2000/02/17 - 2000/02/19
70位(同エリア148件中)
北風さん
日本を出て早2ヶ月、数々の難関をくぐり抜けて、やっと、この旅のメインテーマが始まろうとしていた。
そう、今までのこの南極行きの船を見つけるまでのドラマは、スターウォーズならエピソード1にあたる外伝にすぎない。
あとは、このロシアの観測船を借り切った豪華ツアー南極船で、目の前のドレーク海峡を越えるだけだ。
やっと、南極物語本編に突入!
- 旅行の満足度
- 3.5
- 観光
- 5.0
- ホテル
- 5.0
- グルメ
- 5.0
- 交通
- 2.5
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 船
- 旅行の手配内容
- 個別手配
-
旅日記
『出航前夜』
「ハレルヤァ!」
安宿のチカチカする裸電球が照らす台所では、いつものようにコアなクリスチャンのセニョーラが、祈りの言葉の大絶叫とともに、ネコとイヌとアル中のオヤジの器に夕飯を盛っている。
もはや、このテーブルの赤ワインの染みの様にこの空間に同化している俺は、パンくずとネコを払いのけたスペースに、今日旅行会社から渡された封筒の中身をばらまいた。
さすが通常料金ならば30万円を越える豪華ツアーだけあって、金ピカの縁取りをしたパンフレットと、整然とタイピングされた書類の束、なんとツアー名を刺繍したワッペンまで入っている。
セニョーラの説教をかいくぐり、アル中のオヤジが
「なんだ、隣の街に行くのに随分ご大層な事だなぁ」
と冷やかしてきた。
「隣町」、
そう、ここアルゼンチンの世界地図では、南極の一部はアルゼンチン領になっていた。
(実は、アルゼンチンだけでなく、チリやオーストラリアでさえも南極に自国の領土を主張している)
つまり、この国では、南極を「隣国」ではなく「隣町」として語っても、アル中の戯言でかたずけられる問題ではなかった。 -
しかし、その隣町までいくツアーの日程表を見ると、2月17日〜27日までびっしり予定が書き込まれている。
しかも、日程表のの右隅には、今までどのツアースケジュールでも見た事の無い数字が!
・・・これは、地球の座標軸?(緯度、軽度) -
ツアーコースと言えばいいのか、航海予定表と言えばいいのか・・・
つまり、このツアーは、10日間で南極大陸のアルゼンチン側に伸びた半島の先っぽに上陸した後、周りの島々に立ち寄って寄港する内容らしい。
うーん、南極大陸の奥深く犬ぞりやスノーモービルで観て回るイメージがあったんだけど・・・
旅行会社のオネーチャン曰く、
「季節は2月、南極では夏にあたるこの季節だからこそ、分厚い氷や流氷に阻まれる事も無く接岸し、凍死する事無く観光できるのです。
しかし、同時に暑さで氷がひび割れ出して、内陸部には無数のクレパスが口を開けているのも事実です。
しかも、南極条約にて特別な目的以外で南極大陸で宿泊する事は出来ません。」
・・・これほど、スルスルと理由が並べられる理由は、多分同じ説明を数えきれないぐらい繰り返している結果なんだろうなぁ。 -
とにかく、日本を出て早2ヶ月、数々の難関をくぐり抜けて、やっと、この旅のメインテーマが始まろうとしていた。
そう、今までのこの南極行きの船を見つけるまでのドラマは、スターウォーズならエピソード1にあたる外伝にすぎない。
あとは、このロシアの観測船を借り切った豪華ツアー南極船で、目の前のドレーク海峡を越えるだけ。
ちなみにドレーク海峡をウィキペディアで検索すると、
「ドレーク海峡は、南アメリカ・ホーン岬と南極大陸との間の海峡であり、世界で『最も荒れる』海峡の一つ」
と記されていた。
つまり、このドラマチックなエピソード1 はまだまだ終わらないらしい。
(と、いうか、エピソードだけで力尽きそうな気が・・・) -
出航当日、南極ツアー船「アカデミック・セルゲイ・バビロフ」は、その白い巨体を港の端っこに横たえていた。
ロシアの極地観測船をレンタルしているだけあって、世界一周旅行のポスターに登場する豪華客船みたいなポッチャリ型の船体ではなく、まるでこのまま戦争にも行けそうなスリムで無機質なシルエットに見える。
旅行会社のおねーちゃん曰く、立ってられないぐらい揺れるドレーク海峡では、プールやディスコなどの快適装備じゃなく、極地専用設計の安全装備が何よりも大事との事。
このバビロフは、状況に応じて船艇からコンピューター制御のスタビライザー翼が出てきて船を安定させるらしい。
・・・氷山衝突時には、波動砲ぐらい発射できそうな気がする。 -
船内入口のサイン・ボードによると、この船は船員と乗客合わせて、250名収容可能らしい。
さすがに行き先が極地の場合、船の大きさは妙な安心感を与えてくれる。
・・・船員がウォッカをダースでかついでいく姿は、深刻な不安感も与えてくれる。 -
おおっ、船尾にはヘリポートまで!
-
チケットの番号をたどって、気密性が高そうな重たいドアを開けると・・・
同じ安宿で、同じ旅のスタイルで、同じツアー・キャンセル待ちをしていた、オーストラリアンのジョンが、同じ笑顔で迎えてくれた。
「ここまで一緒だと運命的だな!だけど、俺はストレート(ホモじゃない)だから気を悪くしないでくれ!」
と、ジョンがのたまう。
・・・ジョン、俺も同じ台詞を用意していたんだよ。
それはともかく、部屋は2人部屋で広さは4畳半ぐらいだろうか?
2段ベッドの奥には小さなソファと机まで設置されている。
これで一番安い部屋だから、1等はどれぐらい豪華なんだろう?
ペンギンぐらい、おまけでついてくるのだろうか? -
「ぶぼおぉぉぉぉぉ」
腹の底に響くどでかい汽笛と共に、とうとうバビロフ号が岸壁を離れた。
出航だ!
そして、南極への出発だ!
ピカピカのアウトドアファッションに身を包み、最新のソニーのビデオで遠のくウシュアイアを記憶に納めているこのリッチな乗客達には、この感慨無量な気持ちはわかるまい!
このスタート地点にたどり着くまでに、既に3本ぐらいアドベンチャー映画が撮れそうな程ドラマがあった薄汚れた東洋人バックパッカーの気持ちは!
いかん、泣けてきた。 -
出航して1時間経過、いろいろ探検していると、操舵室にたどり着いた。
カメラを持った上品そうなおじちゃんやおばちゃんがウロウロしている所を見ると見学自由らしい。
手前の巨大な円形モニターはレーダーらしく、光軸の移動に伴ってボウっと地形が浮かび上がってきた。
さすが、極地専用船!このハイテク機器が非常に頼もしい!
唯一の不安は、BGMに「タイタニック」を流している、ロシア船員のセンスだけかもしれない。 -
極地の夜は遅い。
いや、ほとんど白夜に近いのかもしれない。
船内の探検も一通り終わり、びっくりするほど豪華な夕食に感激した後も、まだ太陽は仕事をしていた。
外の明るさはそれほど変わらないのに、出航時に見たおだやかな海は、いつしか白波をわんさか引き連れた時化に変わっていた。 -
両側に見えていた陸地がとうとう見えなくなってきた。
どうやらリアス式の入り江が終わり、とうとう、あの海峡へ突入するみたいだ。
「ぶぼおぉぉぉぉぉ」
船が再び雄叫びをあげる。
ドレーク海峡との戦いのゴングだったのかもしれない。 -
旅日記
『そして朝が来た』
そして、南極ツアー最初の夜が開けた。
静かだ。
いや、昨日の夜から続くゴゴゴゴッ、ギギギギッという船体のきしむ音と、ゴガッという高波が叩き付ける音や分厚いガラス越しにも聞こえる吹雪の様な風の音は、むしろ耳を覆いたいぐらいにうるさい。
静かに感じるのは、人気がしないからだった。
これほど大きな船なのに、部屋から出ると廊下にもロビーにもほとんど人がいない。(あちこちの船室からうめき声は聞こえるが・・・)
確かに、まともに歩く事が出来ないぐらいに揺れているこの状況下では船酔いするなと言っても無理な話だろう。
「人間万事塞翁が馬」という諺がある。
インドネシアでの難民船経験
http://4travel.jp/traveler/zbd67893/album/10481547/
http://4travel.jp/traveler/zbd67893/album/10481671/
や、スリランカでの漁師経験
http://4travel.jp/traveler/zbd67893/album/10441870/
で否応無く鍛え上げられた俺の三半規管は、これぐらいの揺れにはビクともしなかった。
無人の船内を探検していると、いつしかハイテク操舵室にたどりついていた。
ロシア人船長が「ハラショー」と笑いながら手招きして、いきなりボタンが並んだ計器の所に連れて行き、強引に俺の指を赤いボタンの上にのせて「KEEP IT !」とおごそかに言い放った。
それから10分、ロシア人船長はコーヒー片手に仲間とおしゃべりに夢中になったまま。
俺は、フロントガラスに絶え間なく襲いかかる津波の様な高波に心臓が飛び出しそうになりながら、謎の赤いボタンを押したまま。 -
この豪華ツアーの食事は、朝、昼、晩、俺が今まで味わった事も無い様な世界各地のフルコース料理だった。
毎回配られるメニューのパンフレットには、自慢じゃないが前菜に始まりデザートまで俺が知っている料理は一つも無い。
未知なる世界をトコトン味わい尽くす為の手段が旅ならば、この未知なる食の世界の扉が開いている現在、たかだか天井のシャンデリアが扇風機の様に踊り狂うぐらいの揺れで酔いつぶれている場合じゃなかった。
何が何でも見てやる!
これが旅のテーマだったが、現在のテーマは、
何が何でも食ってやる! -
旅日記
『南極船の格闘ディナー・ショー』
そう、最初にコーヒーカップが視界から消えた。
そして、ムニエルにされたサーモンが、甘ったるいフレンチ・ソースの中で身動きを始める。
また、グラッときた。
散歩に出ていたコーヒーカップが足早に帰宅。
視界の右端では、水面が非常に接近して映る窓ガラスに向かって、俺のサーモンがソースの飛沫とともに大ジャンプしていた。
なかなかの揺れだった。
確か8年前のインドネシア船もこんな感じだった気がする。
あの時との違いは、今回は100人乗りの豪華客船で乗客はロレックスとシャネルで武装したヨーロッパ上流階級という事だけかも。
出航して2日目、どうやらありあまる資産と権力を持ってしても、ドレーク海峡が与える三半規管と胃への試練は防げないらしい。
まるで何かのミステリーの様に、レストランを訪れる人間が減っていく。
とうとう、乗客の3割をきったのではないだろうか?
出航直後のあの和気あいあいのディナー(画像参照)は、既に遠い日の思い出になった気がする。 -
逃亡したサーモンを探していると、今までで最高の波が来た!
「バギャッ」という音と共に、今度は向かいのアザラシ並みの脂肪で武装したおばちゃんが、2つ隣の席のイギリス紳士にフライング・ボディ・アタックをかましに宙を舞った!
通常この船のイスはチェーンで固定されているはずなのだが、か細いチェーンでは彼女の慣性力は支えきれなかったらしい。
フカフカの絨毯の上で、フランス料理の飛沫とともに、総合格闘技を演じる上流階級の紳士淑女、その目の前で夢の様な料理を無我夢中でほおばるサンダル履きの東洋人バックパッカー。
ロシア船「セルゲイ・バビロフ」号は、人々のいろいろな想いを載せて南を目指す。
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