2010/01/10 - 2010/01/11
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のうりかさん
シンガポールでnakaさんとの約束を果たした感動さめやらぬまま香港へ。
香港にわざわざ立ち寄るつもりになったのは、キャセイで乗継だから?
いや、同日に乗継ぎで帰国しては後悔しそうだったというのが正直なところ。
シンガポールをお気に入りのディスティネイションとしている4traメンバーのみなさんに、先の旅行記を読んでいただいたばかりにもかかわらず、これから僕のシンガポール感を開陳するのはいささか心苦しいが、旅の旅程を組んだとき、シンガポールは中国文化の「東南アジア統括ブランチ」なのではないか?と思っていた。
ニューヨークが人種の「るつぼ」ではなく「サラダボウル」であったように。
世界中のチャイナタウンが独特のコミュニティを形成しているように。
ならば、帰り道の香港でもう少し考えてみたいと思ったのである。
顧みれば昨年は訳あって台湾ROCへ3回も行ってしまったことも、この「中国」という二文字では片付けることができない、自分のなかでどうにも整理できない部分をなんとかしたいという意思へ方向づけたことは否定できない。
香港での滞在は約19時間の予定。
移動の時間と睡眠を考えると、動ける時間は10時間もない。
では、ご一緒に少し急ぎましょう。
まずは空港からエアポート・エクスプレスで。
(タイトルを疑問に思った方は、ご面倒さまでもシンガポール編http://4travel.jp/traveler/nikotora/album/10422115/へ飛んでください。)
- 旅行の満足度
- 4.0
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 鉄道 タクシー 飛行機
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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-
CX714は15:10のほぼ定刻どおり香港国際空港へ到着した。
冬晴れの空。
往路乗継のどんよりとした湿気のある曇天を思い出す。
ピープルムーバーで入国審査エリアへ移動。
それなりに並ぶ。
チャンギの入国審査が速かったのはターミナルが3つもあるからだった。
バゲージをピックアップし、機場快線(AEL)のパスを購入。
なぜMRTで市内へ行くかというと、空港内の到着フロアと同じレベルでAELのホームがあるから。
実はこれ、成田からリムジンバスを使うのも同じ理由だった。
世のオヤジたちは、一杯ひっかけたいと思ったとき、目の前の暖簾をくぐる。
またはバーへ続く階段を下りる。
しかし、階下のバーは再び階段を上って娑婆へ出なければならない。 -
この空港駅には改札がない。
チケットのパスを降りるときにセンサーにタッチするだけ。
MRTのwebには事前にパスを購入できる案内もある。その場合は、いきなりAELで空港から乗り、降りた駅の改札にある案内所でパスを引き換える。
九龍駅で降りて上の階へ。
ここでシャトルバスに乗ってホテルへ。
いつの間にか曇り空になった。 -
今夜のホテルは、シェラトン・ホンコン。
https://www.starwoodhotels.com/preferredguest/property/overview/index.html?propertyID=482
ついでに言うとペニンシュラの隣。
僕が3年前にルネサンス・カオルーンに宿泊した旅行記をおぼえている人は、
「あれ?またルネサンスじゃないの?」と思うでしょ?
僕も泊まりたかったよ。
でも3年前のあの部屋はもう2,000HKD以下で泊まることはできなかったの。
それだけ。 -
シェラトンの部屋が狭いのは百も承知。
それでも予約した理由はヴィクトリア湾が眺望できて、ペニンシュラやインターコンチネンタルのように異常な料金ではないこと。
異常なレートには個人差があるな。
僕にとって香港のホテルに一人で泊まるなら上限はペニンシュラの1/2。
もし女房と一緒でも同じだな。
行って来たばかりのシンガポールなら、ラッフルズの半額が上限だと思う。
でも、ペニンシュラの西隣にあるYMCAに最近心惹かれているのね。 -
さて、シェラトンは本当に狭かった。
まず廊下が。団地間サイズか?
部屋はコーナーをあててくれたおかげで、窓が多い分開放感がある。
一人で泊まるなら十分だ。
グッドウッドパークが広すぎただけだったんだ。
ビクトリア湾を行き交うフェリー。
離島を連絡している。 -
隣のペニンシュラ本館。
最上階にテラスがあるんだね。
冬の夕暮れは早い。
香港とてその例外ではない。
香港島のビル群に灯りが輝きはじまった。 -
天気は崩れるようだ。
尖沙咀を歩く予定も変更かな。
このままこの部屋で眠ってしまいそうだ。
いかん。
旅はフレキシブルに行動しなければ。 -
靴を履いて、ギター弾きを囲むゲストを横目にロビーをぬけ、ネイザンロードへ出る。
-
今回の旅に冬のコートは必要ないと、成田空港の出発ロビーで預けた。
少し肌寒い尖沙咀の夕暮れ。
まだ食事じゃないな。 -
一杯やろう。
ここは尖沙咀。
新橋でも数寄屋橋でもない。
ゆえに縄暖簾はくぐらない。
目指したのはペキンロード・ワン。 -
エレベータで29階へ。
AQUA
http://www.aqua.com.hk/#/?eng&aqua&concept
時間がたっぷりあるなら、およそ思いつかなかったバー。
エレベータのドアが開いてスタッフがお出迎え。
飲むだけだ、と言うと階上へ案内される。
やたらと暗い。
暗順応しないとコケそう。 -
はたしてコケずに上ったバースペースには、一面に光の洪水。
-
琳と名乗る女性スタッフがテーブルへご案内。
メニューを渡されて、「飲みものは何にしますか?」とリン。
このリン、若い小姐ではない。
つまり、弾けるような明るい笑顔と元気な声を想像してはいけない。
「このシャンペンのおつまみセット、ちょうだい」とお得なメニューを指して僕。
するとこのリン姐さん、とんでもないことにこう言ったのだ。
「こんなの選んじゃダメよ。このカナッペは最低。シャンペンだけになさい」
リンの言葉があまりにも説得力ありすぎで、再びメニューのモエのピンクを指すネコオヤジ。
「グッド・チョイス!」と不気味な笑顔で去って行くリン姐さん。 -
香港に来てよかった。
こんなに失礼なスタッフにはそうそうお目にかかれない。
シャンペンがヘンテコな飾りつきで運ばれてきた。
「こりゃ、何だ?」と飾りを指して僕。
「マンダリンよ」とリン姐さん。
「そうじゃなくて、この形は?」と僕。
リンは笑って、「アクアのデザインよ」と答えた。
アクアのデザイン?
周りを探すと、確かにバーカウンター越しの壁面に、新興宗教のシンボルのようなマークを見つけることができた。 -
AQUAは29階のアクア・ローマとアクア・トーキョー、そしてこの30階のアクア・スピリットから構成されている。
魚と酢飯の香りがほのかに漂う。
ときどき完璧だと思う瞬間がある。
仕事中に「俺ってやっぱり天才!」と両手を挙げるポーズはみんなの顰蹙をかっているのは重々承知してはいるが、そういう冗談ではなくて。
今夜のこの夜景を完璧だと思ったのだ。
たぶんそれは今回のシンガポールへの旅に満足したのだと自分がわかったから。 -
シャンペンが空になったころ、やっぱりというか当然登場するリン姐さん。
「おかわりしますか?」
「いや、カクテルがいいな」
メニューを再び渡されて、リンは僕のオーダーを待つ。
「アクアティーニだね!」
の僕に、またきたきたリンの逆襲。
「みんな名物だからってオーダーするけど、美味しかったって言う人がいないのよ。やめたほうがいいと思うわ」
この不思議な「気」は、なんだろう?
儒教の教えがここに極まっているのか?
僕も普通ではないらしい。
こんな状況なら、「お前の接客はおかしい!」と迷わず言っているところだ。
しかし、このお姐さんにはそう言わせない不可思議な佇まいがあった。
僕は外国に行くと、必ず眼を見て話するようになる。
そうしないと自分の意思が相手に伝わったかどうか、わからないから。
「んー、じゃ、マルゲリィータ!」と叫ぶネコオヤジ。
ニッコリと去っていくリン姐さん。
どうやら彼女の期待した答えだったらしい。 -
ここは「注文の多い料理店」か?
宮沢賢治でいちばん好きな作品は、
「グスコーブドリの伝記」
彼の童話に一貫するもの。
それは、
「みんなにとっての幸い」だろう。
醜い夜鷹も苦悩したのち輝く星になった。
蠍の炎が赤いのはいつまでも自分の身を焦がし続けているからだ。
彼の代表作はけっして「銀河鉄道の夜」ではない。
リンが近づいてきた。
「おまちどうさま!」
マルガリータがてんこ盛り。 -
リンが去らない。
眼は「早く、ひと口飲んでみろ」と言っている。
ネコオヤジはグラスに口をつけ、
「好吃!」
2人とも不気味な笑顔を交わす。
「どこで覚えたの?中国語」とリン。
うーむ、香港人とはいえ、広東語を話す人からそう言われるのはかなり恥ずかしい。
実はネコオヤジは中国語が話せない。全く。
知っている単語を表情もそれっぽく言ってみただけ。
「実は中国語が話せない」と白状するネコオヤジ。
「そんなはずないわ。何か知ってる言葉があるでしょう?」
って、アンタは僕の先生かい? -
ふと、自分でも信じられないフレーズが口から出る。
「我愛尓;(ウォーアイニー)」
リン姐さんの驚いた顔、見せたかったな。それから赤面しながら、
「誰に教わったの?そんな言葉」と必死に笑いをこらえている。
「映画だよ。フランス映画、タイトルは『パリ・ジュテーム』。オムニバスの中の一話で、アイニーというセールスマンが中国人美容師から『愛尓』だと気に入られる話」
「あなたって変わってるわ」の言葉を残し、退場するリン姐さん。 -
マルガリータのグラスも空にして、リンを呼んでお勘定。
「美味しかったでしょ?これからどこ行くの?」ってナンノブユアビジネス。
「そのとおり。君のアドバイスは完璧だった。これからご飯たべて明日の朝、日本へ帰る」
キャッシュで払う。
もちろんリン姐さんにはティップ。
「また来てね!」ってここはナイト・クラブじゃないだろ!
席を立とうとしたとき、リンは
「さっき言ってた映画のタイトル、『ジュテーム』ってどういう意味?」と聞いてきた。
僕の発音は悪い。リンが仏語を知らない?まあいいや。
「je t'aimeはI love you」
と答えると、右手の人差し指と親指でビンゴのサイン。
よっかた。
蹴りの一つでも飛んでくるかと思った。 -
外へ出て人の流れに向かっていくと、現れたのは、
「1881ヘリテージ」
http://www.1881heritage.com/flash/#/en/home/
なに、これ。
香港水上警察本部だったビルをショッピングモールにしたらしい。
レストランとホテルもオープンする予定とか。http://www.hulletthouse.com/
香港のスクラップ・アンド・ビルドは進む。
何百メートルもの竹の足場を継ぎ足して。 -
上海灘
http://www.shanghaitang.com/
尖沙咀には3店舗ある。
シンガポールの高島屋にも入っているらしい。
日本上陸はしないだろうな。
ここまでのデザインが東京で受け入れられるとは思えないから。 -
ホテルへ帰ろうと思っているのだけど、回り道。
「重慶大厦」
チョンキン・マンションを少しだけ。
両替商に携帯電話、上階のゲストハウスへエレベータ待ちの列。
圧倒的なインド系雰囲気。 -
香港映画はトニー・レオンが好きだ。
「Chunking Express」(中国原題は「重慶森林」)では金城武も競演しているが、主役はトニー・レオンでもカネシロでもなく、フェイ・ウォンだろう。
http://www.youtube.com/watch?v=Dt7V3gswMSg
なぜこの作品のタイトルが「恋する惑星」になったのかが疑問。
ウォン・カーウァイは抗議しなかったのか?
おかげで、僕は香港を「Another Planet」と呼ぶようになった。
トニー・レオン(梁 朝偉)は僕と同じ生まれ年。彼の演じる警官633が、鍵を手に入れたフェイ・ウォンによって部屋の模様替えをどんどん進められても、失恋の悲しみで気づかないあたりが笑える。 -
「重慶森林」(中国原題)の金城武が眠りについた謎の女の靴をそっと脱がしてあげるシーンを思い出した。
部屋へ戻ると、なぜかは知らねど、なんとシャンペンとイチゴにチョコレートが届いていた。
なんだっけ?
プリントしていた予約の詳細を確認。
いちばん安いレート、ロマンス・パッケージを予約していたんだった。
朝食つきで2,300HKDなり。
一人だとあまりお得感はない。
しかし、タワールームのレートが異常だったので。 -
午後8時まで、本を読む。
ストリックランドがどうやってマルセイユから脱出したかの話。 -
8時に鳴るアラーム。
「シンフォニー・オブ・ライツ」
http://www.tourism.gov.hk/symphony/
美しいレーザーの光を肴にシャンペンで乾杯。 -
前回のアヴェニュー・オブ・スターズから鑑賞したときとの違いは「音」が聞こえないこと。
ここで活躍するのが部屋のFMラジオ。
意外だった。
FM 103.4 MHz (English)で音楽とナレーションが聴けます。
お試しください。 -
写真はキャノンIXY-25Sが頑張った。
問題は手ぶれ。
三脚に頼っても、コンパクト・デジカメにリモコンがないかぎりは解消できない課題だな。
お腹はすいた。
本はいよいよ15年後のタヒチへ、というところ。 -
時計は午後9時をまわった。
いつまでも、こうして香港島の夜景を見ていることもできそうな気持ち。
思いついた店は「覇王山荘」
http://www.kings-lodge.com/eng/index.html
尖沙咀店。
ホテルの裏からシグナル・ヒルの路地を通り、漆咸道へ。
ネコオヤジは道に迷わない。 -
覇王山荘は1階に麺と小龍包の皮をつくる作業場がガラス張りになっている。
2階へ案内された。
2階もほぼ満席。
お茶とお通し代が15HKD加算される。
けど、美味しいから許す。
ビールを注いでもらって・・・。 -
覇王小籠包
ここの看板メニュー、小籠包。
「2006年飲食天王」の栄誉に輝いたらしい。
針生姜入りの黒酢で食べる。
と、
老重慶擔擔麺
タンタン麺。麺は幼滑麺という細い麺。
メニューには唐辛子マークがついているけどそんなに辛くない。
実はこれ、3年前と同じオーダー。
しかも同じ店。
進化していないネコオヤジ。
猫の道はネコ。
だって、安くて美味いんだもん。 -
ホテルへ帰るルートで遭遇した光景。
「華記小食」
なんだか、台北へ行きたくなった。 -
シェラトンへ帰る。
明日のパッキングをして、風呂に入る。
テレビを少々。 -
眠くなったので寝る。
人間の正しい機能を確認するとき、僕はとても安心する。
J.D.サリンジャーの傑作短編集「九つの物語」。「エズメのために」の最後にはこう書かれているから。
「真の眠気を覚える人間はね、 元のようなあらゆる機能が… そう、あらゆる機能が、 無傷のままの人間にもどる可能性を必ず持っているんだよ。」(野崎孝訳)
You take a really sleepy man, Esmé, and he always stands a chance
of again becoming a man with all his fac—with all his f-a-c-u-l-t-i-e-s
intact. -
翌朝、ルームサービスが届けられるチャイムで目が覚めた。
まだ外は暗い。
小雨が降っているようだ。 -
本日の朝食は「お粥」
昨日もそうだったっけ?
違うのは飲み残しのシャンペンがあるかないかだ。 -
チェックアウトして階下のタクシー乗り場へ。
赤いタクシーが次々にゲストを乗せて出て行く。 -
ペニンシュラの前を過ぎる。
グランドツアー全盛の時代、このホテルの前にはパンナムの飛行艇・クリッパーが発着していたそうだ。
ホテルにはもちろんチケットカウンターがあったという。
LとVのモノグラムがデザインされたバッグを思い出す。
日本国市民が愛してやまない、かの鞄屋を僕が嫌っているわけではないが、どうせ一生モノを持つならハンパなことはしてほしくないと思うだけだ。
たとえば、あの鞄屋の帽子を入れるケースを持った日本人ツーリストに会ったことは未だにない。
それを持って後ろから御付の者がつづく光景に出会ってもいない。 -
雨がそぼ降るネイザンロードを九龍駅まで。
タクシーの運転手に、お釣りはとっておいて、と言うと丁寧に礼を返された。
AELのインタウンチェックイン。
バゲージを預ける。
CX520便は10:20の出発。
空港へはあっという間に到着した。 -
出国のスタンプを押され、CXのラウンジへ。
ヌードルバーのサービスは朝メニューのバンブー饅頭。 -
意外にも、持参した「月と六ペンス」をまだ読み終えていない。
CXのラウンジ・ピアでPCを開き、メールをチェックした後、再び新潮文庫を取り出した。
主人公がタヒチでニコルズ船長に会いストリックランドの話を聞くあたりから・・・。 -
搭乗の時間が近づき、成田行きのCX520便に乗り込む。
-
シャンパンを飲みながら久しぶりに日本語で書かれた新聞を広げた。
雨の香港国際空港。
数年前の香港旅行記で僕は確かに「エアコンなしではいられない街」と書いた。
それでも、香港市民は自分たちの住むところに季節が、四季があると言うのだろうか。
新聞の投書面ではない小さな枠つきの読者投稿に目がとまったのは、何かのサインか?
リタイヤして自分の庭の花の写真を撮りはじめたという方が、投稿した文章のなかで紹介していた新聞の記事は、1月3日に藤原新也氏が書いた内容からのもの。
藤原氏の記事を紹介する前に、この花の写真について投稿した方の内容を説明しなければならない。
この方が自分の撮った花の写真を先輩に見てもらった評は、
「あなたの写真には間がない」
だった。
その方が同時にもらったアドバイスは、もっと余裕をもって花と向き合あえば、格段にいい写真が撮れるはずだ。というもの。 -
僕が4traでupする写真はコンデジなので、「それなり」のモノでしかないが、僕が信条とする写真は広角だ。
望遠レンズではけっしてない。
4traで望遠を多用した写真の旅行記に出会うとき、軽い「めまい」を感じる。
と、までいかなくても「違和感」のようなもの。
それがどんなに美しく撮れていても、僕は撮った人の目と同じではない。
そこにあるのは、撮った人の劇場型心情を綴った一葉、一葉だ。
さて、その藤原新也氏の記事である。
(『コミュニケーションと社会』藤原新也、朝日新聞2010年1月3日より)
「2010年代のコミュニケーションの姿を考える手がかりに、この10年間のコミュニケーションはどうだったのか、思い巡らせてみた。・・・」
の書き出しではじまった考察は、SMAPの草薙くん事件を、「今のどこにでもいる若い子のコミュニケーションを巡る風景とそっくり、」と言っているのだが、僕が写真に対して持つ考え方をいみじくも言い当てているのは次の部分だ。
「今の若者にはおしなべてこの草薙さん型の『いい子キャラへの過剰反応』が見られる。まず会話に「間」がない。
相手の言葉を咀嚼する前にすぐ同調の言葉を発する。
周りの雰囲気を壊さないよう、グループからはじき出されないように注意深く会話し、いい子を演じることが身についている。
(中略)・・・その目に見えない風圧にさらされ、いい人を演じて波風の立たない気持ちの良い人間関係を作ることに個々人が腐心する。
そこには、相手の言葉や行為を正面から受け止め、たとえ軋轢が生じても自らの思い、考えを投げ返すという、本当の意味のコミュニケーションが希薄だ。」
とし、
藤原氏はこれらの現状を世界的に共通する「空気読み」だと言っている。 -
しかもそれは「2001年の同時多発テロ事件以降の一般的傾向」としているのだが。
この部分には藤原氏へ、いささかの反論を禁じえない。
たぶん、と言う懐疑的な間投詞は適切でないと思うが、日本国政府、あるいはそれを選んだ日本国市民は藤原氏の言うように、「空気読み」で動いているのかもしれない。
しかし、世界は違う。
経済の大きな流れの中で世界が動いていることは否定しないものの、世界が仲良く「空気読み」していたならば、京都議定書はすんなり批准されていたはずなのだ。
COP15に地球を滅ぼす2大国、中国とインドが渋々ながら参加しているのは、先進国からの資金援助を引き出せるという思惑が全てであって、妥協できる最低の数字を飲んでいるにすぎない。
イラクから撤退し、アフガンへ増派させようとする合衆国政府に今後、何のためらいもなく追随するのは、それこそ「空気読み」で動く日本国政府だけではないのか?
興味深い点は、氏が、
「ネット社会が臨界に達したときに、ゆり戻しが来るのではないかと期待をしている。そしてその兆候がかすかに見えている面もある。」
と見ていること。
ネットで音楽を買うことが主流となった今、大物アーティストがライブに回帰している現象を挙げ、AKB48の握手会も同様に身体性の復活を予言する。 -
CX520便は定刻通りドアクローズ。
小雨のランウェイへ。
遠ざかるランタオ島。
ここで、今回の旅の道連れというか、今となっては少々やっかいな気にもさせてくれる文庫本との決着をしなければならない。
最終章をもう一度読んでみた。
「月と六ペンス」
残念ながら、僕にはいささかの感動も与えることはなかった。
書評の先生方を含め、僕に「通俗小説だな」と言い放ったかつての恩師は正しかったのだ。
僕は「月と六ペンス」に英国文学にかすかに感じ取れるシェイクスピアの戯曲をみていた。
それは主人公である「僕」が狂言回しを買って出ているようなもの。
読み進むうちに、主人公の「僕」は、ロアルド・ダールの「Someone Like You」のごとく、この本を読んでいるはずの「僕」なのではないかという錯覚に陥る。
どこまで付き合えばこの小説は終わるのか? -
モームは48章で「僕」にこう言わせている。
「実は、ここでこの本の筆をおこうと思ったのだ。僕の最初の考えは、まずはじめにタヒチにおける晩年のストリックランドの生活と、その凄惨な死態について語り、それから逆に、僕の知るかぎりの初期の彼について描いてみようと思った。もっともそれは奇を好んでそうしたかったわけではない。ただストリックランドが、その想像を刺激された未知の島々に対して、なにかしら数々の神秘的空想を抱きながら、はるかに船出して行ったという、そこで筆をおきたかったのである。・・・」(新潮文庫:中野好夫訳)
それでも「僕」はロンドンへ戻り、ストリックランド夫人に会い、ストリックランドがタヒチでどんな生活をおくり、最後をとげたかを夫人に話すことなしに、この小説との決着はありえなかったのだと思う。
「僕」は夫人とその家族に、アタとその間にできた子供の部分を話さなかった。
必要がないと思ったからだろう。
ストリックランドのことを話し終えた「僕」は突然、彼とアタとの息子を思いだす。
「人の話では、陽気で快活な青年だということだった。粗木綿ズボン一つで、小型帆船に働いている彼の姿を心に描いてみた。
・・・仰げば青空と、空いっぱいの星屑だ、そしてあたりは見わたすかぎり、あの太平洋の蒼茫だ。」 -
キャセイの空中小姐がアントレーを運んできた。
本を閉じて浮かんだのはゴーギャンの描いた絵。
http://www.mfa.org/node/464(ボストン美術館所蔵)
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」
D'où venons-nous? Que sommes-nous? Où allons-nous?(Paul Gauguin)
目を閉じれば、僕が「シンガポールに輝くもう一つの星」と断言したnakaさんの濃い髭面。
そしてグーグル・マップをクリックしたかのように。
アジアのマレー半島の先っちょのシンガポールのオーチャードのカッページプラザの3階の片隅にあるちっちゃな世界でじゃがいもん皮むいているnakaさんの姿が、キラキラと、鮮明な3Dホログラムのように僕のもつグラスの中に描かれた。 -
2010年1月現在、Googleは昨年末中国を発信源とする大規模なサイバー攻撃を受け、、「われわれはこれ以上、検閲を容認し続けることはしないと決断した」と中華人民共和国当局を相手に、「ラ・マンチャの男」よろしく、宣戦布告という実に英雄的行動に及んでいる。
中華文明と欧米文明の衝突とするにはやや無理があるが、ドン・キホーテはサンチョパンサを伴に風車めがけて突進したのだ。
グーグルとTwitterがかの国で人々の知るところになることはこの先もないだろう。
世界はいつまでも悪役を必要とする。
それは、おそらく、根拠の不確実な正義を掲げる者によってであったとしても。
〜 FIN
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この旅行記へのコメント (4)
-
- nakamasananiwaさん 2011/01/07 10:48:26
- ♪♪♪
- のうりかさん、毎度です♪
熟成された香港のホテルの匂いが漂い出てくるような気がして画面くんくんしちゃいました。
寝かせる事で熟れるのは知ってた気がするけれど新しい発見もあるのですね、夢に段階があるように
ほなまた
- のうりかさん からの返信 2011/01/07 20:38:12
- RE: ♪♪♪
- nakaさん、おこんばんわ!
Welcome Back !
タイのきれいな海は楽しめましたか?
今年もよろしゅうにおたのもうします。
(こういうへんな外国語使うから怪しいオヤジと言われるんだよね)
さて、やっとnakaさんにコメントをいただいて、もうこれ以上の満足は
ありません。
それだけ。
それではまた、サマッセット駅からオーチャード大通りをこえたカッページ・プラザでお会いしましょう!
なにわの大将へ。
のうりか。
-
- マーフィーさん 2011/01/05 21:21:58
- 年内アップおめでとうございます!
- のうりかさんの旅行記、とても興味深く拝見しました!
特に写真に対する姿勢を見習いたいです(^^)
のうりかさんの旅行記はさまざまな出会いの宝庫ですね。
シンガポール編も、また。
のうりかさんのシンガポール編が年内にアップされたのに勇気づけられて(笑)
年は明けましたが、私も年内を目標に旅行記アップしたいと思います…!
これからも楽しみにしています!
- のうりかさん からの返信 2011/01/06 18:01:18
- RE: 年内アップおめでとうございます!
- マーフィーさん、こんにちわ。
ご訪問ありがとうございます。
僕の旅行記がずいぶん経って(旅から経過して)からUPされることには、
今さらながら忸怩たるものがあるのです。正直。
今回の香港編もあと少しでUPできたはずなのに、1年ねかせてしまいました。
それは、旅行記をこう書けば、おそらくは読んでくれる人を幸せな気持ちに
するのではないか?などと思う一方で、これが本当に知ってもらいたいこと
なのだという思いが、UPというボタンにポインタを運んでクリックに至らない、遠い道のりになっています。
マーフィーさん、またおいでください。
それと、あなたの旅行記を楽しみにしています。
のうりか。
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