1995/04/24 - 1995/04/27
1299位(同エリア1830件中)
北風さん
人口8億人(しかし、実際には戸籍や住所を持った人は少ないから、10億はいるのではないだろうか?)のインドの首都は、あの悪評高かったカルカッタがきれいになった現在、最もいい噂を聞かない街だった。
4月というのに、季節は既に日本で言う「猛暑」が訪れていた。
発展途上国の夏、暑さは、疫病と食欲不振と不眠を引き連れ、旅行者の体力を根こそぎ奪っていく。
タージマハールというインド観光最大イベントも終えた現在、あとはこの街のイラン大使館で、イランの入国ビザを入手するだけだった。
申請して3日、明日はパスポートを受け取る日だ。
インドを脱出する日はすぐそこまで来ていた。
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 鉄道
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駅を出た途端、寄ってくる100%怪しげな客引き、トラベルツアー、カーペット売り、気がつくと足にしがみついている乞食、隙あらばバッグを切り裂こうとカッターを忍ばせたどろぼう、
確かに、インドの街の怪しげな人間が一堂に会している。
ここはインドの首都だった。 -
<フーマユーン廊>
インド最大のモスクらしい。
ん?
モスク?
このヒンドゥー教の国でイスラム教?
しかも、首都に最大のイスラム寺院?
宗教対立の歴史はインドそのものの歴史と同じぐらい根が深いらしい。
特に昨今、職業選択の自由が皆無で、生まれた時から階級によって人生が束縛されるカースト制度に疑問を抱き、ヒンドゥー教からイスラム教に改心する若者が急増している。(イスラム教は人の平等を説いていた)
この街は、イスラム教国としてインドから独立したパキスタンに近い場所でもあり、首都だけあってパキスタンの大使館もあった。
先日、パキスタン大使館に行った所、ものすごい数のインド人が、パキスタン移住申請に押し寄せていた。 -
ここは、別に特別貧民街ではなかった。
インドの首都、デリーのメイン・ターミナル「ニューデリー駅」の駅前なのだが・・・
とても一国の首都の駅前とは思えない「パールガンジー通り」は、朝から晩まで人、人、人で溢れていた。
毎日、ハングリーな人間がその欲望をぶつけ合い、しのぎを削っている。 -
旅日記
『沈没宿』
昼なお薄暗い部屋の片隅から、うめき声が響いてくる。
あの壁際は、この宿では主的な長期滞在者のベッドが置かれているはずだ。
どうやら、今回初めて試してみると言っていたドラッグで、バッド・トリップしているらしい。
ここは、インドの日本人宿「ウパール」の一室だった。
20畳程のスペースに、ぎっしりと詰め込まれたベッドでは、ある者は麻薬中毒で、ある者はA型肝炎で、またある者は怠惰を貪る為に、一日中せんべい布団の上で時を刻んでいる。
世界中を廻る日本人の長期旅行者の間では、この宿は沈没宿として有名だ。
ただでさえ、スローなインド時間の中で、ここは、それに輪をかけてゆっくりと時間が流れている。
人は、環境が許すかぎり、どこまでも怠惰にふけられるみたいだった。
自分の中へと引きこもるこの宿の住人に、当然、清掃の観念があるはずもなく、この宿はインドで最も汚い宿とも言われている。
インドで一番汚いなら、それは世界で一番汚い事を意味してるのかもしれない。
季節は4月、夏は暑さで死人が出ると言われるこの国では、既に宿の壁が暑くて触れない状態だった。
ジャンキー達の生命線ともいえる天井の扇風機は、昨日派手な音と共に、また一つ息絶えてしまった。
俺は、明日ここを出ようと思っている。
心が息絶えてしまわないうちに・・・ -
旅日記
『インド脱出!』
1995年4月27日は、このカレーと牛の国を出国する日だった。
早朝、アムリトサルからパキスタン国境行きのバスに乗り込み、ひたすら西を目指す。
まだ、日が出たばかりというのに汗だくになっている。
思えば、4月に入ってからのインドは、暑さとの戦いでもあった。
ものすごい熱さのインドの夏に、追い立てられるかのように旅を急いだ気がする。
(ネパールで冬に捕まらないように急いでいたのとは、まるっきり逆になってしまった)
バスが俺のインド最後の町に到着する。
インド出国管理事務所は既に開いていた。
インドならどこにでもいる、スーパーマリオのルイ−ズそっくりの髭面をした管理官が、無愛想に俺のパスポートをめくった。
もっさりとした髭が上下に動く。
「それで、俺にチップはないのか?チップさえ払えば、君の出国は、NO PROBLEM!」
・・・「No Problem」、この言葉を、何度インドで聞いたことだろう。
旅行者にとって、問題だらけのこの国で、この言葉を一番よく聞いた気がする。
この意味が、「(君にとっては、Big Problem、だけど、俺にとっては、)No Problem!」という、長い修飾語を省略している事に気づいたのは、いつ頃からだったんだろう?
1995年4月27日、俺はこのとんでもなく疲れて、とんでもなく惹かれる国を後にした。
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