1995/11/03 - 1995/11/04
408位(同エリア605件中)
北風さん
全ては、ぺトラ観光終了間近の夕暮れの刻に始まった。
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- 高速・路線バス
-
旅日記
『ペトラで追いはぎに遭遇』
もう、とっくに陽は沈んでしまっており、暗いシクの中を歩くには懐中電灯が必要なほどだった。
疲れていた。
砂漠の太陽に10時間も照らされ、岩山を走り回ったら誰でもこうなるだろう。
ティムも帰り道で知り合ったジョン(オーストラリアン)も一言も口を利かない。
そいつと出会ったのは、シクを抜けた時だった。
ヨレヨレのアーミー服からのぞく顔は、薄暗い光の中よくわからないが、年はまだ20代の初めだろうか?
「心配するな!俺はツーリストポリスだ。
一緒に出口まで行ってやる」と、話し掛けて来る。
5分もしないうちに、そいつが「お前の時計はいくらだ?俺にくれないか?」とねだりだした。
発展途上国を旅する際、子供が使う常套手段だ。
いつもなら気にもしないのだが、これほど疲れていたらひどく癇に障る。
同時に3人の口から「NO」という言葉が怒気に飾られて出てきた。
しばらくして、後ろから「俺、ナイフを持っているんだぜ」との声が聞こえる。
見知らぬ世界の暗闇の中での脅し文句、普通の状況ならツーリストとして怖がらなければならないシチュエーションだ。
しかし、俺たちは、長期に及ぶ旅行で何度もこういうケースを経験していたバックパッカーだ。
しかも、死ぬほど疲れて気が立っている。 -
3人の中で一番小粒の俺の腕が引っ張られ
「俺と一緒に来い!」
と言われた。
背後にオーストラリア産の助さん、角さんを従えながら、薄汚れたt東洋人の水戸黄門がそいつと睨み合う緊迫したシーン。
今回は印籠が無いので、右手のカメラの三脚をそいつの腕に振り下ろすと、さらに切迫した場面展開になった。
そいつの手がナイフをしまったポケットに伸びる前に、角さん役のジョン(身長190cm,体重100kg)が「行け!」とうなる。
助さん役のティムが「無視しよう」と提案する。
こころなしか声が震えているのは恐怖の為なのか?
目を見ると、それが苛立ちを抑えている為だとわかった。(ティムの方がキレかかっていた)
3人ともそのまま歩き続ける事にする。
出口の灯りが見えた時には既に奴の気配は消えていた。
まず、ティムがツーリストオフィスに猛ダッシュ!
すごい剣幕で署長らしき人物にくってかかる!
「お前達はUS$30もぼったくった上に、追いはぎまで用意しているのか?」等等、先程の事件を矢継ぎ早に言い立てる。
(ティムはまだUS$30払った事を根に持っていたらしい)
あっけにとられた俺とジョンは完全に、「そうだ、そうだ」と繰り返すバックコーラスになってしまった。
20分程どなりまくると怒りも収まり、署長からの「絶対犯人を見つけます!」との社交辞令を背に、なにやらすっきりした気分で家路に着く3人組。
俺達は、怒りと共に疲労感も署長の所に置いて来たらしい。 -
旅日記
『生まれて初めて法廷にて証人喚問を受けた日』
薄汚れたすりガラスの向こうから朝が来る。
何千年もの間、砂漠を焦がし続ける太陽の光が、歴史ある裁判所の装飾に厳かなシルエットを与え始める。
腕時計は午前6時を示していた。
未だ睡眠中の脳みそを急始動して、昨夜の記憶をリプレイしてみた。
俺達はホテルで無事?ペトラ観光を終了した事を祝して乾杯していた。
水分の抜けた身体にアルコールが浸みわたる。
外でかん高いブレーキ音が響くと、世界共通の悪趣味な回転灯が夜の闇をフラッシュアップしていた。
ティムが「何だ?泥棒か?」と怪訝な顔をする。
威圧的なブーツの足音がドカドカと聞こえたと思ったらドアが激しく開かれた。
なんと、ドアを開けた警官は一直線に俺達に向かってくる。
確かにイスラムの国で酒を飲む事は法律違反かもしれないが、観光客がホテルで飲む場合は問題ないはずなのだが?
コーヒー色に日焼けした顔にしがみついている口ひげが「犯人を逮捕しました、サー」と踊る。
一瞬、何の事だかわからず俺たちは顔をあわせた。
「あなた達の被害届に該当する犯人です」と説明が加えられる。
つまり、ペトラの追いはぎの件らしい。
犯人を捕まえると言った署長の言葉は本当だったのか!
「つきましては、明日の6時に裁判が行われる為、法廷で証人喚問を受けて下さい」と一方的に告げられた。 -
現在、俺達の前には、手錠に繋がれている以外、昨夜と同じ格好の奴がいた。
その横で目に涙を一杯ためている小さな老人は彼の父親らしい。
全てが夢のようだ。
世界に裁判所がある以上、俺にもその世界を垣間見る可能性があるとは思っていたが、まさか日本から何千キロも離れた砂漠の真ん中で、証人喚問を受ける事になろうとは!
裁判官が厳かにティムを呼んで2冊の本を掲げる。
イスラムの経典「コーラン」と「聖書」だ。
自分の神の本に手を乗せて宣誓しろという事らしい。
俺の番が来た。
裁判官が「宗教は?」と尋ねる。
「仏教だ」と答えると、しばし沈黙が訪れた。
どうやら、仏教徒用の本は用意してないらしい。
両手を今ある本の上に乗せる事で解決する事にした裁判官は、俺が素直に両手を乗せかけると、大声で「ストップ!」と叫んだ。
このままでは左手がコーランに乗る為(イスラムでは左手は不浄の手と呼ばれる)、手を入れ替えろとの事。
かくして、静粛な雰囲気の法廷で1人の東洋人が両手を交差させて宣誓をする羽目になった。
証人喚問が始まる。
3人とも自分の口で昨夜の件を説明する。
裁判官はその度に尋ねた「その男は、この若者か?」と、
俺達は皆、まさかこれほどの事件になるとは思っていなかった。
手錠につながれた男になんら哀れみは感じないが、隣にいる砂漠でのきつい生活を耐え抜いたしわくちゃの老人の涙は直視できない。
この老人の為にできる事は「暗くてよくわからなかった」と言葉を濁す事ぐらいだった。
法廷は2時間も続いただろうか?
最終判決が出る前に俺たちは退出を命じられた。
まるで、犯罪者のようにせっつかれながらパトカーに乗せられる。
ホテルに送られる間に、警官がすぐにホテルを引き払い町を出るように言った。
皆が顔見知りのこの村で、地元の人間を警察に引き渡した俺達は、このままでは何が起こるかわからない状況にあると言う。
ホテルで荷物をまとめるとすぐにパトカーでバス停に送還された。
道すがら、判決は2年間の強制重労働に決まったと告げられる。
ツーリストポリスの名を語った事が罪を重くしたらしい。
やっと落ち着いた時には、バスの窓ガラスにいつもの砂の世界が広がっていた。
しかし、心の中にはあの老人の顔が浮かんでくる。
「I feel blooddy bad (俺、ひどい気分だ)」とティムがささやく。
「 me too , blooddy hell (俺もだ。何てこった)」と俺がつぶやいた。
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