旧き佳き時代の下町ロマンのかほり　

2010/06/27 - 2010/06/27

文京区の「弥生美術館」で、
『谷根千界隈の文学と挿し絵展』を
やっているのを新聞記事で見ていて、
興味をひかれていました。
「谷根千（谷中・根津・千駄木の略）」の
あたりは、私の生まれた土地なので、
特別の思い入れがあるのです。
会期が長いので、まだまだ、と油断して
いたら、え〜、もう終わりなの！？
先週、日光から帰ってから、ずっと夏風邪？
に悩まされて、熱が下がらないのに・・・。
体調は最悪ながら、どうしても見たいので、
最終日に、無理をおして
出かけました。

エリア 谷根千(東京)

• 一人あたり費用: 1万円未満
• 交通手段: 高速・路線バス 私鉄 徒歩
• 旅行の手配内容: その他

「東京メトロ（地下鉄）・千代田線」の
『根津駅』で下車。
不忍（しのばず）通りと交差する
「弥生坂（鉄砲坂）」を上ります。
（写真は、坂の上から振り返った構図。）

かつて（江戸時代）、このあたりは、御三家
水戸藩の屋敷（現「東大農学部」「地震研究所」）
でした。
南隣には、加賀藩前田家の屋敷（現「東大」）
がありました。
明治になって、この周辺に町家が開かれ、
「向ヶ岡弥生（むこうがおかやよい）町」
と名づけられました。
その頃できた新しい坂が、町の名をとって
「弥生坂」と呼ばれました。
また、坂の下に幕府鉄砲組の射撃場があったため、
「鉄砲坂」とも呼ばれていました。

また「弥生町」といえば、明治１７年、
ここの貝塚から「弥生式土器」が発見
されたことでも有名です。
通り沿いに、「発掘ゆかりの地」の記念碑が
建っていました。

「弥生美術館」の手前に、「立原道造記念館」
があります。

記念館のガラスのドアに、
美しい詩の一節が書かれていました。
立原氏の作品は読んだことがないので、
今回はパス。
いつか、作品を読んでから来てみたいと
思います。

そして、これが「弥生美術館」。
蔦に覆われて、いい雰囲気です。

通りをはさんで、「東京大学・弥生門」
があります。

「弥生美術館」入り口。
和の風景の中に、ここだけ洋風の
建物で、不思議なムードです。

入り口にある白い椅子と、
「谷根千界隈の文学と挿し絵展」
のポスター。

新聞の紹介記事でも写真が
載っていた、橘小夢（たちばなさゆめ）作
「幻太夫」という屏風絵です。
（昭和３０年代）
モデルは、明治初期に根津遊郭にいた
遊女。
どくろや地獄絵などの不気味な模様の
打ち掛けを好んで着ていたという、一風変わった
女性だったようです。

「幻太夫」についての説明。
絵ではなく、太夫本人のことです。
非常に興味深いというか、奇怪というか、
おもしろいので、よろしければ、
拡大してご覧下さい。

根津に居住した月岡芳年の
絵。
私は、この人を知りませんが。

この界隈に住んでいたり、このあたりを
題材にしたりという、何らかのゆかりのある
人たちの絵や文学作品などが展示されています。

有名な怪談「牡丹灯籠」。
これって、根津が舞台だったのですね。

美人画で一世を風靡した（らしい）
高畠華宵（たかばたけかしょう）の絵。
根津の隣町、弥生（まさに、この美術館
のある「この町」）に居住していたそうです。
ほんとうに美しい絵です。

高畠華宵についての解説。

「東大弥生門」を描いた絵。
鹿野琢見画。
（ガラスに照明が反射してしまいましたが。）

同じく、鹿野琢見画「旧くらやみ坂」。
この「くらやみ坂」とは、
当美術館の前の道のことだそうです（！）
古くからある坂で、菊坂に居住していた
頃の樋口一葉も、上野の図書館まで
毎日歩いていたとか。

「八百屋お七」の話も、文京区白山で
起こった実話です。
お七の絵があったはずですが、
撮り忘れたのかみたいです。(-_-;)

「仮題・角かくし」と名づけられた
蕗谷虹児（ふきやこうじ）の絵です。
雑誌の口絵として描かれたもの。
こどもの頃、アンデルセン童話『人魚姫』の
挿し絵が大好きでした。

蕗谷虹児の略歴。
細かい説明ですが、なかなか波瀾万丈の
人生なので、参考までにＵＰしておきます。
興味と根性がおありの方は、拡大して
ご覧下さい。

夏目漱石「三四郎」のヒロイン美禰子（みねこ）。
この小説は、本郷あたりが舞台になっています。
東大の敷地内（？）に「三四郎池」という
池もあります。
この絵の作者名が、写真では小さすぎて、
どうしても読みとれません。

千駄木に居住していた山川惣治（やまかわそうじ）の
絵物語「少年ケニヤ」。
今ならコミクスなのでしょうが、この時代は、
こうして一場面ごとに挿し絵のついた
小説のジャンルがあったのです。
幼少時？、何巻か読んだ憶えがありますが、
あまりに長編だったので、金銭的事情および
根気が続かず、挫折したような気が・・・。
たしか、「ターザン」の日本少年版のような
ストーリーでした。

江戸川乱歩の小説「Ｄ坂の殺人事件」は、
千駄木（せんだぎ）が舞台です。
この「Ｄ坂」というのは、私の生家の
近くにあった「団子坂」のことだと
思われます。
乱歩の創作した「名探偵・明智小五郎」も、
千駄木生まれということになっています。
私と同じ。（笑）

「Ｄ坂殺人事件」の解説。
私は乱歩作品の愛読者で、全集を
持っていたくらいですが、引っ越しなどで
やむなく手放したりして、この作品の内容も
記憶にないのです。

ガラスの反射がモロで、ひどいできの
写真ですが、イメージを紹介するために
あえてＵＰしました。
この絵と２コマ前の絵を描いたのは、
小澤清人（おざわきよんど）という
人です。

小澤清人について。
私は、この人を知りませんので、
こちらの解説をどうぞ。

「明智小五郎について」。
実在の人物ではありませんが、
有名な人なので。
（若い方々は、知らないかもしれませんが。）

３階は、「高畠華宵（たかばたけかしょう）」の展示室です。

少女雑誌の中の『金のお部屋』という
ページには、華宵ファンの少女たちからの
熱烈なファンレターが掲載されていました。
幾つか紹介されていましたが、今の
ファン心理と通じるような内容で、
微笑ましく感じました。

「華宵浴衣（かしょうゆかた）〜涼しき装い〜」
と題された絵。
モデルの女性の美しさもさることながら、
今でも立派に通用しそうな素晴らしいデザインの
浴衣です。
夢二もそうですが、この時代の
画家のデザイン感覚には、つくづく
感嘆します。
もちろん、まるでセンスのない人も
いたのでしょうが。（笑）

「華宵浴衣」の解説。

華宵お得意の、少年剣士の絵。
「美少年・美少女」を描かせたら、
この時代で第一人者だったのだそうです。

華宵が稲村ヶ崎に新築した、和洋折衷の
華麗な屋敷は、「華宵御殿」と呼ばれました。
「部屋でくつろぐ華宵」の写真。

「華宵御殿」の解説。

「寝室の前でファンレターを読む華宵」
（３９歳）。
この写真で見ると、本人もずいぶんと
耽美的な人だったようですね。
今で言う「ナルシスト」？

この「弥生美術館」は、隣の「竹久夢二美術館」と
渡り廊下で繋がっていて、両方の展示を
鑑賞することができます。
ただし、「竹久夢二美術館」のほうは、撮影禁止
ですので、写真はありません。

「弥生美術館」併設のカフェ「港や」。
夢二が経営していた店の名を取った
のでしょうね。

まだ午後１時前でしたが、
「ランチの時間は終わりました。」
そうです。
では、お茶だけでも。
「二階へどうぞ。」
と言われて、階段を上ります。

瀟洒なインテリア。
窓際の席がよさそうですが、
私が入った時には、先客が
いました。

「ケーキ・セット」。
これは、『ラべンダーとレモンのケーキ』
とレモン・ティー。
ケーキは、昔ながらの味を再現しているのか、
少しキメが荒い舌触りで、素朴な味でした。

窓から外を見ると、「弥生美術館」
正面入り口の上の装飾が見えました。
窓ガラスは金網入りなので、こんな
見え方になります。

室内の壁の装飾は、タッチから見て、
おそらく竹久夢二のデザインした
便せんか何かの複製でしょう。
メニューのデザインも、とても良かった
のですが、写真を撮らないうちに
下げられてしまいました。

「弥生美術館」隣の「竹久夢二美術館」
の表示。

同じ壁には、「東京大学医学部戦没同窓生之碑」
というプレートがはめ込まれていました。
『１９３１−１９４５・満州事変、日中戦争、
太平洋戦争』の文字が。

もと来た道を引き返さずに、
「この先は、どうなっているのかしら？」
と、坂を下ってみました。
どこかの塀から垂れたノウゼンカヅラの
花。

八重咲きのくちなし（ガーデニア）。

道の脇の「境稲荷神社」の一角に、
「弁慶、鏡ヶ井戸」というのが
ありました。
昔から、ここに名水が湧き出ていた由。
名前の由来は、義経とその従者一行が
奥州へ向かう途中で弁慶が見つけ、
一同の喉をうるおしたという故事から。

でも、実物はこんなポンプ井戸で、
色気のないこと。
つい最近までは使われていたようで、
「井戸を大切に使いましょう。」
という神社の名の立て札がありますが、
別の表示には「飲めない。」と
書いてありました。　(@_@)？

そばに咲いていた、ピンクの夾竹桃
（キョウチクトウ）。

結局、ほかに見るものもなかったので、
大回りをして、地下鉄の駅に向かっていたら、
「横山大観記念館」なるものを見つけました。
でも、門が閉まっていて、貼り紙が１枚。
いわく、「６月２１日（月）〜７月７日（水）
梅雨閉館」とか。
「館内整備ならびに作品保護のため」
だそうです。
ふ〜ん。

歩道に地図があったので見たら、
通りの反対側は「上野公園」だったんですね。
よく入園している場所とは、ちょうど
反対側に当たるわけです。
知らなかった〜！

ーおまけー

「弥生美術館」のショップで買った
竹久夢二の「星祭り」という絵の
クリアファイル。
七夕も近いことですし。

ーおまけ２−

同じく夢二デザインの「小鳥」という
レター・セットです。

ーおまけ３−

蕗谷虹児の一筆箋「キューピッドを
飼ふ人」。
ひと目で気に入りました。
この時代とは思えない、斬新な
イラストです。

ーおまけのおまけー

北千住駅で、「東京メトロ」から東武日光線
に乗り換える時、通路の電光掲示板に
目が止まりました。

ーおまけのおまけ・つづきー

「今話題の東京スカイツリー。
ただいま第一展望台の高さは、３９８ｍ
・・・。」
というようなお知らせが流れていました。
つい気を取られて、ずっと読んでいたら、
急行電車に乗り遅れてしまいました。
オソマツ！　　(^_^;)

　　　　　　　　　　　　　　ー完ー