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連載していた作品をUPします。 <br />ここから次の仕事の依頼がくるかな? <br /><br />・・・・・・・・・・・・・・・ <br />ESCAPE 70 <br /><br /> ヨーロッパからアフリカ大陸への玄関口となる国・モロッコ。スペインの最南端・アルへシラスの港からわずか14km、ジブラルタル海峡の向こうにその姿を眺めることができるヨーロッパからもっとも近いムスリムの国である。 <br /><br /> この王国は1956年にフランスから独立すると、パリやロンドンから2〜3時間で飛べる距離ということもあり、ヨーロッパでもっとも人気がある観光国となった。 <br />日本に置き換えたなら韓国や香港といった位置付け。 <br />週末旅行やバカンスに訪れるヨーロピアンはひっきりなしで、クリスマスシーズンともなればホテルはヨーロピアンであふれかえる。 <br /><br /> 「砂漠が見たい」スペインを旅していた私は、他愛のない動機でジブラルタルを渡るフェリーに乗り込んだ。 <br />目指すはモロッコ東南、アルジェリアとの境に広がるサハラ砂漠。金色の砂をこの足で踏みしめてみたかった。 <br />古都・フェズに次いで二番目に古いながらも、今ももっとも活気あふれる街・マラケシュにたどり着く。 <br /><br /> 街の中心であるジャマ・エル・フナ広場には、日が暮れるにつれ、さまざまな食べ物やフルーツを並べた屋台、露店、奇妙なパフォーマンスや民族音楽を演ずる大道芸人が集う。 <br />日が高い時間はなにもなかった広場がまるでお祭りのようなにぎやかさをまとい、観光客ばかりでなく、仕事帰りの地元の人たちの足も止めさせていた。 <br /><br /> イスラム圏にいながらもびっしりと並んだ屋台や夜店の雰囲気は、まるでアジアの喧騒や空気を感じさせてくれる。 <br />人が集う奇妙なお茶の屋台が目に止まった。 <br />インパクトのある香りがあたりを包む。 <br />「ここはなにを飲ませるんだい?」 <br />「たくさんのスパイスが入った紅茶だよ」 <br />珍しく流暢な英語で返答が帰ってきたことに驚いた。 <br />この国の人々は、モロッコ特有の訛りの強いアラビア語か、フランス語を話す人がほとんどだからだ。 <br />「モロッコの人にしては珍しく英語が上手だね」 <br />「そういうあんたも日本人なのに英語ができるんだね」 <br /> お互い顔を見あうと、ゲラゲラと笑いあった。 <br /><br />「飲んでいくかい?」 <br /> お茶にも興味があったが、テキパキとした彼の客さばきにも気を惹かれ、しばらく腰を落ち着けることにした。 <br />イスラム圏では酒を飲まない。 <br />もちろん厳粛でない信者はおかまいなしだが、それでも公共の場では決して口にはしない。 <br />そんな人々が気分転換にこの店でお茶を飲んでいく。 <br />買い物帰りの母娘、仕事帰りのビジネスマン、誰もがリラックスした表情でお茶のタンクの前に置かれた甘いお菓子をほおばりながら、熱く甘いスパイス・ティに夕刻のひと時をゆだねる。 <br />どうやらこの店は数あるお茶の屋台の中でも味がいいらしい。 <br /><br /> 彼は手際よく小ぶりのグラスを給仕し、途切れることなく訪れる地元客を小気味よくさばいている。 <br />「このお茶には10種類のスパイスが入っているんだ。わかるかい?」 <br />「ジンジャー、シナモン、クミン、ナツメグ……」 <br />「重要なものを忘れているよ」 <br />「重要なもの?」 <br />「紅茶さ」 <br /> 英語がわからない客を尻目にふたりで笑いあった。 <br />英語を勉強して、この仕事でお金を貯め、ヨーロッパに留学するのが彼の目標。 <br />観光客相手に英語が使えるし、戸惑うこともないので売り上げもでるから一石二鳥の仕事だね。と、明るく笑う。 <br />「明日も来るかい?」 <br />「明日は南の砂漠へ向かおうかと考えてるんだ」 <br />「ワルザザードの町へ? あそこの砂漠は石ころだらけだよ。砂が見たければもっと東のエルラシディアの町から入らないと無理だね」 <br />「そいつはまいった。計画を練り直さないといけないな」 <br /> そういってお茶代の1DH(ディラハム≒15円)コインをテーブルに置き、席を立つと、彼はわたしの胸ポケットにコインを放り込んだ。 <br />「明日もらうよ」 <br /><br />湯気の向こうに笑顔が浮かんだ。

Escape70 ジンジャー、シナモン、クミン、ナツメグ−モロッコ

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2005/06/01 - 2005/06/02

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merlion

merlionさん

連載していた作品をUPします。
ここから次の仕事の依頼がくるかな?

・・・・・・・・・・・・・・・
ESCAPE 70

 ヨーロッパからアフリカ大陸への玄関口となる国・モロッコ。スペインの最南端・アルへシラスの港からわずか14km、ジブラルタル海峡の向こうにその姿を眺めることができるヨーロッパからもっとも近いムスリムの国である。

 この王国は1956年にフランスから独立すると、パリやロンドンから2〜3時間で飛べる距離ということもあり、ヨーロッパでもっとも人気がある観光国となった。
日本に置き換えたなら韓国や香港といった位置付け。
週末旅行やバカンスに訪れるヨーロピアンはひっきりなしで、クリスマスシーズンともなればホテルはヨーロピアンであふれかえる。

 「砂漠が見たい」スペインを旅していた私は、他愛のない動機でジブラルタルを渡るフェリーに乗り込んだ。
目指すはモロッコ東南、アルジェリアとの境に広がるサハラ砂漠。金色の砂をこの足で踏みしめてみたかった。
古都・フェズに次いで二番目に古いながらも、今ももっとも活気あふれる街・マラケシュにたどり着く。

 街の中心であるジャマ・エル・フナ広場には、日が暮れるにつれ、さまざまな食べ物やフルーツを並べた屋台、露店、奇妙なパフォーマンスや民族音楽を演ずる大道芸人が集う。
日が高い時間はなにもなかった広場がまるでお祭りのようなにぎやかさをまとい、観光客ばかりでなく、仕事帰りの地元の人たちの足も止めさせていた。

 イスラム圏にいながらもびっしりと並んだ屋台や夜店の雰囲気は、まるでアジアの喧騒や空気を感じさせてくれる。
人が集う奇妙なお茶の屋台が目に止まった。
インパクトのある香りがあたりを包む。
「ここはなにを飲ませるんだい?」
「たくさんのスパイスが入った紅茶だよ」
珍しく流暢な英語で返答が帰ってきたことに驚いた。
この国の人々は、モロッコ特有の訛りの強いアラビア語か、フランス語を話す人がほとんどだからだ。
「モロッコの人にしては珍しく英語が上手だね」
「そういうあんたも日本人なのに英語ができるんだね」
 お互い顔を見あうと、ゲラゲラと笑いあった。

「飲んでいくかい?」
 お茶にも興味があったが、テキパキとした彼の客さばきにも気を惹かれ、しばらく腰を落ち着けることにした。
イスラム圏では酒を飲まない。
もちろん厳粛でない信者はおかまいなしだが、それでも公共の場では決して口にはしない。
そんな人々が気分転換にこの店でお茶を飲んでいく。
買い物帰りの母娘、仕事帰りのビジネスマン、誰もがリラックスした表情でお茶のタンクの前に置かれた甘いお菓子をほおばりながら、熱く甘いスパイス・ティに夕刻のひと時をゆだねる。
どうやらこの店は数あるお茶の屋台の中でも味がいいらしい。

 彼は手際よく小ぶりのグラスを給仕し、途切れることなく訪れる地元客を小気味よくさばいている。
「このお茶には10種類のスパイスが入っているんだ。わかるかい?」
「ジンジャー、シナモン、クミン、ナツメグ……」
「重要なものを忘れているよ」
「重要なもの?」
「紅茶さ」
 英語がわからない客を尻目にふたりで笑いあった。
英語を勉強して、この仕事でお金を貯め、ヨーロッパに留学するのが彼の目標。
観光客相手に英語が使えるし、戸惑うこともないので売り上げもでるから一石二鳥の仕事だね。と、明るく笑う。
「明日も来るかい?」
「明日は南の砂漠へ向かおうかと考えてるんだ」
「ワルザザードの町へ? あそこの砂漠は石ころだらけだよ。砂が見たければもっと東のエルラシディアの町から入らないと無理だね」
「そいつはまいった。計画を練り直さないといけないな」
 そういってお茶代の1DH(ディラハム≒15円)コインをテーブルに置き、席を立つと、彼はわたしの胸ポケットにコインを放り込んだ。
「明日もらうよ」

湯気の向こうに笑顔が浮かんだ。

  • マラケシュ・エル・ジャマールフナ広場

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