1997/12/11 - 1997/12/17
11位(同エリア35件中)
北風さん
思えば北アメリカ大陸北端アラスカを出発したのが3月下旬、それから9ヵ月後の現在、俺は南アメリカ大陸南端地域「風のパタゴニア」にいる。
そして、ここは「パイネ国立公園」があるプエルト・ナタレス!
チリ・パタゴニアに来てパイネ国立公園に行かなきゃ、草津に行って温泉に入らないのと同じ事らしい。
このエリアを代表するアウト・ドアのゲレンデ「パイネ山」の3本連山と氷河を踏破しなければ!
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 高速・路線バス
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フェリーの甲板から見下ろしたプエルト・ナタレスは、海沿いに家々がかたまっている小さな町だった。いや、これは村と呼んでもいいかもしれない。
そして、町中は・・・妙に犬が多い!
それに比べて人が少ない!
唯一目に付くのは、意外とモダンな靴屋(質の悪いブーツが多いが)と、キャンプ道具のレンタル屋。
そして、・・・ -
そして、・・・
街外れに強風に耐える耐風姿勢なるスタイルで大地に踏ん張っている南極ブナ!
そう、ここはアウト・ドアのメッカ、「風のパタゴニア」! -
チリ・パタゴニアに来て、パイネ国立公園に行かなきゃ、草津に行って温泉に入らないのと同じ事らしく、
このエリアを代表するアウト・ドアのゲレンデ「パイネ山」は、その美しい3本の連山と氷河で有名だった。
さて、トレッキングと言えば2ヶ月前にペルー・アンデスをさまよったばかり。
今回はあの時と違いかなり整備されたコースらしく、「3本連山一周コース」と「連山の前面だけを攻めるWコース」が大別されていた。
聞けば、現在一周コースは、一部で腰まで雪に埋まってラッセリングしなきゃいけないらしい。
こんな軽装備の俺に当然そんな八甲田山的なコースは無理だ!
公園事務所でWコースにチェックを入れる俺がいた。 -
トレッキング日記 〜初日〜
『出発!』
早朝プエルト・ナタレスから出たバスは、1時間ほどで国立公園管理事務所にたどり着いた。
公園事務所では、さすが外国人トレッカーが大挙して押し寄せる場所だけあって、慣れた手つきで事務員が手続きを処理する。
あまりの順調さを疑うほどにスムーズに時が流れていく。
いつもの南米なら、バスの故障、手続きミスなど当たり前なのだが・・・ -
気がつくと、既に広大な草原を横切って山中に足を踏み入れていた。
-
パタゴニア独特の濃いブルーが支配する空は快晴!
照りつける陽射しに山々の頂きに積もった雪が、見る見るうちに蒸発して雲へと姿を変えていく。 -
急激な雪解けに、岩肌を流れる滝もフルボリュームで轟音を岩肌に叩き付け出した。
-
登山の経験はもとより、トレッキングなる単語を知ったのも海外に渡ってからだった。
俺は山歩きが好きなのかもしれない。 -
しかし、エベレストの麓まで行っても、東南アジアで一番高いキナバル山に登っても、モーゼが悟りを開いたシナイ山にたどり着いても俺の方向音痴は治らない。
これだけ経験を重ねれば、いいかげん山歩きは俺には向いてないとわかりそうなものだが・・・
とりあえず生きていると言う事は、未だ遭難していない事を意味すると思う。
これは、俺の守護霊が強力なのか?
それとも少しずつ登山家として成長しているのか? -
とりあえず、俺は今回も地図を見ている。
何故なら、昼飯のポイントである山小屋が見つからないから。
既に3時間も歩いているのに・・・ -
昼飯のポイントを見つけて3時間、いきなり山道が急になる中で一心不乱に登り続けると、いきなり目の前にパイネ山が見えてきた。
嬉しい!
いや、おかしい?
地図で見る限りキャンプ場は山の陰になるはず。
・・・つまり、どこかでキャンプ場のサインを見落とした? -
夜8時、まばゆいぐらいの青空の下で、やっと今夜のキャンプ場にたどり着いた!
俺の初日は、6時間の行程で幕を閉じた。
後はテントを張って、飯を食べて・・
それにしても、この明るさはどういう事だ?
ここでは夜はいつやってくるのだろう?
・・・白夜なのか? -
トレッキング日記 〜2日目〜
『致命的計算ミス』
そう、始まりは昨夜のコーヒータイムだった。
夜10時、ようやく闇が辺りを包み込む頃、俺は食後のコーヒーをすすっていた。
夜と共に急激に下がる気温がコーヒーカップから溢れ出る香りを白く染めている。
ちなみにある事実に気づいた俺の心も急速に熱を失っていた。
懐中電灯のスポットライトの下では、今日一日握り締めていたパイネの地図が浮かび上がっていた。
別にキャンプ場を間違えているわけではない。
ただ、改めて見直した明日からのトレッキング・コースには、どう見ても最低4泊5日かかりそうな気がする。
事前に仕入れたイスラエル人の情報を信じて、俺は3泊4日で計画していた。
別に時間なら腐るほどある俺の旅に、たった一日の食い違いなぞたいした事じゃないのだが・・
問題は、バッグのどこを探っても+1日分の食料が見当たらない事だ。
どうする?引き返すか?
・・いや、それはいやだ!
3日後にたどり着く山小屋で売っているインスタントラーメン800円を買うか?
・・日本のスキー場じゃあるまいし、買えるか!そんな値段で!
つまり、残る選択は、4日の行程を3日で行くしかないらしい。
計算すると2日目は10時間は歩かなければならない。
俺は今、朝日に輝くパイネ山にものすごい焦りを胸に登っている。 -
パイネ山の麓までの最後の一時間、それは賽の河原みたいなガレ場の急斜面だった。
昔懐かしい水前寺清子の「人生は〜一歩進んで二歩下がる」を地でいく様に、登るはなから足場が崩れていく。 -
心臓に鞭打ってどうにか登りきると、なんと湖が!
氷河から流れ込む凍えそうなほどの冷水をたたえる湖の向こうには、パイネのシンボル「3連山」が! -
さっきよりもっと崩れやすい湖の周辺を、できるだけパイネ山に近づこうと試みた。
-
しかし、どうやらここから先はトレッカーではなくクライマーの世界らしい。
ロープとザイルとピッケルと生命保険がいる。 -
あの近くまで行くには、翼がいる気がする。
-
それにしても静かだった。
流れ行く雲だけがゆっくりと風景に明暗を刻む中、パイネの時間が過ぎていく。 -
朝日に輝くパイネは美しかった!
息を呑むほどに!
ふと時計を見ると、本当に息を呑んだ!
既に2時間を経過している。
今日の行程は10時間、いかん、急がなければ! -
山を越え、谷を超え、歩く歩く歩く!
急がなければならない理由もあるのだが、少しでも休憩すると、寒風が瞬く間に汗だくの体から体温を奪っていくから歩き続けるしかない。
それにしても、なんでこんなに小さな池が点在するんだろう?
そして「水のある所、急流あり」、幅3m程の小川だが、ものすごい雪解け水が「ゴゴゴッ」と流れている。
どこを探しても橋など見当たらない。
・・俺は既に3度川に落ちている。
水に濡れた服からは、さらに体温が流出しだした。
歩き続けるしかなくなった。 -
振り返ると、そこにはあのパイネの姿が!
つまり俺はあの頂上から歩いてきたらしい。
意外と俺はすごい奴かも?
自分を再認識する事は大事な事だ。
そして、今やっと今日の行程の1/3だと言う事も忘れてはいけない。 -
パタゴニアの寒さは渇きを連れてくる。
トレッキング・ルートには至る所に倒木が転がっていた。 -
生命を失った木々はあっと言う間に白骨化するらしい。
-
トレッキング日記 〜3日目〜
『強風』
空一面に雨雲が広がってきた頃、広々とした草原が目前に開けてきた。
と、いきなり、身体が斜面に叩きつけられた!
なんだ?熊でもいるのか?
しかし、辺りを見回すが誰もいない。
・・・ものすごい強風だった。
俺が倒れている方向と同じ向きに、草原の樹木も傾いていた。
俺は今「風のパタゴニア」にいる。 -
トレッキング日記 〜3日目〜
『氷河出現!』
身体に叩きつけられる、ものすごい風と雨!
雨を痛いと感じるのは久々の事かもしれない。
昨日の10時間強行軍に比べると、今日はまだ、「たった」5時間しか歩いてないのでスタミナは充分だ。
(俺はたくましくなってないだろうか?) -
まるで、魔法の様に雨と風が止んだ。
雲間から青空がのぞき始める。
小高い丘を登りきると、
・・・湖だ!
そしてその向こうには、
・・・氷河だ! -
氷河が溶けてできた巨大な湖の端には、「ギュッ」とトコロ天状に押し出されている白い壁が!
俺のトレッキング最終目的地「グレイ氷河」が輝いている! -
今日の宿、そしてこの強行軍の最後の宿にもなるキャンプ場は、あの氷河の端にあるらしい。
-
湖沿いの山道を下り、そして登ると、木々の間から見える湖が段々と近づいてきた。
-
湖には氷河のカケラが浮かんでいた。
まぁ、カケラと言っても小山ほどもあるが・・
氷河は、何万年、何百万年もの間、こうして溶け出し、押し出されながらも、いまだに成長しているらしい。 -
4泊5日の行程を死ぬ気で3泊4日に切り詰めた!
そして現在、今回の最終キャンプ地にテントを張り終えた!
この満足感!
そして、この底冷えする体感温度! -
昔、ばあちゃんが、「扇風機の前に氷水を置いたら、涼を得られるよ!」と言っていた。
パタゴニア名物の強風が吹いてくる彼方には、小山ほどの氷山があるこのシチュエーションは、スケールは違うけどかなり似ている状況なのかもしれない。
・・・死ぬほど寒い! -
トレッキング日記 〜4日目〜
『グレイ氷河』
早朝、湖畔の片隅で青白く輝いている氷河へ接近した。
これがグレイ氷河か! -
湖に「ゴゴゴゴ、ゴッ」と、地鳴りの様な音が響く。
-
青白く光る氷の壁に亀裂が入り、3階建て分の氷柱がゆっくりと崩れ落ちていく。
湖面には何かが爆発したような水しぶきが跳ね上がった。
なんて迫力だ! -
湖畔の岩肌を乗り越えて、氷河の前面に出てみた。
これは・・・
青白い壁の圧迫感が! -
トレッキングルートは、氷河の手前でかなりの急な斜面となって立ちふさがっていた。
つまり、ここから先はハードコースらしい。
まぁ、今までのトレッキングに比べれば、どうって事ないのだが、今日は公園から立ち去らねばならない。
(じゃないと、食い物が無い) -
トレッキング日記
『走れ!』
「災いは忘れた頃にやって来る」
そう、朝早くから氷遊びに熱中していたあまり、肝心な事を忘れていた。
帰りの船の時間を!
今日中にプエルト・ナタレスに帰るには、バス停まで船を使う必要があった。
ここまで片道3時間半、現在10時、出航は12時半、つまり、普通に歩いたら1時間足りない。
・・・つまり、走れと言う事だろうか?
2日前に10時間歩き続けた。
そして、今度は1時間の全力疾走!
町に帰る頃、俺は心臓麻痺で冷たくなっているか、またはランボーになっているかもしれない。 -
「血相を変えて」とはこんな風な事だろう。
疲労に悲鳴を上げる筋肉と心臓に鞭打って、転がる様に船の桟橋に到着!
何事かといぶかる白人トレッカーの好奇の視線なぞこの際どうでもよかった。
「どうだい!」と言わんばかりに周りを見まわしながら
両手を上げてガッツポーズ!
ん?
汗でにじむその視界の端に、船長がノソノソと船のロープを解く姿が・・・
いかん!
感激している場合じゃない! -
ポンポン船の様な外観の小さなフェリー?だった。
いや、渡し船か漁船と言ってもいいかもしれない。
船長は、寒風吹きすさぶ湖面に逆らいながら、ゆっくりと舵を切っている。
あぁ、帰れる! -
-
-
小さな滝が見えてきた。
「もうすぐ着くぞ!」
と、船長がつぶやく。
今、トレッキング終了の汽笛が鳴り響いた。
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