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本当は親子3人でのスキー旅行になるはずだった。<br />だが相棒は急遽英国出張を告げられ、僕と3歳になる息子だけが予定を短縮してシャモニへ出掛ける事となった。<br />日本では今のところ超優良企業に数えられているT社だが、慢性化した人材不足の感が否めない。これは欧州でも同じようで組織の末端であるマイ配偶者も頻繁に雑用要員として出張へ借り出される。配偶者の愚痴を聞くまでもなく、T社の内外から聞こえてくるのは人事部の腐敗と大企業病の噂だ。<br />まあ、それでも片言の英語も話せない人間の海外赴任もありうる我が社と比べれば、まだましかも知れないが・・・・。ともかく、かくして子連れ狼はフレンチアルプスに出かけるのであった…<br /><br />とその前に準備段階の話を書いておきたい。<br />実はこの準備その他が今回の旅行の肝になっている部分もあるのだ。<br />まずは旅行の手配。旅客運賃と宿舎に関してはそもそも全部自らが行っていたので、期間短縮を余儀なくされた状態でもうまく修正できた。行きはパリから寝台車にてサン・ジェルヴェイまで。これで時間の短縮と無駄な宿泊費を省略できる。それに寝台車に乗ること自体が3歳児にとっては大きなイベントになりことだろう。そして運の良い事に丁度格安料金が出回っている時期で運賃はたった15ユーロという追い風もあった。頑張るパパに天は味方するもんだ!?そこからローカル線でシャモニ入りする。他方、帰りはやや無謀ともいえる旅程。<br /><br />5回にわたる乗換えを敢行して一気に自宅を目指す。これは車で800?以上8時間のノンストップ走行に相当するハードな旅路だったが、超高速列車2本を組み込んでおけばお昼ご飯の時間ぐらいは捻出できるので実行可能なギリギリのラインと見ていた。こうまでハードな設定で帰路を取ったのは、相次ぐ出張の合間に一目でも母親の顔を子供に見せておくにはその日中に戻る必要があったからだった。<br />そして、宿舎は1週間のロッジ滞在を2日のホテル泊に切り替えた。駅の真横に位置し、モンブランを望める場所にあるメルキュールは既に全室が埋まっていたこともありアルピナにした。幼児連れなので便利なところが良い。<br /><br />だが、最大の難関は別にあった。パッキングだ。知人の勧めで一度はスキー学校に入れるということと子供のスキー用品は買わないほうが良いということで、スキーは持ち運ばない事になった。とは言え、、そりくらいは持っていって我が子と一緒に雪遊びをしたかったのでこれを含む。他方、子供をスキー学校に入れている間に自分が何をするかということだが、一番始めに頭に浮んだのはスノートレッキングだった。何せスノーシューを持っていくだけでいい。が、暫くして気が変わった。スノーシューは実は嵩高くて思ったよりも容量を取る。それにかなり前から自分の中で気に掛けていた問題があった。<br />それは冬山だった。<br />自分はアルピニストを名乗っていながら冬山に行ったことがない。北極圏でのアイスクライミングはマイナス20℃下で行っていたのでやや冬山の色をなしているが所詮は丘陵地帯の中だ。せめて富士山くらいの高さの冬山の一本もやってこそ真のアルピニストと名乗る資格があるのだろう?僕が尊敬しているM氏などは思いつきさながらに単独で欧州の冬山へと出掛け、プチ雪崩に合いながらも無事脱出、寒いのにビールを飲んで下山という豪胆さでその後も冬山を続けている。<br />よし、『冬山ライト&ファスト』計画だ。<br />そして、自分にとって格好の標的がすぐに思い浮かんだ。2006年の夏の研修時に希望がかなえられなかったPteベルト北壁である。この時は雪解け具合が激しくノーマルルートすら無理だろうと隊長達が判断した為、その隣りのグランド・モンテ稜に対象が変えられてしまった。この時に既にここの北壁を見ている。<br />そうそれに北壁だ。この響き。<br />『北酒場』でも言葉として相当の趣があるが、『北壁』、北の壁これはたまらん。<br />「お〜と〜こだったらほくへきかける〜♪」と時代劇の主題歌でも歌われているではないか(ちょっと違うか…)<br />そして、北壁とは英語の『ザ・ノースフェイス』でもある。ただのクライマー時代からほぼマイ・ユニフォームと化しているアウトドアウェア。そして、近年の世界各国で猫も杓子も着たがるODウェア界のポロ・ラルフローレンである。<br />よし、僕にとって重要なエピソードがあるのだが、この際公開してしまおう。<br />そう僕がただのクライマー時代だった時、『あくまでも友人の』あるスラブ系美女から、<br />「(ノースフェースのロゴを指差しつつ)それって流行ってるのよね。でも何でノースフェースなの?」と訊かれたのだった。彼女はプラダやLVの事は熟知していてもアウトドアウェアを全く知<br />らなったのだ。<br />「地層や陽光の関係で、山は北壁面が一番難しいし環境も苛酷なんだ。だから、一流のクライマーじゃないとそこを登ることは出来ない。一流のクライマーの使用に耐えうる品質。或いは一流のクライマーが選ぶブランドとしてこの名前にしたんじゃないかな。」と僕は答えた。すると、<br />「じゃあ、当然ながらトシも北壁を登ったのね!」<br />「・・・」<br />「・・・」<br />				〈沈黙、そして暗転〉<br /><br />いや〜皆さん、人生にはいろいろありますよね。<br />という訳で北壁に対する僕の思いはアルプスに散在するヒドゥンクレヴァスよりも深い。<br /><br />『冬山』、『北壁』これに本当のところは『ソロ』というのを付け加えたかったが、パッキングの都合と『オガミイットウ的状況』から派生するリスクゼロへの限りない追求の為『ソロ』だけは断念した。(ただ、子供のスキー学校の時間設定などの問題があり、短時間で登頂を果たせる『アンデックス針峰』ソロというシナリオも一応描いたりはしていた。)<br /><br />計画は具体性を帯び、後は調整作業だ。ガイドを手配して、スキー学校との時間割を詰めていく。最後にはガイド組合とスキー学校の双方で連絡を取らせるという方法をとった。今までの経験でこれが一番有効なやり方だと知っている。何とか6時間に全てを調整。もっとも、自分の心に許した山行時間は4時間半だ。我が子と共有する時間をそれ以上減らすのはどうかと思ったのだった。これは自分のやるルートに要する平均時間を1時間短縮するということだ。その為にロープウェーの待ち時間等も想定した。無理をするのはいけないが、自分に何かを課していくというのは自分が強くなるために必要な作業だと思っている。ルートを見誤らないガイドと行くわけだしそれくらい出来なくてどうすると自分を鼓舞する。<br /><br />パッキングではかなり工夫した。短期間で山頂につく為に装備を軽くする『ライト&ファスト』の部分と我が子のソリやスキーウェアや着替えその他を詰め込みつつ、幾度も起きる電車の乗換えに対応するラゲージという相反した要素で考えなければならなかった。なのでウェアはソフトシェルや超軽量ダウンだがザックは45リットルのスノーアタック。45リットルのスノーアタックは重く、バランスは悪いが、殆ど全ての自分の荷物を収納できる。そうすると残る荷物を詰め込むトランクは中型となり、電車では自分の席頭上に置いておけるし、いざとなれば子供を片手に抱き、もう一方の手でトランクを持って数十分を徒歩移動ということも可能になるのだ(→実際、そうなった。)<br />最近はランニングで出勤していた。足にはパワーアンクル。こういう時の為に自分を強くしたいとの思いからだった。<br />                         続く‥・<br />

寝台車で行く冬のアルプス、父子2人旅

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2007/03 - 2007/04

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4

アルピニスとし

アルピニスとしさん

本当は親子3人でのスキー旅行になるはずだった。
だが相棒は急遽英国出張を告げられ、僕と3歳になる息子だけが予定を短縮してシャモニへ出掛ける事となった。
日本では今のところ超優良企業に数えられているT社だが、慢性化した人材不足の感が否めない。これは欧州でも同じようで組織の末端であるマイ配偶者も頻繁に雑用要員として出張へ借り出される。配偶者の愚痴を聞くまでもなく、T社の内外から聞こえてくるのは人事部の腐敗と大企業病の噂だ。
まあ、それでも片言の英語も話せない人間の海外赴任もありうる我が社と比べれば、まだましかも知れないが・・・・。ともかく、かくして子連れ狼はフレンチアルプスに出かけるのであった…

とその前に準備段階の話を書いておきたい。
実はこの準備その他が今回の旅行の肝になっている部分もあるのだ。
まずは旅行の手配。旅客運賃と宿舎に関してはそもそも全部自らが行っていたので、期間短縮を余儀なくされた状態でもうまく修正できた。行きはパリから寝台車にてサン・ジェルヴェイまで。これで時間の短縮と無駄な宿泊費を省略できる。それに寝台車に乗ること自体が3歳児にとっては大きなイベントになりことだろう。そして運の良い事に丁度格安料金が出回っている時期で運賃はたった15ユーロという追い風もあった。頑張るパパに天は味方するもんだ!?そこからローカル線でシャモニ入りする。他方、帰りはやや無謀ともいえる旅程。

5回にわたる乗換えを敢行して一気に自宅を目指す。これは車で800?以上8時間のノンストップ走行に相当するハードな旅路だったが、超高速列車2本を組み込んでおけばお昼ご飯の時間ぐらいは捻出できるので実行可能なギリギリのラインと見ていた。こうまでハードな設定で帰路を取ったのは、相次ぐ出張の合間に一目でも母親の顔を子供に見せておくにはその日中に戻る必要があったからだった。
そして、宿舎は1週間のロッジ滞在を2日のホテル泊に切り替えた。駅の真横に位置し、モンブランを望める場所にあるメルキュールは既に全室が埋まっていたこともありアルピナにした。幼児連れなので便利なところが良い。

だが、最大の難関は別にあった。パッキングだ。知人の勧めで一度はスキー学校に入れるということと子供のスキー用品は買わないほうが良いということで、スキーは持ち運ばない事になった。とは言え、、そりくらいは持っていって我が子と一緒に雪遊びをしたかったのでこれを含む。他方、子供をスキー学校に入れている間に自分が何をするかということだが、一番始めに頭に浮んだのはスノートレッキングだった。何せスノーシューを持っていくだけでいい。が、暫くして気が変わった。スノーシューは実は嵩高くて思ったよりも容量を取る。それにかなり前から自分の中で気に掛けていた問題があった。
それは冬山だった。
自分はアルピニストを名乗っていながら冬山に行ったことがない。北極圏でのアイスクライミングはマイナス20℃下で行っていたのでやや冬山の色をなしているが所詮は丘陵地帯の中だ。せめて富士山くらいの高さの冬山の一本もやってこそ真のアルピニストと名乗る資格があるのだろう?僕が尊敬しているM氏などは思いつきさながらに単独で欧州の冬山へと出掛け、プチ雪崩に合いながらも無事脱出、寒いのにビールを飲んで下山という豪胆さでその後も冬山を続けている。
よし、『冬山ライト&ファスト』計画だ。
そして、自分にとって格好の標的がすぐに思い浮かんだ。2006年の夏の研修時に希望がかなえられなかったPteベルト北壁である。この時は雪解け具合が激しくノーマルルートすら無理だろうと隊長達が判断した為、その隣りのグランド・モンテ稜に対象が変えられてしまった。この時に既にここの北壁を見ている。
そうそれに北壁だ。この響き。
『北酒場』でも言葉として相当の趣があるが、『北壁』、北の壁これはたまらん。
「お〜と〜こだったらほくへきかける〜♪」と時代劇の主題歌でも歌われているではないか(ちょっと違うか…)
そして、北壁とは英語の『ザ・ノースフェイス』でもある。ただのクライマー時代からほぼマイ・ユニフォームと化しているアウトドアウェア。そして、近年の世界各国で猫も杓子も着たがるODウェア界のポロ・ラルフローレンである。
よし、僕にとって重要なエピソードがあるのだが、この際公開してしまおう。
そう僕がただのクライマー時代だった時、『あくまでも友人の』あるスラブ系美女から、
「(ノースフェースのロゴを指差しつつ)それって流行ってるのよね。でも何でノースフェースなの?」と訊かれたのだった。彼女はプラダやLVの事は熟知していてもアウトドアウェアを全く知
らなったのだ。
「地層や陽光の関係で、山は北壁面が一番難しいし環境も苛酷なんだ。だから、一流のクライマーじゃないとそこを登ることは出来ない。一流のクライマーの使用に耐えうる品質。或いは一流のクライマーが選ぶブランドとしてこの名前にしたんじゃないかな。」と僕は答えた。すると、
「じゃあ、当然ながらトシも北壁を登ったのね!」
「・・・」
「・・・」
〈沈黙、そして暗転〉

いや〜皆さん、人生にはいろいろありますよね。
という訳で北壁に対する僕の思いはアルプスに散在するヒドゥンクレヴァスよりも深い。

『冬山』、『北壁』これに本当のところは『ソロ』というのを付け加えたかったが、パッキングの都合と『オガミイットウ的状況』から派生するリスクゼロへの限りない追求の為『ソロ』だけは断念した。(ただ、子供のスキー学校の時間設定などの問題があり、短時間で登頂を果たせる『アンデックス針峰』ソロというシナリオも一応描いたりはしていた。)

計画は具体性を帯び、後は調整作業だ。ガイドを手配して、スキー学校との時間割を詰めていく。最後にはガイド組合とスキー学校の双方で連絡を取らせるという方法をとった。今までの経験でこれが一番有効なやり方だと知っている。何とか6時間に全てを調整。もっとも、自分の心に許した山行時間は4時間半だ。我が子と共有する時間をそれ以上減らすのはどうかと思ったのだった。これは自分のやるルートに要する平均時間を1時間短縮するということだ。その為にロープウェーの待ち時間等も想定した。無理をするのはいけないが、自分に何かを課していくというのは自分が強くなるために必要な作業だと思っている。ルートを見誤らないガイドと行くわけだしそれくらい出来なくてどうすると自分を鼓舞する。

パッキングではかなり工夫した。短期間で山頂につく為に装備を軽くする『ライト&ファスト』の部分と我が子のソリやスキーウェアや着替えその他を詰め込みつつ、幾度も起きる電車の乗換えに対応するラゲージという相反した要素で考えなければならなかった。なのでウェアはソフトシェルや超軽量ダウンだがザックは45リットルのスノーアタック。45リットルのスノーアタックは重く、バランスは悪いが、殆ど全ての自分の荷物を収納できる。そうすると残る荷物を詰め込むトランクは中型となり、電車では自分の席頭上に置いておけるし、いざとなれば子供を片手に抱き、もう一方の手でトランクを持って数十分を徒歩移動ということも可能になるのだ(→実際、そうなった。)
最近はランニングで出勤していた。足にはパワーアンクル。こういう時の為に自分を強くしたいとの思いからだった。
                         続く‥・

同行者
家族旅行
一人あたり費用
1万円 - 3万円
交通手段
鉄道

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  • パリを出発して朝目覚めると、そこはもう雪国であった。

    パリを出発して朝目覚めると、そこはもう雪国であった。

  • 今回の標的はお前だっ!

    今回の標的はお前だっ!

  • ホテルは便宜上アルピナに。

    ホテルは便宜上アルピナに。

  • 待ち受けるはフェーン現象か?

    待ち受けるはフェーン現象か?

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