それゆけ！日本語教師 from ペトロパヴロフスク・カムチャツキー　Vol.6

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◆日本の歌は大好評◆

　カムチャッカのエネルギー危機は、まだ先が見えません。今は夏で、夜12時まで明るいので、多少の停電があっても何とかなっていますが、「今年の冬がヤマ場だ」と言われています。こんな状態の中で、私はまた来年度も働く契約をしてしまいました。冬のことを考えると気が重いのですが、これも貴重な経験だと思い、ここに居続けることにしました。

　今回は気分を変えて、歌の話を。去年の秋から授業に歌を取り入れました。相手はもう大学生なので、授業中に歌うなんて恥ずかしがるのではと心配していましたが、かなり好評で、上手な人もそうでない人も大きい声で楽しそうに歌ってくれます。

　意外な才能を発揮する人もいます、2年生のオリガさんは自他ともに認める超なまけ者で、日本語も進級さえ危ぶまれる状態だったのですが、歌に関してはみんなが一目置く存在です。1回聞いたたけでメロディーラインを把握し、2、3回目にはもう一緒に歌い出し、授業が終わった後には廊下で日本語でかなり正確に歌っています。まるで楽譜が読めない天才歌手のようです。こんな人を発見すると歌をやってよかったと思います。

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　新しい歌を紹介するときは、たいてい何らかの課題を出します。例えばひらがなで書いた歌詞を2小節ずつバラバラに切り取って、それを袋に入れて一人ずつに渡します。小さい歌詞の紙切れが、一曲で大体30枚ぐらいになります。そして私が歌のテープを流します。学生はそれを聞いて、バラバラのカードを歌の順番どおりに並べなければなりません。ひらがなが読めることは必須条件としても、歌の中での日本語の発音はなかなか聞き取りにくいようです。

この方法は日本でロシア語を教えている先生のアイデアをお借りしましたが、カムチャッカの学生には大ヒットでした。ゲーム感覚で熱中しています。とにかく手当たりしだいに並べる人、自分が間違えても「歌手の発音がはっきりしないせいだ」と逆に憤慨する人など、いろいろでしたが、中には行ごと文字数の規則性を見出したり、韻をふんでいることに気づく鋭い人もいました。

　今まで歌った歌は「海はひろいな」「たき火」「ひなまつり」、坂本九の「上を向いて歩こう」「涙くんさよなら」、石川さゆりの「津軽海峡冬景色」、鳥羽一郎の「兄弟船」、加藤登紀子の「百万本のバラ」などです。「いい日旅立ち」は山口百恵と谷村新司の聞き比べもしました。選曲は、なるべく広い世代の日本人が知っている歌をと、心がけたのですが、何だか片寄っているかもしれません。学生からも「どうして日本の歌は必ず“海”と“涙”と“さようなら”があるのですか」「にぎやかで踊れる音楽も聞きたい」との声があるので来年は最新ヒット曲にも挑戦です。

　今までで一番好評だったのは、「百万本のバラ」です。これはロシアの名曲のカバーなので別格でした。「津軽海峡冬景色」もとても人気がありました。前奏や間奏を含めてメロディがどうにもこうにもロシア人の魂を揺さぶるようです。石川さゆりさんの声も艶やかで、「彼女こそ日本のアーラ・プガチョワだ」と上々の評判です。坂本九さんは評判が二つに分かれました。「上手い、さすが日本を代表する歌手」「何より発音が聞き取りやすい」「伴奏も50年代のジャズのようでかっこいい」という肯定派、「とにかくあのビブラートがかかった声がいやだ」「彼の歌の歌詞はみんな女々しい。もっと男らしくしてはどうか」という否定派です。ちなみに前述のオリガさんは坂本九が一番お気に入りで、「私には彼の良さが分かる」と言っていました。

　新しい歌を紹介すると、「ロシアの何々に似ている」という分類を試みる傾向があるようです。中には「“兄弟船”はグルジア民謡を思わせる」という声もありました。

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　いつもはカセットテープで歌を聞きますが、一度歌番組のビデオを見たこともあります。日本の歌番組はみんな歌詞のテロップが流れるので、日本語学習中の人には勉強にもなると好評でした。ロシアの歌番組にはこのようなテロップはありません。でも学生に

「どうして“Uh?”とか“ああ?”とか“ララララ?”とかの言葉までわざわざテロップにしているんですか」
「“ラララ”と“LaLaLa”の違いは何か」

と聞かれ、困りました。ともかく目と耳の両方で味わう日本の歌の世界はとても興味深いようです。見終わったあと「着物がきれい」「男性アイドルの踊りがロシアと同じ」などいろいろな感想がありましたが、「歌うときの日本人の感情表現は豊か。ロシア人顔負けです」という感想には私もハッとしました。確かに、日本人自身も案外気づいていない一面なのかもしれません。

（JICインフォメーション　第99号　より転載）