カリブ海に沈むキリスト像・マリア像再会への旅（その２）

2017/02/15 - 2017/02/22

旅は人の人生を大きく変える力を持っている。私はガンの転移・再発の現実に衝撃を受け、お先真っ暗になった。ガンの怖さをはじめて実感した。しかし、旅好きの私は手術の前に（最後の？）楽しみをしてしまおう、という思いでメキシコ・コスメルに旅立ったのである。そして、チャンカナブ公園（写真）の海底で偶然キリスト像・マリア像と遭遇した。そして海の中で祈った。「助けて下さい」と。この時、私の何かが変わった。

◎私のホームページに旅行記多数あり。
『第二の人生を豊かに』
http://www.e-funahashi.jp/
（新刊『夢の豪華客船クルーズの旅
ー大衆レジャーとなった世界の船旅ー』案内あり）

エリア コスメル(メキシコ)

コスメルはダイビングで世界的な有名な場所で様々な国からダイバーが集まる。朝早くからダイバー達がホテル近くの桟橋（写真）に続々と集まってくる。

海水は実に綺麗で海底まで透き通っている。そこに多数の魚が群れている。私はしばしばこの桟橋の下でシュノーケルをし、熱帯魚と戯れた。

ダイビング用のスピードボート（写真）がダイバー達を迎えに来る。私はペーパーダイバーで今では全く潜れないのでもっぱらシュノーケルである。この桟橋から毎日シュノーケルツアーが出る。

朝食（写真）を食べながら昔のことを振り返る。父も母もガンに倒れ、兄までもガンになった。次は間違いなく自分に降りかかってくる。そう思った私はガンの全身検査であるPET検査をしたのである。2006年5月（54才）の時である。早期退職して2年目、退職後の自由を謳歌していた私は心身共に健康で何も問題ない。安心を得るためにPET検査をしたのである。

その結果は？私もガンだった。しかも母と同じ甲状腺ガン。幸い早期発見・早期治療ということで最初の手術（2006年9月）は小さなガンができている右甲状腺１つを摘出して終わった。母の大手術に比べればかすり傷のようなものである。
写真：私のお気に入りのテーブル

手術の後遺症もあまりなく、「何だこんなものか～、よかった、よかった。これでこれからの人生は日本晴れだ」という感じであった。しかし、1年後、念の為にCTを取ってみると、ガンが首のリンパ節に転移していた。頸部リンパ節転移、この結果に私は衝撃を受けた。ガンは治っていなかったのだ。ここに至って私はガンの本当の怖さを感じはじめた。
写真：私の朝食

そんな恐怖を感じながらも、コスメル滞在中、私はホテルから近いチャンカナブ公園（写真）に遊びに行った。サンゴ礁の群落で囲まれたコスメル島にあって、ここは珊瑚の保存状態、急に深くなる岩場、海水の透明度、魚影の濃さ、等、シュノーケルをするのに最適の場所である。

シュノーケルをつけて海（写真）に入ると、そこはまさに竜宮城である。大小様々な熱帯魚がまるでパレードのように悠然と泳いでいる。私は嬉しくなって夢中で魚を追いかけた。

少し沖に移動するだけで海は急に深くなり（水深5～6m）海底に白砂が広がる。その所々に大きな岩礁（サンゴ礁）があり魚が群れている。
写真：9年前に水中カメラで私が撮ったもの

その先に、何か人間の形をした物体が見えた。近づいてみると、両手を広げた人間の像であった。しかも３mはあるかと思える巨体である。それが海に沈んでいる。
写真：チャンカナブ公園のイグアナ

海から上がり休憩の時にショップのスタッフに聞いてみた。
私「海の中に何か人間のような物体を見つけたのですが、あれは何ですか？」
スタッフ「ジーザス・クライスト（イエス・キリスト）だよ。マリアもいるよ」
私はこの言葉に衝撃を受けた。何と彼はイエス・キリストだった。マリアもいるという。
写真：チャンカナブ公園のラグーン

私は直ぐにシュノーケルをつけて再び海に入った。そしてキリスト（写真）に対面した。背をそらし顔を上に向けて両手を大きく広げているキリストはガリガリに痩せ、全身に海のコケがついて薄汚れていた。息ができずただじっと海底に立っている彼は苦しそうだった。私は海の中で両手を合せ祈った。「助けて下さい」と。
マリア様は少し浅い海底に沈んでいた。キリスト像に比べると小柄（1.5m?）であるが、やはり海のコケにおおわれくすんでいる。私は両手を合せ祈った。「助けて下さい」と。
写真：9年前に水中カメラで私が撮ったもの

カリブ海に沈むキリスト像・マリア像との偶然の出会い。この時から私の何かが変わった。来年、またここに来るか。ここに来てキリスト像・マリア像に手を合わせるか？少し未来が見えてきたのである。
写真：サボーアホテルの大型ビラ（客室はスチューディオ、1ベッドスイート）

それにしてもサボーアホテル（写真）は素晴らしい。9年前に来た時、このホテルはウインダム傘下のタイムシェアリゾートだった。（現在はサンスケープ）よって、リゾート会員権販売の売り込みも激しかった。私も誘われた。

当時の私は日本のリゾート会員権を複数購入（仲介業者から格安で購入）しリゾートライフを開始したばかりだった。この時も海外リゾート交換のRCIを使ってコスメルにきたので、海外リゾートの会員権には興味深々であった。
写真：大型ビラ「マラカイボ」（私が最初に泊まったスチューディオタイプのビラ）

1週間単位のタイムシェアリゾートの会員権ながら値段は数100万円もする。その高額な値段に驚き、拒否し続けていると、最後に特殊な会員権を出してきた。サボーアホテルしか使えない「VIP Corporate Certificate」という会員権である。
写真：サボーアホテルのビーチ

その内容は「10週間の無料宿泊、有効期限10年、年会費なし、価格約20万円（当時のレート）」だった。ツインルームを2人で利用して1週間（7泊）の宿泊代金が2万円のコスト計算になる。これは安い。これにオールインクルーシブ（飲み食い自由）代金が1人1日あたり約55ドル（2人宿泊の1人代金）がかかる。1人で泊まる場合は約5割増し。年会費なしというのがいい。
写真：サボーアホテルのビーチ

日本では2月の非常に寒い時期だというのに、ここではハイビスカス（写真）の花が咲き暖かい。いつもTシャツ、短パンで過ごせる。部屋にはエアコンがあるが、エアコンなしでも室内は常に23度くらいで快適である。乾期といえどもここは熱帯の地、適度に湿気があり肌に優しい。日本の冬の肌荒れが自然に治ってしまう。

ブーゲンビリア（写真）が咲き、熱帯の鳥達がいつも楽しそうに鳴いている。生命の躍動に溢れている。「ここは地上の楽園、まるで天国のようだ」「また、ここに来たいな～」と思った瞬間、私はクレジットカードで決済した。そして10枚のサイン入り証明書をもらったのである。

毎年2月にサボーアホテル（写真）に来る。そしてチャンカナブ公園に行き、キリスト像とマリア像に再会する。それを毎年繰り返し10枚の会員権を使い切る。それが出来れば10年間自分の命をつないだことになる。

こうして私のガン・サバイバル作戦が出来た。カリブ海に沈む夕日（写真）を眺めながら私の心は落ち着いてきた。未来が少し見えてきたのである。
参考：私の最初のサボーアホテル滞在記は以下に詳しい。
「メキシコ（コスメル）のリゾートクラブ」
http://www.e-funahashi.jp/abroad/mexico2/index.htm

9年前の話はまだ続く。サボーアホテルを後にした私はカンクンからサンフランシスコ経由でアメリカ・サンディエゴまで飛び、サンディエゴ発・着の「メキシコクルーズ」に参加したのである。船は約8万トンの豪華客船『ドーン・プリンセス』（写真）である。

ガンの再発・転移におびえながら、たった1人で豪華客船に乗り込んだ。海側バルコニー客室（写真）に1人で寝泊りし、ディナーテーブルで世界の人々と出会った。日頃の努力の成果なのか英会話も以前よりスムーズになり、多少深い話が出来るようになった。見知らぬ外国の人との偶然の出会い、これもクルーズの大きな魅力である。

メキシコのカボ・サン・ルーカス（写真）、マサトラン、プエルト・バジャルタという未知の観光地を巡り、７泊８日のメキシカン・リビエラクルーズは夢のように過ぎていった。この時の旅行記は私の著書『夢の豪華客船クルーズの旅』第３章に詳しく載っている。
http://www.e-funahashi.jp/work/index.htm

「豪華客船によるクルーズとはこんなにも楽しく素晴らしいものか…」
カリブ海クルーズ、アラスカクルーズ、地中海クルーズ、北欧クルーズ、そしてエーゲ海クルーズ。ここでも私は思った。世界のクルーズに乗ろう！

日本へ帰国する頃になると、私の心からガン再発の恐怖は消えていた。死への恐怖よりも「もっと生きたい」「毎年コスメルに行き、世界のクルーズにも出来るだけ乗ってみたい」そう簡単に死ねない。いや、死んでたまるか、である。
日本に帰国後、2日後にガンセンターに入院し、その4日後（2008年3月4日）手術を受けた。