1989/06 - 1989/06
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片瀬貴文さん
滅多にかかってこない息子の電話で、夫にも相談せずに、ついついアメリカ行きを約束した私だったが、いざ夫に切り出す段となって、はたと困った。
働き盛りの夫を一人残しての、私だけの海外旅行には、どうしても後ろめたさが残る。
しかし思い切って、話してみた。
「息子が来ないかと言うんだけれど・・・」
「行ってもいいけど、邪魔にならないか?」
答えが煮え切らない。
しかし私の心は、もうアメリカに飛んでいた。
今度は単刀直入に、「行かせて欲しい」と言ってみた。
夫は前向きに了承してくれたが、二つの注文が付けられる。
その第一は、「今度アメリカに行ったとき、案内できるようになること」。
第二に「旅の記録を残すこと」。
この二つである。
知り合いの旅行業者に切符の手配を頼んだら、「お一人ですか」と念を押された。
これまでは、いつも二人旅だったからだ。
電話の向こうで、「何かありましたか」と怪訝な顔つきが見え見えである。
しかし何はともあれ、生まれて初めての私一人の外国旅行の賽は、投げられた。
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