2004/08 - 2004/08
1649位(同エリア1708件中)
Domiさん
下山し始める頃には、周囲はすっかり明るくなっていた。登山道も明るいと、こうも印象が違うものなのか。そして、体を降ろすというのは、登らせるよりこんなに楽なものなのか。
まだまだ空気は薄いはずなのに、9合5勺までの道で、休憩を取ったのはわずかに1回だった。途中途中で行きでは撮れなかった写真を撮りつつ、程なくして9合5勺の山小屋にたどり着く。
たったこれだけ下っただけなのに、空気が濃いと感じる。呼吸がすごく楽だ。しかも動き始めたせいか、寒さも和らいだ気がする。3人で、暖まったね、空気が濃いねと笑い合う。下山楽勝じゃん。
と、思ったのが甘かったことはすぐに判明した。富士山は登頂で道程の半分と思えと言われている山なのだ。我々ごときがなめていい山ではなかった。
確かに呼吸は楽になった。気温も上がってきた。しかし、足がすぐ痛くなってきた。膝、太股、足首。9合5勺から下り始めてすぐ足の痛みは出現し、順調に悪化してきた。
この時になって、ようやく登りの段階で、すでに足を酷使していたことを実感したが、なにせ登りは全身疲労の方が強くて、足の痛みを意識するだけの余裕がなかったのだろう。空気が濃くなってきて、全身疲労の方が楽になってから、足の痛みが襲ってきたような印象だった。
しかも、登りの時にもちらっと思った「この道帰りはどうやって下ろうか。」と思うような岩場がところどころにある。両手を使い、しゃがんで、ほとんど飛び降りるようにして降りる。よくこれで怪我人が出ないよなあ。…出てるのか?
かと思うと、さらさらの火山砂のところでは、すべって転ぶ人が続出している。我々も最初はバランスを取ったり、杖を使ったり、登山道に張ってあるロープに掴まったりしてどうにか転倒を避けていたのだが、足の痛みと疲労が強くなるにつれて、小手先で転倒を避けることが難しくなった。3人とも、少なくとも1回ずつは思いっきり転倒した。
まだ早朝だというのに、顔に照りつける日差しはかなり強い。「…ねえ、昨日の朝塗った日焼け止めって、効いてると思う?」「ううん、全然ダメだと思う。」リュックに入っているはずなのだが、出して塗り直す気にはならない。
下りの道は、登山する人と下山する人が入り乱れて混んでいた。登りの時には人と人とのすれ違いの事なんか全く考えなくて良かったことを考えると、やはり夜登ったのは正解だったのかもしれない。なにせ、道が狭いので行き違いに気を遣うし、時間も使う。
これからこの山のてっぺんまで登っていく人を見ると、なんとなく生暖かい笑顔になってしまう。元気な若者を見ても、「ここまでくれば頂上までもう少しよね!」と喋る女性を見ても、ついつい笑ってしまう。まだまだ頂上じゃないよー。きっと思ってたより大変だよー。頑張ってねー。
しかし、我々もそこまでの余裕はないのであった。下山の道のりは延々と続く。行きと違って明るいし、かといって景色は代わり映えしないし、そのくせ下りの道はよく見えるし、次の山小屋までの距離が半端じゃなく遠く見える。
あー、あそこまで言ってもまだ8合目なんだ。こんなに遠かったっけ?
膝や足首の痛みはかなり強くなってきて、時々岩場で休憩を取らないと一気に下れない。登山中も頼りになった登山用ステッキだが、下山時には、頼りになるというより、ほとんどこれなしでは下れないぐらいだった。
時にステッキに全体重を預けつつ、また山道に張ってあるロープに全身で頼りつつ、ひたすら下りに下る。しょっちゅう滑って体勢を崩す。こうなると、足だけではなく腕や腰まで痛くなってくる。つまり全身筋肉関節痛状態なのである。
途中休憩の時の雑談で、友人に私が
「富士登山初回での登頂率って、4割ぐらいなんだってね。」
と話すと、疲労と足の痛みで(しかも転んで軽い怪我までしていた)限界という顔をしている友人が言った。
「下山率は?」
…どこに残るんだ、どこに?下山率が10割じゃなかったら、捜索隊が出るだろうが。
「足が痛い。もう歩きたくない。他の方法で下山できるんだったら、絶対そうしてる。」
いや、気持ちはわかるけどね。山小屋を過ぎて、次の山小屋の位置を見るたびにうんざりしてくる。下山を甘く見たなあ。登りで限界まで疲れた体を、同じ距離降ろして来るんだから、当然と言や当然なんだけど。ただ、疲労困憊にも関わらず、行きと違って気分不快がない分私としては下山の方がよほど楽だった。なにせ登りでは口にできなかったカロリーメイトがおいしいし。
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