今年の夏にちょっと面白い企画ツアーを実施しました。「ロシア革命100周年歴史の足跡を訪ねる・モスクワとペテルブルグ7日間の旅」。<br /><br />「ロシア革命100周年」と銘打ってはいますが、内容はいたって普通の観光旅行。モスクワではクレムリン観光やサーカス見物、ペテルブルグではエルミタージュ美術館、エカテリーナ宮殿、ピョートル夏の宮殿など世界遺産を巡りました。ただ、ちょっと違うのは、それら通常の観光日程に、革命の指導者レーニンの遺体を安置したレーニン廟や、冷戦時代の核シェルターを博物館にした冷戦博物館（BUNKER-42）、現代史博物館のロシア革命特設展示、そしてモスクワ現地でのミニ・セミナーなどが付け加わっていたことです。<br /><br />「今どきロシア革命に興味のある人っているんだろうか」「こんなマニアックなツアーに人が集まるのかな」という不安をよそに、なんと18名もの参加者が集まり（無理矢理集めたという噂もありますが）、8月22日から28日までツアー催行となりました。<br /><br />　1917年10月ロシア革命で誕生した社会主義ソ連は1991年12月に解体し、ロシアが資本主義国に変わってから四半世紀が過ぎました。20世紀において社会主義ユートピアの思想は全世界に巨大な影響を与え、これに対抗する資本主義側も福祉国家論や混合経済体制など、大きな修正を余儀なくされました。しかし、ユートピアの夢破れたあと、ロシアでは荒々しい国家資本主義の波が社会を席巻しました。社会主義の夢の跡と現在のロシアの姿をありのままに見て、ささやかながらも歴史を検証してみようというのが今回の企画ツアーの目的でした。<br /><br />　モスクワでは旧知のアナトリー・コーシキンさん（歴史学博士、ロシア戦略策定センター上級研究員）にお願いして、「ロシア革命から100年、社会主義ソ連と資本主義ロシアに生きて」というテーマで話をしていただき、参加者と一緒に夕食会を持ちました。　<br /><br />　以下、コーシキンさんの発言要旨を掲載して、この企画旅行の報告に代えさせていただきます。<br /><br /><br />■社会主義ソ連と資本主義ロシアに生きて<br /><br />　ロシア革命から100年、この革命に意味があったのでしょうか？「ロシア革命はレーニンを首謀とするクーデターだった」という評価がソ連解体後に一時はやりました。実際にはロシア革命は広範囲な社会変革を伴う革命でした。この出来事は全世界に大きな影響を与えました。無料の教育、医療、住宅…、革命後のソ連はとくに社会保障の分野で優れた成果を収めました。<br /><br />　ではなぜソ連社会主義は解体したのか？ソ連時代の70年間は戦争の重圧に苦しみ続けた70年間でした。革命後の内戦、第2次大戦、そして冷戦。「米ソ対立」と言われましたが、実際にはソ連はアメリカと西側すべてと対峙せざるを得なかった。軍事バランスを維持するために膨大な負担が必要でした。結局、ソ連は軍備競争の重圧に耐えられなかったのです。<br /><br />　それでもソ連時代は基本的な生活物資と社会保障が人々に提供された社会で、それなりに安定していました。しかし、外国を見ると生活水準の低さを感じる。「無料の教育や社会保障はそのまま維持して、もっと質の高いモノが欲しい。自由に外国に行きたい」というのがソ連時代の一般市民の望みでした。<br /><br />　しかし、ソ連解体後に出現したのはきわめて「野蛮な資本主義」でした。すべてが有料になった。無料の医療も教育もなくなった。あらゆるものが値上がりしました。ソ連時代には、家賃は光熱費や電話代を含めても収入の3％程度しかかからなかった。今は収入の半分以上が家賃に消えます。とくに年金生活者は大変です。<br /><br />　資本主義ロシアの現実を踏まえて、最近ではソ連時代を再評価する気分が人々に生まれています。これは私も驚いたのですが、最近の世論調査で「スターリンを肯定的に評価する」回答が56％もありました。もちろん、人々はスターリン時代の弾圧、粛清、強制収容所などの事実をよく知っていますし、それが正しいものだったとは思っていません。膨大な犠牲がありました。しかし、それでもスターリンはわずか15年間で遅れた農業国であり内戦で破壊された国を急速に重工業化し、工場、コンビナート、港湾、発電所などを建設し、ヒトラードイツに打ち勝ちました。<br /><br />　今、人々はソ連時代にもどりたいとは思っていませんが、資本主義の便利さと社会主義の安定をミックスした社会を望んでいると思います。そのためには、新自由主義の行きすぎた市場経済、貪欲な資本主義を改善しなければならないと思います。これはロシアだけの問題ではありません。経済改革による社会の安定が必要です。

ロシア革命100周年　歴史の足跡を訪ねる旅

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2017/08/22 - 2017/08/28

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JIC旅行センターさん

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　今年の夏にちょっと面白い企画ツアーを実施しました。「ロシア革命100周年歴史の足跡を訪ねる・モスクワとペテルブルグ7日間の旅」。

「ロシア革命100周年」と銘打ってはいますが、内容はいたって普通の観光旅行。モスクワではクレムリン観光やサーカス見物、ペテルブルグではエルミタージュ美術館、エカテリーナ宮殿、ピョートル夏の宮殿など世界遺産を巡りました。ただ、ちょっと違うのは、それら通常の観光日程に、革命の指導者レーニンの遺体を安置したレーニン廟や、冷戦時代の核シェルターを博物館にした冷戦博物館（BUNKER-42）、現代史博物館のロシア革命特設展示、そしてモスクワ現地でのミニ・セミナーなどが付け加わっていたことです。

「今どきロシア革命に興味のある人っているんだろうか」「こんなマニアックなツアーに人が集まるのかな」という不安をよそに、なんと18名もの参加者が集まり（無理矢理集めたという噂もありますが）、8月22日から28日までツアー催行となりました。

　1917年10月ロシア革命で誕生した社会主義ソ連は1991年12月に解体し、ロシアが資本主義国に変わってから四半世紀が過ぎました。20世紀において社会主義ユートピアの思想は全世界に巨大な影響を与え、これに対抗する資本主義側も福祉国家論や混合経済体制など、大きな修正を余儀なくされました。しかし、ユートピアの夢破れたあと、ロシアでは荒々しい国家資本主義の波が社会を席巻しました。社会主義の夢の跡と現在のロシアの姿をありのままに見て、ささやかながらも歴史を検証してみようというのが今回の企画ツアーの目的でした。

　モスクワでは旧知のアナトリー・コーシキンさん（歴史学博士、ロシア戦略策定センター上級研究員）にお願いして、「ロシア革命から100年、社会主義ソ連と資本主義ロシアに生きて」というテーマで話をしていただき、参加者と一緒に夕食会を持ちました。　

　以下、コーシキンさんの発言要旨を掲載して、この企画旅行の報告に代えさせていただきます。

■社会主義ソ連と資本主義ロシアに生きて

　ロシア革命から100年、この革命に意味があったのでしょうか？「ロシア革命はレーニンを首謀とするクーデターだった」という評価がソ連解体後に一時はやりました。実際にはロシア革命は広範囲な社会変革を伴う革命でした。この出来事は全世界に大きな影響を与えました。無料の教育、医療、住宅…、革命後のソ連はとくに社会保障の分野で優れた成果を収めました。

　ではなぜソ連社会主義は解体したのか？ソ連時代の70年間は戦争の重圧に苦しみ続けた70年間でした。革命後の内戦、第2次大戦、そして冷戦。「米ソ対立」と言われましたが、実際にはソ連はアメリカと西側すべてと対峙せざるを得なかった。軍事バランスを維持するために膨大な負担が必要でした。結局、ソ連は軍備競争の重圧に耐えられなかったのです。

　それでもソ連時代は基本的な生活物資と社会保障が人々に提供された社会で、それなりに安定していました。しかし、外国を見ると生活水準の低さを感じる。「無料の教育や社会保障はそのまま維持して、もっと質の高いモノが欲しい。自由に外国に行きたい」というのがソ連時代の一般市民の望みでした。

　しかし、ソ連解体後に出現したのはきわめて「野蛮な資本主義」でした。すべてが有料になった。無料の医療も教育もなくなった。あらゆるものが値上がりしました。ソ連時代には、家賃は光熱費や電話代を含めても収入の3％程度しかかからなかった。今は収入の半分以上が家賃に消えます。とくに年金生活者は大変です。

　資本主義ロシアの現実を踏まえて、最近ではソ連時代を再評価する気分が人々に生まれています。これは私も驚いたのですが、最近の世論調査で「スターリンを肯定的に評価する」回答が56％もありました。もちろん、人々はスターリン時代の弾圧、粛清、強制収容所などの事実をよく知っていますし、それが正しいものだったとは思っていません。膨大な犠牲がありました。しかし、それでもスターリンはわずか15年間で遅れた農業国であり内戦で破壊された国を急速に重工業化し、工場、コンビナート、港湾、発電所などを建設し、ヒトラードイツに打ち勝ちました。

　今、人々はソ連時代にもどりたいとは思っていませんが、資本主義の便利さと社会主義の安定をミックスした社会を望んでいると思います。そのためには、新自由主義の行きすぎた市場経済、貪欲な資本主義を改善しなければならないと思います。これはロシアだけの問題ではありません。経済改革による社会の安定が必要です。