてもらえないか」と頼んでみた。最初は怖くて、アルコールをひっかけないと夕一ンテーブルにつけなかった。しかし、うまく行かないことがあっても何のことはない。その頃のロシア人は、DJの善し悪しはおろか、レイヴ・パーティーとはどういうものかすら、全く分かっていなかった。ただ“何かしら新しいもの”を求めてクラブにやってくるという程度だった。

 故郷クラスノダールの大学の文学部を放り出した後、ペテルブルグに来て役者をやって、そのあと芸術家をやってドイツから帰ってからはフォンタンカ運河沿いに200平方メートルものだだっ広い空き家を見つけ、お湯なし、ガスなし、電気なし、お金なしで暮らしていた。アメリカにいたという家主が、一年半後に現れて、追い出された。「今は暮らし向きが良くなったわ。ちゃんとした部屋に住んでるんだから」。これだけ人気があっても月の収入は約80ドル。そして部屋代も80ドル。「おなかがすいて、家に何もなかったら友だちのとこへ行くの。何軒か回れば誰か一人は手持ちのお金があるもんよ。それに、お金がなくてもまずいものはすすりたくないでしょ」。

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 一回の出演に60枚ものLPを運ぶ肉体労働。「実際使うのは30枚ちょっとなんだけど、その時の気分によってどんな曲が必要になるか分からないから」。レーナの気分ひとつで300人の気分が左右される。自分の出演日、出演時刻にあわせてエネルギー満載、エモーション完壁の状態に自分をもって行くのは難しい。 「涙いっぱい目にためてステージに立つこともあるわよ。一人暮らしだとね。急に孤独を感じたり、悲しくなったりすること、誰にだってあるでしょ。とってもつらい日が。でも家じゃ泣かないで、クラブに行って泣くの。レーナ、どうしたの?どうして泣いているの?』ってみんなに聞かれるけど、泣くのに特別な理由なんか要る? 泣けない人って大勢いるけど、そういう人ってかわいそう…。仕事にならなかったことは一回だけ。出番前に麻薬キノコを食べ過ぎてその場で寝ちゃったの。麻薬キノコと言えば、あるクラブでクラブ側にお金が無くって、キノコで支払われたこともあったっけ。あたしって、お金を稼ぐ才能がないのね、きっと。ハハハ…」

 クラブの広告は“女DJ”を強調しているが、彼女自身は男のDJと女DJの間に差を見いだせないと言う。でもなぜか他の女DJは好きになれない。もう一人売り出し中のアンジェラのスタイルはハード・コア。ハードコアはレーナが2年前にやっていたもので、レーナにはもう興味がない。いつも実験的な音楽が好きだったという彼女。どうやってモードの流れを掴むのかという問いに、

「Я играю хорошую музыку.」

その時々で、自分自身で気持ちいい、かっこいいと思うものを演っているだけだと言う。流れは後からついてくる。

「3年前には、今みたいな大きなレイヴの波がやってくるなんて思ってもみなかったわ」。他のDJと比較しての自分の特徴も知らないという。クラブに足を踏み入れて音を聞いた途端、誰が夕一ンテーブルについているか分かるという通の友人によると、レーナ・ポポワの演奏は、“純粋なエモーションのぶっ放し”。それも人と人を結合させるのではなく、ばらばらにさせるエモーション。踊るモードな若者の汗と呼吸でクラブは壁も床も水滴だらけ。まるで一雨降ったよう。それだけのエネルギーが結集しながら、ここではみんな一人。自分だけの世界に浸り切っている。ヒトの踊りを観察したり、伸良しグループで一緒に踊ったりなんてとんでもない。一人一人完全に分離された世界。レイヴと麻薬の切っても切れない関係(つまり本当にレイヴに酔えてトランス状態に入れるのは麻薬を便用している者の特権であるという考え方)については、「麻薬使用者と麻薬中毒患者は全くの別物だし、問題の根本は麻薬にあるんじゃなくて、人格よ」。

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 レイヴが流行らなくなってしまったらどうするのかな、という私の心配を彼女は一蹴する。

 「レイヴはまだまだ廃れないわよ。ようやく根を張り始めたところ。ロックは20年以上も持ちこたえたのよ。ロックンロール、ハードロック、パンクロック、ヘヴィーメタルと、いろんなヴァリエーションに発展しながらね。テクノユージックをひっくるめてテクノと呼んでるけど、ハウス、ヒップホップ、それにこれから先どんな新しいヴァリエーションが出てくるか未知数よ」

 「でも40歳になっても続けられる職業じゃないでしょ、DJは」

 「まあっ! あたしったら、そんなこと考えたこともなかったわ!……。そうね、でもそうなったらその時考えるわ。あたしね、最近生きるのがラクになって来たの。年のせいか何なのか分からないけど、昔はあんなに苦しんでいたことや苦手だったことが、今では屍でもないのよ。フシギ。だからきっと、いろんなこと乗り越えられるわ」。

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