2020 ダナンからサイゴンへ　南部海岸５泊６日の旅②―クイニョンへ移動　郊外のチャンパ遺跡へ

2020/02/01 - 2020/02/02

深夜３時に起き、支度をした。

今日はクイニョンへ向かう。昨日、バスターミナルまで
時間を確認に行ったものの、タイムスケジュールのよう
なものはなく、クイニョン行きのバスの連中も英語がさ
っぱりだったので、早朝に行けばバスはあるだろうと思
いとりあえず行ってみることにした。

４時に下へ降り、爆睡中のフロントの若者を起こしてチ
ェックアウト手続きをした。ついでにタクシーを呼んで
もらった。

数分でやって来たタクシーに乗りバスターミナルへ。
タクシーの運ちゃんは「バスでどこへ行くの？」みたい
なことを聞いて来るので「クイニョン」と答えたが、
これが全く通じない。ベトナムではよくあることだが、
何度言ってもこの簡単な地名が通じないのである。運ち
ゃんが「ウイニョンか？」みたいなことを言ったのでや
っと「そうそう！」と通じた。

クイニョンの綴りはＱｕｙ　Ｎｈｏｎだが、「Ｑ」は
「Ｋ」と違って、ほとんど音に出ず、「ウイニョン」と
聞こえた。中部だけの訛りだろうか。

バスターミナルに着き、昨日クイニョン行きのバスが停
まっていたところに行くと、１台のミニバスが停まって
いた。タクシーの運ちゃんのように「ウイニョン？」と
尋ねると「違う違う」と手を振り、「あっち」と切符売
り場前を指さした。そこに１台のミニバスが停まってい
た。十数人も乗れば満員になる車で、タイではロットゥ
ーという乗り合いバスに使うような車輛だ。

ドアのところにいた若い男と目が合うと「クイニョンか？」
と聞くのでうなづくと、「乗れよ」と中を指さした。暗
い車内には既に２～３人の男が息をひそめるように乗っ
ていた。

車は午前４時40分に発車した。真っ暗なダナンの街中を
一気にすっ飛ばし、郊外に出ると恐ろしいスピードで走
り続けた。そして、時折止まっては人や荷物を積み込んだ。

輸送網が貧弱で、個人の宅配輸送のようなサービスがな
いベトナムでは、昔から街と街を結ぶバスが個人用の小
さな荷物を運んでいる。今ではスマホで連絡を取り合う
ので、場所を運転手に伝えれば、受取人がそこで待って
いるということになっている。一見便利だけれど、いつ
までもこんな幼稚なことはやっていられないだろう。

それにしてもこの運転手はめちゃくちゃ飛ばす。右車線
に出て追い越しをかけている車を右の路肩から追い抜く
というえらく荒っぽい運転をする。追い抜いたはいいが、
その前を行く車が遅すぎて、危うくオカマを掘るところ
だった。頼むから事故だけは起こすなよな。

エリア その他の都市(ベトナム)

• 旅行の満足度: 5.0
• 観光: 5.0
• ホテル: 4.5
• グルメ: 3.0

• 同行者: 一人旅
• 一人あたり費用: 5万円 - 10万円
• 交通手段: タクシー 徒歩
• 航空会社: ベトナム航空
• 旅行の手配内容: 個別手配

ガイドブックに書かれていた通り、６時間かけて
バスはクイニョンのバスターミナルに着いた。

運賃は20万ドン（約千円）。ダナンの切符売り場
にはクイニョンまで13.5万ドンとあったが、車掌
役のガキめ、釣銭をごまかしやがったか。

これが乗って来たバス会社、キム・リエン。ベトナ
ム独立運動の英雄、ホーチミンが生まれた村の名前
を付けている。本体は旅行会社である。

バスターミナルの外にいたタクシーを捕まえ、ラベン
ダーホテルの住所を書いた紙を見せた。Booking.com
で見つけた安いホテルだ。車はすぐにビーチ沿いの道
路に出て、路地に入ったが、運転手は「このあたりな
んだけどなあ？」というだけで、結局たどり着けなか
った。とぼけた男だ。

仕方がないので、自分で歩いて探そうと思ったが、す
ぐに面倒くさくなり、目に着いたNEWDAY HOTELに
入った。ビーチ沿いでもオーシャンビューでもないか
ら安いだろう。

フロントには若い男女がいたので、パスポートを出し
て泊まりたいと告げるが、英語がなかなか通じず難渋
したが、女の子のカタコト英語で何とか手続きができた。

１泊20万ドン（約千円）。安いものだ。

荷物を置いて、再びフロントに下り、バイクタクシー
を呼んでもらった。しかし、数分後やって来たのはタク
シーだった。「バイクじゃないの？」と尋ねると、男は
スマホに何かを打ち込んだのをぼくに見せた。そこには
「It's over.（終わりました）」と表示されていた。バイ
タクは廃止になったということか？　しかし、バスター
ミナルにはたむろしていたようだが。

タクシーだと高くつきそうで気が進まないが、ないのな
ら仕方ない。運転手に「Phu Loc(金塔)、Banh It(銀塔)、
Duong Long(象牙塔)」と遺跡の名前を書き連ねた紙を
見せてここへ行きたいと伝えた。

運転手はフロントの若者と「これはあれのことか？」み
たいな話をしている。ぼくが「全部回ったらいくらにな
る？」と尋ねたら、自分では判断できないらしく、会社
に電話をし始めた。短い電話が終わり、運転手はぼくに
「150万ドン」と告げた。

7500円か。まああの距離ならそれくらいになるかな。

ダナンで３万円しか両替しておらず、ここで150万ドン
も使ってしまうと、ホテル代払って、ニャチャンへのバ
ス代（いくらかかるかわからない）を払って、いろいろ
やって・・・と頭の中で計算すると、手持ちのドンが尽
きてしまうかもしれない。今日は日曜日で、銀行は休み、
クレジットカードのＡＴＭは怖くて使えない。吸い込ま
れたまま出て来なかったらどうする？　実際ベトナムで
はよくあるらしい。

ドンブリ勘定気味に計算してもきついことが分かったの
で、「じゃあ一番近くの銀塔だけでいくら？」と尋ねる
と、「50万」というので、銀塔だけに行くことにした。

ミーソンに続き、これで２度目の計画倒れである。

車に乗って10数分、丘の上に赤いレンガで造られた３つ
の建物が見えてきた。実際にはもう一つ建物があるのだが、
こちらからは見えなかった。

狭い道路を走り、駐車場に車は停まった。

遺跡への坂道の途中はベトナム人の墓があった。完全な
中国様式だ。これはその中でもかなり立派な墓だ。

すぐ近くから仏教寺院の読経がスピーカーから聞こえて
きた。

20年前に来た時は、ラテライトのさらさらの土にハンド
ルを取られそうになるバイクの後ろに乗り、獣道すらな
いところを雑草をかき分けて上った。しかし、今は楼門
まで立派な階段が付いている。

楼門の向こうに主祠堂が見えてきた。

20年前は修復途中で、いかにも「作りたて」の感が強か
ったが、20年の風雪（雪は降らないけど）で、屋根には
雑草が生え、ほどよく遺跡感が出ている。

楼門内部の天井。

レンガを積み上げる際に少しずつずらしててっぺんを狭
くしている。建築用語で迫り出し工法という。

基壇部分は往時のままのようだ。

銀塔（Banh　It＝パインイット）の朱祠堂。朝日が昇
る東に向いて建てられている。

三重に作られた屋根の４隅に尖塔があるのは、チャンパ
建築独特のデザインだ。尖塔のほとんどは2000年代に
修復されたものである。

主祠堂の裏側。２つの面の出っ張りは偽扉と呼ばれる
技法で、これもチャンパ建築独特のものである。

偽扉の上部には砂岩で装飾が施されていたようだが、
崩壊していて今では当時の様相を想像するのが難しい。

偽扉の下の部分は2000年代になって修復されたもので
ある。

主祠堂の内部にはヴィシュヌ神が安置されていた。

花が手向けられており、参拝する人がいるようだ。

どうやら厚い岩盤を彫って作られたようだ。

表情はやはり南アジア系を思わせる。

主祠堂の隣にあるのが宝物庫である。チャンパ建築の
傑作と呼ばれている。

ミーソン遺跡にも残る宝物庫も同じ形で、矩形の身舎
に舟形の屋根が取り付けられており、身舎には装飾が
施されている。

祭祀用の道具を保管していたらしい。

屋根の前面にはやはり砂岩による装飾が施されている。

描かれているのは翼を広げたガルーダである。

壁の紋様は当時のままのようだ。

主祠堂から少し離れた斜面に碑文庫がある。

文書を保管していた建物なので、特に装飾などは施され
ていなかった。

屋根の部分に小さな尖塔のようなものがいくつもあり、
チャンパ建築のなかでも、独特の形をしている。

銀塔の4つの建物が建てられたのは12世紀ごろとされて
いる。日本では平安町末期に当たる。

すでに王国は衰亡期に入っており、3百年後の黎朝の戦
争では、この周辺が戦場となり、数万人ともいわれるチ
ャム族が虐殺され、王と王妃、王族それに宮廷の踊り子
たちが連れ去られた。

この戦争で壊滅的な被害を受けたチャンパは以降、国が
分裂し、ベトナム各王朝の属国扱いとなっていく。

銀塔の見学を終えて、駐車場に下りると、結婚式の記念
写真を撮りにカップルが階段を上るところだった。

真っ白なウェディングドレスを引きずりながら、女の子
は階段を上って行った。

20年前は訪れる人などいなかったこの遺跡も、建物が修
復され、道路など周辺環境が整備されると、こうして訪
れる人が多くなったようだ。

車に乗り、クイニョンへの帰り道、「タップドイという
のがあるが行くか？」と運転手が言ってきた。

「じゃあ頼む」というと「モアマネー」という。帰り道
に寄るんだからいいじゃねえかと思ったが、10万ドン上
積みした。ちゃっかりした男だな。

タップドイ（別名フンタン）は、クイニョンの街外れに
ある。

20年前に来た時は、住宅がすぐそばまで迫っていて、全
体写真を撮ることができなかったが、今は整備され、公
園になっていた。

2つの塔があるが、実際には左側にもう一つ塔があった
という。

三塔形式はこの建物がクメールの様式を受け入れていた
ことを表している。

建てられたのは12世紀末ごろとされている。アンコール
ワットが建造されたのとほぼ同時期である。

偽扉は4層になっており、砂岩の装飾が施されている。

タップドイの特徴は頭でっかちになっている屋蓋である。

頂部に行くにしたがって小さくなっている7層の構成は
チャンパの建築物でもここにしか見られないものである。

屋蓋の一番下にの4隅には天女らしきものの首から下だ
けが残っている。

おそらく全体像はこのようなものだったのだろう。

これはダナンのチャム彫刻博物館の展示品。

真ん中の塔にはリンガ（男性器）とヨニ（女性器）が
据えられている。

男性器と女性器の結合、つまり性交がチャンパの信仰
の本質である。おそらく、生命の誕生あるいは豊穣を
象徴しているのではないかと思う。

基壇部分には細かな彫刻が施されていた。

龍のような顔をしたものが何か手に持っているように
見える。

小さい塔の方には花が手向けられ、線香があった。

天井は抜けていた。光を採り入れるためだろうか。

銀塔とタップドイしか見られず、予定の半分もこなせ
なかった。自分の見込みの甘さが情けない。

タクシーに乗り、ホテルまで戻ってもらった。

ホテルに戻り、すぐにまた外に出た。

海まで歩いて行くと、浜辺は20年前からは考えられな
いような変貌ぶりだった。

20年前、クイニョンはひどく貧しい漁村だった。大量
の漁船が浜辺を占拠し、その辺に落ちているような板
やトタンを貼り合わせたようなボロ家が並んでいた。

こんなところに生まれてしまったら、死ぬまで魚を取
り続ける生活なんだろうなと哀れな気分になった。

朝、浜辺を歩くとしゃがんでいる人たちがいた。近づ
くとうんこをしているのがわかった。家にトイレがな
いから浜辺で用を足しているのである。満潮になれば
海水がうんこを持って行ってくれるのだろう。それを
魚たちがついばみ、そしてその魚を獲って、それを食
べる。単純な循環システムが成立していたのかもしれ
ない。

しかし、その漁船群もうんこをしている老婆もいなくな
っていた。みんなどこへ行ってしまったんだろう。

そして、クイニョンのビーチはベトナム人の保養地とな
っていた。

これが20年前のクイニョンの浜辺。

漁を終え、獲って来た魚に仲買のおばちゃんたちが群がっ
ている。

漁船に乗るために竹かごの丸い船が使われていた。

この子たちはもう立派に大人になって、どこかで働い
ているんだろう。

ビーチ沿いにはベトナム特有のかまぼこ板のようなミニ
ホテル群が林立していた。

ミニホテルは街のいたるところに建っており、この街は
貧しい漁業の街から、観光に生きる街に生まれ変わった
ことを主張しているかのようだ。

20年前はろくなホテルがなく、バイタクに連れていかれ
たホテルは連れ込み宿で、フロントの女の子が間違って
開けた部屋では若い男女が一戦交えているところだった。
鍵かけてヤれよ。

ベッドはベトナム人の身長に合わせたのか、160センチ
のぼくが寝ころぶと足首が外に出てしまった。

おそらくこれらのミニホテルはそんなことはないのだろう。
しかし、これは建てすぎのような気がする。

ビーチから階段を上がったところには屋台が並んでいた。

安いタイガービールとソーセージ2本を頼んだ。今日初めて
の食事である。

プラスチックというよりビニールでできたコップという感じ
で、つかむとぐにゃぐゃになった。中には氷が入っていた。
全部で5万ドン。

海に入るには水温が少し冷たいような気がするが、ベトナム
人たちは楽しそうだ。

20年前も、貧しいながらも全体の雰囲気が素朴な感じで
ベトナムの街の中では好きな街にだった。

観光化されているが、人もそんなにいなくて、いい街だ
と思う。

ロシア人とベトナム人が肩を組むモニュメント。

昔はなかったような気がする。

歩いて来た道を再び戻り、バスターミナルへ行った。

ニャチャン行きのバスの時間を確認するためだったが、
ここもやはり時刻表のようなものはなかった。

ニャチャン行きなら頻繁に出ているだろうから、朝来れ
ばなんとかなるだろう。

夜になったので晩めしを食べに外へ出た。

近くの食堂ですませた。ちなみに「C'OM」とはめしのこと
である。

ごはんの上におかずを乗せる、東南アジアスタイル。

まあ普通。食い物に大したものがないのは20年前と変わら
ない。

テレビのニュースでは新型コロナウィルスのことを報じていた。

この時は、ベトナムでの感染者は中国人の親子2人だけだった。

ちなみにベトナムでは「コロナー」とよんでいた。「アムラー」
と同じイントネーション。

うわっ、李毓芬だ！

めっちゃ好きな顔。田中みな実より好き。

やめてーっ！

マサラドラマのチャンネルもあった。需要があるのだろうか。

大家族に嫁いできたヨメがイビられるどこでもありそうなド
ラマだった。

遺跡見物は予定の半分もできなかったが、20年前から大
きく変貌したクイニョンの街に、少し感動した1日だった。

外国人専用のツーリストバスが停まらないから、外国人が
ほとんどいないのがいい。以前より少しだけ豊かになって、
昔の良さが失われていないいい街だった。食い物はロクな
ものがないが。