2000/06/10 - 2000/06/10
49位(同エリア62件中)
早島 潮さん
2000.6.10の旅日記http://4travel.jp/traveler/u-hayashima/album/10057994/より以下を抜粋
陰山山脈を越えると高地になる。そこでは現在、主としてポプラの植林が行われているが、努力が実って大きなポプラ林が形成されている地域もそこかしこに認められる。それにしても広大な大地であるから、植林に成功した林はほんの一部にしか過ぎない。この地を緑化するには気の遠くなるほど膨大な作業量の投入が必要である。そしてその作業は営々として続けられている。所々に「日中友好植樹林」という石碑が建っているのを目撃する都度、日本人として誇らしい気分になったものである。道中道路の拡幅工事が施されていたが、ところどころでは、作業員が長柄のスコップと鶴嘴を使って人海作業を展開していた。日本では見かけられなくなって久しい光景が残っていた。
このような荒蕪地に植林されて緑が次第に豊かになってきたなと思っているといつの間にか一面に短い草の生えている草原地帯に入っていた。ここでは草に混じってあやめに似た草花や白や赤色の小さな草花がちらほらと咲き誇っている。四囲は見渡す限りの大草原である。羊の群れがのんびりと草を食んでいて空は抜けるように青く、雲一つ見かけられない。そして所々に円筒に円錐を重ねたような白い布地の建物が建っている。移動式住居のパオである。モンゴル語ではゲルという。一か所に50戸ほどもこのパオが並んで建っている場所に我々のバスは到着した。ここがシラムレンである。
この地は1986年に政府によって開発された大草原の生活を体験するための観光施設である。バスが到着すると民族衣装を纏った若い男女が10人程歓迎の歌を歌いながらパイカル(白酒)を満たした杯を勧めてくれる。お客はこの杯を乾さなければならない。酒の飲めない人は形だけでも杯に口をつけて飲んだ振りをしなければならない。それがモンゴルの作法なのである。私は口一杯に含んで飲んでみたが、喉に焼けつくように強い酒である。度数は四五度もある。今夜の宿舎はパオである。
一つのパオには6人が泊まれるようになっていて、布でできたバオの中の円錐型の天井には中央に明かり取り兼煙突用の穴が開いている。円形の床は半月形二つに区切られていて、一方の半月形は土間より30cmほどの高さに板間が設えられていて毛布が敷かれている。ここへ布団を敷いて六人が雑魚寝をするのである。他方の半月形部分には机と椅子が置かれていてお茶が飲めるようになっている。この寝所に隣接して水洗式の便器と洗面器の設置されたパオが設置されていて扉で繋がっている。ここには天井にシャワーのノズルがついていてシャワーも浴びられるようになっている。これは観光客用の特別仕様であって、一般家庭の遊牧用のパオにはシャワー設備も洗面器や便器も設備されていない。毎日入浴する習慣はないし、大草原に穴を掘って青空を見ながら大小の用を足すのである。一般民家を訪問してお茶を御馳走になった時のパオは入り口に、畳一枚分程の土間があるだけで残りの部分は床あげした板張りで一面に毛布が敷かれていた。
指定されたパオに手荷物を置いてから、草競馬と蒙古相撲を見学しに行った。内蒙古最大のお祭りであるナーダムは七月二五日から五日間盛大に行われ大変な賑わいをみせるそうだが、我々が見学した相撲と競馬は観光客用に特別に催される「さわり」の部分だけであった。それにしても民族衣装を纏って、十数頭の馬に騎乗した若者達が大草原を疾風の如く、自在に馬を操って疾駆する姿は勇壮であり、ジンギスハンが世界を征服した時の雄姿を彷彿とさせるものがあった。
この後体験騎乗に参加し大草原を馬で散歩した。私の乗った馬は最初こそ、御者が轡取りをしてくれていたが暫くすると引き綱を鞍にくくりつけて単独でやってみろと手真似で合図してから離れ去ってしまった。なんとか落馬しないで二時間を消化することができたが、突然走り出したり草を食みだしたりしてなかなか乗り手の意のままに動いてくれない。走らせようとして足の踵で馬の腹を蹴るのだが素知らぬ顔で悠々と歩いている。馬の意思に任すしかないと諦めていると突然走り出したりする。走りだすと内股がこすれて痛くなる。それでも慣れてきて振動に合わせて体を揺らせているといつのまにか与えられた二時間が経っていた。
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 観光バス
- 旅行の手配内容
- ツアー(添乗員同行あり)
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