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プ−シキンへ<br />「遅くなってごめんなさい。くるまが込んでたものすから……。」と言い訳をしながら、案内デスクの係がやってくる。集合時間の九時を少し回っている。駐車場に止まっているミニバスに乗るように指示され、前の座席に一人陣取る。数人を乗せたバスは、ネフスキ−大通りをエルミタ−ジュの方へ向かって走り出す。その近くにある主催観光会社のオフィス前で止まると、そこから数人の客と女性のガイドが乗り込んでくる。<br /><br /><br />彼女は真っ赤な上着に黒のパンタロンというひときわ目立つ服装で、すらりと伸びた背中にブロンドの髪をなびかせたロシア美人である。年の頃三〇代かと思われる彼女なのだが、これまで出会ったガイドの中ではピカ一といえる流麗な英語をあやつるカッコイイ女性である。英語は大学で勉強したというのだが、まだ英語圏には行ったことがないそうだ。それでも、こんなに流暢な英語が話せるなんて不思議に思えてしようがない。<br /> <br /><br />ミニバスは十一人の乗客を乗せて郊外のプ−シキン市をめざしながら走り出す。観光案内デスクのオバサンの話通り小人数のグル−プで、車内には家族的な雰囲気が漂っている。一日回っている間に乗客全員と話す機会があり、その内訳はドイツ人夫妻、ブラジルの中年女性二人と男性一人、カナダのエドモントンから来た中年男性、ロンドンから来た老夫妻、オ−ストラリアのメルボルン娘、アメリカのニュ−ヨ−ク娘、それに私の計十一人であることが分かる。 <br /><br /><br />バスは美しい林や緑の草原が広がる高速道路を走り抜け、およそ一時間ほどでプ−シキンの町に到着。<br /><br /><br />ここでバスを降り、お目当てのエカテリ−ナ宮殿へ向かう。ここはエカテリ−ナ女帝が使った離宮で、十八世紀半ばに建てられたバロック様式の優雅な宮殿である。サンクト・ペテルブルクの街中には帝政時代の多くの宮殿があって荘重な趣を添えているのだが、その近郊にも皇帝や貴族たちが華麗さを競うかのように建てた多くの離宮が現存している。これもその一つなのである。<br /> <br /><br />エカテリ−ナ宮殿<br />宮殿の広い庭園の入口に差しかかると、入場者を歓迎する音楽隊が並んで演奏を始める。こののどかな雰囲気の中で繰り広げられる思わぬ歓迎演奏に心打たれてしまう。<br /><br /><br />奥へ進んで行くと、前方に白とブル−の柔らかい色合いに包まれた優雅な宮殿が静かにたたずんでいる。横に長く伸びた建物の窓という窓には黄金色の装飾が施され、絢爛たる輝きを放っている。そのロココ様式の優美な姿は溜め息が出そうな美しい光景である。外壁の色がブル−とは意外であったが、いかにもエカテリ−ナ女帝らしい趣を醸し出している。<br /> <br /><br />入場口にはすでに行列ができていて、そこに並んで入場を待つ。宮殿内が人込みでごった返さないように入場者を区切って制限しているので、なかなか順番が回って来ない。その間に列を外れて、庭園や宮殿の素晴らしい全景をカメラに収めて回る。  <br /><br /><br />半時間近くもたっぷり待たされ、やっと入場となる。ここでも撮影は有料となっているので、特別にそのためのチケットを購入する。靴の上からそのまま履ける大きなスリッパを着けて、宮殿内部へ入って行く。奥へ進むにつれ、次々と現れる豪華絢爛たる部屋の光景にただただ圧倒されるばかりである。一部屋一部屋、ここは何に使われた部屋だとか、いちいち懇切丁寧にガイドが説明を加えていく。どの部屋もゴ−ジャスな黄金ずくめの室内装飾で、目もくらむようだ。<br /> <br /><br />なかでも、広いホ−ルのようになった黄金の間の絢爛さには、思わず息を呑んでしまう。上を見上げると、部屋いっぱいに広がった一枚絵の天井画、部屋を取り巻く窓々の手の込んだ黄金の装飾など、その光景に一瞬立ちすくんでしまう。ちょうどベルサイユ宮殿の“鏡の回廊”を思い起こさせるホ−ルである。<br /><br /> <br />部屋から部屋からへ渡り歩いていると、当時の生活を彷彿とさせるきらびやかな調度品や装飾品が目を奪う。黄金のイスと当時の食器が並べられたダイニングル−ム、ドアを開けば幾つも先の部屋まで見通せる黄金色のトンネル、鳥に乗って天使たちが舞い戯れる天井画、部屋の壁一面に大小さまざまの絵がはめ込まれた絵画の部屋、金縁の額に飾られた軍服姿の皇帝の絵など、息もつかせぬ驚嘆の連続をカメラに収める。<br /><br /><br />この宮殿は日本人と深いかかわりをもっている。十八世紀末、大黒屋光太夫を船頭にたてた日本船乗組員が漂流し、ロシアの地に渡った。彼らは北洋の島からペテルブルクまで行き、エカテリ−ナ女帝から帰国の許可を得たのがこの宮殿。生き残った三人が無事帰国したのは、日本を出てから十年後のことである。この光太夫のロシアにおける見聞を記した「北槎聞略」にもとづき、井上靖は小説「おろしや国酔夢譚」を書いている。これは日ロ合作で映画化され、往年の野性派女優マリナ・ブラディが扮するエカテリ−ナ女帝の名演技に見惚れてしまった覚えをもっている。<br /> <br /><br />目もくらむような豪華絢爛たるエカテリ−ナ宮殿にたっぷり一時間はひたったろうか。ほっと感動と興奮の溜め息をもらして見学を終えると、もうお昼の十二時だ。出掛けに玄関ホ−ルの土産品店で、ロシアらしい素敵な柄のスカ−フが目に留まり、記念のおみやげに購入する。これからバスへ戻り、隣町のパヴロフスクへ向かう。<br /> <br /><br />パヴロフスクへ<br />美しい林が並ぶ広大な公園の中を縫いながら、バスは三〇分ほどでパヴロフスクの大宮殿に到着する。ここはエカテリ−ナ二世の後継者パ−ヴェル一世の離宮として十八世紀終わりごろに建てられたもので、大宮殿と呼ばれる割りにはエカテリ−ナ宮殿ほどの華麗さはない。その外観は十八世紀後半の典型的な荘園様式をもち、特に六十四本の柱で支えられた勾配のゆるやかなク−ポルがとても印象的である。<br /><br />(この続きはこちらへ⇒  http://yasy7.web.fc2.com/ )<br /><br /><br />

ロシア:プーシキン・エカテリーナ宮殿の旅

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1997/05/31 - 1997/05/31

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yasyas

yasyasさん

プ−シキンへ
「遅くなってごめんなさい。くるまが込んでたものすから……。」と言い訳をしながら、案内デスクの係がやってくる。集合時間の九時を少し回っている。駐車場に止まっているミニバスに乗るように指示され、前の座席に一人陣取る。数人を乗せたバスは、ネフスキ−大通りをエルミタ−ジュの方へ向かって走り出す。その近くにある主催観光会社のオフィス前で止まると、そこから数人の客と女性のガイドが乗り込んでくる。


彼女は真っ赤な上着に黒のパンタロンというひときわ目立つ服装で、すらりと伸びた背中にブロンドの髪をなびかせたロシア美人である。年の頃三〇代かと思われる彼女なのだが、これまで出会ったガイドの中ではピカ一といえる流麗な英語をあやつるカッコイイ女性である。英語は大学で勉強したというのだが、まだ英語圏には行ったことがないそうだ。それでも、こんなに流暢な英語が話せるなんて不思議に思えてしようがない。
 

ミニバスは十一人の乗客を乗せて郊外のプ−シキン市をめざしながら走り出す。観光案内デスクのオバサンの話通り小人数のグル−プで、車内には家族的な雰囲気が漂っている。一日回っている間に乗客全員と話す機会があり、その内訳はドイツ人夫妻、ブラジルの中年女性二人と男性一人、カナダのエドモントンから来た中年男性、ロンドンから来た老夫妻、オ−ストラリアのメルボルン娘、アメリカのニュ−ヨ−ク娘、それに私の計十一人であることが分かる。 


バスは美しい林や緑の草原が広がる高速道路を走り抜け、およそ一時間ほどでプ−シキンの町に到着。


ここでバスを降り、お目当てのエカテリ−ナ宮殿へ向かう。ここはエカテリ−ナ女帝が使った離宮で、十八世紀半ばに建てられたバロック様式の優雅な宮殿である。サンクト・ペテルブルクの街中には帝政時代の多くの宮殿があって荘重な趣を添えているのだが、その近郊にも皇帝や貴族たちが華麗さを競うかのように建てた多くの離宮が現存している。これもその一つなのである。
 

エカテリ−ナ宮殿
宮殿の広い庭園の入口に差しかかると、入場者を歓迎する音楽隊が並んで演奏を始める。こののどかな雰囲気の中で繰り広げられる思わぬ歓迎演奏に心打たれてしまう。


奥へ進んで行くと、前方に白とブル−の柔らかい色合いに包まれた優雅な宮殿が静かにたたずんでいる。横に長く伸びた建物の窓という窓には黄金色の装飾が施され、絢爛たる輝きを放っている。そのロココ様式の優美な姿は溜め息が出そうな美しい光景である。外壁の色がブル−とは意外であったが、いかにもエカテリ−ナ女帝らしい趣を醸し出している。
 

入場口にはすでに行列ができていて、そこに並んで入場を待つ。宮殿内が人込みでごった返さないように入場者を区切って制限しているので、なかなか順番が回って来ない。その間に列を外れて、庭園や宮殿の素晴らしい全景をカメラに収めて回る。 


半時間近くもたっぷり待たされ、やっと入場となる。ここでも撮影は有料となっているので、特別にそのためのチケットを購入する。靴の上からそのまま履ける大きなスリッパを着けて、宮殿内部へ入って行く。奥へ進むにつれ、次々と現れる豪華絢爛たる部屋の光景にただただ圧倒されるばかりである。一部屋一部屋、ここは何に使われた部屋だとか、いちいち懇切丁寧にガイドが説明を加えていく。どの部屋もゴ−ジャスな黄金ずくめの室内装飾で、目もくらむようだ。
 

なかでも、広いホ−ルのようになった黄金の間の絢爛さには、思わず息を呑んでしまう。上を見上げると、部屋いっぱいに広がった一枚絵の天井画、部屋を取り巻く窓々の手の込んだ黄金の装飾など、その光景に一瞬立ちすくんでしまう。ちょうどベルサイユ宮殿の“鏡の回廊”を思い起こさせるホ−ルである。

 
部屋から部屋からへ渡り歩いていると、当時の生活を彷彿とさせるきらびやかな調度品や装飾品が目を奪う。黄金のイスと当時の食器が並べられたダイニングル−ム、ドアを開けば幾つも先の部屋まで見通せる黄金色のトンネル、鳥に乗って天使たちが舞い戯れる天井画、部屋の壁一面に大小さまざまの絵がはめ込まれた絵画の部屋、金縁の額に飾られた軍服姿の皇帝の絵など、息もつかせぬ驚嘆の連続をカメラに収める。


この宮殿は日本人と深いかかわりをもっている。十八世紀末、大黒屋光太夫を船頭にたてた日本船乗組員が漂流し、ロシアの地に渡った。彼らは北洋の島からペテルブルクまで行き、エカテリ−ナ女帝から帰国の許可を得たのがこの宮殿。生き残った三人が無事帰国したのは、日本を出てから十年後のことである。この光太夫のロシアにおける見聞を記した「北槎聞略」にもとづき、井上靖は小説「おろしや国酔夢譚」を書いている。これは日ロ合作で映画化され、往年の野性派女優マリナ・ブラディが扮するエカテリ−ナ女帝の名演技に見惚れてしまった覚えをもっている。
 

目もくらむような豪華絢爛たるエカテリ−ナ宮殿にたっぷり一時間はひたったろうか。ほっと感動と興奮の溜め息をもらして見学を終えると、もうお昼の十二時だ。出掛けに玄関ホ−ルの土産品店で、ロシアらしい素敵な柄のスカ−フが目に留まり、記念のおみやげに購入する。これからバスへ戻り、隣町のパヴロフスクへ向かう。
 

パヴロフスクへ
美しい林が並ぶ広大な公園の中を縫いながら、バスは三〇分ほどでパヴロフスクの大宮殿に到着する。ここはエカテリ−ナ二世の後継者パ−ヴェル一世の離宮として十八世紀終わりごろに建てられたもので、大宮殿と呼ばれる割りにはエカテリ−ナ宮殿ほどの華麗さはない。その外観は十八世紀後半の典型的な荘園様式をもち、特に六十四本の柱で支えられた勾配のゆるやかなク−ポルがとても印象的である。

(この続きはこちらへ⇒  http://yasy7.web.fc2.com/ )


旅行の満足度
5.0
観光
5.0
同行者
一人旅
交通手段
観光バス
旅行の手配内容
個別手配
  • 絢爛豪華・典雅・華麗・優美・壮観・・・・エカテリーナ宮殿の全景(ペテルブルク郊外プーシキン市にあるエカテリーナ女帝の離宮)

    絢爛豪華・典雅・華麗・優美・壮観・・・・エカテリーナ宮殿の全景(ペテルブルク郊外プーシキン市にあるエカテリーナ女帝の離宮)

  • プーシキンへ向かう途中(バスの車窓より)<br /><br />

    プーシキンへ向かう途中(バスの車窓より)

  • エカテリーナ宮殿の音楽隊(庭園入口で歓迎の演奏)<br /><br />

    エカテリーナ宮殿の音楽隊(庭園入口で歓迎の演奏)

  • 晴れわたった青空を背景に浮かび上がるエカテリーナ宮殿<br />

    晴れわたった青空を背景に浮かび上がるエカテリーナ宮殿

  • 宮殿前に広がる美しい庭園

    宮殿前に広がる美しい庭園

  • 黄金の中に埋まったような豪華なサロン<br />

    黄金の中に埋まったような豪華なサロン

  • どこまでも黄金の回廊がつづく<br />

    どこまでも黄金の回廊がつづく

  • 美しい天井絵<br />

    美しい天井絵

  • 部屋の壁一面に貼られた絵画<br /><br />

    部屋の壁一面に貼られた絵画

  • 金色の室内装飾と壁面の絵画が絢爛さを演出している<br /><br />

    金色の室内装飾と壁面の絵画が絢爛さを演出している

  • きらびやかなダイニングルーム<br /><br />

    きらびやかなダイニングルーム

  • 金の額縁に飾られた皇帝の絵<br />

    金の額縁に飾られた皇帝の絵

  • パブロフスクの大宮殿<br />

    パブロフスクの大宮殿

  • 室内演奏で観光客を楽しませてくれる<br />

    室内演奏で観光客を楽しませてくれる

  • 赤と黒の衣服がよく似合うロシア美人のガイドさん<br /><br />

    赤と黒の衣服がよく似合うロシア美人のガイドさん

  • 600ヘクタール(182万坪)の広大なパブロフスク公園の一部(有名な造園家たちによって大宮殿とともに18世紀半ばに造られた):プーシキンの近郊パブロフスク

    600ヘクタール(182万坪)の広大なパブロフスク公園の一部(有名な造園家たちによって大宮殿とともに18世紀半ばに造られた):プーシキンの近郊パブロフスク

  • パブロフスク公園内をのんびり走る馬車<br />

    パブロフスク公園内をのんびり走る馬車

  • どこまでも続くパブロフスク公園の並木道<br /><br />

    どこまでも続くパブロフスク公園の並木道

  • パブロフスク公園の並木道(前方は大宮殿、左端はガイドさん)<br /><br />

    パブロフスク公園の並木道(前方は大宮殿、左端はガイドさん)

  • プーシキンにある古い離宮(現在は公開されていない)

    プーシキンにある古い離宮(現在は公開されていない)

  • パブロフスク公園の一角に配置されているパビリオンと小川の風景(プーシキンの近郊パブロフスク)

    パブロフスク公園の一角に配置されているパビリオンと小川の風景(プーシキンの近郊パブロフスク)

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