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11月の後半のミュンヘン経由で帰国の途中、冬枯れの物悲しい時期にバイロイトを訪れた。ここはもちろんワーグナーの聖地、夏のバイロイトフェスティバルはすべての音楽ファンの憧れであるが、このチケットを手に入れるためには通常10年かかるといわれている。生涯のうちにここでワーグナーを聴く機会が訪れる可能性は極めて低く、ワーグナー自身の設計による祝祭劇場だけでも拝んでおきたいと思った。また2012年には、祝祭劇場ではなく、辺境伯オペラハウスが世界遺産に登録された。シーズンオフに内部を見ることができないことは承知の上で、聖地の巡礼に訪れた。<br /><br />バイロイト祝祭歌劇場は、バイロイト中央駅の北、旧市街と反対の方角に位置し、閑静な住宅街の外れの丘の上にある。なだらかな坂道を登っていくと、1876年に建てられたレンガ造りの伝統的な劇場を目の当たりにする。通常はガイドツアーもあると聞いていたが、この日は月曜日でツアーもお休み、建物を外から眺めるしかない。以下はこの劇場についての引用である。<br /><br />「バイロイト祝祭劇場はワーグナーの楽劇理論の結集であり、その古代ギリシア演劇研究に大きく影響を受けている。プロセニアム・アーチによって客席と舞台が隔てられる点では従来のオペラハウスと同じであるが、観客を舞台に集中させるためにオーケストラ・ピットを舞台下に設けた構造(「神秘の奈落」と呼ばれる)は他に類を見ない。更に観客席はギリシアの円形劇場を模した高いせり上がりに沿って配され、19世紀までは普通だった観客席や舞台袖の彫刻やシャンデリア、装飾的な椅子等を廃し、木造の観客席一面を黒く塗っている。椅子は詰め物のない硬い木製で、やはり黒に塗られている。これによって各客席を含めた全体が共鳴板として働き、しばしばヴァイオリンの胴に例えられる特異な音響空間を作り出している。反面、オーケストラや指揮者からは客席が全く見えない。現在は映像機器により客席や舞台袖がモニター可能であるが、奏者からはしばしば演奏しにくいとの不評が出ている。」<br /><br />ワーグナーの主要作品については、サンクトペテルブルクのゲルギエフ、ベルリンのバレンボイム、かなり以前にはミュンヘンのサヴァリッシュなどの巨匠の指揮で観た。これらの巨大な作品を楽しむためには、筋書きを理解していることが不可欠であり、更には真のワグネリアンは、ドイツ語の歌詞を覚えて、ワーグナーの究極の世界に浸りこむ、と言われる。小生のごとき俄かワグネリアンには近寄り難い世界であるが、最近その魔力に引き込まれつつあることは間違いない。<br /><br />さて、世界遺産に登録されたのは祝祭劇場ではなく、旧市街にあるバイロイト辺境伯オペラハウスの方である。こちらもシーズンオフは内部を見学することは叶わず、外観を眺めるだけである。フリードリッヒ大王の姉、ヴィルへルミナ皇女の命により、1745?1750年の間に建てられたバロック劇場建築の傑作オペラハウスであり、席数はわずか500席。選ばれた聴衆は、ここでバロック様式の宮廷オペラを体験することができると言う。<br /><br />バイロイトの旧市街の一角には、ワーグナーが妻コージマと住んでいたハウス・ヴァーンフリートがあり、その小さな庭に夫婦の墓がある。この家の内部はワーグナー博物館となっているが、現在は改装工事のため閉鎖中。尋常ならざる彼の生涯であるが、人間的な面を偲ぶことができる。

ドイツの世界遺産No.21:ワーグナーの聖地、バイロイトの辺境伯オペラハウス(改訂版)

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2012/11/17 - 2012/11/18

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ハンク

ハンクさん

11月の後半のミュンヘン経由で帰国の途中、冬枯れの物悲しい時期にバイロイトを訪れた。ここはもちろんワーグナーの聖地、夏のバイロイトフェスティバルはすべての音楽ファンの憧れであるが、このチケットを手に入れるためには通常10年かかるといわれている。生涯のうちにここでワーグナーを聴く機会が訪れる可能性は極めて低く、ワーグナー自身の設計による祝祭劇場だけでも拝んでおきたいと思った。また2012年には、祝祭劇場ではなく、辺境伯オペラハウスが世界遺産に登録された。シーズンオフに内部を見ることができないことは承知の上で、聖地の巡礼に訪れた。

バイロイト祝祭歌劇場は、バイロイト中央駅の北、旧市街と反対の方角に位置し、閑静な住宅街の外れの丘の上にある。なだらかな坂道を登っていくと、1876年に建てられたレンガ造りの伝統的な劇場を目の当たりにする。通常はガイドツアーもあると聞いていたが、この日は月曜日でツアーもお休み、建物を外から眺めるしかない。以下はこの劇場についての引用である。

「バイロイト祝祭劇場はワーグナーの楽劇理論の結集であり、その古代ギリシア演劇研究に大きく影響を受けている。プロセニアム・アーチによって客席と舞台が隔てられる点では従来のオペラハウスと同じであるが、観客を舞台に集中させるためにオーケストラ・ピットを舞台下に設けた構造(「神秘の奈落」と呼ばれる)は他に類を見ない。更に観客席はギリシアの円形劇場を模した高いせり上がりに沿って配され、19世紀までは普通だった観客席や舞台袖の彫刻やシャンデリア、装飾的な椅子等を廃し、木造の観客席一面を黒く塗っている。椅子は詰め物のない硬い木製で、やはり黒に塗られている。これによって各客席を含めた全体が共鳴板として働き、しばしばヴァイオリンの胴に例えられる特異な音響空間を作り出している。反面、オーケストラや指揮者からは客席が全く見えない。現在は映像機器により客席や舞台袖がモニター可能であるが、奏者からはしばしば演奏しにくいとの不評が出ている。」

ワーグナーの主要作品については、サンクトペテルブルクのゲルギエフ、ベルリンのバレンボイム、かなり以前にはミュンヘンのサヴァリッシュなどの巨匠の指揮で観た。これらの巨大な作品を楽しむためには、筋書きを理解していることが不可欠であり、更には真のワグネリアンは、ドイツ語の歌詞を覚えて、ワーグナーの究極の世界に浸りこむ、と言われる。小生のごとき俄かワグネリアンには近寄り難い世界であるが、最近その魔力に引き込まれつつあることは間違いない。

さて、世界遺産に登録されたのは祝祭劇場ではなく、旧市街にあるバイロイト辺境伯オペラハウスの方である。こちらもシーズンオフは内部を見学することは叶わず、外観を眺めるだけである。フリードリッヒ大王の姉、ヴィルへルミナ皇女の命により、1745?1750年の間に建てられたバロック劇場建築の傑作オペラハウスであり、席数はわずか500席。選ばれた聴衆は、ここでバロック様式の宮廷オペラを体験することができると言う。

バイロイトの旧市街の一角には、ワーグナーが妻コージマと住んでいたハウス・ヴァーンフリートがあり、その小さな庭に夫婦の墓がある。この家の内部はワーグナー博物館となっているが、現在は改装工事のため閉鎖中。尋常ならざる彼の生涯であるが、人間的な面を偲ぶことができる。

旅行の満足度
4.0
観光
4.0
交通
4.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
10万円 - 15万円
交通手段
鉄道 高速・路線バス 徒歩 飛行機
航空会社
ANA
旅行の手配内容
個別手配

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  • バイロイト中央駅のファサード

    バイロイト中央駅のファサード

  • バイロイト中央駅に到着したローカル急行

    バイロイト中央駅に到着したローカル急行

  • バイロイト中央駅からフェンス越しに祝祭劇場を眺める

    バイロイト中央駅からフェンス越しに祝祭劇場を眺める

  • 祝祭劇場に向かう途中の教会の尖塔

    祝祭劇場に向かう途中の教会の尖塔

  • 祝祭劇場に向かう坂道

    祝祭劇場に向かう坂道

  • 祝祭劇場の威容

    祝祭劇場の威容

  • 祝祭劇場のファサード

    祝祭劇場のファサード

  • 祝祭劇場の側面を見る

    祝祭劇場の側面を見る

  • 祝祭劇場裏手の搬入口

    祝祭劇場裏手の搬入口

  • 祝祭劇場を一回りして正面に戻る

    祝祭劇場を一回りして正面に戻る

  • 祝祭劇場の入り口の近景

    祝祭劇場の入り口の近景

  • 祝祭劇場を間近から見上げる

    祝祭劇場を間近から見上げる

  • 祝祭劇場の横にあるワーグナーの記念碑

    祝祭劇場の横にあるワーグナーの記念碑

  • 祝祭劇場の横にあるワーグナーの記念碑

    祝祭劇場の横にあるワーグナーの記念碑

  • バイロイトの旧市街にある世界遺産のバイロイト辺境伯オペラハウスのファサード

    バイロイトの旧市街にある世界遺産のバイロイト辺境伯オペラハウスのファサード

  • 世界遺産のバイロイト辺境伯オペラハウスの全景

    世界遺産のバイロイト辺境伯オペラハウスの全景

  • バイロイトの旧市街の町並み

    バイロイトの旧市街の町並み

  • バイロイトの旧市街の町並み

    バイロイトの旧市街の町並み

  • バイロイトの旧市街の町並み

    バイロイトの旧市街の町並み

  • バイロイトの旧市街の町並み

    バイロイトの旧市街の町並み

  • ワーグナーが妻コージマと住んでいたハウス・ヴァーンフリート

    ワーグナーが妻コージマと住んでいたハウス・ヴァーンフリート

  • ハウス・ヴァーンフリートの小さな庭の夫婦の墓

    ハウス・ヴァーンフリートの小さな庭の夫婦の墓

  • ハウス・ヴァーンフリートの小さな庭の夫婦の墓

    ハウス・ヴァーンフリートの小さな庭の夫婦の墓

  • ハウス・ヴァーンフリートのワーグナーに関する説明書き

    ハウス・ヴァーンフリートのワーグナーに関する説明書き

  • ブランデンブルク辺境伯の新宮殿のファサード

    ブランデンブルク辺境伯の新宮殿のファサード

  • ブランデンブルク辺境伯の新宮殿

    ブランデンブルク辺境伯の新宮殿

  • ブランデンブルク辺境伯の新宮殿

    ブランデンブルク辺境伯の新宮殿

  • 冬枯れのバイロイト中央駅前通り

    冬枯れのバイロイト中央駅前通り

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この旅行記へのコメント (1)

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  • tadさん 2013/07/21 17:23:53
    バイロイト。。。
    過去、バイロイトで聞きたいと、努力したことはありますが、全く無理だとわかり、諦めていました。ところが、数年前に毎年行き来しているイギリス人の友人が自分は毎年、バイロイトで聞いてきた。私が聞きたいなら、2枚くらいなら譲るよと言ってくれました。ただ、残念ながら、その夏はその期日前後、出国不可能で、せっかくの申し出を断らざるをえませんでした。勿論、その申し出をしてくれた友人には感謝しています。

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