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 学校の次に案内されたのは、ヴェルホヤンスク地区博物館です。地区というのは、サハ共和国独特の行政区画で、ウルース(ロシア語:улус、ヤクート語:улуус)といいます。ヤーナ川流域の上流部一帯の広大な領域がヴェルホヤンスク地区(ウルース)となっていて、その面積は実に日本の総面積の35%に達する134,000km2です(北海道と四国と九州を合計したくらい)。ここはその地区を代表する博物館というわけです。<br /><br /> 博物館を案内してくれたのは、2名の職員でした。どちらも小柄なおばあちゃんですが、片方はロシア語がちょっとたどたどしくて、たまに単語がでてこなくなると、これロシア語でなんて言うんだっけな?と、もう1人の顔をしょっちゅう窺っています。一方、もう1人はというと、ロシア語もすらすら出てくるし、性格も少しせっかちなようで、にこりともせずに早口で答えます。この見事に対照的な2人のやりとりがほほえましくも可愛らしいので、どうも私は心中ニヤニヤしてしまっていけません。いいコンビです。<br /><br /> 博物館の展示内容は、これぞ世界一寒い町!という感じのものを想像していましたが、そうではありませんでした。さすが、広大な地区を代表する博物館だけあって、ここが世界の寒極であることの特殊性をアピールするよりも、広く、地域一般の自然と文化の史料を紹介することに重きを置かれているのです。<br /><br /> サハ共和国の民族文化の構成においては、これまでに紹介してきたヤクート人の文化のほか、エヴェンキ(エヴェン人)の文化も主要な一角を占めています。館内に入ると、立派なトナカイの剥製がでーんと目に入ります。トナカイと親しいのは、主にエヴェンキの文化で、ヤクート人はどちらかというと馬を家畜にする人々ですが、ヤクート人の中にも、エヴェンキ文化と触れ合ううちにトナカイ放牧をするようになった人々もいるのだそうです。馬の剥製ももちろんあって、これは珍しいヴェルホヤンスク種という馬です。純血種を展示しているのは世界でもここだけなんだとか。ふさふさの体毛、特に長ーいたてがみ、短い足、小さな体が特徴で、なんだかアンバランスな見た目をしています。あんまり走っても速くなさそう…。<br /><br /> 古生物学の資料も充実していて、マンモスの牙や、骨、歯も展示されています。こういうものがたくさん産出するのは、ヤーナ川のもっと下流、北極海に近い地域です。

エクメネの最果てへ ―サハ共和国 冬の旅― (13)

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2009/01 - 2009/01

244位(同エリア342件中)

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JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 学校の次に案内されたのは、ヴェルホヤンスク地区博物館です。地区というのは、サハ共和国独特の行政区画で、ウルース(ロシア語:улус、ヤクート語:улуус)といいます。ヤーナ川流域の上流部一帯の広大な領域がヴェルホヤンスク地区(ウルース)となっていて、その面積は実に日本の総面積の35%に達する134,000km2です(北海道と四国と九州を合計したくらい)。ここはその地区を代表する博物館というわけです。

 博物館を案内してくれたのは、2名の職員でした。どちらも小柄なおばあちゃんですが、片方はロシア語がちょっとたどたどしくて、たまに単語がでてこなくなると、これロシア語でなんて言うんだっけな?と、もう1人の顔をしょっちゅう窺っています。一方、もう1人はというと、ロシア語もすらすら出てくるし、性格も少しせっかちなようで、にこりともせずに早口で答えます。この見事に対照的な2人のやりとりがほほえましくも可愛らしいので、どうも私は心中ニヤニヤしてしまっていけません。いいコンビです。

 博物館の展示内容は、これぞ世界一寒い町!という感じのものを想像していましたが、そうではありませんでした。さすが、広大な地区を代表する博物館だけあって、ここが世界の寒極であることの特殊性をアピールするよりも、広く、地域一般の自然と文化の史料を紹介することに重きを置かれているのです。

 サハ共和国の民族文化の構成においては、これまでに紹介してきたヤクート人の文化のほか、エヴェンキ(エヴェン人)の文化も主要な一角を占めています。館内に入ると、立派なトナカイの剥製がでーんと目に入ります。トナカイと親しいのは、主にエヴェンキの文化で、ヤクート人はどちらかというと馬を家畜にする人々ですが、ヤクート人の中にも、エヴェンキ文化と触れ合ううちにトナカイ放牧をするようになった人々もいるのだそうです。馬の剥製ももちろんあって、これは珍しいヴェルホヤンスク種という馬です。純血種を展示しているのは世界でもここだけなんだとか。ふさふさの体毛、特に長ーいたてがみ、短い足、小さな体が特徴で、なんだかアンバランスな見た目をしています。あんまり走っても速くなさそう…。

 古生物学の資料も充実していて、マンモスの牙や、骨、歯も展示されています。こういうものがたくさん産出するのは、ヤーナ川のもっと下流、北極海に近い地域です。

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  •  ヴェルホヤンスクの略歴年表をみつけました。最初の町は1638年にできたのだそうで、もう370年以上経つことになります。こりゃ思った以上に古い町みたいだぞ。<br />1822年には、小規模人口の町に格付けされた、とあります。あまり意識していませんでしたが、そういえば、ヴェルホヤンスクの住所表記は、ロシア語でゴーラドヴェルホヤンスク(город Верхоянск)、つまり、この規模の集落としては破格の町制が敷かれているのです。<br /><br />なお、ゴーラドという言葉は行政上の「市」と「町」の両方に使われます。いや、そもそもロシアには市政と町制のはっきりした区別がないらしい。だから、ちょっと無理がありますが、ヴェルホヤンスク「市」と呼ぶことさえできることになります。<br /><br />しかし、ヴェルホヤンスクの人口は1300人未満ですよ。この地区(ウルース)はもちろん、隣接地区を見渡しても、ここまで釣り合わない格付けをされた集落は皆無です。大体、サハ共和国の北半分には、ヴェルホヤンスクより人口の多い集落だってあるのに、ゴーラドはここだけなんです。それほど、ヴェルホヤンスクの拠点性が高い、ってことなんでしょうか。<br /><br /> 年表を拾い読みしていくと、教会や病院が建って、着々とロシアの町になっていく様子がわかります。1824年に意外な記述を見つけました。町がヤーナ川右岸へ移転した、とあるのです。もちろん、現在のヴェルホヤンスクは右岸の町ですが、その前は左岸にあったということですね。でも、以前どこにあったのかも、移転した理由も、特に書かれてはいないようです。<br /><br /> 1945年には、ヤクーツク-ヴェルホヤンスク間、1960年にはバタガイ-ヴェルホヤンスク間の定期航空便がそれぞれ開設されたこともわかりました。でもいつ廃止になったかは書かれていません。<br /><br /> こういうのって結構、大事な歴史だと思うのですが、なんとなく中途半端な年表です。だれかもっと詳しく記録してくれないかな…。

     ヴェルホヤンスクの略歴年表をみつけました。最初の町は1638年にできたのだそうで、もう370年以上経つことになります。こりゃ思った以上に古い町みたいだぞ。
    1822年には、小規模人口の町に格付けされた、とあります。あまり意識していませんでしたが、そういえば、ヴェルホヤンスクの住所表記は、ロシア語でゴーラドヴェルホヤンスク(город Верхоянск)、つまり、この規模の集落としては破格の町制が敷かれているのです。

    なお、ゴーラドという言葉は行政上の「市」と「町」の両方に使われます。いや、そもそもロシアには市政と町制のはっきりした区別がないらしい。だから、ちょっと無理がありますが、ヴェルホヤンスク「市」と呼ぶことさえできることになります。

    しかし、ヴェルホヤンスクの人口は1300人未満ですよ。この地区(ウルース)はもちろん、隣接地区を見渡しても、ここまで釣り合わない格付けをされた集落は皆無です。大体、サハ共和国の北半分には、ヴェルホヤンスクより人口の多い集落だってあるのに、ゴーラドはここだけなんです。それほど、ヴェルホヤンスクの拠点性が高い、ってことなんでしょうか。

     年表を拾い読みしていくと、教会や病院が建って、着々とロシアの町になっていく様子がわかります。1824年に意外な記述を見つけました。町がヤーナ川右岸へ移転した、とあるのです。もちろん、現在のヴェルホヤンスクは右岸の町ですが、その前は左岸にあったということですね。でも、以前どこにあったのかも、移転した理由も、特に書かれてはいないようです。

     1945年には、ヤクーツク-ヴェルホヤンスク間、1960年にはバタガイ-ヴェルホヤンスク間の定期航空便がそれぞれ開設されたこともわかりました。でもいつ廃止になったかは書かれていません。

     こういうのって結構、大事な歴史だと思うのですが、なんとなく中途半端な年表です。だれかもっと詳しく記録してくれないかな…。

  •  さて、ちょっと前振りが長くなりましたが、この博物館には「北半球の寒極」としてのヴェルホヤンスクもちゃんと紹介されていますのでご安心ください。<br /><br /> ヴェルホヤンスクで、-67.8℃とかいうわけのわからない気温が記録されたのは、1885年1月15日と、1892年2月5日から7日にかけての2回で、いずれも、1883年にヴェルホヤンスク測候所ができてすぐの記録です。<br /><br />ところで、オイミヤコンという地名を読者の皆様は憶えておいででしょうか。この連載の第1回で、世界一寒い町はどこか、という問題に、複数の答えがあることに触れましたね。オイミヤコンは同じくサハ共和国にある集落ですが、こっちでは1926年に-71.2℃という気温が観測されているのです。クレイジー。じゃあ、世界一寒い町はオイミヤコンで決まりじゃないかと思いたくなりますが、そう簡単にはいきません。ロシア連邦水文気象環境監視局(РОСГИДРОМЕТ)の見解によると、<br /><br />「北半球の寒極はヴェルホヤンスクである」<br /><br />とされていて、2005年(最低気温記録120周年)に公式のレターがサハ共和国副大統領宛に発行されているのです。そのレターでは、オイミヤコンで記録された最低気温は-67.7℃、ということになっていて、どうも、-71.2℃という数値は、公式な記録とは認められていないようです。<br /><br /> 博物館では、そのレターのコピーが誇らしげに展示されています。そう、このヴェルホヤンスクこそ、北半球の寒極、世界一寒い町なのだ、と。でも、そんなことに関係なく、私たちは普通に暮らしていますよ、という声も、一方で聞こえてくる気がします。<br /><br /> ここは僻地中の僻地であることに異論はないでしょう。外界と結ぶ公共交通すら、今は通じていないのですから。でも、さっきから博物館を見ているうちに、ここが人間の住環境の限界に瀕しているとはどうしても思えなくなってきました。どうみても、平均以上の文化水準を維持した「普通の町」が生きているのです。世界一寒い、最果ての町にやってきたはずが、実際には期待より20℃ほど暖かいし、雰囲気もまるで最果てらしくないどころか、ある程度の拠点性さえ持っているだなんて、世界は裏切りに満ちていてわくわくしてくるじゃないですか。こういうのって、うまく言えませんが、人間が築き上げる価値の、一つの極限の姿じゃないかと思うのです。<br /><br /> 一応、予告です。この先もきっとヴェルホヤンスクは、期待を裏切ってくれますよ(いい意味で)。

     さて、ちょっと前振りが長くなりましたが、この博物館には「北半球の寒極」としてのヴェルホヤンスクもちゃんと紹介されていますのでご安心ください。

     ヴェルホヤンスクで、-67.8℃とかいうわけのわからない気温が記録されたのは、1885年1月15日と、1892年2月5日から7日にかけての2回で、いずれも、1883年にヴェルホヤンスク測候所ができてすぐの記録です。

    ところで、オイミヤコンという地名を読者の皆様は憶えておいででしょうか。この連載の第1回で、世界一寒い町はどこか、という問題に、複数の答えがあることに触れましたね。オイミヤコンは同じくサハ共和国にある集落ですが、こっちでは1926年に-71.2℃という気温が観測されているのです。クレイジー。じゃあ、世界一寒い町はオイミヤコンで決まりじゃないかと思いたくなりますが、そう簡単にはいきません。ロシア連邦水文気象環境監視局(РОСГИДРОМЕТ)の見解によると、

    「北半球の寒極はヴェルホヤンスクである」

    とされていて、2005年(最低気温記録120周年)に公式のレターがサハ共和国副大統領宛に発行されているのです。そのレターでは、オイミヤコンで記録された最低気温は-67.7℃、ということになっていて、どうも、-71.2℃という数値は、公式な記録とは認められていないようです。

     博物館では、そのレターのコピーが誇らしげに展示されています。そう、このヴェルホヤンスクこそ、北半球の寒極、世界一寒い町なのだ、と。でも、そんなことに関係なく、私たちは普通に暮らしていますよ、という声も、一方で聞こえてくる気がします。

     ここは僻地中の僻地であることに異論はないでしょう。外界と結ぶ公共交通すら、今は通じていないのですから。でも、さっきから博物館を見ているうちに、ここが人間の住環境の限界に瀕しているとはどうしても思えなくなってきました。どうみても、平均以上の文化水準を維持した「普通の町」が生きているのです。世界一寒い、最果ての町にやってきたはずが、実際には期待より20℃ほど暖かいし、雰囲気もまるで最果てらしくないどころか、ある程度の拠点性さえ持っているだなんて、世界は裏切りに満ちていてわくわくしてくるじゃないですか。こういうのって、うまく言えませんが、人間が築き上げる価値の、一つの極限の姿じゃないかと思うのです。

     一応、予告です。この先もきっとヴェルホヤンスクは、期待を裏切ってくれますよ(いい意味で)。

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