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石山寺(いしやまでら)は、琵琶湖の南部湖畔の瀬田川の近くにある。本堂が国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の上に建っていることから石山寺と名付けられたとのことだが何度見ても珍しい景観の寺だ。聖武天皇(しょうむてんのう701−756年)の発願で、東大寺を開山した良弁(ろうべん689−774年)が747年に聖徳太子の念持仏・如意輪観音を祀ったのが開基とされている。<br />石山寺は、清少納言(せい しょうなごん966頃―1025年頃)の『枕草子』、藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは936頃―995年)の『蜻蛉日記』、菅原孝標女(すがわらたかすえのむすめ1008頃―1059年頃)の『更級日記』など多くの文学作品に登場しているが、紫式部(むらさきしきぶ979頃−1016年頃)が『源氏物語』を構想したことで良く知られている。紫式部が1004年8月の十五夜に参拝し、「須磨」「明石」の巻の着想をしたとされ、石山寺本堂にはその姿を再現した「紫式部の間」がある。<br />紫式部は越後守藤原為時(ふじわら の ためとき949−1029年)の娘で、父・為時は花山天皇(968−1008年)の東宮時代の読書役であったなど文学に長けた一族だったという血筋にも環境にも恵まれていた。<br />日本文学史上最高傑作といわれる五十四帖にわたる大作『源氏物語』(げんじものがたり)の初回本は1001年頃に出されたと見られており、和歌や物語で才覚を認められたのち、1005年から一条天皇(いちじょう てんのう980−1011年)の中宮・彰子(藤原道長の長女)に仕え障子の身の回りの世話をしながら文学指導も行ったことでさらに文人の地位を確固たるものにした。<br />『源氏物語』は平安朝中期、天皇の皇子として生まれながら不運にも天皇になれなかった光源氏がたくさんの恋愛体験をしながら貴族として栄達するが、恋愛で苦しみ失うものも多く世の無常を悟る。紫式部は光源氏が老いた後も死後も子女や孫たちの恋愛までも描いた。男女の恋愛ははかないが、わかっていても人間が未来永劫繰り返すこの行為に無常感を吐露した。人類の永遠のテーマを骨格としたこの長篇恋愛小説は世界20言語以上に翻訳されている。古代の哲学書ともいえる日本が誇る史上最高の文学といって過言ではないだろう。<br />平安時代は紫式部だけでなく清少納言、藤原道綱母、菅原孝標女など多くの女性文学者を輩出した。鎌倉時代以降は明治時代まで際だった女性文学者が出ていないことからも平安時代が特異な時代だったことがわかる。この時代は宮廷貴族の素養として和歌、文筆が大切にされ、女性が文学にいそしむことも推奨され、和歌集に選定される作品の評価も男女隔てなく公正だった。清少納言の『枕草子』に代表されるように随筆、小説には現代の週刊誌のように他人を非難したり、スキャンダラスな宮廷生活を暴露するものもあるが、文筆を制限されることもなく、言論の自由が守られている。貴族社会は表向きの華やかさと裏腹に陰湿な出世争いが繰り広げられていたが、文学者にとっては女性も男性も持てる能力を存分に発揮できる時代だった。そのおかげで現代人も古代貴族といえども人間の本質はいつの世も変わらないという人間模様を実感することができる。石山寺は日本文学形成におおいに貢献した寺のひとつだ。<br />(関連する旅行記)<br />関西を歩く 京都、宇治の源氏物語ゆかりの古跡と紅葉 http://4travel.jp/traveler/sasuraiojisan/album/10206147/<br /><br />(写真は硅灰石を中心とした石山寺)<br />

日本の旅 関西を歩く 紫式部ゆかりの滋賀の石山寺

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2008/04/09 - 2008/04/09

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さすらいおじさん

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石山寺(いしやまでら)は、琵琶湖の南部湖畔の瀬田川の近くにある。本堂が国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の上に建っていることから石山寺と名付けられたとのことだが何度見ても珍しい景観の寺だ。聖武天皇(しょうむてんのう701−756年)の発願で、東大寺を開山した良弁(ろうべん689−774年)が747年に聖徳太子の念持仏・如意輪観音を祀ったのが開基とされている。
石山寺は、清少納言(せい しょうなごん966頃―1025年頃)の『枕草子』、藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは936頃―995年)の『蜻蛉日記』、菅原孝標女(すがわらたかすえのむすめ1008頃―1059年頃)の『更級日記』など多くの文学作品に登場しているが、紫式部(むらさきしきぶ979頃−1016年頃)が『源氏物語』を構想したことで良く知られている。紫式部が1004年8月の十五夜に参拝し、「須磨」「明石」の巻の着想をしたとされ、石山寺本堂にはその姿を再現した「紫式部の間」がある。
紫式部は越後守藤原為時(ふじわら の ためとき949−1029年)の娘で、父・為時は花山天皇(968−1008年)の東宮時代の読書役であったなど文学に長けた一族だったという血筋にも環境にも恵まれていた。
日本文学史上最高傑作といわれる五十四帖にわたる大作『源氏物語』(げんじものがたり)の初回本は1001年頃に出されたと見られており、和歌や物語で才覚を認められたのち、1005年から一条天皇(いちじょう てんのう980−1011年)の中宮・彰子(藤原道長の長女)に仕え障子の身の回りの世話をしながら文学指導も行ったことでさらに文人の地位を確固たるものにした。
『源氏物語』は平安朝中期、天皇の皇子として生まれながら不運にも天皇になれなかった光源氏がたくさんの恋愛体験をしながら貴族として栄達するが、恋愛で苦しみ失うものも多く世の無常を悟る。紫式部は光源氏が老いた後も死後も子女や孫たちの恋愛までも描いた。男女の恋愛ははかないが、わかっていても人間が未来永劫繰り返すこの行為に無常感を吐露した。人類の永遠のテーマを骨格としたこの長篇恋愛小説は世界20言語以上に翻訳されている。古代の哲学書ともいえる日本が誇る史上最高の文学といって過言ではないだろう。
平安時代は紫式部だけでなく清少納言、藤原道綱母、菅原孝標女など多くの女性文学者を輩出した。鎌倉時代以降は明治時代まで際だった女性文学者が出ていないことからも平安時代が特異な時代だったことがわかる。この時代は宮廷貴族の素養として和歌、文筆が大切にされ、女性が文学にいそしむことも推奨され、和歌集に選定される作品の評価も男女隔てなく公正だった。清少納言の『枕草子』に代表されるように随筆、小説には現代の週刊誌のように他人を非難したり、スキャンダラスな宮廷生活を暴露するものもあるが、文筆を制限されることもなく、言論の自由が守られている。貴族社会は表向きの華やかさと裏腹に陰湿な出世争いが繰り広げられていたが、文学者にとっては女性も男性も持てる能力を存分に発揮できる時代だった。そのおかげで現代人も古代貴族といえども人間の本質はいつの世も変わらないという人間模様を実感することができる。石山寺は日本文学形成におおいに貢献した寺のひとつだ。
(関連する旅行記)
関西を歩く 京都、宇治の源氏物語ゆかりの古跡と紅葉 http://4travel.jp/traveler/sasuraiojisan/album/10206147/

(写真は硅灰石を中心とした石山寺)

  • 石山寺前の桜。<br />

    石山寺前の桜。

  • 石山寺の毘沙門堂。<br />

    石山寺の毘沙門堂。

  • 石山寺参道の桜。<br />

    石山寺参道の桜。

  • 国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。<br />

    国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。

  • 石山寺参道の桜。<br />

    石山寺参道の桜。

  • 国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。<br />

    国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。

  • 石山寺の観音堂の西国三十三ヶ寺の仏像。<br />

    石山寺の観音堂の西国三十三ヶ寺の仏像。

  • 蓮如堂の桜。<br />

    蓮如堂の桜。

  • 国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。<br />

    国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。

  • 御影堂。<br />

    御影堂。

  • 国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。<br />

    国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。

  • 本堂舞台から見る光景。<br />

    本堂舞台から見る光景。

  • 国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。<br />

    国指定天然記念物「石山寺硅灰石(いしやまでらけいかいせき)」の光景。

  • 舞台から見る本堂。本堂(国宝)は正堂(しょうどう)、合の間、礼堂(らいどう)からなる複合建築で1096年に再建された滋賀県下最古の建築。<br />

    舞台から見る本堂。本堂(国宝)は正堂(しょうどう)、合の間、礼堂(らいどう)からなる複合建築で1096年に再建された滋賀県下最古の建築。

  • 本堂の紫式部源氏の間。月を見ながら物語りを構想中の紫式部像。<br />

    本堂の紫式部源氏の間。月を見ながら物語りを構想中の紫式部像。

  • 芭蕉の「あけぼのは まだむらさきに ほととぎす」の句碑。芭蕉は紫式部源氏の間を見て「紫」をかけて詠んでいる。同じ文学者として感慨深かったことだろう。<br />

    芭蕉の「あけぼのは まだむらさきに ほととぎす」の句碑。芭蕉は紫式部源氏の間を見て「紫」をかけて詠んでいる。同じ文学者として感慨深かったことだろう。

  • 本堂の紫式部源氏の間。月を見ながら物語りを構想中の紫式部像。<br />

    本堂の紫式部源氏の間。月を見ながら物語りを構想中の紫式部像。

  • 源氏物語図屏風。<br />

    源氏物語図屏風。

  • 紫式部供養塔。<br />

    紫式部供養塔。

  • 566、 三十八所権現社本殿。<br />

    566、 三十八所権現社本殿。

  • 経蔵。<br />

    経蔵。

  • 多宝塔(国宝)。1194年建立で、日本最古の多宝塔といわれている。<br />

    多宝塔(国宝)。1194年建立で、日本最古の多宝塔といわれている。

  • 鐘楼。<br />

    鐘楼。

  • 芭蕉庵。<br />

    芭蕉庵。

  • 多宝塔(国宝)。

    多宝塔(国宝)。

  • 大黒堂の庭園。<br />

    大黒堂の庭園。

  • 大黒堂。<br />

    大黒堂。

  • 東大門。入母屋造、瓦葺きで、1190年の建立。<br /><br /><br />

    東大門。入母屋造、瓦葺きで、1190年の建立。


  • 東大門の仁王像。<br /><br />

    東大門の仁王像。

  • 東大門の仁王像。<br /><br /><br />

    東大門の仁王像。


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この旅行記へのコメント (4)

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  • baliutopiaさん 2008/05/09 20:53:32
    石山寺もいいですね!
    さすらいおじさんさんへ、石山寺も結構、見ごたえありますね。私は、このゴールデン・ウィークの旅行のテーマは「松尾芭蕉の奥の細道ゆかりの地を訪ねて」でしたが、さすらいおじさんさんのように、他の文人を訪ねて関西を歩くのもいいなと思いました。私もさすらいおじさんさんのブログも参考に次の旅のテーマを探してみたいと思います!

    さすらいおじさん

    さすらいおじさんさん からの返信 2008/05/10 16:05:42
    RE: 石山寺もいいですね!
    baliutopiaさん

    石山寺をごらんいただき、コメントをありがとうございます。
    ゴールデン・ウィークの旅行のテーマを「松尾芭蕉の奥の細道ゆかりの地を訪ねて」とされたのですね。
    松島、平泉、山寺など奥の細道ゆかりの地を楽しまれたことでしょう。
    私も1993年に同じテーマで東北を回りました。とても懐かしいです。

    石山寺は紫式部はじめ、平安時代の女流文学家にゆかりがある寺なので、興味がありました。こんなにたくさんの女流文学家がお参りしたのは、昔も人気の観光地とか、流行のようなものがあったのではないかなあ、と想像しています。

    baliutopia

    baliutopiaさん からの返信 2008/05/10 22:36:10
    RE: RE: 石山寺もいいですね!
    さすらいおじさんさんへ、京都は誰もが行く観光地ですが、石山寺はそれとは、別で。しかし、古典文学ではよく出てくるお寺ですものね!さすらいおじさんさんに、今まで見向きもされなかったような場所を気付かせていただけるのでは?と期待しております。

    さすらいおじさん

    さすらいおじさんさん からの返信 2008/05/11 19:26:20
    RE: 石山寺もいいですね!
    baliutopiaさん

    石山寺は滋賀県にありますが、滋賀は京都のような華やかさはありませんが、いい寺や古跡がたくさんありますね。

    私も知らないところがたくさんありますが、少しずつ歩いて新しい発見があれば、と思っています。



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