今回の出張では、サンクトペテルブルクからバンガロールへ移動することになった。このルートで唯一乗り継げるのはヨーロッパ航空会社の雄、ルフトハンザ航空、フランクフルトでの待ち合せの間に、隣町のヴィースバーデンを訪れることにした。フランクフルト空港からＳバーンで30分、ドストエフスキーが逃避行してギャンブルに身を持ち崩し「賭博者」を書くきっかけとなった町でもある。<br /><br />ヴィースバーデンのドイツ語の意味は「草原の温泉」、古代ローマ帝国の時代より温泉保養地として、現在ではカジノで知られている。現在は人口約28万人、フランクフルト・アム・マインに次ぐ第２の都市であるがヘッセン州の州都であり、マイン川とライン川の合流点に位置する河川交通の要衝である。この地はかつてケルト人、ローマ人が支配し、６世紀に入るとフランク王国の支配下に入った。伝記によると、カール大帝（シャルルマーニュ 742-814年）がこの地に逗留している。<br /><br />ドストエフスキーは愛人とのヨーロッパ旅行中、この町でルーレット賭博にはまった体験に基づいて「賭博者」を1866年に完成した。舞台はドイツの架空の町、ルレッテンブルク（ルーレットの町）。25歳の家庭教師アレクセイと老伯爵婦人が熱に浮かされたように賭博にのめりこむ姿が描かれている。「罪と罰」の執筆の傍ら構想されたため、時間の節約上口述筆記で完成された。先払いの原稿料も使い果たし、宿泊していたナッサウアー・ホーフ・ホテルの宿泊料も踏み倒したという。<br /><br />この町のシンボルは、1907年に皇帝ヴィルヘルム２世の庇護のもとに建てられたクアハウス、カジノとコンサートホールを持つ複合建築である。その円柱に支えられた入口には「Aquis Mattiacis（温泉場）」と刻まれている。ただしこのホールに温泉が併設されているわけではない。2004年まで上岡敏之氏がヘッセン州立歌劇場の音楽監督だったが、彼らのシンフォニーコンサートの本拠地である。クアハウスの両側にはカジノと州立歌劇場が並んでおり、いかにもバーデンの名にふさわしい。またドストエフスキーが滞在したナッサウアー・ホーフ・ホテルはクアハウスの正面にある。<br /><br />旧市街にはプロテスタントのマルクト教会がひときわ目立つ。1862年建築家カール・ボースによって建てられたネオゴシック様式の三廊のバジリカであり、西の塔は92ｍの高さがありヴィースバーデンの街で一番高い建築物である。教会の前にはヴィルヘルム・フォン・オラニエン沈黙公（1533-1584）の記念像がある。<br /><br />ヴィースバーデンは、本来数日をかけてクアハウスで温泉保養をする町である。多くの観光客は、ローマ時代から知られた温泉プールに水着を着て泳いで、優雅な時間を過ごすのである。今回はもちろんそんな時間的な余裕はないが、いつか再び訪れてみたい町である。

ヴィースバーデン滞在記：カール大帝やドストエフスキーも逗留した温泉保養地（改訂版）

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2011/07/27 - 2011/07/28

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今回の出張では、サンクトペテルブルクからバンガロールへ移動することになった。このルートで唯一乗り継げるのはヨーロッパ航空会社の雄、ルフトハンザ航空、フランクフルトでの待ち合せの間に、隣町のヴィースバーデンを訪れることにした。フランクフルト空港からＳバーンで30分、ドストエフスキーが逃避行してギャンブルに身を持ち崩し「賭博者」を書くきっかけとなった町でもある。

ヴィースバーデンのドイツ語の意味は「草原の温泉」、古代ローマ帝国の時代より温泉保養地として、現在ではカジノで知られている。現在は人口約28万人、フランクフルト・アム・マインに次ぐ第２の都市であるがヘッセン州の州都であり、マイン川とライン川の合流点に位置する河川交通の要衝である。この地はかつてケルト人、ローマ人が支配し、６世紀に入るとフランク王国の支配下に入った。伝記によると、カール大帝（シャルルマーニュ 742-814年）がこの地に逗留している。

ドストエフスキーは愛人とのヨーロッパ旅行中、この町でルーレット賭博にはまった体験に基づいて「賭博者」を1866年に完成した。舞台はドイツの架空の町、ルレッテンブルク（ルーレットの町）。25歳の家庭教師アレクセイと老伯爵婦人が熱に浮かされたように賭博にのめりこむ姿が描かれている。「罪と罰」の執筆の傍ら構想されたため、時間の節約上口述筆記で完成された。先払いの原稿料も使い果たし、宿泊していたナッサウアー・ホーフ・ホテルの宿泊料も踏み倒したという。

この町のシンボルは、1907年に皇帝ヴィルヘルム２世の庇護のもとに建てられたクアハウス、カジノとコンサートホールを持つ複合建築である。その円柱に支えられた入口には「Aquis Mattiacis（温泉場）」と刻まれている。ただしこのホールに温泉が併設されているわけではない。2004年まで上岡敏之氏がヘッセン州立歌劇場の音楽監督だったが、彼らのシンフォニーコンサートの本拠地である。クアハウスの両側にはカジノと州立歌劇場が並んでおり、いかにもバーデンの名にふさわしい。またドストエフスキーが滞在したナッサウアー・ホーフ・ホテルはクアハウスの正面にある。

旧市街にはプロテスタントのマルクト教会がひときわ目立つ。1862年建築家カール・ボースによって建てられたネオゴシック様式の三廊のバジリカであり、西の塔は92ｍの高さがありヴィースバーデンの街で一番高い建築物である。教会の前にはヴィルヘルム・フォン・オラニエン沈黙公（1533-1584）の記念像がある。

ヴィースバーデンは、本来数日をかけてクアハウスで温泉保養をする町である。多くの観光客は、ローマ時代から知られた温泉プールに水着を着て泳いで、優雅な時間を過ごすのである。今回はもちろんそんな時間的な余裕はないが、いつか再び訪れてみたい町である。