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 旅先での“憩い”にはその国らしさが現れる。 <br />たっぷりと練乳が注がれた東南アジアのコーヒー、小さなグラスに角砂糖を落として楽しむトルコのチャイ、ストレートで飲んだら奇妙な目で見られたイタリアのエスプレッソ……。 <br />モロッコにはふたつの“憩い”があった。 <br />フランス統治時代の名残りを残すカフェ・オ・レと、新鮮なミントの葉をどっさりと入れたミント・ティ。 <br />どちらも旅の渇いたのどを癒してくれるには素晴らしい役者だった。 <br />そして一杯のお茶が旅の行方を左右することもある。 <br /><br /> その時、わたしは途方にくれていた。 <br />喧騒のマラケシュを発ち、ワルザザードからさらに東の町を目指している途中、ティネリールの町で「砂漠へ行くバスはない」というイヤな情報を耳にしていた。行けばなんとかなるだろう、という楽観的な見通しはホテルのマネージャーにあっさり否定された。 <br /><br />「ここから東へ向かうバスはないよ」 <br /><br /> この町からサハラへの入り口でもある東の町・エルラシディアへは定期バスはないのである。 <br />ワルザザードへ戻り、北に寝そべるオート・アトラス山脈を迂回し、回り込めばたどり着けないことはないようだが……。 <br />呆然としながら夕食を取るためにホテルを出ると、声をかけられた。 <br /><br />「おーい、ジャポン! アリだよ、アリ」 <br />モロッコはガイド料をねだるインチキガイド、しつこい土産屋も多い。 <br />“アリ”なんて石を投げれば当たるほどいる名前、そして英語を話すやつに限って、小銭をたかる輩が多いのだ。 <br />無視して立ち去ろうとすると <br />「ワルザザードの××ホテルを覚えてないのかい?」ホテルの名前に驚いて振り向くと、数日前、同じホテルで話をした男だった。 <br /><br />「ここで土産屋をやっているんだ、お茶でも飲んでいけよ」 <br /> そう言うと店舗の二階に招き入れてくれた。 <br />「無視されそうになってあせったよ」 <br />「ごめん、押し売りかガイドかと思ったんだよ」 <br />「おれもここで再会するとは思わなかった、カフェ・オ・レか? ミント・ティがいいか?」 <br /> 民族楽器や土産、雑貨が並べられた店内のカーペットに招かれ、座った。横には見慣れない男が座っていた。 <br />「こいつはイトコのカリム、レストランをやっているんだ」 <br /> アリは英語がわからない彼に、わたしとの出会いを説明していた。 <br />「で、ジャポン、ここから先はどこへ行くんだ?」 <br />「いやあ、サハラに行きたくて、エルラシディアを目指していたけど……」 <br />「エルラシディアに行きたいのか?」 <br />「そう、そこから南に下り、サハラに入りたい。でもバスがないんだ」 <br />「じゃあ、こいつと行けばいい」 <br /> イトコの肩を叩きながらアリが陽気に話す。 <br />「カリムはエルラシディアにレストランを持っているんだ。これから帰るところさ。こいつと一緒に行けば問題ないだろう? 明日でいいのか?」 <br />「こいつと行けば相乗りのタクシーもボラれることもないし、サハラまでの車も手配するように伝えてやるよ」 <br /> 目の前にあるカフェ・オ・レが冷める間もなく、砂漠への道が開けた。 <br /><br /> 翌朝、カリムと待ち合わせ、タクシーに乗り込む。 <br />助手席2名、後部座席4名、エルラシディアまで約2時間、思い切りギュウギュウ詰めの相乗り。 <br />舗装されていない路面に尻が悲鳴を上げていたが、乗り合った客は慣れているのか誰も文句を言わない。 <br />爆走を終え、エルラシディアの町に着くと、カリムはいともたやすく4WDのタクシーを手配してくれた。 <br />しかも驚くような値段で。別れ際にカリムがつたない英語で言う。 <br />「砂漠の帰りにはうちに泊まっていくといい、モロッコの食事でよければご馳走するよ」 <br /> 美しいサハラの砂を眺めながら、カフェ・オ・レのグラスを傾けると、アリの笑顔とカリムの優しい言葉が頭の中にぼんやり浮かんだ。 <br /><br /><br /><br /><br />文・写真 <br /> 神奈川県生まれ。シンガポールの現地旅行会社勤務を経て、帰国。海外専門ツアーコンダクターとして動き出すと同時に、フリーランス・ライターとしても始動。旅行記事はもちろん、得意のアメリカン・スポーツに関してもカメラを担ぎ、ひとりで取材に駆け回る。TOUCHDOWN PRO マガジンに連載を持ち、Number、Sportiva、地球の歩き方にも寄稿。旅行業の経験を生かして、即日飛び立つことから“空飛ぶライター”の異名をとる。 <br /><br />Escape <br />発行周期が変わりました:毎週木曜日、特集号(不定期)、ショッピング号 <br />発行元:株式会社 サイバーエージェント

Escape77 一杯のカフェ・オ・レと−モロッコ

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2005/07/01 - 2005/07/02

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merlion

merlionさん

 旅先での“憩い”にはその国らしさが現れる。
たっぷりと練乳が注がれた東南アジアのコーヒー、小さなグラスに角砂糖を落として楽しむトルコのチャイ、ストレートで飲んだら奇妙な目で見られたイタリアのエスプレッソ……。
モロッコにはふたつの“憩い”があった。
フランス統治時代の名残りを残すカフェ・オ・レと、新鮮なミントの葉をどっさりと入れたミント・ティ。
どちらも旅の渇いたのどを癒してくれるには素晴らしい役者だった。
そして一杯のお茶が旅の行方を左右することもある。

 その時、わたしは途方にくれていた。
喧騒のマラケシュを発ち、ワルザザードからさらに東の町を目指している途中、ティネリールの町で「砂漠へ行くバスはない」というイヤな情報を耳にしていた。行けばなんとかなるだろう、という楽観的な見通しはホテルのマネージャーにあっさり否定された。

「ここから東へ向かうバスはないよ」

 この町からサハラへの入り口でもある東の町・エルラシディアへは定期バスはないのである。
ワルザザードへ戻り、北に寝そべるオート・アトラス山脈を迂回し、回り込めばたどり着けないことはないようだが……。
呆然としながら夕食を取るためにホテルを出ると、声をかけられた。

「おーい、ジャポン! アリだよ、アリ」
モロッコはガイド料をねだるインチキガイド、しつこい土産屋も多い。
“アリ”なんて石を投げれば当たるほどいる名前、そして英語を話すやつに限って、小銭をたかる輩が多いのだ。
無視して立ち去ろうとすると
「ワルザザードの××ホテルを覚えてないのかい?」ホテルの名前に驚いて振り向くと、数日前、同じホテルで話をした男だった。

「ここで土産屋をやっているんだ、お茶でも飲んでいけよ」
 そう言うと店舗の二階に招き入れてくれた。
「無視されそうになってあせったよ」
「ごめん、押し売りかガイドかと思ったんだよ」
「おれもここで再会するとは思わなかった、カフェ・オ・レか? ミント・ティがいいか?」
 民族楽器や土産、雑貨が並べられた店内のカーペットに招かれ、座った。横には見慣れない男が座っていた。
「こいつはイトコのカリム、レストランをやっているんだ」
 アリは英語がわからない彼に、わたしとの出会いを説明していた。
「で、ジャポン、ここから先はどこへ行くんだ?」
「いやあ、サハラに行きたくて、エルラシディアを目指していたけど……」
「エルラシディアに行きたいのか?」
「そう、そこから南に下り、サハラに入りたい。でもバスがないんだ」
「じゃあ、こいつと行けばいい」
 イトコの肩を叩きながらアリが陽気に話す。
「カリムはエルラシディアにレストランを持っているんだ。これから帰るところさ。こいつと一緒に行けば問題ないだろう? 明日でいいのか?」
「こいつと行けば相乗りのタクシーもボラれることもないし、サハラまでの車も手配するように伝えてやるよ」
 目の前にあるカフェ・オ・レが冷める間もなく、砂漠への道が開けた。

 翌朝、カリムと待ち合わせ、タクシーに乗り込む。
助手席2名、後部座席4名、エルラシディアまで約2時間、思い切りギュウギュウ詰めの相乗り。
舗装されていない路面に尻が悲鳴を上げていたが、乗り合った客は慣れているのか誰も文句を言わない。
爆走を終え、エルラシディアの町に着くと、カリムはいともたやすく4WDのタクシーを手配してくれた。
しかも驚くような値段で。別れ際にカリムがつたない英語で言う。
「砂漠の帰りにはうちに泊まっていくといい、モロッコの食事でよければご馳走するよ」
 美しいサハラの砂を眺めながら、カフェ・オ・レのグラスを傾けると、アリの笑顔とカリムの優しい言葉が頭の中にぼんやり浮かんだ。




文・写真
 神奈川県生まれ。シンガポールの現地旅行会社勤務を経て、帰国。海外専門ツアーコンダクターとして動き出すと同時に、フリーランス・ライターとしても始動。旅行記事はもちろん、得意のアメリカン・スポーツに関してもカメラを担ぎ、ひとりで取材に駆け回る。TOUCHDOWN PRO マガジンに連載を持ち、Number、Sportiva、地球の歩き方にも寄稿。旅行業の経験を生かして、即日飛び立つことから“空飛ぶライター”の異名をとる。

Escape
発行周期が変わりました:毎週木曜日、特集号(不定期)、ショッピング号
発行元:株式会社 サイバーエージェント

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