2007/01/22 - 2007/01/22
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フーテンの若さんさん
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僕はひとり歩いていた。重いキャリアバックをコロコロ引き摺り、人込みのなか空港出口から対極に離れた地下鉄(メトロ)乗り場に向かって。
スペイン語で突然話かけられた。「今、何時?」と。
久しぶりのスペイン語で答えがすぐに出てこない。とっさに腕時計をそのまま見せる。
「グラシャス(ありがとう)。日本人かい?」と続けて質問を受ける。 シー(そうだよ)。相手はおじいさんだった。
「何処へ向かっているんだい?」 地下鉄(メトロ)だよ。
おじいさんも地下鉄乗り場を目指しており、途中の駅まで同じ方向だった。何でも考古学の先生をやっていたらしく、教え子を頼ってパレンケからメキシコシティに今日やって来たばかりらしい。歩くのが遅く、少しびっこをひいている。足があまりよくないみたいだ。
スペイン語のリハビリにちょうどいいこともあり、僕はおじいさんと途中まで行動を供にすることした。
メキシコの地下鉄(メトロ)は安い。何処まで乗っても2ぺソ(22円ぐらい)。ただし重い荷物を背負っての移動はかなりしんどい。乗り換えの度に歩かねばならない地下道の道のりが長いこと。日本のラッシュ時のように車内がいつも混み合っていること。スリが結構多いらしいこと。そういう意味ではおじいさんが横にいると心強かった。
おじいさんはパレンケに住んでいるらしく、今度来るならいろいろ案内してくれるとやさしく声をかけてくれた。「日本に一度行きたいけどお金に余裕がないんだよ。」と笑いながら、のど飴のホールズをひとつ分けてくれた。メキシコ人はやっぱりやさしいなぁ。
メトロのドアが閉まる瞬間、大きなCDラジカセを背負った売り子が飛び乗ってきた。地下鉄(メトロ)のなかでは、売り子がよく乗ってくる。手帳にペンに電卓、乾電池、お菓子、本と小物はなんでも売りに来る。音楽CDやDVDにいたっては、ラジカセを車内でガンガン鳴らすものだからうるさくてしょうがない。しかし、僕はものが売れている場面を目撃したことは一度もない。この狭い車内で商売が成り立っているのだろうか?
おじいさんと別れる前に連絡を取り合おうとメール交換をした。最後におじいさんはモジモジ何か言いたそうだ。なんだい?おじいさん。何でも言ってくれよ。お陰で僕は助かったんだから。
「実は足が悪いのは、今日強盗に襲われてしまったんだ。教え子のところまで行くのにバスで乗り継がねばならないんだけどお金がまったくないんだ。少しでもわけてもらえないだろうか。」
うーん。よくある詐欺の手口だ。少し迷ったが、僕はお金を渡さずにそのまま別れた。ごめんなさい。今は小銭がないんですといって。よく考えてみると、おじいさんは空港で僕のような人間をカモ待ちしていただけではないだろうか。いや、あんな親切なおじいさんが詐欺なんか働くか?歳は65をゆうに越えていたし、足はヨボヨボだった。
どちらが正解かはすぐにわかった。おじいさんが最後に案内してくれた乗り換え場所はまったく間違っていたからだ。改めて地下鉄路線図をみると、そもそもここで下りるべきではなかった。おじいさんはお金がほしいがために、適当な場所に僕を案内したというわけだ。ニカラグアで強盗にあったばかりなのに、またもやヤラレルところだった。危ない、危ない。
また、ひとりに戻り、歩き出した。重いキャリアバックをコロコロ引き摺り、人込みのなか正しいと思われる地下鉄(メトロ)乗り場に向かって。
また、戻ってきたのだ。このメキシコシティの猥雑な喧騒のなかに。
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