2000/02/20 - 2000/02/20
118位(同エリア148件中)
北風さん
まだ朝早い 6:30 。
同室のジョンも俺もとっくに目は覚めていた。
この記念すべき日に寝坊するわけにはいかない!
(いや、するはずがない!)
机の上の積み上げられたフィルムの山を、わしづかみでデイ・バッグに放り込みながら、ジョンがニヤリと笑いかける。
そう、予定では、今日こそが南極大陸に上陸する日だった。
そう、予定では、・・・ん?
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そう、予定では、・・・ん?
予定表には、その前に南極最大のジェンツー・ペンギンの巣がある Cuverville Island に上陸となっている?
さすが、南米発のツアー、一番大事な事をジリジリと先延ばしにする手口は、南米の女の子と同じ手口なのか? -
「ゴウン、ゴウン、ゴウン、ガ、ガ、ガ、ガ!」
船尾にあるクレーンが咳き込みながら、ゴムボートを吊り上げ始めた。
昔ニュージーランドのラフティングで乗ったような、分厚いゴムで覆われたゴムボートは、いかにも重く頑丈そうで頼もしい。
たった3日間とはいえ、(普通の船旅の何週間分にも相当するぐらい過酷だったが・・)船の中に閉じ込められていた観光客にとって、足下が揺れない外の世界、閉塞感の無い空間への憧れは強いらしい。
皆、ソワソワ、ウキウキしながら、静かに着水するゴムボートを見守っている。 -
まるで小学生の遠足の様に、きちんと2列を作って、紳士淑女の皆さんがニコニコとタラップを降りて行く。
さすが、こんな所まで観光に来るぐらいの旅行ジャンキー達だった。
あれほど衰弱していながら、好奇心という気力だけで立ち直っていらしゃる。 -
甲高いスクリュー音が、他に何一つ音が無い世界に突き抜けて行く。
初めて間近に見る南極の水面は、腰掛けているボートのゴム底が溶け込む様な、深く暗い闇の様な色だった。
不意に、イタリア人のおばちゃんの毛糸の帽子が風で飛ばされた!
「No!」
最初に声を張り上げたのは、ツアー・ガイドだ。
地味な海面にひときわ輝く、パステル・カラー色彩目がけて急いでUターンを開始!
ガイドが早口でまくしたてる!
南極条約により、南極観光では、外の世界からの物を何一つ残してはいけません!
無菌状態のこの大陸では、外界からの菌に免疫がないので、たとえツバでさえも吐かずに飲み込んで下さい!
・・・隣で、ハンカチで鼻をかもうとしていたアメリカンのおじちゃんの、鼻をすする音が聞こえてきた。 -
えっ、岩場?
この非現実的な氷の世界の中で、世界中どこででもよくみる普通の磯浜みたいな場所がグングン近づいてくる。
あそこに上陸するのか? -
久々の陸地、しかも南極大陸発上陸!(正確には南極大陸の島だけど)のはずなのだけど・・・
結構な勢いでボートの舳先がズザザザッと大きな平たい岩の上に乗り上げると同時に、ガイドがテキパキ、チャッチャッとロープで固定、追い立てる様に大声で下船指示を叫ぶ!
あれよあれよという前に、南極に立っていた。
・・・感動やら感傷やら感想は、未だにボートの上に置き去りにされている気がする。 -
岩場の奥は・・奥は・・緑の大地だった。
下船時のドタバタも一段楽して、ツアー客もそれぞれ南極の空気を、南極の雰囲気を、思う存分味わっていい時間だ。
しかし、何だろう?この「ん?」という様な雰囲気は。
一面氷の世界の中、吐く息の白さだけが生命の息吹を感じる様な世界をイメージしていたのだけど・・
海の向こうの南極大陸の白い大地がここには見当たらない。 -
ペンギンがいた。
しかも、山ほど!
しかも、全く警戒心が無い! -
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よくよく見ると、妙に毛深い。フサフサしている。
ガイドによると、まだ子供で生毛状態らしい。 -
ガイドが「ペンギンに触らないで下さい!南極では生存する生物との接触は禁じられています!」と大声で叫んではいるのだけど・・・
ペンギンを撮影する為にしゃがんでシャッターを切っているカメラマンの背中を、好奇心で「ガッガッ」と突っついてくるこの状態で言われてもなぁ。 -
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ペンギンの丘
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ペンギンの谷
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旅日記
『ペンギンを撮る者を観るペンギン』
ベストショットを見定めて、ジョンは三脚を組立て始めた。
プロカメラマン並みの高性能一眼レフを覗き込みながら、右に左にレンズを振ってシャッター切りまくる姿は、戦争映画に出て来るパニクったマシンガン掃射手そっくりだ。
同じ種族の目にも奇異に映るハッスルぶりは、鳥類の目にも奇妙に映るらしい。
いつしか、このニュージーランド産のヒト科の生物の背後には、続々と南極産の鳥類が集合し出した。
10分後、撮影者の異常な興奮ぶりに、レンズの前のペンギンは次第にドン引きして行き、撮影者の背後には鈴なりにペンギンが溢れているという不思議な状況が誕生!
15分後、その異様な光景を写真に残そうとする観光客の輪がその外周に誕生!
・・・ジョンは、いつしか撮る者から、撮られる者になっていた。 -
「そろそろ帰還しますよ」とのアナウンスでバビロフ号を振り返ると、既に多くの視線を一身に集めている状態だった。
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