JICモスクワ通信Vol.13　マルファ・マリア慈善修道院の修復

2008/11 - 2008/11

JICモスクワ事務所にお越しいただいたことがある方は、トレチャコフスカヤ駅を出て、左に曲がったらオルディンカ通りを３分ぐらい歩き、次に右に曲がるとピジェフスキー通りがあることをご存知だろうと思います。このピジェフスキー通り沿いにモスクワ事務所があります。

では、もしピジェフスキーへ曲がらず、そのままオルディンカ通りをまっすぐ５分ぐらい歩いていただければ、今年の９月に完成したとても美しい修道院が右手にあるのはご存知でしょうか。

この修道院は「マルファ・マリア慈善修道院」と言います。実は、この修道院はすでに100年間存在しています。

エリア モスクワ(ロシア)

遡ってお話しすると、エリザヴェータ・フョードロヴナ大公妃物語に行きつきます。イギリスのヴィクトリア王女の孫、エリザヴェータ・フョードロヴナは、1864年にドイツのダルムシュタット市のヘッセン大公家に生まれました。そのときのドイツ名はエリーザベト・アレクサンドラでしたが、1884年にロシアのセルゲイ・アレクサンドロヴィチ大公（皇帝アレクサンドル２世の五男）と結婚し、当時のロシアの伝統にしたがってロシア風の名前を付けられました。

その後1891年、夫がモスクワ総督に就任しましたので、2人はモスクワに移り住みました。このときにエリザヴェータ・フョードロヴナはロシア正教に改宗します。セルゲイ大公は、モスクワ総督として反動的な政治を行い、市民に嫌われていたので、1905年にカリャーエフというテロリストに暗殺されました。

エリザヴェータ・フョードロヴナは夫の死に悩み苦しみ、自分の貴金属を売り、そのお金で1909年にオルディンカ通りの辺りの屋敷を購入し、そこに修道院を創立しました。

慈善修道院というのは、慈善活動と医療活動を目的とした修道院のことです。後にレーニン廟をつくった建築家シチューセフは1908‐1912年、修道院の中にポクロフスキー寺院を建設しました。慈善修道院の中にはほかに女子学校、図書館、無料の食堂、病院などがありました。

　十月革命以前、この修道院の評判はとてもよかったのですが、革命後、エリザヴェータ・フョードロヴナは、皇族の一員として1918年にアラパエフスク市に送られ、殺害されました。慈善修道院は1926年に閉められてしまいました。

1990年代に入り、マルファ・マリア慈善修道院の復興が始まりました。2009年に修道院創立100周年記念を迎えますので、それを待ち望むかのように、今年9月15日に修復が完了し、修道院は開かれました。1992年からロシア正教会で聖人とされているエリザヴェータ・フョードロヴナの遺体はいまイスラエルに埋葬されていますが、近いうちに本人の望みどおり、慈善修道院に移動される見込みです。

　マルファ・マリア慈善修道院は静かで、とても綺麗な場所ですから、機会があればJICモスクワ事務所の近くにあるこの修道院をぜひ見に行ってみてください。JICモスクワ事務所の営業時間は午後6時までなのですが、6時が近づくと修道院内の寺院の鐘の音が聞こえてきます。鐘が1日の仕事もそろそろ終わりだということを知らせてくれるのです。