からゆきさんの涙の跡も、今は昔

2010/01/25 - 2010/02/08

　山崎朋子さんの「サンダカン八番娼館」はあまりに有名ですが、

　同じマレーシアにありながら、

　ペナン島はジョージタウンの日本人街は特に脚光を浴びることなく、

　静かに、歴史の彼方に埋もれてゆこうとしていました。

　きっと、その方が良かったのだと思います。

エリア ペナン島(マレーシア)

• 同行者: カップル・夫婦
• 交通手段: 船

　ペナン島の大陸側の玄関口はバターワース。

　ジョージタウンにしても、このバターワースにしても、

　名前が英国してますですね。

　日本風だったらとっくに変えられたかな。



　マレー鉄道で到着すると、

　長い連絡通路を通って、フェリーに乗り込みます。

　島に渡る時だけ、50セント硬貨を三つゲートに入れて通過します。

　つまり、せめて1，5リンギは持っていないとジョージタウンに行けません。


　青函連絡船？

　そうですね、ちょっと違うかな。

　いや、感じは似てますね。

　青森駅で乗り継ぐ時は、いつも冬だったから、どうもイメージが違うんですね。

　向こうに見える貨物船に、船の名前が大書してあります。

　「ええと……、NO SMOKING　……、ノースモーキング？」

　「船の名前じゃないんでないの。」（妻）

　「そうだね。」（私）

　「しかし、暑いね。」

　連絡船は、ゆっくりとジョージタウンに近づきます。

　わずか10分かそこらでしょうか。

　こうして海を渡ってアプローチすると、

　飛行機と違い、また格別の旅情を感じます。

　船着き場の周辺は、欧風建築の公官庁が集中しています。


　タクシーの客引きに、

　「文無しだから……。」（両替前なので）

　と変な断り文句を連発しつつ、取り敢えず両替屋を探します。

　ターミナル脇には各方面行きのエアコンバスが待機しているというのに、

　そこを後にし、うだるような暑さの中うろうろ町中へ。

　ああ何の因果。

　あ、暑いです。


（写真は、かつての鉄道なき鉄道駅）

　両替を済ませて乗ったタクシーは、なんとメーターが着いておりました。

　走り出すタクシーにあわてて料金交渉しようとしたら、

　運転手が笑ってメーターを指さしたのです。

　（※メーターなしのタクシーもたくさん走っています）


　空港にはバスが通うようになりました。

　たいした進歩ではないでしょうか。



　予約をしてあったのは、まだできて1年に満たない、

　Tune Hotel。

　ネットでの早めの予約はたいへんお得です。

　設備は整っていますし清潔です。










　予算が合えば、

　情緒あふれる歴史的建造物を、

　おしゃれなゲストハウスにリニューアルしているところに泊まるのは、

　これまた「おつ」ではないかと

　思うのです。


　われらがTune Hotelのはす向かいには、

　かつての同楽旅社があります。


　ポケットから有名な旅行記「深夜特急」を取り出して、

　ペナン島でのエピソードのページを繰りますと、

　フェリーで着いた沢木さんは、泊まる場所を探してこの宿にたどり着いたようです。

　今は宿ではありません。（写真）


　「沢木さんは港からずいぶん遠くまで歩いてきたんだなあ。」

　と漠然と思いました。

　タクシーに乗ってしまった自分たちの脚力のなさを痛感します。


　親しげに「沢木さん」と呼んでおりますが、

　知り合いでも何でもなく、

　このベストセラーの一読者として、

　かの旅社をひと目眺めてみたかったに過ぎません。

　直射日光を避けて

　カキ・ルマを通ります。

　椅子を出して座っておられた年配のご婦人に挨拶をすると、

　にこやかにほほえみ返してくださいました。

　突然目の前の戸が開いて

　インド系の方が出ていらっしゃいました。


　わたしたちの方にちらっと視線をくれると

　さっと、あちらに行ってしまわれました。

　挨拶する暇なし……

　コムタ付近。

　ビルマ通りとペナン通りの交差点の歩道橋にあがります。

　朽ちてゆく、というのは必ずしも悪いことではないと思います。

　ビルマ通りから旧日本人街の方に曲がります。

　明治から大正に掛けて、

　貧しさ故、また、国の外貨獲得のため

　売られていった「からゆきさん」たち。

　この街並みに、

　当時を語る建物は残っているのでしょうか。

　彼女たちの涙の染み込んだ柱が、

　今も残されているとしたら……。

　想像力を逞しくすれば、

　今にも、あの鎧戸を開けてからゆきさんが顔を出しそうです。




　朽ちるということは、

　必ずしも悪いことではないと思えるのです。

　わずかに、

　この通りの名前の由来を示す小さな看板。


　通りの今の名前シントラはポルトガルの、それはそれは美しいところなのです。