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今までの道程が「死にそう」にきつかったなら、9合5勺からの道は、まさに「死んだ」。<br /><br />道の傾斜が今までよりきつかったとか、そういうことは全く判断がつかなかった。とりあえず一歩登っては息をつき、二歩登っては休憩するいうような状態だった。物を考える余裕はなく、もうダメ、もうダメと思いながら、ひたすら友人の後を追った記憶しかない。行程にかかった時間の八割方は休憩時間だったはずだ。<br /><br />休憩していて、彼女が「じゃ、行こうか。」というから歩き出すタイミングがわかったんで、一人だったらそのままどこかで止まったままになったと思う。彼女の根性と体力にすがって、ようやく登り続けているだけだった。<br /><br />立ち止まっているうちに後ろから他の人たちが登ってくるので、のろのろと道を開けると、後ろから来た人達がその我々を見て、生ぬるい笑みを浮かべて一緒に立ち止まってしまう。みんな人を追い越すだけの体力がなくなっているのだ。<br /><br />さっきから抜きつ抜かれつのツアーパーティーは、後ろの方から女性が「私ここでリタイアしますー、もう登れませーん!」と叫んでいる。その後どうなったのか、顛末を見る余裕はなかったが、きっと元気の余っている、そしてこういうことに慣れている口八丁のガイドさんが励まして登らせたのだろう、きっと。<br /><br />登山道の両脇には、ちょっとスペースがあると、休憩ともリタイアともつかない人々がうずくまったり、寝転がったりしており、頂上に近づくにつれて人口密度が上がっていく感じだった。しかし、行程も最後となると、殺風景な登山道もちょっとにぎやかにしてあって、「頑張れ!頂上はもうすぐだ!」みたいな看板があったり(それまではそんな物一つもなかった)、「頂上まで後XX分」という、励ましになるようなならないような看板があったりした。<br /><br />そのうち、いかにものオブジェが見えてきた。由緒ありそうな(わからないけど)鳥居である。下手な看板より、これの方がよほど頂上に近い感をアピールする。この鳥居をくぐって、登山道は頂上へと続いていた。どこかのツアーガイドが、「ほら、あそこ!あそこが頂上だから!もうすぐだから頑張って!」と最後の喝を入れていた。<br /><br />が、この期に及んでも、私は直前リタイアの可能性が捨てきれなかった。息はますます切れ、動悸は激しさを増す一方で、立ち止まって落ち着くまでにかなりの時間がかかるようになっていた。息を吸っても吸っても呼吸苦と動悸が治まらない恐怖感を味わう。大きな呼吸をしようとすると、胸がむかむかして吐き気がする。首と肩には鈍痛がじわじわのしかかり、休憩時間はいよいよ長くなっていた。<br /><br />これではどう考えても友人に迷惑をかけている。友人が私に合わせてくれているのがわかるほどに申し訳なく、動けないなら置いていってもらおうと、「ゴメン、先に行って。」の言葉が何度も出かかった。が、彼女が、当然のように「じゃ、行こうか。」と言うと、思わずその言葉を飲み込んでしまう。<br /><br />そうやって迷っているうちに、ゆっくりと、しかし着実にゴールは目の前に近づいた。私自身は頂上5m手前でも、まだ登り切れないんじゃないかという疑心を捨て切れていなかった。しかし、一気に頂上まで最後の距離を歩いた友人につられるようにして、ようやく私自身も、富士山の頂上にたどり着いたのであった。<br /><br />しばらくは頂上に着いたという喜びより、もう登らなくていいという嬉しさの方が大きかった。

富士登山記 その8

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2004/08 - 2004/08

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Domi

Domiさん

今までの道程が「死にそう」にきつかったなら、9合5勺からの道は、まさに「死んだ」。

道の傾斜が今までよりきつかったとか、そういうことは全く判断がつかなかった。とりあえず一歩登っては息をつき、二歩登っては休憩するいうような状態だった。物を考える余裕はなく、もうダメ、もうダメと思いながら、ひたすら友人の後を追った記憶しかない。行程にかかった時間の八割方は休憩時間だったはずだ。

休憩していて、彼女が「じゃ、行こうか。」というから歩き出すタイミングがわかったんで、一人だったらそのままどこかで止まったままになったと思う。彼女の根性と体力にすがって、ようやく登り続けているだけだった。

立ち止まっているうちに後ろから他の人たちが登ってくるので、のろのろと道を開けると、後ろから来た人達がその我々を見て、生ぬるい笑みを浮かべて一緒に立ち止まってしまう。みんな人を追い越すだけの体力がなくなっているのだ。

さっきから抜きつ抜かれつのツアーパーティーは、後ろの方から女性が「私ここでリタイアしますー、もう登れませーん!」と叫んでいる。その後どうなったのか、顛末を見る余裕はなかったが、きっと元気の余っている、そしてこういうことに慣れている口八丁のガイドさんが励まして登らせたのだろう、きっと。

登山道の両脇には、ちょっとスペースがあると、休憩ともリタイアともつかない人々がうずくまったり、寝転がったりしており、頂上に近づくにつれて人口密度が上がっていく感じだった。しかし、行程も最後となると、殺風景な登山道もちょっとにぎやかにしてあって、「頑張れ!頂上はもうすぐだ!」みたいな看板があったり(それまではそんな物一つもなかった)、「頂上まで後XX分」という、励ましになるようなならないような看板があったりした。

そのうち、いかにものオブジェが見えてきた。由緒ありそうな(わからないけど)鳥居である。下手な看板より、これの方がよほど頂上に近い感をアピールする。この鳥居をくぐって、登山道は頂上へと続いていた。どこかのツアーガイドが、「ほら、あそこ!あそこが頂上だから!もうすぐだから頑張って!」と最後の喝を入れていた。

が、この期に及んでも、私は直前リタイアの可能性が捨てきれなかった。息はますます切れ、動悸は激しさを増す一方で、立ち止まって落ち着くまでにかなりの時間がかかるようになっていた。息を吸っても吸っても呼吸苦と動悸が治まらない恐怖感を味わう。大きな呼吸をしようとすると、胸がむかむかして吐き気がする。首と肩には鈍痛がじわじわのしかかり、休憩時間はいよいよ長くなっていた。

これではどう考えても友人に迷惑をかけている。友人が私に合わせてくれているのがわかるほどに申し訳なく、動けないなら置いていってもらおうと、「ゴメン、先に行って。」の言葉が何度も出かかった。が、彼女が、当然のように「じゃ、行こうか。」と言うと、思わずその言葉を飲み込んでしまう。

そうやって迷っているうちに、ゆっくりと、しかし着実にゴールは目の前に近づいた。私自身は頂上5m手前でも、まだ登り切れないんじゃないかという疑心を捨て切れていなかった。しかし、一気に頂上まで最後の距離を歩いた友人につられるようにして、ようやく私自身も、富士山の頂上にたどり着いたのであった。

しばらくは頂上に着いたという喜びより、もう登らなくていいという嬉しさの方が大きかった。

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