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<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> その年はドイツやフランスで相次いでテロ騒ぎがあり、政治とは無関係の何人かの市民が巻き込まれ、爆弾で死傷する事件が相次いだ。<br />私たちがパリに着いたその頃も連日のように生々しい事件が報道されて、警備も厳しくなっていた。フランスに入るのにビザが必要となったのは、この時からだ。(現在、ビザは不要)<br /><br /> さて、事件があったのは、フランスより少々南、スペインはマドリッドからポルトガルのリスボンへ向う国際列車のなかで起こった。<br />国際列車といっても(現在は国境もなくなったが、当時は国境でパスポートコントロールもあった)車両は客車が二両プラス半両分の長さの軽食スタンドというごく短い編成でマドリッドを出発する。その後,途中駅で次々と車両が足され、リスボンに着くまでの間にいつの間にか長い長い編成になっているのだ。車体は少し濃いめのブルーで好きな色だ。<br />マドリッドからリスボンまでは九時間の長旅である。<br />

リスボン特急テロ事件

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1986/10 - 1986/10

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night-train298

night-train298さん















 その年はドイツやフランスで相次いでテロ騒ぎがあり、政治とは無関係の何人かの市民が巻き込まれ、爆弾で死傷する事件が相次いだ。
私たちがパリに着いたその頃も連日のように生々しい事件が報道されて、警備も厳しくなっていた。フランスに入るのにビザが必要となったのは、この時からだ。(現在、ビザは不要)

 さて、事件があったのは、フランスより少々南、スペインはマドリッドからポルトガルのリスボンへ向う国際列車のなかで起こった。
国際列車といっても(現在は国境もなくなったが、当時は国境でパスポートコントロールもあった)車両は客車が二両プラス半両分の長さの軽食スタンドというごく短い編成でマドリッドを出発する。その後,途中駅で次々と車両が足され、リスボンに着くまでの間にいつの間にか長い長い編成になっているのだ。車体は少し濃いめのブルーで好きな色だ。
マドリッドからリスボンまでは九時間の長旅である。

  • <br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />この時はるみこさんと二人で、マドリッド・アトーチャ駅近くのバルでサンドウィッチと海老サラダを(茹でた海老にマヨネーズをからめただけのものだが、海老がぷりぷりしておいしい。)買い、列車に乗り込んだ。車内に入ってから出発までに二十分ほどある。私たちは意外にも旅行中は勤勉で(?)こんな時でもいつも忙しく、ボーッとっする間がない。食事は後回しに早速仕事にとりかかる。<br />まずはお金の清算から。どうしても、お互い貸し借りができてしまい、電卓を片手に計算が始まる。これを時間ができたときにすぐやらないと忘れてしまう。その他、メモ程度に簡単な日記もつける。 あとは時刻表をチェックしたり、次に行く国の言葉を覚えたりと、いつも忙しく退屈したことなどなかった。<br /> 話を戻そう。そう、その日も買ってきた海老サラダとサンドウィッチの食事はおあずけにして、清算にはいった。二人して、下を向きっぱなしで黙々と手を動かす。するとそこに二十才くらいの地元風青年がひとり身軽(荷物も持たず)に乗り込んできて、るみこさんの使っていた電卓を借りたいと言う。るみこさんがそれを渡すと、男はいったん列車から降り、そしてまたすぐに乗り込んで電卓を返しにきた。ただそれだけのことであるが、それが後でこの男は怪しい存在となる。<br />さて、その時はそんなことなど気にとめず、ひたすら計算を続けていると十分位してからだろうか、(まだ列車は動きだしていない)近くに座っていたおばさんが、私たちに向って <br />「 その荷物はあなた達の物ですか?」<br />と、聞いてきた。指さす方向を見れば、私たちの一つ前の座席に(座席は左右に二席づつ、同じ方向を向いて並んでいる)いつの間にか少々くたびれた黒い革の鞄が二つ置いてある。<br />私たちはさっきの男が電卓を借りにきた時に一瞬顔を上げた以外は、下を向きっぱなしだったが、その席に人が来た気配はなかった。また、最初に列車に乗り込んだ時は何も置いていなかったという記憶は確かだった 。<br />何故おばさんは、この鞄に疑問を持ち私たちに尋ねてきたのか不思議だ。 そしてあの電卓を借りに来た男の目的は何だったのだろうか?<br /><br /> 私とるみこさんは同時に同じことを感じ、察していた。<br />この、私たちの今目の前にある物体は・・・ <br />『テロリストによる爆弾なのではないだろうか・・・?!?!?!?!』 <br /><br />












    この時はるみこさんと二人で、マドリッド・アトーチャ駅近くのバルでサンドウィッチと海老サラダを(茹でた海老にマヨネーズをからめただけのものだが、海老がぷりぷりしておいしい。)買い、列車に乗り込んだ。車内に入ってから出発までに二十分ほどある。私たちは意外にも旅行中は勤勉で(?)こんな時でもいつも忙しく、ボーッとっする間がない。食事は後回しに早速仕事にとりかかる。
    まずはお金の清算から。どうしても、お互い貸し借りができてしまい、電卓を片手に計算が始まる。これを時間ができたときにすぐやらないと忘れてしまう。その他、メモ程度に簡単な日記もつける。 あとは時刻表をチェックしたり、次に行く国の言葉を覚えたりと、いつも忙しく退屈したことなどなかった。
     話を戻そう。そう、その日も買ってきた海老サラダとサンドウィッチの食事はおあずけにして、清算にはいった。二人して、下を向きっぱなしで黙々と手を動かす。するとそこに二十才くらいの地元風青年がひとり身軽(荷物も持たず)に乗り込んできて、るみこさんの使っていた電卓を借りたいと言う。るみこさんがそれを渡すと、男はいったん列車から降り、そしてまたすぐに乗り込んで電卓を返しにきた。ただそれだけのことであるが、それが後でこの男は怪しい存在となる。
    さて、その時はそんなことなど気にとめず、ひたすら計算を続けていると十分位してからだろうか、(まだ列車は動きだしていない)近くに座っていたおばさんが、私たちに向って
    「 その荷物はあなた達の物ですか?」
    と、聞いてきた。指さす方向を見れば、私たちの一つ前の座席に(座席は左右に二席づつ、同じ方向を向いて並んでいる)いつの間にか少々くたびれた黒い革の鞄が二つ置いてある。
    私たちはさっきの男が電卓を借りにきた時に一瞬顔を上げた以外は、下を向きっぱなしだったが、その席に人が来た気配はなかった。また、最初に列車に乗り込んだ時は何も置いていなかったという記憶は確かだった 。
    何故おばさんは、この鞄に疑問を持ち私たちに尋ねてきたのか不思議だ。 そしてあの電卓を借りに来た男の目的は何だったのだろうか?

     私とるみこさんは同時に同じことを感じ、察していた。
    この、私たちの今目の前にある物体は・・・
    『テロリストによる爆弾なのではないだろうか・・・?!?!?!?!』

  • <br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />いや、そんな風には思いたくない。 私たちはパリでのテロが恐くて、ここまで逃げて(?)きたというのに、こんなところまでテロリストがやって来るとは・・・。<br />確かにパリからマドリッドもリスボンも遠くはない。列車でも直通で行ける便があるわけだし・・・。 <br />私たちは良い方向に考えるよう、頭を切り替えた。この荷物は私たちが目を離した一瞬の隙に、どこかのおじさんが来て、今はジュースでも買いに行ったに違いない。もしかしたらトイレかもしれない。私たちはトイレの方角や食堂車の車両に目を向け、緊張した面 持ちで監視していた。  <br />いよいよ列車も動きはじめ、もはや計算などしている場合ではなくなり、ましてや食事などノドに通 らないから、ひたすら鞄の主が現れるのを待った。  <br />この目の前の物体が爆発物であった場合、どうなるかをどちらからともなく話し合った。その場合、まず私たちは即死だろう。もう一つのの車両に移ったところで似たり寄ったりだ。 それでもせめて一番後ろの席に替わろうか。立っている人こそいないが、すでに座席はほぼ埋まっている。私たちの場所はない。 こんなに悩むなら、いっそ降りてしまおうか。しかし、マドリッド-リスボン間の便は、この昼の便と夜行の一日二便だけ、ここで降りたら大きなロスになる。もう少し様子を見よう。<br />・・・・・でも、命には代えられない。  <br />しかしなんという不運なのだ。よりによってこんなものが目の前にあるなんて。そして私たちは乾いた、オリーブしか育たないスペインの内陸で散りゆく運命であったとは・・・。<br />二人は血の気も引いて真っ青になっていた。<br /><br /> 












    いや、そんな風には思いたくない。 私たちはパリでのテロが恐くて、ここまで逃げて(?)きたというのに、こんなところまでテロリストがやって来るとは・・・。
    確かにパリからマドリッドもリスボンも遠くはない。列車でも直通で行ける便があるわけだし・・・。
    私たちは良い方向に考えるよう、頭を切り替えた。この荷物は私たちが目を離した一瞬の隙に、どこかのおじさんが来て、今はジュースでも買いに行ったに違いない。もしかしたらトイレかもしれない。私たちはトイレの方角や食堂車の車両に目を向け、緊張した面 持ちで監視していた。  
    いよいよ列車も動きはじめ、もはや計算などしている場合ではなくなり、ましてや食事などノドに通 らないから、ひたすら鞄の主が現れるのを待った。  
    この目の前の物体が爆発物であった場合、どうなるかをどちらからともなく話し合った。その場合、まず私たちは即死だろう。もう一つのの車両に移ったところで似たり寄ったりだ。 それでもせめて一番後ろの席に替わろうか。立っている人こそいないが、すでに座席はほぼ埋まっている。私たちの場所はない。 こんなに悩むなら、いっそ降りてしまおうか。しかし、マドリッド-リスボン間の便は、この昼の便と夜行の一日二便だけ、ここで降りたら大きなロスになる。もう少し様子を見よう。
    ・・・・・でも、命には代えられない。  
    しかしなんという不運なのだ。よりによってこんなものが目の前にあるなんて。そして私たちは乾いた、オリーブしか育たないスペインの内陸で散りゆく運命であったとは・・・。
    二人は血の気も引いて真っ青になっていた。

     

  • <br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />まもなく、後方から車掌さんがやって来た。これはチャンス!車掌さんに話してしかるべき処置をとってもらおうと、順番が来るのを胸をドキドキさせながら待っていた。私たちの席は前から二番目(つまり不審な荷物は一番前)だったので、順番がなかなか来ない。ようやくすぐ後ろまできたので、声を掛けるが、運悪く(神の悪戯か)最後尾に近い女性に声を掛けられ、再び後ろまで戻ってしまった。 どうしよう・・・時間がないのだ。一刻も早く車掌さんに言わなければならないというのに・・・。 <br />もしかしたら、あの女はテロリストの一味かもしれない。<br />思えば、あの電卓の男も怪しい。<br /><br />そして再び待った末、ようやく車掌さんが私たちのところへ検札に来た。 私たちは今までのいきさつを順序よく話して、いかにこの鞄が不審なものであるかを訴えたかったが、そこまでのスペイン語は私には難解すぎる。それで鞄を指さし 「テロだ!爆弾だ!」 と、ストレートに訴えた。<br />ところがこの車掌さん、こっちの必死の訴えも聞き入れず、とても冷静な態度で『エス ミーヨ』 とかなんとか言って涼しい顔をして、取りあってくれないので、私たちはますます熱くなって、『テロだ!爆発するんだ!』 と騒いでいると、さっき鞄に関して私たちに尋ねてきたおばさんが助け船を出してくれて、私たちの言いたい事を(スペイン人は勘がいい!)流ちょうなスペイン語で代弁してくれた。<br />応援を得て、勢いが増した私たちは立ち上がってますます興奮してきた。車掌さんは呆れた表情でまた『エスト エス ミーヨ』なんて呑気なことを言って、そして、 <br /><br />《とうとうその荷物に手を伸ばした!》<br /><br />私たちは『これで助かった!』と神に感謝しつつ、車掌さんの行動を固唾をのんで注目していた。<br />すると車掌さん、その席に座り込み、鞄をを開ける。中には切符のようなものがごっそり入っている。なんと車掌さんはそこで仕事を始めたのだ。<br />先程車掌さんが呟いていた言葉は、英語で言えば、This is mine.・・・つまり車掌さんの業務用小物が一式入った鞄だったのだ。<br />二つあるうちの一つしか見せてくれないので、後ろから立ち上がって、まだ疑惑の目付きで睨みつける私たちの期待に応えて、もう一つの方も大きく開けて、よーく見せてくれた。  <br />この騒ぎを見守っていた後方の人達から笑いの声がざわざわと伝わってきた。ちょっと恥ずかしい思いはしたが、これでやっと安心して眠ることも食べることもできる。列車から降りずにいて本当に良かった。 それにしても人騒がせな車掌さんだ。<br /><br /> やっぱり、私たちが一番人騒がせだったと素直に認めるべきだろう。 <br /> その車掌さんはポルトガルの国境で、今日の仕事を終え、下車していった。<br />














    まもなく、後方から車掌さんがやって来た。これはチャンス!車掌さんに話してしかるべき処置をとってもらおうと、順番が来るのを胸をドキドキさせながら待っていた。私たちの席は前から二番目(つまり不審な荷物は一番前)だったので、順番がなかなか来ない。ようやくすぐ後ろまできたので、声を掛けるが、運悪く(神の悪戯か)最後尾に近い女性に声を掛けられ、再び後ろまで戻ってしまった。 どうしよう・・・時間がないのだ。一刻も早く車掌さんに言わなければならないというのに・・・。
    もしかしたら、あの女はテロリストの一味かもしれない。
    思えば、あの電卓の男も怪しい。

    そして再び待った末、ようやく車掌さんが私たちのところへ検札に来た。 私たちは今までのいきさつを順序よく話して、いかにこの鞄が不審なものであるかを訴えたかったが、そこまでのスペイン語は私には難解すぎる。それで鞄を指さし 「テロだ!爆弾だ!」 と、ストレートに訴えた。
    ところがこの車掌さん、こっちの必死の訴えも聞き入れず、とても冷静な態度で『エス ミーヨ』 とかなんとか言って涼しい顔をして、取りあってくれないので、私たちはますます熱くなって、『テロだ!爆発するんだ!』 と騒いでいると、さっき鞄に関して私たちに尋ねてきたおばさんが助け船を出してくれて、私たちの言いたい事を(スペイン人は勘がいい!)流ちょうなスペイン語で代弁してくれた。
    応援を得て、勢いが増した私たちは立ち上がってますます興奮してきた。車掌さんは呆れた表情でまた『エスト エス ミーヨ』なんて呑気なことを言って、そして、

    《とうとうその荷物に手を伸ばした!》

    私たちは『これで助かった!』と神に感謝しつつ、車掌さんの行動を固唾をのんで注目していた。
    すると車掌さん、その席に座り込み、鞄をを開ける。中には切符のようなものがごっそり入っている。なんと車掌さんはそこで仕事を始めたのだ。
    先程車掌さんが呟いていた言葉は、英語で言えば、This is mine.・・・つまり車掌さんの業務用小物が一式入った鞄だったのだ。
    二つあるうちの一つしか見せてくれないので、後ろから立ち上がって、まだ疑惑の目付きで睨みつける私たちの期待に応えて、もう一つの方も大きく開けて、よーく見せてくれた。  
    この騒ぎを見守っていた後方の人達から笑いの声がざわざわと伝わってきた。ちょっと恥ずかしい思いはしたが、これでやっと安心して眠ることも食べることもできる。列車から降りずにいて本当に良かった。 それにしても人騒がせな車掌さんだ。

     やっぱり、私たちが一番人騒がせだったと素直に認めるべきだろう。
     その車掌さんはポルトガルの国境で、今日の仕事を終え、下車していった。

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