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3月8日、金曜。<br /><br />ハノイには前夜遅くに入った。<br />朝飯を食ってすぐ、市の西部にあるミーディン・バスターミナルまでタクシー。ここからサパ行きのバスが出ている。<br /><br />昨年の春、昆明からハノイまでの旅で、国境に近いサパに滞在した。<br />あの町に、もう一回行ってみようと思う。<br /><br />とにもかくにも、あの棚田はすごかった。<br /><br />そのあとのことは…行ってから考えよう。<br />とりあえず、11日までにハノイに戻ってくれば、成田へのヒコーキには乗れるのだ。<br />

サパからディエンビエンフーへ・天空の街道をゆく

35いいね!

2019/03/08 - 2019/03/10

5位(同エリア33件中)

鯨の味噌汁

鯨の味噌汁さん

3月8日、金曜。

ハノイには前夜遅くに入った。
朝飯を食ってすぐ、市の西部にあるミーディン・バスターミナルまでタクシー。ここからサパ行きのバスが出ている。

昨年の春、昆明からハノイまでの旅で、国境に近いサパに滞在した。
あの町に、もう一回行ってみようと思う。

とにもかくにも、あの棚田はすごかった。

そのあとのことは…行ってから考えよう。
とりあえず、11日までにハノイに戻ってくれば、成田へのヒコーキには乗れるのだ。

  • チケットを買ってバスに乗り込もうとすると、若いベトナム人カップルに声をかけられた。<br />男の方が日本語をあやつる。日本に留学してて、3月卒業したばかりだという。<br /><br />「埼玉に住んでました」<br /><br />ワシも埼玉よ。(普段は「東京から来ました」ゆうてるけどな!)<br /><br />「武蔵浦和です」<br /><br />おんなじ駅だぞ。この世間の狭さっていったい。<br /><br />「彼女はパリに留学してました」<br /><br />彼女は色白細身のベトナム美人。ちょっと上を向いた鼻が可愛らしい。<br /><br />なるほどー。地球儀をくるって回すくらいの遠距離恋愛だったのネ。サパで、久しぶりにお泊りデートかぁ。<br />今夜、頑張っちゃうんだろうなぁ。(→オヤジな感想)<br /><br />だがしかし。<br />6時間かけてサパにたどり着くと、天からしたたり落ちるような霧雨の世界だった。気温9度。<br />しまった。サパは標高1600メートルだった。(気付くの遅いぞ)<br /><br />重くじっとりした、コンデンスミルクみたいな霧だ。<br />田んぼどころか、通りの向こうも見えんぞい。観光どころではない。

    チケットを買ってバスに乗り込もうとすると、若いベトナム人カップルに声をかけられた。
    男の方が日本語をあやつる。日本に留学してて、3月卒業したばかりだという。

    「埼玉に住んでました」

    ワシも埼玉よ。(普段は「東京から来ました」ゆうてるけどな!)

    「武蔵浦和です」

    おんなじ駅だぞ。この世間の狭さっていったい。

    「彼女はパリに留学してました」

    彼女は色白細身のベトナム美人。ちょっと上を向いた鼻が可愛らしい。

    なるほどー。地球儀をくるって回すくらいの遠距離恋愛だったのネ。サパで、久しぶりにお泊りデートかぁ。
    今夜、頑張っちゃうんだろうなぁ。(→オヤジな感想)

    だがしかし。
    6時間かけてサパにたどり着くと、天からしたたり落ちるような霧雨の世界だった。気温9度。
    しまった。サパは標高1600メートルだった。(気付くの遅いぞ)

    重くじっとりした、コンデンスミルクみたいな霧だ。
    田んぼどころか、通りの向こうも見えんぞい。観光どころではない。

  • ふたりと別れ、ホテルへ向かう。<br />去年は町中のホテルに飛び込んで、窓のない部屋をあてがわれたんで、今回は町外れに「全室マウンテンビューのホテル」を予約していた。<br />坂道を上り下りしてたどり着くと、霧の中、じっとり濡れた洋館がポツンと建っていた。<br /><br />フロントにはベトナムの団体さんが到着したところだった。<br />宿泊客はワシだけじゃじゃないようだ。<br /><br />案内された部屋は最上階のマウンテンビューだけど、窓からはトーゼンながら、霧しか見えない。まぁ霧はホテルのせいじゃねいけどね。<br /><br />がっかりしつつシャワーを浴び、一階のレストランで食事を取ろうとしたら、<br /><br />「オーダーしてから40分いただきます」<br /><br />どうやら、近所の食堂からデリバリしてるらしい。<br />

    ふたりと別れ、ホテルへ向かう。
    去年は町中のホテルに飛び込んで、窓のない部屋をあてがわれたんで、今回は町外れに「全室マウンテンビューのホテル」を予約していた。
    坂道を上り下りしてたどり着くと、霧の中、じっとり濡れた洋館がポツンと建っていた。

    フロントにはベトナムの団体さんが到着したところだった。
    宿泊客はワシだけじゃじゃないようだ。

    案内された部屋は最上階のマウンテンビューだけど、窓からはトーゼンながら、霧しか見えない。まぁ霧はホテルのせいじゃねいけどね。

    がっかりしつつシャワーを浴び、一階のレストランで食事を取ろうとしたら、

    「オーダーしてから40分いただきます」

    どうやら、近所の食堂からデリバリしてるらしい。

  • 諦めて、町への坂道を登っていく。坂道の途中で、籠に押し込まれた黒豚が、かなしげに鳴いていた。<br /><br />ぶひょ、ぶひょ、ぶひょひょひょひょーーーーー。<br /><br />霧の中に悲鳴がコダマし、なぜだかシミジミする鯨である。<br /><br />メインの通りにたどり着き、でかいホテルの入口に<br />「spa and massage」<br />なんて看板を見つける。<br /><br />サパはリゾートの建てつけなんで、棚田トレッキングだけでなく、この手の店もいっぱいある。<br />霧雨でめっちゃ寒いし、この際、風呂に入ってマッサージってのもいいかもしれん。<br /><br />とゆうわけで店に闖入し「サウナ&amp;マッサージ100分コース」をお願いする。50万ドン、2500円。<br /><br />すぐに部屋に案内される。カーテンで仕切られた半個室で、手前にベッド、奥に風呂桶とサウナ施設がある。<br />

    諦めて、町への坂道を登っていく。坂道の途中で、籠に押し込まれた黒豚が、かなしげに鳴いていた。

    ぶひょ、ぶひょ、ぶひょひょひょひょーーーーー。

    霧の中に悲鳴がコダマし、なぜだかシミジミする鯨である。

    メインの通りにたどり着き、でかいホテルの入口に
    「spa and massage」
    なんて看板を見つける。

    サパはリゾートの建てつけなんで、棚田トレッキングだけでなく、この手の店もいっぱいある。
    霧雨でめっちゃ寒いし、この際、風呂に入ってマッサージってのもいいかもしれん。

    とゆうわけで店に闖入し「サウナ&マッサージ100分コース」をお願いする。50万ドン、2500円。

    すぐに部屋に案内される。カーテンで仕切られた半個室で、手前にベッド、奥に風呂桶とサウナ施設がある。

  • サウナは、昔の「トルコ風呂」にあったような箱型だ。(→行ったことないけど)<br /><br />服を脱ぎ脱ぎし、フタを明け、中の椅子にすわる。<br />でもってフタを閉じると、首だけが上に出て、たいへん間抜けな格好になる。<br /><br />…ほとんどさらし首だなこれは。これで横に高札でも立てて<br /><br />「この者、強盗により打ち首」<br /><br />なんて書かれたら本格的だなー。<br />…などと薄目を開け、無念の形相になって妄想していたら、年のころなら30、小柄なお姉さんが入ってきたので、あわててフツーの顔に戻す。

    サウナは、昔の「トルコ風呂」にあったような箱型だ。(→行ったことないけど)

    服を脱ぎ脱ぎし、フタを明け、中の椅子にすわる。
    でもってフタを閉じると、首だけが上に出て、たいへん間抜けな格好になる。

    …ほとんどさらし首だなこれは。これで横に高札でも立てて

    「この者、強盗により打ち首」

    なんて書かれたら本格的だなー。
    …などと薄目を開け、無念の形相になって妄想していたら、年のころなら30、小柄なお姉さんが入ってきたので、あわててフツーの顔に戻す。

  • お姉さん、サパ出身でタイ系の少数民族だそうな。色白で小股の切れ上がった、いい感じの方である。<br />最初にオイルをたっぷり塗って、ゴシゴシこする。でもって筋肉なんぞにもしっかリ指を入れてくる。<br />痛い痛い、ふくらはぎなんぞを攻められるとマジ痛いんですけど。<br /><br />ぶひょ、ぶひょ、ぶひょひょひょひょーーーーー。<br /><br />先ほどの黒豚のココロがよくわかる。<br /><br />そもそも、ワシなんて脂ぎってるからオイルはいらないんじゃないか。<br />これってホントに気持ちいいのかなぁ。<br />どっちかってゆうと肌がベタベタして気持ち悪いんですけど。<br /><br />ハマムをイメージしてたんだけど、全然違う。<br />あれはイスラム方面のフロで、東南アジアってエステなんだな。ハマムのほうがよかったよー。<br /><br />それでもけっこうリラックスできたのか、ホテルに帰ってビールを飲んだら、ストンと眠りに落ちた。<br />よって、それなりの効果はあったと思われる。<br /><br />

    お姉さん、サパ出身でタイ系の少数民族だそうな。色白で小股の切れ上がった、いい感じの方である。
    最初にオイルをたっぷり塗って、ゴシゴシこする。でもって筋肉なんぞにもしっかリ指を入れてくる。
    痛い痛い、ふくらはぎなんぞを攻められるとマジ痛いんですけど。

    ぶひょ、ぶひょ、ぶひょひょひょひょーーーーー。

    先ほどの黒豚のココロがよくわかる。

    そもそも、ワシなんて脂ぎってるからオイルはいらないんじゃないか。
    これってホントに気持ちいいのかなぁ。
    どっちかってゆうと肌がベタベタして気持ち悪いんですけど。

    ハマムをイメージしてたんだけど、全然違う。
    あれはイスラム方面のフロで、東南アジアってエステなんだな。ハマムのほうがよかったよー。

    それでもけっこうリラックスできたのか、ホテルに帰ってビールを飲んだら、ストンと眠りに落ちた。
    よって、それなりの効果はあったと思われる。

  • 3月9日、土曜。サパ2日目。<br />今日も濃い霧雨。肌寒い。去年は晴れ間があって、棚田までバイクツアーできたのに、ついてない。<br />こんな天気でも白人客はどんどんトレッキングに出て行くけど、ワシは寒い中歩き回るのはまっぴら御免である。<br /><br />とゆうわけで午前中はホテルでごろごろし、明日以降の旅程を検討する。<br />このままバスでハノイに帰るのも芸がない。(別に芸を磨くために旅してるわけじゃないけど)<br /><br />地図を見ると、300キロほど南、ラオスの国境近くにディエンビエンフーとゆう町がある。<br />地球の歩き方には「対仏独立戦争の激戦地」とある。<br />小さいながらも空港もある。調べたら、1日2便、ハノイに飛んでいる。<br />つまりそこまで行けば、空路でハノイに戻れるわけか。<br /><br />んーと、じゃあ行ってみるか。<br />

    3月9日、土曜。サパ2日目。
    今日も濃い霧雨。肌寒い。去年は晴れ間があって、棚田までバイクツアーできたのに、ついてない。
    こんな天気でも白人客はどんどんトレッキングに出て行くけど、ワシは寒い中歩き回るのはまっぴら御免である。

    とゆうわけで午前中はホテルでごろごろし、明日以降の旅程を検討する。
    このままバスでハノイに帰るのも芸がない。(別に芸を磨くために旅してるわけじゃないけど)

    地図を見ると、300キロほど南、ラオスの国境近くにディエンビエンフーとゆう町がある。
    地球の歩き方には「対仏独立戦争の激戦地」とある。
    小さいながらも空港もある。調べたら、1日2便、ハノイに飛んでいる。
    つまりそこまで行けば、空路でハノイに戻れるわけか。

    んーと、じゃあ行ってみるか。

  • 午後、霧雨をついて、町のインフォメーションまで歩き、ディエンビエンフー行きのバスを調べる。<br />すると、バスは1日3便で、一番早いのが午前8時発だった。あとは夜行。おおむね8時間だという。<br /><br />景色を見たいから夜行はナシだな。<br />8時の便に乗れば、暗くなる前にホテルに入れるだろう。夕方から町歩きをすれば良い。<br />とゆうわけで。<br />明日のディエンビエンフー行きのバスをホテルのフロントに依頼。<br />さらにあさって・ディエンビエンフーからハノイの航空券をネットで予約する。<br /><br />写真はインフォメーションに張り出されていたバス時刻表。<br />ディエンビエンフー行は8:00、18:00、19:00、トラベルタイムは8時間、とある。<br />意外に各方面へのバスがあるんだね。

    午後、霧雨をついて、町のインフォメーションまで歩き、ディエンビエンフー行きのバスを調べる。
    すると、バスは1日3便で、一番早いのが午前8時発だった。あとは夜行。おおむね8時間だという。

    景色を見たいから夜行はナシだな。
    8時の便に乗れば、暗くなる前にホテルに入れるだろう。夕方から町歩きをすれば良い。
    とゆうわけで。
    明日のディエンビエンフー行きのバスをホテルのフロントに依頼。
    さらにあさって・ディエンビエンフーからハノイの航空券をネットで予約する。

    写真はインフォメーションに張り出されていたバス時刻表。
    ディエンビエンフー行は8:00、18:00、19:00、トラベルタイムは8時間、とある。
    意外に各方面へのバスがあるんだね。

  • 残りの行程が決まったんで、気分が楽になり、珍しく夜の町にぶらり出かける。<br />午後9時を回ってもサパのメインストリートは観光客でいっぱいだ。国内と海外が半々くらいか。<br /><br />坂道が多い上に、通りが曲がりくねっている。おまけに霧が濃い。<br />ぼうっと歩いてたら帰れなくなるんで、角を曲がるたびに目印としてパンくずを落としていく。(→ウソ)<br /><br />すると、なんだか夜の草津温泉を歩いてる気分になる。あそこも霧の多い町だ。<br />この通りをまっすぐ行ったら湯畑に出るんじゃないのか、なんて妄想が頭をよぎる。(そんなこと考えながら歩くから迷うんだよ)<br /><br />

    残りの行程が決まったんで、気分が楽になり、珍しく夜の町にぶらり出かける。
    午後9時を回ってもサパのメインストリートは観光客でいっぱいだ。国内と海外が半々くらいか。

    坂道が多い上に、通りが曲がりくねっている。おまけに霧が濃い。
    ぼうっと歩いてたら帰れなくなるんで、角を曲がるたびに目印としてパンくずを落としていく。(→ウソ)

    すると、なんだか夜の草津温泉を歩いてる気分になる。あそこも霧の多い町だ。
    この通りをまっすぐ行ったら湯畑に出るんじゃないのか、なんて妄想が頭をよぎる。(そんなこと考えながら歩くから迷うんだよ)

  • 霧の中、道端に少数民族の子供達がお土産を売っている。それを観光客が手にとって見る。<br />子供達の母親は、少し離れたところから子供の商売を心配そうに見ている。<br />お土産は子供の方が売れるのだ。土曜夜、週に一度の書き入れ時。<br /><br />昼間はガラガラだったマッサージ店、スポーツ洋品店、レストラン、どこも満員だった。<br />観光客に混じって、民族衣装のお母さんたちもぞろぞろ歩いてる。<br />平日は山で田んぼをやりながら刺繍をし、週末になるとカゴを背負ってサパまで歩き、お土産や野菜を売るんだろうな。<br />

    イチオシ

    霧の中、道端に少数民族の子供達がお土産を売っている。それを観光客が手にとって見る。
    子供達の母親は、少し離れたところから子供の商売を心配そうに見ている。
    お土産は子供の方が売れるのだ。土曜夜、週に一度の書き入れ時。

    昼間はガラガラだったマッサージ店、スポーツ洋品店、レストラン、どこも満員だった。
    観光客に混じって、民族衣装のお母さんたちもぞろぞろ歩いてる。
    平日は山で田んぼをやりながら刺繍をし、週末になるとカゴを背負ってサパまで歩き、お土産や野菜を売るんだろうな。

  • 表通りには観光客向けのレストランが並んでいる。この旅に出てから、まともなレストランに入っていない。<br />中の一軒にぶらりと入り、生春巻きと野菜炒めをオーダーする。<br /><br />すると、春巻きは白人の「マイ・グレート・サン」みたいなのが6本、野菜炒めも向こう側が見えないくらいの山盛りで出てきた。<br /><br />こらこら。一人でどうやってこれを食えとゆうのだ。<br /><br />かなり頑張ったけど、半分以上残してしまった。<br />一人旅のレストランはキビシー。だから屋台に行っちゃうんだけど。<br />

    表通りには観光客向けのレストランが並んでいる。この旅に出てから、まともなレストランに入っていない。
    中の一軒にぶらりと入り、生春巻きと野菜炒めをオーダーする。

    すると、春巻きは白人の「マイ・グレート・サン」みたいなのが6本、野菜炒めも向こう側が見えないくらいの山盛りで出てきた。

    こらこら。一人でどうやってこれを食えとゆうのだ。

    かなり頑張ったけど、半分以上残してしまった。
    一人旅のレストランはキビシー。だから屋台に行っちゃうんだけど。

  • 霧の中、ホテルに帰り、ベッドにもぐりこむ。<br />そのままウトウトしていると、頭の上で、とつじょ、サンボマスターの山口くんがシャウトした。<br /><br />「世界はそれを、ゲリと呼ぶんだぜーーーーー!!!」<br /><br />…それが真夜中のライブのオープニングだった。<br /><br />直後、ものすごーーーい勢いで、わが消化器官が蠕動し、華々しい16ビート。<br /><br />間一髪でトイレに飛び込む。<br /><br />おおおおおおお、これは。メコン源流の濁流にして激流ではないか。<br />たいへんたいへん。<br />どうやら生春巻が大ヒットしたらしい。<br /><br />さいわいにして痛みはない。<br />だがしかし、括約筋を常に活躍させていないと、たちまちにしてメコン源流の濁流にして激流がうずまく。<br />クシャミなどが大変危険である。<br />鼻をかむなんてゆう行為も、油断できない。<br />のみならず、単にオシッコをする、とゆう際も、細心の注意を必要とする。<br /><br />万止むを得ず、旅の後半は、おぱんつの中に、トイレットペーパーをたたみ、あてがうことにした。<br /><br />これで「多い日も安心」なのであった。<br />

    霧の中、ホテルに帰り、ベッドにもぐりこむ。
    そのままウトウトしていると、頭の上で、とつじょ、サンボマスターの山口くんがシャウトした。

    「世界はそれを、ゲリと呼ぶんだぜーーーーー!!!」

    …それが真夜中のライブのオープニングだった。

    直後、ものすごーーーい勢いで、わが消化器官が蠕動し、華々しい16ビート。

    間一髪でトイレに飛び込む。

    おおおおおおお、これは。メコン源流の濁流にして激流ではないか。
    たいへんたいへん。
    どうやら生春巻が大ヒットしたらしい。

    さいわいにして痛みはない。
    だがしかし、括約筋を常に活躍させていないと、たちまちにしてメコン源流の濁流にして激流がうずまく。
    クシャミなどが大変危険である。
    鼻をかむなんてゆう行為も、油断できない。
    のみならず、単にオシッコをする、とゆう際も、細心の注意を必要とする。

    万止むを得ず、旅の後半は、おぱんつの中に、トイレットペーパーをたたみ、あてがうことにした。

    これで「多い日も安心」なのであった。

  • 3月10日、日曜。<br />今日は山道をディエンビエンフーまで300キロ、8時間の長丁場だ。<br /><br />ホテルまで送迎用のクルマがやってきて、市場の横で降ろされる。<br />乗客はわずかに4人。ワシ以外はベトナム人。ツーリストではなく地元組だった。

    3月10日、日曜。
    今日は山道をディエンビエンフーまで300キロ、8時間の長丁場だ。

    ホテルまで送迎用のクルマがやってきて、市場の横で降ろされる。
    乗客はわずかに4人。ワシ以外はベトナム人。ツーリストではなく地元組だった。

  • サパを出たバスは、山裾を巻きながら、ゆっくりと高度を上げていく。<br />時々霧が晴れて、ぎょっとするほど高いところに山塊が見え隠れする。ベトナム最高峰、ファンシーパンだろう。<br />今はロープウェイで頂上までいけるらしい。<br /><br />遠くの山肌に村も見える。朝市から帰るらしい親子連れが歩いている。<br />

    サパを出たバスは、山裾を巻きながら、ゆっくりと高度を上げていく。
    時々霧が晴れて、ぎょっとするほど高いところに山塊が見え隠れする。ベトナム最高峰、ファンシーパンだろう。
    今はロープウェイで頂上までいけるらしい。

    遠くの山肌に村も見える。朝市から帰るらしい親子連れが歩いている。

  • 峠を越えると、クルマは長い坂道を、雲の中に沈むように下っていく。ときおり見える棚田が美しい。<br />遠くの山は高く、いくえにも連なり、そのぶん谷は深い。山肌に削られた一本道が、どこまでも続いている。<br /><br />これが東南アジア最奥の風景なんだ、と思う。<br /><br />あちこちで土砂崩れが起こっていて、その度に片側交互通行になる。舗装はされているが道路にかなりの凹凸があり、クルマは容赦なく揺れた。<br />ワシの前に座っていた若いカップルがすぐにダウンし、ゲーゲー始まる。<br />いっぽうのワシは、やんごとなき事情により、朝からミネラルウォーターを少量摂っただけで、胃の中はからっぽだ。<br /><br />要は括約筋を緩めなければいいのだ。がんばれワシの括約筋。

    峠を越えると、クルマは長い坂道を、雲の中に沈むように下っていく。ときおり見える棚田が美しい。
    遠くの山は高く、いくえにも連なり、そのぶん谷は深い。山肌に削られた一本道が、どこまでも続いている。

    これが東南アジア最奥の風景なんだ、と思う。

    あちこちで土砂崩れが起こっていて、その度に片側交互通行になる。舗装はされているが道路にかなりの凹凸があり、クルマは容赦なく揺れた。
    ワシの前に座っていた若いカップルがすぐにダウンし、ゲーゲー始まる。
    いっぽうのワシは、やんごとなき事情により、朝からミネラルウォーターを少量摂っただけで、胃の中はからっぽだ。

    要は括約筋を緩めなければいいのだ。がんばれワシの括約筋。

  • 高度を下げ、かつ南下するわけだから、気温はぐんぐん上がっていく。2時間ばかり走ると、もう暑くなってきた。<br /><br />峠を越え、ダム湖を通り過ぎたところで昼食休憩になった。<br />そろりとバスを降り、食堂には向かわず、あたりをウロウロする。なんにもない、街道沿いの村の食堂。<br />ベトナム式の盆栽の横に、わんこがいた。東南アジアによくいる、毛の短いタイプではなく、モコモコで毛色も日本犬に近い。<br />そっと手を出すと、おとなしくなでられる。旅人に慣れているんだろう。その横では、お母さんが赤ちゃんにおっぱいをあげていた。

    高度を下げ、かつ南下するわけだから、気温はぐんぐん上がっていく。2時間ばかり走ると、もう暑くなってきた。

    峠を越え、ダム湖を通り過ぎたところで昼食休憩になった。
    そろりとバスを降り、食堂には向かわず、あたりをウロウロする。なんにもない、街道沿いの村の食堂。
    ベトナム式の盆栽の横に、わんこがいた。東南アジアによくいる、毛の短いタイプではなく、モコモコで毛色も日本犬に近い。
    そっと手を出すと、おとなしくなでられる。旅人に慣れているんだろう。その横では、お母さんが赤ちゃんにおっぱいをあげていた。

  • やがて、周囲がバナナとパイナップル畑になる。<br /><br />田んぼが川沿いに広がり始め、見事な水田になる。エチゴの山里の風景とそっくりだな、と思う。<br /><br />ちょうど田植えが終わったころの、静かでこのましい田園風景だ。

    やがて、周囲がバナナとパイナップル畑になる。

    田んぼが川沿いに広がり始め、見事な水田になる。エチゴの山里の風景とそっくりだな、と思う。

    ちょうど田植えが終わったころの、静かでこのましい田園風景だ。

  • 午後3時半、ディエンビエンフー着。なんとか黄門様は持ちこたえたが、ケツ付近の筋肉が痛い。<br />バスターミナルの前に建つ安ホテルにチェックインし、夕方を待って町に出る。<br /><br />川に沿って開けた小さな町だ。もうちょっと南下すると、ラオス国境。バスも出ている。<br />行ってみたい気もするけど、今回はここまでにしよう。<br />旅に出ると、どうしても「もう一ヶ所」と思っちゃう。<br />だがしかし、帰国当日に空港の町に着くスケジュールを組むと、アクシデントが一回あったらアウトだ。前科もあるし。<br />

    午後3時半、ディエンビエンフー着。なんとか黄門様は持ちこたえたが、ケツ付近の筋肉が痛い。
    バスターミナルの前に建つ安ホテルにチェックインし、夕方を待って町に出る。

    川に沿って開けた小さな町だ。もうちょっと南下すると、ラオス国境。バスも出ている。
    行ってみたい気もするけど、今回はここまでにしよう。
    旅に出ると、どうしても「もう一ヶ所」と思っちゃう。
    だがしかし、帰国当日に空港の町に着くスケジュールを組むと、アクシデントが一回あったらアウトだ。前科もあるし。

  • 町のあちこちに戦車や戦闘機の残骸が展示されている。<br /><br />ディエンビエンフーの戦いは1954年。ワシの生まれる5年前だ。<br />ここで破れたフランスは、南シナ海に蹴り落とされ、ベトナムから出て行った。<br />次にやってきたアメリカも、やっぱり南シナ海に蹴り落とされ、ベトナムから出て行った。<br /><br />ベトナム人はよく自慢するそうだ。<br /><br />「中国とは2000年、フランスとは100年、アメリカとは10年戦って、全部最後には勝った」<br />

    イチオシ

    町のあちこちに戦車や戦闘機の残骸が展示されている。

    ディエンビエンフーの戦いは1954年。ワシの生まれる5年前だ。
    ここで破れたフランスは、南シナ海に蹴り落とされ、ベトナムから出て行った。
    次にやってきたアメリカも、やっぱり南シナ海に蹴り落とされ、ベトナムから出て行った。

    ベトナム人はよく自慢するそうだ。

    「中国とは2000年、フランスとは100年、アメリカとは10年戦って、全部最後には勝った」

  • 川沿いの市場をのぞいてみる。<br />野菜も果物も魚も、赤土の地面の色を映すように光っていた。<br /><br />売っているのは少数民族のおばちゃんたちだ。<br />魚屋にはエビやウナギがピチピチはねていた。<br />野菜も果物も、種類が多い。キノコもある。<br /><br />ある屋台では、竹に挟んだ川魚を薪で焼いていた。<br />ショーユかけて食ったらうまいだろうなぁ。<br /><br />このものなりのいい土地が、長い戦争を支えていたんだろう。<br />

    川沿いの市場をのぞいてみる。
    野菜も果物も魚も、赤土の地面の色を映すように光っていた。

    売っているのは少数民族のおばちゃんたちだ。
    魚屋にはエビやウナギがピチピチはねていた。
    野菜も果物も、種類が多い。キノコもある。

    ある屋台では、竹に挟んだ川魚を薪で焼いていた。
    ショーユかけて食ったらうまいだろうなぁ。

    このものなりのいい土地が、長い戦争を支えていたんだろう。

  • 夕暮れが近づいてきた。<br />町の中央の丘まで歩いてみる。<br />長い階段の先に、戦勝記念像が建っていた。<br /><br />旗を振っている兵士は、敵の塹壕に乗り込んだ旗手兵がモデルだという。<br /><br />

    夕暮れが近づいてきた。
    町の中央の丘まで歩いてみる。
    長い階段の先に、戦勝記念像が建っていた。

    旗を振っている兵士は、敵の塹壕に乗り込んだ旗手兵がモデルだという。

  • そういえば、もとになった写真が、ホテルのロビーに掲出されていた。<br />同じ写真を町の中でも見かける。<br /><br />ベトナムの人にとって、記念の一枚なんだろう。

    そういえば、もとになった写真が、ホテルのロビーに掲出されていた。
    同じ写真を町の中でも見かける。

    ベトナムの人にとって、記念の一枚なんだろう。

  • 激戦の跡は、今、市民の憩いの場になっている。<br />体操をしてるおじいちゃんもいる。デートらしい少年と少女もいる。<br />中学生らしい女の子たちが、学校の課題なのか、お客さんにアンケートを取っている。ワシも話しかけられたけど、日本人だと告げると、後ずさりされてしまう。まぁ顔が怖いからしょうがないけどな。<br /><br />高台から沈む夕日をゆっくりと眺め、目に焼き付ける。ここが旅の最後の土地だ。<br /><br />さて、町に降りて、ビールでも飲もうか。<br />そして無事に日本に帰ろう。<br />

    イチオシ

    激戦の跡は、今、市民の憩いの場になっている。
    体操をしてるおじいちゃんもいる。デートらしい少年と少女もいる。
    中学生らしい女の子たちが、学校の課題なのか、お客さんにアンケートを取っている。ワシも話しかけられたけど、日本人だと告げると、後ずさりされてしまう。まぁ顔が怖いからしょうがないけどな。

    高台から沈む夕日をゆっくりと眺め、目に焼き付ける。ここが旅の最後の土地だ。

    さて、町に降りて、ビールでも飲もうか。
    そして無事に日本に帰ろう。

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  • tabinakanotaekoさん 2019/08/09 23:44:06
    サパは霧でしたか
    鯨さん、
     ちょっとご無沙汰している間にポーランドや、ここは一体どこ?という国にも行っておられますね。鯨さんのブログは一本一本ゆっくり読むのが味わいですから、ボツボツ拝見していきます。こういう場合は自分が知っている場所のを見たいと思う物ですね。サパは私もハノイから深夜列車で行きました。もう一度、行きたい場所の一位です。
     鯨さんはサパが二度目なんですね。せっかくの窓付きお部屋なのに霧が深くて残念無念でしたね。三度目もありえますか?
            taeko

    鯨の味噌汁

    鯨の味噌汁さん からの返信 2019/08/12 15:23:57
    Re: サパは霧でしたか
    taekoさん、おあつうございます。

    サパ、寒いし雨だし景色見えないし、散々でございました。でもあそこらへんは全体に好きなんで、通過することがあったら途中下車してまた寄るんじゃないかと。
    陽気が良ければのんびり滞在したい土地です。食べ物もおいしいしー。でもマッサージはもういいや(笑)。

鯨の味噌汁さんのトラベラーページ

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