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■インタビュー<br /><br /> ジーマ氏一家やリュドミラさんたちは、すでに儀式を終え、広場の端の草むらに場所をとってくつろいでいた。私たちも合流して日光浴に加わった。<br /><br /> 昼前に、大きなカメラを持った男性とちょっと美人の若い女性がやってきた。地元の新聞記者でインタビューしたいと言う。はるばる日本から、ロシア正教の信者でもないのにキーロフ十字架行進に参加したのは何故なのか、3日間歩いてみてどう感じたか、日本にはこのような巡礼はあるか、……、等々。矢継ぎ早の質問が飛んでくる。スベトラーナさん(ジーマ氏の奥さん)が勤める雑誌社は、キーロフ市内で16万の発行部数をもつタブロイド紙も出しており、彼女が同僚に取材ネタを提供したらしい。<br /><br />「十字架行進に参加して一番驚いたのは、幼い子供や老人が多数参加していること。わずか2〜3歳の幼児を抱いた母親や、自分の体重よりも重そうなリュックを担いだ老婆、泥濘の道を裸足で歩く女性などの姿が忘れられない。日本の四国遍路ではまず見られない光景だ。あらゆる年齢層の参加者が、過酷な条件に耐えて歩き続けている。これはやはり、『信仰の力』としか説明できないのではあるまいか。」<br /><br />「キーロフ行進に比べれば、日本の四国遍路ははるかに整備され、観光化されている。バスや車で周遊する人々の行動はすでに観光旅行とほとんど区別がつかなくなっているが、かなりの困難が伴う歩き遍路においても、遍路道がよく整備されている分だけ観光化の傾向は否めない。弘法大師の修行のあとをたどった昔の遍路は別として、荒々しい自然の中で神との対話を繰り返しつつ歩く巡礼の意味は、キーロフ行進においてはるかに強く感じられる。」<br /><br />「長時間歩くことには慣れているが、ロシアの行進の方が過酷だと思う。ロシアと日本の違い、自然の厳しさ、人間の逞しさなどを感じながら歩いた。」<br /><br />「万物に神が宿ると考える日本人にとっては、『唯一の神』というものを理解するのは難しいが、東日本大震災を経験して、自然の巨大な力の前では人間の力はきわめて小さなものにすぎないということを身に沁みて知った。人間は大自然を構成する一部分として、自然にさからわずに謙虚に生きるすべを学ばなければならないというのが日本の伝統的な価値観だったのに、日本人はそのことを忘れかけていたのだと思う。歩くことは、いろいろなことを考えさせてくれる。復路もこのままキーロフまで歩くつもりでいる。」<br /><br />といったようなことを答えた。<br /><br /> カメラマン氏によれば、キーロフ行進が再開されたばかりの頃はもっと野生的で、まさに「道なき道を歩く」困難なものだったが、道路や休憩場所が整備されてきた最近は、ロシアでもやはり「観光化」の傾向がでてきているとのこと。参加者が多くなればなるほど、行進を円滑かつ安全に進めるための管理と組織化が必要になる。イベント化、観光化の要素も強まらざるを得ない。相反する要素を持ちつつも、信仰活動と観光・イベント的要素は、どこかで折り合いを付け、補完し合う関係を結んでいくことになるのだろう。<br /><br /> キーロフ市内にもどってから渡された新聞(6月8日付)には、無精髭をはやした大きな顔が、2ページ見開きの記事とともに載っていた。ちょっと恥ずかしい。

キーロフ十字架行進 ベリカロツコエ村での1日(10)

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2012/06/03 - 2012/06/08

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3

JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

■インタビュー

 ジーマ氏一家やリュドミラさんたちは、すでに儀式を終え、広場の端の草むらに場所をとってくつろいでいた。私たちも合流して日光浴に加わった。

 昼前に、大きなカメラを持った男性とちょっと美人の若い女性がやってきた。地元の新聞記者でインタビューしたいと言う。はるばる日本から、ロシア正教の信者でもないのにキーロフ十字架行進に参加したのは何故なのか、3日間歩いてみてどう感じたか、日本にはこのような巡礼はあるか、……、等々。矢継ぎ早の質問が飛んでくる。スベトラーナさん(ジーマ氏の奥さん)が勤める雑誌社は、キーロフ市内で16万の発行部数をもつタブロイド紙も出しており、彼女が同僚に取材ネタを提供したらしい。

「十字架行進に参加して一番驚いたのは、幼い子供や老人が多数参加していること。わずか2〜3歳の幼児を抱いた母親や、自分の体重よりも重そうなリュックを担いだ老婆、泥濘の道を裸足で歩く女性などの姿が忘れられない。日本の四国遍路ではまず見られない光景だ。あらゆる年齢層の参加者が、過酷な条件に耐えて歩き続けている。これはやはり、『信仰の力』としか説明できないのではあるまいか。」

「キーロフ行進に比べれば、日本の四国遍路ははるかに整備され、観光化されている。バスや車で周遊する人々の行動はすでに観光旅行とほとんど区別がつかなくなっているが、かなりの困難が伴う歩き遍路においても、遍路道がよく整備されている分だけ観光化の傾向は否めない。弘法大師の修行のあとをたどった昔の遍路は別として、荒々しい自然の中で神との対話を繰り返しつつ歩く巡礼の意味は、キーロフ行進においてはるかに強く感じられる。」

「長時間歩くことには慣れているが、ロシアの行進の方が過酷だと思う。ロシアと日本の違い、自然の厳しさ、人間の逞しさなどを感じながら歩いた。」

「万物に神が宿ると考える日本人にとっては、『唯一の神』というものを理解するのは難しいが、東日本大震災を経験して、自然の巨大な力の前では人間の力はきわめて小さなものにすぎないということを身に沁みて知った。人間は大自然を構成する一部分として、自然にさからわずに謙虚に生きるすべを学ばなければならないというのが日本の伝統的な価値観だったのに、日本人はそのことを忘れかけていたのだと思う。歩くことは、いろいろなことを考えさせてくれる。復路もこのままキーロフまで歩くつもりでいる。」

といったようなことを答えた。

 カメラマン氏によれば、キーロフ行進が再開されたばかりの頃はもっと野生的で、まさに「道なき道を歩く」困難なものだったが、道路や休憩場所が整備されてきた最近は、ロシアでもやはり「観光化」の傾向がでてきているとのこと。参加者が多くなればなるほど、行進を円滑かつ安全に進めるための管理と組織化が必要になる。イベント化、観光化の要素も強まらざるを得ない。相反する要素を持ちつつも、信仰活動と観光・イベント的要素は、どこかで折り合いを付け、補完し合う関係を結んでいくことになるのだろう。

 キーロフ市内にもどってから渡された新聞(6月8日付)には、無精髭をはやした大きな顔が、2ページ見開きの記事とともに載っていた。ちょっと恥ずかしい。

  • ■再び「聖水の儀式」<br /><br /> 昼食は、広場の端に敷いたシートの上に食べ物を並べて、ピクニック気分。パン、紅茶、野菜(トマト、キュウリ、ラディッシュ、ネギ、香り草、ニンニクの葉)、サーラ(豚の脂身)、チーズ、ハム、ブリヌイ(クレープ風薄焼きパンケーキ)などなど、ごちそうが一杯だ。<br /><br /> 新たにジーマ夫妻の娘(マリーナさん。なんとジーマ夫妻にはイリヤ君とニキータ君の上にもう一人18歳の娘さんがいたのだ)やスベトラーナさんのお母さんとその家族が加わり、一層賑やかになった。<br /><br /> 昼食が終わった頃を見計らって、再び記者が今度はテレビカメラマンを連れて現れた。どうも「絵になるショット」を撮りたい様子。<br /><br />「ここまで来たのだから、(信仰とは関係なく)是非とも、ベルカヤ川に入りましょう!」<br /><br />「ここで聖水の儀式を体験しないのはもったいない!」

    ■再び「聖水の儀式」

     昼食は、広場の端に敷いたシートの上に食べ物を並べて、ピクニック気分。パン、紅茶、野菜(トマト、キュウリ、ラディッシュ、ネギ、香り草、ニンニクの葉)、サーラ(豚の脂身)、チーズ、ハム、ブリヌイ(クレープ風薄焼きパンケーキ)などなど、ごちそうが一杯だ。

     新たにジーマ夫妻の娘(マリーナさん。なんとジーマ夫妻にはイリヤ君とニキータ君の上にもう一人18歳の娘さんがいたのだ)やスベトラーナさんのお母さんとその家族が加わり、一層賑やかになった。

     昼食が終わった頃を見計らって、再び記者が今度はテレビカメラマンを連れて現れた。どうも「絵になるショット」を撮りたい様子。

    「ここまで来たのだから、(信仰とは関係なく)是非とも、ベルカヤ川に入りましょう!」

    「ここで聖水の儀式を体験しないのはもったいない!」

  •  テレビカメラの前で貧弱な体を晒すのは気がひけたが、ジーマ氏もユーリー・セルゲービッチ先生も、服を脱いで「さあ行こう」と手を引っ張る。<br /><br />「こうなったら全部体験してみるしかない」<br /><br /> 促がされるままに服を脱ぎ捨て、パンツ1枚で茶色に濁った水の中に飛び込んだ。少し冷たいが、天気が良いので気にならない。水深は腰の上、胸の下くらい。岸から5〜6メート離れたところで、体全体を頭の先まで3度水に没する。説明によれば、3回以上、体全体を水の中に沈めるのが正しいやり方なのだそうだ。ユーリ先生は十字を切りながら何度も何度も頭を水に沈めている。イリヤ君は、悠々と川の中で泳ぎ続けている。イヤイヤをして逃げ回っていたニキータも意を決して川に飛び込んでくる。<br /><br /> こうして私も聖水の儀式らしきものを体験することになった。岸に上がると、皆がやんやの歓声で迎えてくれる。ロシア人の感覚からすれば、この場合、信仰は関係ない。一緒に川に飛び込むことで、外国人である私が多少ともロシア人に近づいた、心を開いたと感じることが彼らにとってはとても嬉しいことだったのだ。そうして、私もまた少しばかりロシア人に近づいたような気になって、嬉しかったものだ。

     テレビカメラの前で貧弱な体を晒すのは気がひけたが、ジーマ氏もユーリー・セルゲービッチ先生も、服を脱いで「さあ行こう」と手を引っ張る。

    「こうなったら全部体験してみるしかない」

     促がされるままに服を脱ぎ捨て、パンツ1枚で茶色に濁った水の中に飛び込んだ。少し冷たいが、天気が良いので気にならない。水深は腰の上、胸の下くらい。岸から5〜6メート離れたところで、体全体を頭の先まで3度水に没する。説明によれば、3回以上、体全体を水の中に沈めるのが正しいやり方なのだそうだ。ユーリ先生は十字を切りながら何度も何度も頭を水に沈めている。イリヤ君は、悠々と川の中で泳ぎ続けている。イヤイヤをして逃げ回っていたニキータも意を決して川に飛び込んでくる。

     こうして私も聖水の儀式らしきものを体験することになった。岸に上がると、皆がやんやの歓声で迎えてくれる。ロシア人の感覚からすれば、この場合、信仰は関係ない。一緒に川に飛び込むことで、外国人である私が多少ともロシア人に近づいた、心を開いたと感じることが彼らにとってはとても嬉しいことだったのだ。そうして、私もまた少しばかりロシア人に近づいたような気になって、嬉しかったものだ。

  •   *         *<br /><br /> 川の畔で丸一日過ごし、夕方5時ごろ宿舎にもどった。<br /><br /> キーロフに帰るスベトラーナさんのお母さんたちに持って返ってもらうために、携行品のうち不要なものを集めて荷造りをする。同時に、キーロフから車で届けられた追加の食料品を部屋の真ん中に広げて、残りの2日間に必要なものを各自のリュックに取り分けた。荷物が少し減ったがまた増えた。<br /><br /> ピロシキ、トマト、スープなどで夕食をとり、この日もバーニャに入って気持ちのいい汗を流した。<br /><br /> スベトラーナさんの家族たちは、ワゴン車に私たちの荷物を積み込んでキーロフに帰っていった。車で走れば2時間足らずでキーロフ市内にもどれる。それを私たちは明日から2日かけて再び歩くのだ。<br /><br />(つづく)

      *         *

     川の畔で丸一日過ごし、夕方5時ごろ宿舎にもどった。

     キーロフに帰るスベトラーナさんのお母さんたちに持って返ってもらうために、携行品のうち不要なものを集めて荷造りをする。同時に、キーロフから車で届けられた追加の食料品を部屋の真ん中に広げて、残りの2日間に必要なものを各自のリュックに取り分けた。荷物が少し減ったがまた増えた。

     ピロシキ、トマト、スープなどで夕食をとり、この日もバーニャに入って気持ちのいい汗を流した。

     スベトラーナさんの家族たちは、ワゴン車に私たちの荷物を積み込んでキーロフに帰っていった。車で走れば2時間足らずでキーロフ市内にもどれる。それを私たちは明日から2日かけて再び歩くのだ。

    (つづく)

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