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「ナザレ」という街の名前はイエス・キリストが幼年以来30年間過ごしたイスラエルの街の名である。この街の名前は8世紀、西ゴート王ロドリゴがロマノという僧を供にこの街までやってきたとき、携えていたマリア像がイスラエルのナザレのものだったことに由来しているそうだ。イスラエルから持って来たマリア像の加護によるものか、ナザレの崖に面した小さな礼拝堂は、聖母マリアの奇跡が起こった場所とされている。1182年にドン・フアス・ロピーニョという城主が狩りで馬に乗って鹿を追っている間に崖から足を踏み外したが、突然聖母マリアが現れ馬が崖から落ちるのを救い、城主は九死に一生を得たという奇跡だ。城主がお礼に建てた礼拝堂が現存しているものだそうだ。<br />奇跡の街ナザレは古くからの漁師街でもあり、寂しさの漂う街だ。この街の雰囲気が1954年のフランス映画、「過去を持つ愛情」の舞台にしたのだろう。アマリア・ロドリゲスはこの街から漁に出たまま戻らぬ愛しい人を歌った主題歌「暗いはしけ」でファドの女王の地位を得た。<br />私にとっては、奇跡の街、ファドの街もおおいに魅力があるのだが、私が尊敬する、ポルトガルを愛してやまなかった放浪詩人、壇一雄(1912〜1976。女優、壇ふみの父)がいつも眺めていた大西洋の海岸線に最も思いがある。壇一雄はナザレから50Km離れたサンタ・クルスという漁師街に1年半住み、大作「火宅の人」の執筆をし、ナザレに連なる海の詩や俳句を詠んだ。<br /><br />【波】<br />犬は波に向かって吠えるのですか?<br />いいえ 黙ってうなだれるのです。<br />かもめは沖に向かって波を蹴るのですか?<br />いいえ 砂のかげにむらがって、死んだ貝をついばむのです。<br />砂は何に向かって泣くのですか?<br />さあ はてなしのそらおそろしさに自分で身震いするのでしょう。<br />ああ、波の咆哮(ほうこう)よりほかにないなぎさでは私だって立ちすくみおののきながらその鳴っている砂を踏みしめているだけなんです。<br /><br />【海で詠んだ俳句】<br />落日(らくじつ)を拾ひに行かむ海の果(はて)<br /><br />この詩と俳句からは、壇一雄がポルトガルの人達の人柄の優しさを身にしみて感じ、一生の友(アミーゴ)と言わしめる日々をすごしながらも、なおも拭い去れない放浪詩人の寂しさが伝わってくる。<br />今回、サンタ・クルスに立ち寄ることはできなかったが、壇一雄がナザレに連なる海岸の白い波を見つめながら詠んだ詩と俳句に思いを馳せながら感慨に浸った。(写真は壇一雄も見つめていた大西洋、ナザレの海岸)<br /><br />

ポルトガルの旅【7】 放浪詩人、壇一雄を偲ぶ 「ナザレ」

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2004/05/18 - 2004/05/25

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さすらいおじさん

さすらいおじさんさん

「ナザレ」という街の名前はイエス・キリストが幼年以来30年間過ごしたイスラエルの街の名である。この街の名前は8世紀、西ゴート王ロドリゴがロマノという僧を供にこの街までやってきたとき、携えていたマリア像がイスラエルのナザレのものだったことに由来しているそうだ。イスラエルから持って来たマリア像の加護によるものか、ナザレの崖に面した小さな礼拝堂は、聖母マリアの奇跡が起こった場所とされている。1182年にドン・フアス・ロピーニョという城主が狩りで馬に乗って鹿を追っている間に崖から足を踏み外したが、突然聖母マリアが現れ馬が崖から落ちるのを救い、城主は九死に一生を得たという奇跡だ。城主がお礼に建てた礼拝堂が現存しているものだそうだ。
奇跡の街ナザレは古くからの漁師街でもあり、寂しさの漂う街だ。この街の雰囲気が1954年のフランス映画、「過去を持つ愛情」の舞台にしたのだろう。アマリア・ロドリゲスはこの街から漁に出たまま戻らぬ愛しい人を歌った主題歌「暗いはしけ」でファドの女王の地位を得た。
私にとっては、奇跡の街、ファドの街もおおいに魅力があるのだが、私が尊敬する、ポルトガルを愛してやまなかった放浪詩人、壇一雄(1912〜1976。女優、壇ふみの父)がいつも眺めていた大西洋の海岸線に最も思いがある。壇一雄はナザレから50Km離れたサンタ・クルスという漁師街に1年半住み、大作「火宅の人」の執筆をし、ナザレに連なる海の詩や俳句を詠んだ。

【波】
犬は波に向かって吠えるのですか?
いいえ 黙ってうなだれるのです。
かもめは沖に向かって波を蹴るのですか?
いいえ 砂のかげにむらがって、死んだ貝をついばむのです。
砂は何に向かって泣くのですか?
さあ はてなしのそらおそろしさに自分で身震いするのでしょう。
ああ、波の咆哮(ほうこう)よりほかにないなぎさでは私だって立ちすくみおののきながらその鳴っている砂を踏みしめているだけなんです。

【海で詠んだ俳句】
落日(らくじつ)を拾ひに行かむ海の果(はて)

この詩と俳句からは、壇一雄がポルトガルの人達の人柄の優しさを身にしみて感じ、一生の友(アミーゴ)と言わしめる日々をすごしながらも、なおも拭い去れない放浪詩人の寂しさが伝わってくる。
今回、サンタ・クルスに立ち寄ることはできなかったが、壇一雄がナザレに連なる海岸の白い波を見つめながら詠んだ詩と俳句に思いを馳せながら感慨に浸った。(写真は壇一雄も見つめていた大西洋、ナザレの海岸)

  • 壇一雄も見つめていた大西洋、ナザレの海岸。

    壇一雄も見つめていた大西洋、ナザレの海岸。

  • 1182年にドン・フアス・ロピーニョという城主が狩りで馬に乗って鹿を追っている間に崖から足を踏み外したが、突然聖母マリアが現れ馬が崖から落ちるのを救い、城主は九死に一生を得たという奇跡の場所。

    1182年にドン・フアス・ロピーニョという城主が狩りで馬に乗って鹿を追っている間に崖から足を踏み外したが、突然聖母マリアが現れ馬が崖から落ちるのを救い、城主は九死に一生を得たという奇跡の場所。

  • 城主がお礼に建てた聖母マリア礼拝堂。

    城主がお礼に建てた聖母マリア礼拝堂。

  • 1182年にドン・フアス・ロピーニョという城主が狩りで馬に乗って鹿を追っている間に崖から足を踏み外したが、突然聖母マリアが現れ馬が崖から落ちるのを救い、城主は九死に一生を得たという奇跡を描いた絵。

    1182年にドン・フアス・ロピーニョという城主が狩りで馬に乗って鹿を追っている間に崖から足を踏み外したが、突然聖母マリアが現れ馬が崖から落ちるのを救い、城主は九死に一生を得たという奇跡を描いた絵。

  • 礼拝堂の聖母マリア像。

    礼拝堂の聖母マリア像。

  • 礼拝堂にはお供えの花が絶えない。

    礼拝堂にはお供えの花が絶えない。

  • ナザレ名物の鰯料理。

    ナザレ名物の鰯料理。

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