1989/03/06 - 1989/03/06
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みどりのくつしたさん
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ロサンジェルス(米国)〜ティファナ(メキシコ)
1989年3月6日。LA、ユニオンステーション。
コロニアル風の駅舎。
天井の高い、がらんとした待合室。
背の高いどっしりとした一人掛け用の椅子に座る。
どこからか"We are all alone"が流れて来る。
外は真っ青なカリフォルニアの空と日差しだ。
風は待合室の中でよどんでいる。
汗が背に少し。
それもひんやりとした空間の中で消えて行く。
新しい旅の始まり。
グレイハウンドバスでアメリカ南部を横断してくる途中に、メキシコにはほんのすこしだけ、ちょっと入国したことがある。
テキサスのエルパソからシウダ・フアレスへ歩いて行ったのが最初。
LAに入る前に、サンディエゴからグレイハウンドで国境のサンイシドロへ行き、そこから歩いてティファナへ入国したのが2度目。
2度とも一時的な入国なので、何のチェックもなくメキシコへ入り、アメリカへ再度入国する時にパスポートを提示するだけなので簡単だった。
しかしどちらも、あんまりいい印象はない。
シウダ・フアレスでは通りにずらりと並ぶ歯医者の看板がいやに印象的だった。
その看板には一本いくらと値段表が書いてあって、まとめて何本か抜くと割引がある。
アメリカの医療費が高いのでメキシコまで来て歯を治療するらしい。
それ以外はただの埃っぽい町だという感想しかない。
ティファナはまだましだったが、ここは単に土産物屋だらけの町だ。
革製品や銀細工が安いという話になっているが、「ホテル加宝」にやって来た自称「元宝塚歌劇団員」という、昔は確かになかなかの美人であったであろう中年女性の話によると、ここの銀製品はほとんどが「アルパカ」とかいう贋物だということだ。
革製品は縫製が良くないし、土産にして日本でも着られるのは革製のキャップぐらいしかないだろう。
酒はアメリカよりちょっと安いが、アメリカ自体が酒飲みには天国のような所なので、わざわざ買い出しに行くほどでもない。
あとは、そのころ日本の若者に人気だった跳び出しナイフが買えるのが特長だろうか(もちろんこのナイフはアメリカでも日本でも持ち込み禁止品だが)。
「ホテル加宝」に1988年12月31日に入居してから、「明日こそは出発しよう」と、何度も思いながら3月初めの今日まで出発が遅れたのは、この2つの町の印象が余りに悪かったせいもある。
こんなごみごみした英語も通じないメキシコを通って、さらに中米の小さな国々の国境を次から次へと通り、そこから広大な南米に入ってぐるんと一周するというのは、考えるだけで疲れる話だ。
LAに入って以来宿泊していたリトル東京の一番街にある「ホテル大元(ダイマル)」を出たのは、宿泊者がアメリカ旅行の学生ばかりで旅行経験が少な過ぎて、中南米の情報が全く入らなかったからだ。
それで旅のベテランが多いという噂の「ホテル加宝」に移って、中南米の情報を集めるつもりだった。
確かに少しは情報が入手できたが、正直言うと信頼出来ない。
ここのホテルの宿泊客はほとんどが長期に泊まっていて、LAダウンタウンのリトル東京のレストランなどで働いている日本人、いわゆる不法滞在者なのだ。
旅行については完全な素人で、ここに来る旅行者から聞いた話を、わけ知り顔で話す。
旅行経験が少なければ信じてしまうだろうが、結構間違いが多い。
僕が来た当日、僕がアメリパスをアメリカで買ったという話をしていたら「そうそう、1週間99ドルだよ」などと知ったかぶりをして、いつの時代のことか分からない話を始めたので呆れてしまった。
1988年に実際にマイアミのバスディーポで買った値段は30日で250ドル(7日で125ドル、15日が165ドル、延長が一日あたり10ドル)だったのだ。
でも「アメリパスはアメリカでは買えない。パスの延長も買った時に1日2500円で前もって決めておかないと、一度使い始めたら出来ない」と嘘をついてボロ儲けをしていた日本の旅行業者やガイドブック業者(これは同じ連中なんだ)に比べればまだましだということになるが。
僕が今日乗るLA〜サンディエゴの鉄道、アムトラックについても、もの知り顔の長期宿泊者から「アムトラックは全席指定で、いつでも一杯なので1ヶ月前から予約をしておかないと乗れないよ」と言われた。
行けば何とかなるはずとは思ったが、念のために昨日ユニオンステーションまで行って、時刻表をもらうついでに列車の込み具合いを確かめた。
答は「ガラガラだから来ればすぐ乗れるよ」というあっけないものだった。
当然の話だが、LAに4年も5年もいる人でも旅行については素人なのだ。
外国に長くいるというだけの人の言葉を信じるととんでもないことになる。
日本のガイドブックの中には「留学生」を使って旅行情報を集めているものもあるが、「留学生」は旅行者ではないのだから旅行に必要な情報が集められる訳がない。
結局は拙い語学力を使ったパンフレットの丸写しになってしまう。
LA滞在中に、世の中には常識化している誤解が本当に多いと身に沁みて解ったし、頼れるのは自分の経験だけだと再認識した。
でも、結局世の中ってそういったいいかげんな常識から成り立っているのだ。
人間ってそんないいかげんなものなのだ。
いろいろ考えずに、自分が思いついたことを、そのまま言ってしまえばそれでいいのだ。
それが世界中の常識だとあらためて解ったのは、いい経験だった。
2ヶ月ちょっと滞在した「ホテル加宝」で紅白歌合戦を見たし、天皇陛下の崩御も知ったし、そのアメリカでのTVや新聞報道も経験することが出来た。
図書館に通って、思いっきり本を読み、日米会館の無料英会話クラスにも通って、英語やスペイン語の勉強をした。
ここから年賀状を数少ない友達と逃げた嫁さんに出し、今まで旅行した時にたまった地図や本などを実家に送って荷物を減らした。
アフリカのマリンディ以来かなり悪化していた水虫を日本製の薬で治した。
映画が安いので、日本にいたら10年分に匹敵するほどの本数の映画を見た。
中南米の定番ガイドブック「サウスアメリカ・オンナシューストリング」も、中南米の地図も、英語とスペイン語の辞書と会話帳も入手した。
数少なかったが、中南米帰りの旅行者と話をした。
ちょっと変な人が次々とやって来るので、面白くて出発が延び延びになったが、ホテルのおじさんからの差し入れまであった昨日のパーティでふんぎりをつけた。
さよならを言うのがいやで、二日酔いの頭を抱えながら皆が寝ているころに「ホテル加宝」を出た。
本のいっぱい詰まったバックパックを背負って、ホテルから20分歩いて駅にやってきた。
アムトラックはサンディエゴまで自由席片道で23ドル。
予約の必要はないが、もし予約するとあと5ドルかかる。
10:50AM発の列車はほぼ時間通りに11時に発車した。
席はがらがらというほどではなかったが、太平洋側に窓際の席を見つけた。
ここから乗り込む日本人は僕一人だったが、客車の中にはいやに派手な格好をした、ポパイがでっち上げたいかにも「ウエストコースト風」の男1人、女2人の日本人がいた。
どうやらディズニーランドに行くようで、アナハイムで降りようとしているようだ。
アメリカの鉄道は車内アナウンスがないので、彼らはLAを過ぎたとたん、降りる用意をして大騒ぎをしながら大きな荷物をいくつもドアの方へ運んいた。
その後しばらくは、時刻表をもらわなかったらしく、「次がアナハイム?」「今どこなの?」と大声で騒いでいた。
それも無事にアナハイムで降りたあとは静かになった。
この線路は海岸線ぎりぎりを走っているので、サンンディエゴ近くになると、海岸で遊んでいる人達が見える。
トップレスで、デッキチェアに寝そべっている女の子もいる。
カリフォルニアでは海流が冷たいし波も荒いので、あまり海で泳いだりはしない。
だから3月初めでも今日のように日差しが強くて30℃近くに気温が上がれば、夏と同じように海岸に人が繰り出すのだ。
サンディエゴのユニオンステーション着が1:45PM。
駅を出て、港と反対の方角にYMCAの前を通って5分程歩くと、道の左側に懐かしいグレイハウンドのバスターミナルがある。
ここからはグレイハウンドバスで国境を越える。
グレイハウンドのティファナ行きには2種類ある。
一つは以前僕が使ったサンイシドロのボーダーからティファナの街へ行くもの。
もう一つが直接ティファナのバスターミナルへ行くやつだ。
最初にティファナへ行った時にメキシコ側のイミグレーションを捜したが見つからず、その後いろんな人に聞いたが、誰もはっきりしたことを知らない。
南米から帰って来たあと、友達とティファナに来た時やっと解ったが、歩いてくぐるゲートを通ったすぐ右側にあるのだ。
しかし、いつも役人がいるかどうかは責任持てない。
メキシコに入国するためには「ツーリストカード」が必要で、入国時にスタンプを押してもらわないといけない。
これをせずについうっかり南へ進んでしまって、役人にいじめられたという話はいっぱい聞いているので慎重にしたい。
ビザが必要なのだろうとロンドンでメキシコ大使館に行った(#3「ビザに関する5つのお話」参照)時にツーリストカードは入手済だった。
ただ有効期限が6ヶ月しかなく、その後アメリカ・カナダと旅行しているうちにこの期限が切れてしまっていた。
LAのオリベラ街にあった(現在は移動した)メキシコ領事館で再度ツーリストカードをもらった。
もしLAから飛行機でメキシコに入国するのなら、チェックインカウンターでツーリストカードをくれるので前もって入手する必要はない。
また、陸路で入国する際も国境で無料で発行することになっているのだから、わざわざ用意する必要はない。
しかし、そこは物事は理屈通りには行かないと、人生がよく解っている「世界旅行者」の僕は慎重の上にも慎重に準備をした。
しかし、本当の所ツーリストカードは国境でタダでもらえる。
この旅の帰り道、グアテマラのウエウエテナンゴからメキシコのサンクリストバル・デ・ラス・カーサスへバスを乗り継いで国境を越えたことがある。
このとき「地球の歩き方」に書いてあったとおりに、わざわざ町の薬局が開くのを待って5ケツァル(250円)を払ってツーリストカードを手に入れた。
しかし、一緒のバスに乗ったアメリカ人は国境のポストでタダで貰っていた。
ティファナの町からメキシコシティやバハカリフォルニアのラパスへ行くバスの発着するバスターミナルまでは離れているし、重い荷物を背負ってバスを捜すのも面倒だ。
それにティファナの町は一度見ている。
直接バスターミナルに行ってしまった方がいろいろと面倒が省けるので、バスターミナルに行くバスに乗ることにする。
時刻表を見る。
次のサンディエゴからのティファナ中央バスターミナル行きは2:45PMだ。
バスの切符を買った後、時間つぶしに歩いていて見つけた本屋でアガサクリスティーの「ザ・ミステアリアス・アフェア・アット・スタイルズ」を買う。
クリスティーは時間つぶしに読むには最高だ。
これも昔から日本語でも英語でも何度も読んでいるのだが、不思議に飽きない。
ここを出てスペイン語圏に一旦入ってしまえば、日本語の本はもちろん英語の本も入手しにくいのはよく解っている。
だから、LAの日系図書館から安い文庫本をずいぶん買って来たのだが、バスに乗ってたりすると日本語の本だと一日4冊ぐらいは軽く読むのでいくらあっても足りない。
サンディエゴのバスディポで列に並んだ。
ほとんどはメキシコ人だが一人だけ背の高い白人の旅行者がいる。
僕もロンドンにいる時はアメリカンインディアンによく間違えられたが、ここではバックパックを見れば旅行者なのは一目瞭然だ。
向こうから話しかけてくる。
彼は西ドイツ(この頃はまだ分裂状態だったのだ)から来た学生で、名前はラルフ。
貧乏旅行なのでドイツからLAに飛んできてここに来るまで、飛行機の中で休んだ以外3日間まともに寝てないということだ。
話を聞くと彼はメキシコ旅行が目的で、バハカリフォルニアをバスで下るという。
僕とメキシコシティまでは同じルートだが、彼のドイツ語のガイドブックにはバハカリフォルニアで鯨を見ることを推薦してあるので、途中の町で下りる予定だ。
なかなか性格の良さそうな奴だし、足手まといにもならないので一緒に行くことにする。
バスに乗り込むが、乗客はほんの10人程度。
高速道路を走ってメキシコの国境に着くと、バスが止まった。
乗り込んできた役人が僕とラルフを降ろした。
イミグレーションに連れて行かれて、ここでツーリストカードを見せると、滞在許可を90日と書き込んでくれた。
ラルフはドイツでカードをもらって来ていた。
荷物チェックは無しだったが、ティファナの町に歩いて入るルートに比べると本格的に国境を越えるという感じがする。
国境を越えるとすぐに、なかなかキレイなセントラルバスターミナルだ。
3時35分着。
バスターミナルのカウンターで両替をする。
T/Cだと1ドルが2320ペソ、ここではその上1パーセントの手数料を取る。
50ドルを換えて11万4千8百4十ペソを手にした。
ここからこのままラパスへのバスに乗るつもりだった。
だが、聞くと次のバスは夜中になる上に、予約は満員だそうだ。
ここからラパスまでは20時間程かかる。
ラルフも疲れているし、僕も二日酔いで国境を越えたとたんに無理をする気はない。
だって、もうけっこうな年齢なのだから。
しかし、僕はわざわざがさつなティファナの町に戻って泊まるつもりはない。
そうラルフに言うと、彼もなるべく早く南へ下りたいとのことだ。
時刻表と相談して、ちょっと南の町エンセナーダまで進むことにする。
かなりくたびれたバスは僕たちを乗せて砂漠を1時間20分走って、日が暮れたころエンセナーダのバスターミナルに着いた。(料金4000ペソ)
ラルフのドイツ語のガイドブックを信頼して彼の推薦するホテルを当たったが、意外にここのホテルは高い。
ベッドだけしかない部屋でシングル20ドルも取るという。
これじゃあ、あの素晴らしいLAの「ホテル加宝」よりも高い。
しかし、ラルフと2人でツィンに泊まるつもりはない。
結局3軒当って、シングルで13ドルも出して、窓もない(どうせ1泊だからいいのだけれど)変なホテルに泊まった。
しかしその後2人で行った中華レストランは料理8皿にスープがついて、ビールの小びんを3本飲んで16000ペソ(900円)だ。
ホテルは高いが、食事はなかなかいいぞ!
部屋に帰ってきて、ベッドの薄いマットに横たわる。
ようやくメキシコとの国境を越えてしまった。
これからが本物の旅の始まりだ。
伝説のマヤ・アステカ・インカの遺跡が僕を待っている。
そしてアマゾン川、イグアスの滝。
もう一度アメリカに戻るのはいつになることか?
その時僕はどう変わっているのだろう?
考えているうちに、つい眠り込んだようだった。
真夜中に隣の部屋から男女のSEXの声が聞こえてきて、目が覚めてしまった。
よく聞こえる理由は壁の上が開いているせいだ。
テーブルをずらしてその上に乗り、覗こうとしたら、がたんと大きな音を立ててしまった。
例の声は止んでしまったが、再開するのかどうか確かめないまま、また僕は眠り込んでしまったようだ。
とにかくこれが、僕の長い中南米旅行の始まりだったのだ。
http://homepage3.nifty.com/worldtraveller/cam/cam001.htm
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