シベリア旅行記(ブログ) 一覧に戻る
シベリアの広大な大地を走るシベリア横断鉄道。ロマンチックである。妻も「一度、乗ってみたいわね」といっていた。しかし詳しく調べてみると、中高年向きではないと敬遠していた。<br /><br />ある時、テレビでシベリア横断鉄道を走るゴールデンイーグル号が紹介された。GWトラベルというイギリスの会社が運営し、個室で食事もちゃんとしているそうだ。<br /><br />バイカル湖、ヴォルガ川、エカテリンブルグなど興味深い場所に立ち寄っている。<br /><br />ロシアはサンクトペテルブルグに行ったが、モスクワはまだである。全行程を予約した上でビザを取るという制度がややこしいからである。このさい思い切って、モスクワからシベリア横断を果たし、ロシアをしっかり見るのも悪くないと考えを変えた。<br /><br />モスクワからウラジオストクまで9000キロメートルを超え、途中ウランバートルに立ち寄るのも含めれば1万キロメートル以上の列車の旅である。<br /><br />仕事の日程を考えると8月22日から9月5日までのツアーが唯一選択可能なスケジュールであった。すでに秋が迫ってくるから、雨や霧が多くないかとの恐れもあった。しかし、所詮天候は運次第と深く考えないことにした。<br /><br />モスクワまでの飛行機が飛ばなくてツアーを逃してはと、名古屋からフランクフルトに向かい、独仏国境あたりを観光してフランクフルトに戻り、そこからモスクワへ、そしてモスクワを2日観光してツアーに参加する計画とした。<br /><br />

シベリア横断鉄道・ゴールデンイーグル号の旅

93いいね!

2010/08/20 - 2010/09/06

2位(同エリア145件中)

6

50

Takashi

Takashiさん

シベリアの広大な大地を走るシベリア横断鉄道。ロマンチックである。妻も「一度、乗ってみたいわね」といっていた。しかし詳しく調べてみると、中高年向きではないと敬遠していた。

ある時、テレビでシベリア横断鉄道を走るゴールデンイーグル号が紹介された。GWトラベルというイギリスの会社が運営し、個室で食事もちゃんとしているそうだ。

バイカル湖、ヴォルガ川、エカテリンブルグなど興味深い場所に立ち寄っている。

ロシアはサンクトペテルブルグに行ったが、モスクワはまだである。全行程を予約した上でビザを取るという制度がややこしいからである。このさい思い切って、モスクワからシベリア横断を果たし、ロシアをしっかり見るのも悪くないと考えを変えた。

モスクワからウラジオストクまで9000キロメートルを超え、途中ウランバートルに立ち寄るのも含めれば1万キロメートル以上の列車の旅である。

仕事の日程を考えると8月22日から9月5日までのツアーが唯一選択可能なスケジュールであった。すでに秋が迫ってくるから、雨や霧が多くないかとの恐れもあった。しかし、所詮天候は運次第と深く考えないことにした。

モスクワまでの飛行機が飛ばなくてツアーを逃してはと、名古屋からフランクフルトに向かい、独仏国境あたりを観光してフランクフルトに戻り、そこからモスクワへ、そしてモスクワを2日観光してツアーに参加する計画とした。

旅行の満足度
4.5
観光
4.5
交通
4.5
同行者
カップル・夫婦
交通手段
鉄道

PR

  • 準備万端を整えて、出発を待っていると、ロシアは猛暑とのニュースが飛び込んできた。モスクワでは40度を超える日もあるという。まあその内に気温は下がるだろうと思っていると、8月上旬にモスクワ近郊で山火事が発生した。市内に煙が流れ込んでいる。<br /><br />モスクワの赤の広場がスモッグで霞んでいる映像がテレビに現れた。モスクワ市民は次々に脱出しているという。その内に雨が降るだろうと楽観的に構えることにしたが、気がかりである。<br /><br />8月20日、無事にフランクフルト発モスクワ行きの飛行機に乗り込んだ。モスクワの空は晴れ渡っていた。ヨーロッパを回っているうちに、雨が降り、気温も下がって、山火事が消えたのである。絶妙のタイミングだ。GWトラベルが手配した車が迎えに来た。<br /><br />8月21日。朝からモスクワ見物。GWトラベルに車とガイドを依頼していた。雲一つない晴天なので、まず赤の広場に向かった。ボクロフスキー聖堂、そしてクレムリンに入ればウスペンスキー大聖堂が見事であった。写真はボクロフスキー聖堂である。<br />

    準備万端を整えて、出発を待っていると、ロシアは猛暑とのニュースが飛び込んできた。モスクワでは40度を超える日もあるという。まあその内に気温は下がるだろうと思っていると、8月上旬にモスクワ近郊で山火事が発生した。市内に煙が流れ込んでいる。

    モスクワの赤の広場がスモッグで霞んでいる映像がテレビに現れた。モスクワ市民は次々に脱出しているという。その内に雨が降るだろうと楽観的に構えることにしたが、気がかりである。

    8月20日、無事にフランクフルト発モスクワ行きの飛行機に乗り込んだ。モスクワの空は晴れ渡っていた。ヨーロッパを回っているうちに、雨が降り、気温も下がって、山火事が消えたのである。絶妙のタイミングだ。GWトラベルが手配した車が迎えに来た。

    8月21日。朝からモスクワ見物。GWトラベルに車とガイドを依頼していた。雲一つない晴天なので、まず赤の広場に向かった。ボクロフスキー聖堂、そしてクレムリンに入ればウスペンスキー大聖堂が見事であった。写真はボクロフスキー聖堂である。

  • 午後は美術館めぐり。トレチャコフ美術館ではロシア絵画の傑作に対面。「見知らぬ女(忘れえぬ女)」はつんと澄ました顔であるが東洋的で親しみを持てる。<br /><br />プーシキン美術館は印象派からの流れが分かるようになっていた。写真はマチスの絵である。トロイの秘宝も見に行ったが、ツタンカーメンの秘宝と比較すれば、これかというレベルである。<br />

    午後は美術館めぐり。トレチャコフ美術館ではロシア絵画の傑作に対面。「見知らぬ女(忘れえぬ女)」はつんと澄ました顔であるが東洋的で親しみを持てる。

    プーシキン美術館は印象派からの流れが分かるようになっていた。写真はマチスの絵である。トロイの秘宝も見に行ったが、ツタンカーメンの秘宝と比較すれば、これかというレベルである。

  • 最後にノヴォデヴィチ修道院の外観を見た。

    最後にノヴォデヴィチ修道院の外観を見た。

  • 8月22日。GWトラベルのオプショナルツアーでセルギエフ・ポサードを観光した。ここのトロイツェ・セルギエフ大修道院はロシア正教の教会の中で最も権威がある1つとなっている。修道院にはいくつか建物がある。中心はウスペンスキー大聖堂で、黄金のドームを空色に星のドームが取り囲んでいた。<br /><br />中に入ると黄金の枠に入ったイコンで覆われた壁(イコノスタス)が立派であった。食堂もイコノスタスが美しく、そして十字を切りお辞儀する信者であふれていた。説教が終わると、信者たちは賛美歌を歌いながら祝福を受けるために列を作った。<br /><br />信者の多くはスカーフを被った女性たちであった。まっすぐな眼差しから、思いの強さが読み取れた。<br />

    イチオシ

    8月22日。GWトラベルのオプショナルツアーでセルギエフ・ポサードを観光した。ここのトロイツェ・セルギエフ大修道院はロシア正教の教会の中で最も権威がある1つとなっている。修道院にはいくつか建物がある。中心はウスペンスキー大聖堂で、黄金のドームを空色に星のドームが取り囲んでいた。

    中に入ると黄金の枠に入ったイコンで覆われた壁(イコノスタス)が立派であった。食堂もイコノスタスが美しく、そして十字を切りお辞儀する信者であふれていた。説教が終わると、信者たちは賛美歌を歌いながら祝福を受けるために列を作った。

    信者の多くはスカーフを被った女性たちであった。まっすぐな眼差しから、思いの強さが読み取れた。

  • 8月23日。観光バスに乗ってのモスクワ見物。クレムリンの武器庫では有名なイースターエッグを見た。そしてモスクワ大学のある高台から市内を見渡した。<br /><br />つぎにメトロの駅に行きメトロに乗った。駅の絵や彫刻が立派で美術館のようであったのには驚いた。<br />

    8月23日。観光バスに乗ってのモスクワ見物。クレムリンの武器庫では有名なイースターエッグを見た。そしてモスクワ大学のある高台から市内を見渡した。

    つぎにメトロの駅に行きメトロに乗った。駅の絵や彫刻が立派で美術館のようであったのには驚いた。

  • 観光バスは駅に向かった。青く塗られたゴールデンイーグル号が待っていた。荷物の整理が終わった頃、列車は静かに動き出した。無事にシベリア横断の旅が始まったのだ。<br /><br />個室は二段ベッドで、シャワーとトイレが付いている。<br />

    観光バスは駅に向かった。青く塗られたゴールデンイーグル号が待っていた。荷物の整理が終わった頃、列車は静かに動き出した。無事にシベリア横断の旅が始まったのだ。

    個室は二段ベッドで、シャワーとトイレが付いている。

  • 8月24日。タタールスタンのカザンに着いた。まず、クレムリンを見学。イスラムの尖塔が美しい。

    8月24日。タタールスタンのカザンに着いた。まず、クレムリンを見学。イスラムの尖塔が美しい。

  • 同じ敷地内に聖堂もある。

    同じ敷地内に聖堂もある。

  • 街の中心部にも聖堂がある。ツアーの人が入っていったので私たちも続いた。イコノスタスが見事であった。

    イチオシ

    街の中心部にも聖堂がある。ツアーの人が入っていったので私たちも続いた。イコノスタスが見事であった。

  • カザンのハイライトはヴォルガ川クルーズ。民族衣装の係員が迎えてくれた。

    カザンのハイライトはヴォルガ川クルーズ。民族衣装の係員が迎えてくれた。

  • 中流なのにヴォルガ川の大きさは想像以上であった。

    中流なのにヴォルガ川の大きさは想像以上であった。

  • 岸に近づくと肥沃な大地が広がっていた。<br /><br />

    岸に近づくと肥沃な大地が広がっていた。

  • 8月25日。エカテリンブルグ着。ロシア革命の最中、ニコライ2世とその家族が殺された所である。今は彼等を祭る教会がある。

    8月25日。エカテリンブルグ着。ロシア革命の最中、ニコライ2世とその家族が殺された所である。今は彼等を祭る教会がある。

  • 教会の内に、そして外に展示されているニコライ2世一家の写真を見ると、仲の良い、普通の貴族一家に見えるところが哀れを誘う。<br /><br />それにしてもニコライ2世が聖人として祭られるとは思ってもいなかった。

    教会の内に、そして外に展示されているニコライ2世一家の写真を見ると、仲の良い、普通の貴族一家に見えるところが哀れを誘う。

    それにしてもニコライ2世が聖人として祭られるとは思ってもいなかった。

  • 市内には兵士を祭る記念碑もあった。

    市内には兵士を祭る記念碑もあった。

  • エカテリンブルグはウラル山脈の東側にある。ヨーロッパとアジアの境目を見ようと目を凝らしていたが失敗した。ツアーの車はちゃんと境界に行ってくれた。

    エカテリンブルグはウラル山脈の東側にある。ヨーロッパとアジアの境目を見ようと目を凝らしていたが失敗した。ツアーの車はちゃんと境界に行ってくれた。

  • 8月26日。ノヴォシビルスク。巨大なレーニンの像、そして隣には労働者の像が残っている。立派なオペラハウスもある。

    8月26日。ノヴォシビルスク。巨大なレーニンの像、そして隣には労働者の像が残っている。立派なオペラハウスもある。

  • ノヴォシビルスクを出発するとイルクーツク着は翌々朝だ<br /><br />列車旅行の楽しみの1つはむろん、車窓風景である。初めのうちはシラカバの林が多かった。そのうちに針葉樹が主体となっていった。黄金色に輝くカラマツの林もあった。ところどころに村があり、道も走っているので、秘境を旅しているという印象ではない。<br /><br />朝、昼、晩と食事は、写真に示す食堂車で摂った。ボルシチから始まって、いろいろな郷土料理が出てきた。味もちゃんとしている。もっとも、キャビアは登場しなかった。<br /><br />ツアーは総勢70人ほど。食事のときは出来るだけ多くの人と席を共にして会話することにした。過半数の人と話したことは確実だ。<br /><br />参加者の国籍は実に多様だ。イギリス人、オーストラリア人、日本人、ドイツ人、ギリシャ人、カナダ人、ベルギー人、ニュージーランド人、ウルガイ人、南アフリカ人、アメリカ人と確認できた。<br /><br />一番多いのがイギリス人であるのは当然として、次は日本人、オーストラリア人であった。通貨の強さが影響しているようだ。アメリカ人は夫婦1組だけであった。金融危機の前はアメリカ人ですぐに予約が一杯になったというから、この列車の経営も大変なのだろう。<br /><br />わずかだけれど空席もあるようだった。なかなかキャビアが登場しないのも理解できる。<br />

    ノヴォシビルスクを出発するとイルクーツク着は翌々朝だ

    列車旅行の楽しみの1つはむろん、車窓風景である。初めのうちはシラカバの林が多かった。そのうちに針葉樹が主体となっていった。黄金色に輝くカラマツの林もあった。ところどころに村があり、道も走っているので、秘境を旅しているという印象ではない。

    朝、昼、晩と食事は、写真に示す食堂車で摂った。ボルシチから始まって、いろいろな郷土料理が出てきた。味もちゃんとしている。もっとも、キャビアは登場しなかった。

    ツアーは総勢70人ほど。食事のときは出来るだけ多くの人と席を共にして会話することにした。過半数の人と話したことは確実だ。

    参加者の国籍は実に多様だ。イギリス人、オーストラリア人、日本人、ドイツ人、ギリシャ人、カナダ人、ベルギー人、ニュージーランド人、ウルガイ人、南アフリカ人、アメリカ人と確認できた。

    一番多いのがイギリス人であるのは当然として、次は日本人、オーストラリア人であった。通貨の強さが影響しているようだ。アメリカ人は夫婦1組だけであった。金融危機の前はアメリカ人ですぐに予約が一杯になったというから、この列車の経営も大変なのだろう。

    わずかだけれど空席もあるようだった。なかなかキャビアが登場しないのも理解できる。

  • これはバー・カー。食前、食後の談笑に良い。<br /><br />全体に快適な旅である。列車が飛ばすときは、かなり揺れるが、別に脱線するほどでもなさそうだ。各列車についている客室係も驚くほど気が利いている。コーヒーでも頼みに行くかと思っていると、ドアをノックする音が聞こえるという按配である。<br />

    これはバー・カー。食前、食後の談笑に良い。

    全体に快適な旅である。列車が飛ばすときは、かなり揺れるが、別に脱線するほどでもなさそうだ。各列車についている客室係も驚くほど気が利いている。コーヒーでも頼みに行くかと思っていると、ドアをノックする音が聞こえるという按配である。

  • <br />8月28日。目が覚めると列車はイルクーツクに到着していた。アンガラ川沿いに停車しているが、この川はバイカル湖から流れ出したものだ。空は晴れている。<br /><br />今日はイルクーツクを観光して、明日ハイライトのバイカル湖に行くのだが、それまで天気が持つだろうか。今日1日がもったいない気がして、タクシーを飛ばして、バイカル湖に駆けつけようかという考えが一瞬浮かんだほどである。<br /><br />観光は市内を丹念に回り、市場にも行った。生鮮食料品が豊富である。<br />


    8月28日。目が覚めると列車はイルクーツクに到着していた。アンガラ川沿いに停車しているが、この川はバイカル湖から流れ出したものだ。空は晴れている。

    今日はイルクーツクを観光して、明日ハイライトのバイカル湖に行くのだが、それまで天気が持つだろうか。今日1日がもったいない気がして、タクシーを飛ばして、バイカル湖に駆けつけようかという考えが一瞬浮かんだほどである。

    観光は市内を丹念に回り、市場にも行った。生鮮食料品が豊富である。

  • 最後に訪ねたヴォルコンスキーの家がイルクーツクのハイライトだった。デカブリストの乱でシベリアに多くの人が流刑された。その1人、ヴォルコンスキーと、彼を追ってシベリアに来たマリアの家である。<br /><br />戦争と平和にヴォルコンスキーが登場するので分かるように、トルストイと関係が深いようだ。調度品などは都会風の立派なものだった。

    最後に訪ねたヴォルコンスキーの家がイルクーツクのハイライトだった。デカブリストの乱でシベリアに多くの人が流刑された。その1人、ヴォルコンスキーと、彼を追ってシベリアに来たマリアの家である。

    戦争と平和にヴォルコンスキーが登場するので分かるように、トルストイと関係が深いようだ。調度品などは都会風の立派なものだった。

  • 家の中を見終わって、コンサート。つぎに、突然シャンパングラスが出てきた。<br /><br />「さあ、マリア・ヴォルコンスキーがいつも歌ったように、歌いましょう。シャンパンだー、乾杯だー」<br /><br />司会者の音頭と共に、シャンパンの栓が抜かれ、なみなみと注がれた。

    家の中を見終わって、コンサート。つぎに、突然シャンパングラスが出てきた。

    「さあ、マリア・ヴォルコンスキーがいつも歌ったように、歌いましょう。シャンパンだー、乾杯だー」

    司会者の音頭と共に、シャンパンの栓が抜かれ、なみなみと注がれた。

  • 歌手も声を張り上げている。華やかなお祭り騒ぎになった。<br />

    歌手も声を張り上げている。華やかなお祭り騒ぎになった。

  • 夜の灯が瞬き始める頃、列車は出発した。いよいよバイカル湖だ。スリュジャンカのあたりから、バイカル湖岸鉄道を走ることになる。<br /><br />しばらく停車した後、列車が逆方向に走り出したので、しめたと思った。バイカル湖は私たちのコンパートメントの窓の外に展開するはずだ。<br /><br />8月29日。眠り込むのがもったいなくて、私は窓に張り付いていた。列車はゆっくりとバイカル湖の湖岸を進んでいる。<br /><br />満月をわずかに過ぎた月が明るく輝いている。湖に黒い帯が出来ている。はじめは堤防かと疑ったがそうではない。列車が進むと帯も移動する。月光が作る不思議な影なのだろうか。岸辺には月光に輝く波がある。<br /><br />全体にうっすらと霞んでいるように感じるが、これも月光の魔術なのだろう。オリオンの3つ星まではっきり見えている。快晴なのは間違いない。<br /><br />真夜中なのに飛行機雲が上っていくのが見える。それだけ月光が強いのだろう。<br /><br />少しまどろんで目を覚ますと、もう夜が白み始めていた。うす青い空の色がはっきりしてくる。西の空も赤くなった。<br /><br />やがて日の出だ。<br />

    夜の灯が瞬き始める頃、列車は出発した。いよいよバイカル湖だ。スリュジャンカのあたりから、バイカル湖岸鉄道を走ることになる。

    しばらく停車した後、列車が逆方向に走り出したので、しめたと思った。バイカル湖は私たちのコンパートメントの窓の外に展開するはずだ。

    8月29日。眠り込むのがもったいなくて、私は窓に張り付いていた。列車はゆっくりとバイカル湖の湖岸を進んでいる。

    満月をわずかに過ぎた月が明るく輝いている。湖に黒い帯が出来ている。はじめは堤防かと疑ったがそうではない。列車が進むと帯も移動する。月光が作る不思議な影なのだろうか。岸辺には月光に輝く波がある。

    全体にうっすらと霞んでいるように感じるが、これも月光の魔術なのだろう。オリオンの3つ星まではっきり見えている。快晴なのは間違いない。

    真夜中なのに飛行機雲が上っていくのが見える。それだけ月光が強いのだろう。

    少しまどろんで目を覚ますと、もう夜が白み始めていた。うす青い空の色がはっきりしてくる。西の空も赤くなった。

    やがて日の出だ。

  • 日輪は湖に輝く光の帯をつけて静かに上がった。

    イチオシ

    日輪は湖に輝く光の帯をつけて静かに上がった。

  • 列車はポートバイカルに着き、湖岸のリストヴャンカへ行く船に乗った。予想通り澄み切った水だ。<br /><br />遠く岸辺にはゴールデンイーグル号が停車している。

    イチオシ

    列車はポートバイカルに着き、湖岸のリストヴャンカへ行く船に乗った。予想通り澄み切った水だ。

    遠く岸辺にはゴールデンイーグル号が停車している。

  • リストヴャンカでは博物館などを見学した。バイカル湖には淡水に棲むアザラシがいる。野生のアザラシは見られなかったが、博物館では元気に泳いでいた。<br /><br />その後バーベキューの昼食となった。

    リストヴャンカでは博物館などを見学した。バイカル湖には淡水に棲むアザラシがいる。野生のアザラシは見られなかったが、博物館では元気に泳いでいた。

    その後バーベキューの昼食となった。

  • 船で列車に戻ってもまだ快晴であった。<br /><br />機関車が休んでいる。

    船で列車に戻ってもまだ快晴であった。

    機関車が休んでいる。

  • 列車は静かに動き出した。湖岸には赤や黄色の花。おだやかな湖面。対岸の山。見事な景色である。<br /><br />対岸の山は、陽を浴びて斜面が輝いている。時々山の上に来る雲も輝いている。山の形はつんと尖ったもの、ギザギザしたものと多様だ。いつまで見ていても飽きない。<br /><br />やがて、希望者は機関車に乗ることができた。風を感じながら湖を見下ろして進んでいった。青い湖は光の具合でいくつかの層に分かれていた。<br /><br />機関車から後尾の列車を撮ることもできた。<br />

    列車は静かに動き出した。湖岸には赤や黄色の花。おだやかな湖面。対岸の山。見事な景色である。

    対岸の山は、陽を浴びて斜面が輝いている。時々山の上に来る雲も輝いている。山の形はつんと尖ったもの、ギザギザしたものと多様だ。いつまで見ていても飽きない。

    やがて、希望者は機関車に乗ることができた。風を感じながら湖を見下ろして進んでいった。青い湖は光の具合でいくつかの層に分かれていた。

    機関車から後尾の列車を撮ることもできた。

  • 列車の待合停車時間を利用して再び下車して湖に接近した。小さな岬の様な所で、3人ばかりが湖に入った。人が泳いでいると水が澄んでいることが、よりはっきりする。

    列車の待合停車時間を利用して再び下車して湖に接近した。小さな岬の様な所で、3人ばかりが湖に入った。人が泳いでいると水が澄んでいることが、よりはっきりする。

  • 列車に帰り、ディナーを終えてコンパートメントに戻ってもバイカル湖が見えていた。そして、ようやく夕暮れとなった。<br /><br />対岸の山をはっきり写すことが出来るので写真撮影には好都合であった。

    イチオシ

    列車に帰り、ディナーを終えてコンパートメントに戻ってもバイカル湖が見えていた。そして、ようやく夕暮れとなった。

    対岸の山をはっきり写すことが出来るので写真撮影には好都合であった。

  • 8月31日。列車はモンゴルに入った。なだらかな丘陵地から木が消えた。所々にゲルが見える。

    8月31日。列車はモンゴルに入った。なだらかな丘陵地から木が消えた。所々にゲルが見える。

  • やがてウランバートルに着いた。早速、観光である。ウランバートルにはスリが多いというので、予備の小型カメラをジャンパーのポケットに入れて出発した。市の中心部では常用のカメラは車に残す積もりだった。<br /><br />最初の訪問先は郊外のチベット仏教のお寺。のんびりした雰囲気だ。<br /><br />寺の中を一回りして出ようとすると、朝青龍のような男が入り口で礼拝している。入ってくるのかと待っていても、入ってこない。それではと出ようとすると、やにわに朝青龍もどきが突進してきた。<br /><br />こんなところで相撲をとる気はないと、少し押し返しただけで、脇にどいて逃げた。バスに帰ってどうもおかしいと調べてみるとカメラがなくなっていた。<br /><br />郊外と安心していたのが失敗だった。それにしても、充電装置なしのデジカメは使い物になるまい。彼も骨折り損と思っているのではないか。<br />

    やがてウランバートルに着いた。早速、観光である。ウランバートルにはスリが多いというので、予備の小型カメラをジャンパーのポケットに入れて出発した。市の中心部では常用のカメラは車に残す積もりだった。

    最初の訪問先は郊外のチベット仏教のお寺。のんびりした雰囲気だ。

    寺の中を一回りして出ようとすると、朝青龍のような男が入り口で礼拝している。入ってくるのかと待っていても、入ってこない。それではと出ようとすると、やにわに朝青龍もどきが突進してきた。

    こんなところで相撲をとる気はないと、少し押し返しただけで、脇にどいて逃げた。バスに帰ってどうもおかしいと調べてみるとカメラがなくなっていた。

    郊外と安心していたのが失敗だった。それにしても、充電装置なしのデジカメは使い物になるまい。彼も骨折り損と思っているのではないか。

  • 市内観光の後、放牧中のゲルを見に行った。短時間だけれど馬に乗ることもできた。残念なことに、遠景にウランバートルの街並みが見えた。これさえなければ、モンゴルの大草原を旅する感覚を味わえたのであるが。<br /><br />まあ短時間で1つの国を経験できたのでよしとしよう。

    市内観光の後、放牧中のゲルを見に行った。短時間だけれど馬に乗ることもできた。残念なことに、遠景にウランバートルの街並みが見えた。これさえなければ、モンゴルの大草原を旅する感覚を味わえたのであるが。

    まあ短時間で1つの国を経験できたのでよしとしよう。

  • 昼食時には音楽などが披露された。

    昼食時には音楽などが披露された。

  • 9月1日。ウランウデに着き、オールドビリーバーズというギリシャ正教の分派が迫害を逃れて作った集落を見に行った。<br /><br />鮮やかに彩られた家々だった。シベリアの、しかも奥深くまで逃れて生き延びる、それを支えた信仰の強さは驚くべきだ。

    9月1日。ウランウデに着き、オールドビリーバーズというギリシャ正教の分派が迫害を逃れて作った集落を見に行った。

    鮮やかに彩られた家々だった。シベリアの、しかも奥深くまで逃れて生き延びる、それを支えた信仰の強さは驚くべきだ。

  • 民族衣装の人たちが歓迎してくれた。

    民族衣装の人たちが歓迎してくれた。

  • 市内には巨大なレーニンの頭像があった。

    市内には巨大なレーニンの頭像があった。

  • 9月2日。これから2日間、列車はシベリアの大地をひた走る。エクスカーションはなく、たまに停車するときホームを歩くだけだ。<br /><br />といっても退屈することはなかった。3度の食事に食堂車に出かけ、車窓を眺め、持ってきた本を読み進む。悠然と時が流れていった。<br /><br />

    9月2日。これから2日間、列車はシベリアの大地をひた走る。エクスカーションはなく、たまに停車するときホームを歩くだけだ。

    といっても退屈することはなかった。3度の食事に食堂車に出かけ、車窓を眺め、持ってきた本を読み進む。悠然と時が流れていった。

  • これは水を補給しているところである。

    これは水を補給しているところである。

  • 9月4日。列車は無事にウラジオストクに到着した。駅にシベリア横断鉄道の看板がある。

    9月4日。列車は無事にウラジオストクに到着した。駅にシベリア横断鉄道の看板がある。

  • 小雨の中を、港を中心に観光した。

    小雨の中を、港を中心に観光した。

  • 退役した潜水艦の中に入れたのは愉快であった。<br /><br />しかし、この街には、華やかさがなかった。

    退役した潜水艦の中に入れたのは愉快であった。

    しかし、この街には、華やかさがなかった。

  • 帰国は、大韓航空を使いソウル乗換とした。5日に大韓航空の便はない。もう1泊して次の日に乗ることになる。<br /><br />他の人はみな出発してしまい、私たちだけ、この街に残されるのではないか、と心配だった。ところが、お別れパーティーなどで聞いてみると、どうやら大韓航空を使う人もいるようだった。<br /><br />9月5日。ガイドを雇って日本人墓地にお参りした。シベリア抑留で、この地で命を落とした多くの人たち。<br /><br />一寸いるだけで、早く帰りたくなる土地に長い間留められ、しかも海の向こうは日本という状況に置かれたら、と思うと胸にこみ上げるものがある。<br /><br />9月6日。帰国の日だ。GWトラベルが用意したバスになんと13人が乗り込んだ。モスクワ経由でなく帰国する人たちのメインルートはやはりソウル経由だったのである。空港ではさらに、別行動した日本人ツアーの一行とも合流した。<br /><br />離陸した大韓航空の飛行機は日本海に出ず、中国に入り、領内を飛び続けた。さすがに危機管理がしっかりしている。<br /><br />迂回した飛行機は黄海に出てインチョン空港に着陸した。西側に帰ってきたのだ。<br />

    帰国は、大韓航空を使いソウル乗換とした。5日に大韓航空の便はない。もう1泊して次の日に乗ることになる。

    他の人はみな出発してしまい、私たちだけ、この街に残されるのではないか、と心配だった。ところが、お別れパーティーなどで聞いてみると、どうやら大韓航空を使う人もいるようだった。

    9月5日。ガイドを雇って日本人墓地にお参りした。シベリア抑留で、この地で命を落とした多くの人たち。

    一寸いるだけで、早く帰りたくなる土地に長い間留められ、しかも海の向こうは日本という状況に置かれたら、と思うと胸にこみ上げるものがある。

    9月6日。帰国の日だ。GWトラベルが用意したバスになんと13人が乗り込んだ。モスクワ経由でなく帰国する人たちのメインルートはやはりソウル経由だったのである。空港ではさらに、別行動した日本人ツアーの一行とも合流した。

    離陸した大韓航空の飛行機は日本海に出ず、中国に入り、領内を飛び続けた。さすがに危機管理がしっかりしている。

    迂回した飛行機は黄海に出てインチョン空港に着陸した。西側に帰ってきたのだ。

93いいね!

利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。 問題のある投稿を連絡する

この旅行記へのコメント (6)

開く

閉じる

  • olive kenjiさん 2021/07/17 20:52:06
    こんな列車が現存しているとは、びっくりぽん
    takasi先生、本来ならば新着のシャンペンツアーにコメントを書かなければいけない所、バーナーにこの旅行記があり、興味を惹かれここに書くことにしました。

    前にいいねしていたみたいですが、再読してびっくりしました。
    シベリア鉄道に、このようなゴージャスな列車が走っているとは知りませんでした。
    キャビンや食堂の装飾の素晴らしさに惚れ惚れするばかりです。

    私もシベリア鉄道を利用しましたが、先生も利用したと言っても、皆はこんな華麗なシベリア鉄道とは想像もしていないでしょうね。おそらくこのツアーの存在自体知らないと思います。
    下種な勘繰りですけど、日数と費用はいかほどの物なのでしょうか。
    聞く前に、私はおそらく乗車は無理だろうと決めていますけど。

    本当に、先生は謙虚だから口を大きくして話しませんが、びっくりぽん旅行ばっかりしています。
    今夜はシャンペンに列車の揺れに酔うばかりでございます。

    Takashi

    Takashiさん からの返信 2021/07/17 21:43:37
    Re: こんな列車が現存しているとは、びっくりぽん
    olive kenji さん

    こんばんは

    コメントを頂き、大変ありがとうございます。

    今思い出しても、夢のような列車でした。前泊、後泊を含めた列車ツアーの費用は一人当たり130万円ほどで、日数は16日(列車に乗っていたのは14日)と記憶しています。料金は正確には記録していませんが、2022年の費用は、私たちの乗ったクラスで22,000ドルとなっています。当時の価格はその7割ほどと想定され、そしてお金を払ったときはは1ドル80円に近かったので、大きく違っていないと思います。

    今は年金暮らしがだんだん骨身に染みるようになり、コロナをこれ幸いと、海外旅行は難しくなったねと言っていますので、大きな違いです。

    海外にはほとんど出なくても、国内の行きたいところは残っており、体力がさらに低下する前にとプラニングしていますので、やはりある程度の旅行費用がかかり、調子に乗りすぎないようにと自戒しています。

    シャンパンではなく、ビールでほろ酔いです。乱文お許しください。

    どうぞお元気で

    Takashi
  • sanaboさん 2016/01/16 13:58:42
    シベリア横断鉄道の旅
    Takashiさん、こんにちは

    いつもありがとうございます^^

    以前、(ローカルの人々が利用する普通の)シベリア鉄道に乗られた方の旅行記を拝見したことがあります。 ほとんどの人がその一部の区間を(旅行ではなく)足として利用し、食堂車はあるものの大半の人が自分で食料を持ち込んでいるようでした。

    それに比べ、ゴールデンイーグル号はロシア版オリエント急行ですね!
    通過する街の観光やバイカル湖畔のクルーズなど、さながらスケールの大きな観光バスの旅のようですね。 後続の列車に追い立てられる心配もないのでしょう。

    バイカル湖で泳がれた方もいらしたとは!  シャワー付きの個室なら、問題ありませんね(笑)

    ウランバートルでのカメラの件は驚きました。 お怪我等なくてよかったです。 幸い、予備のカメラとのことで、画像は入っていなかったのでしょうか・・・

    シベリア横断鉄道やバイカル湖という言葉の響きだけでロマンを感じます。
    今回も、Takashiさんらしい上質な憧れの旅を楽しませていただきました^^

    sanabo

    Takashi

    Takashiさん からの返信 2016/01/16 21:21:44
    RE: シベリア横断鉄道の旅
    sanabo さん

    こんばんは

    お便りありがとうございます。また、シベリア旅行記を読んでくださり、ご投票いただき、御礼申し上げます。

    もう、5年以上前になりますが、思い出深い旅でした。バイカル湖などは憧れていても、こういうツアーでないと決して訪ねなかった場所だと思います。機関車に乗って風を受けながらバイカル湖を見たときのことは今でも忘れられません。

    あのころはドル安でアメリカ人はごく少なかったのですが、今はまたアメリカ人がたくさん乗っているのかなと想像しています。

    モンゴルで小型デジカメを盗られたのは傑作でした。相手に芸があると、やられても、それぼど腹は立ちません。以来、小型デジカメは使わなかったのですが、ニューギニアに行くとき、水中用にと2つ買い、これからは陸上でもと思っていたら2つとも水没し、また小型がなくなりました。どうも縁がないのかもしれません。

    寒くなってくるようです。どうかご自愛ください。

    Takashi




    >

    sanabo

    sanaboさん からの返信 2016/02/24 15:36:53
    ありがとうございます。
    Takashiさん、こんにちは

    モンサンミッシェル旅行記をご覧いただきまして、ありがとうございました。

    2月の中米旅行は、もうお出かけになられたのでしょうか?
    旅行記を楽しみにお待ちしております。
    (Takashiさんの旅行記、すべて拝見させていただいてしまいましたので
    新作のUPが楽しみです。)

    インフルが流行っていますので、お気をつけくださいね。

    sanabo

    Takashi

    Takashiさん からの返信 2016/02/25 04:33:59
    RE: ありがとうございます。
    sanaboさん

    こんにちは (こちらの時間です)

    お便りありがとうございます。モンサンミッシェルは40年近く前に訪ねたきりで、記憶をたどりながら、楽しく拝読させていただきました。ことにモンサンミッシェルの日没と日の出は見ていないので、凄いなあと感心しました。子供を引き連れての旅で、sanaboさんのようには詳しく見学していませんでした。それでも、とても淋しい北の海辺にこんな物を作った信仰心に心を打たれました。欧米人の合理主義、闘争心、そしてある意味の冷たさの背後にこのような気候風土があったのかと思ったことは、まだ記憶に残っています。

    私の旅行記、すべて読んでいただきありがとうございます。無事に中米旅行に出かけ、最初の目的地トリニダードトバゴの訪問を終えマイアミに帰り、明日からコスタリカというところです。トリニダードトバゴでは深紅のトキの大群がねぐらに帰るというスペクタクルを目の当たりにし、旅行を計画してよかったと思いました。また投稿いたしますのでよろしくお願いいたします。

    Takashi




Takashiさんのトラベラーページ

コメントを投稿する前に

十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?

サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)

報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。

旅の計画・記録

マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?

ロシアで使うWi-Fiはレンタルしましたか?

フォートラベル GLOBAL WiFiなら
ロシア最安 568円/日~

  • 空港で受取・返却可能
  • お得なポイントがたまる

ロシアの料金プランを見る

フォートラベル公式LINE@

おすすめの旅行記や旬な旅行情報、お得なキャンペーン情報をお届けします!
QRコードが読み取れない場合はID「@4travel」で検索してください。

\その他の公式SNSはこちら/

タグから海外旅行記(ブログ)を探す

PAGE TOP