<br />1976年7月<br /><br />私が近付いた気配を、察知したのだろうか。<br /><br />ンポイ一家は総勢１３人が揃って家の前に並び、出迎えてくれた。<br /><br />その様子を見ていると、ンポイ一家が家族を大切にしている様子がうかがえ、心温まる気持がする。<br /><br /><br />わが家のギャルソン、クワマにしても、一家の仲がいい。<br /><br />夫婦喧嘩や、親子喧嘩の話は、ほとんど聞かない。<br /><br />若者に「一番尊敬する人は？」と質問すれば、ほとんどから「お父さん」という答えが返ってくる。<br /><br />ザイール人は厳しい自然と闘いながら生きているために、家族の団結が強いのだろうか。<br /><br /><br />始めてみる赤ちゃん「カタセ」は、予想にたがわぬ可愛さだった。<br /><br />同行した家内も、思わず「可愛いイ」と、だっこする。<br /><br /><br />連れてきたヤギは、待ち構えている最後の役目を知ってか知らぬでか、落ち着いて従容として、勝手口に引き込まれていった。<br /><br />私は屠殺場で見たことのある、最期を迎えた牛の悲しげな足掻きが眼底に残っているので、ヤギの態度についても手綱を引き始めてから注意していたが、その平然とした態度がかえって私の心を打った。<br /><br /><br />通されたサロンは、ランプの光で思いのほか明るかった。<br /><br />たった一つの石油ランプだが、「噴射式」とのことで、60ワットの電球ほどの明るさはある。<br /><br /><br />キンシャサの電気契約者数は、まだ三万件を超えたところと聞く。<br /><br />町の夜景を展望しようと、小高い丘に登った時のことを思い出した。<br /><br />人家がいっぱい集まっているはずのところに、大きく黒い、海のような暗黒のゾーンが至る所に横たわっていたのだった。<br /><br />電気が通っていない、地域だ。<br /><br />

キンシャサ日記【673】電気がなくとも一家睦まじく

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1976/07 - 1976/07

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#その他

ソフィさん

1976年7月

私が近付いた気配を、察知したのだろうか。

ンポイ一家は総勢１３人が揃って家の前に並び、出迎えてくれた。

その様子を見ていると、ンポイ一家が家族を大切にしている様子がうかがえ、心温まる気持がする。

わが家のギャルソン、クワマにしても、一家の仲がいい。

夫婦喧嘩や、親子喧嘩の話は、ほとんど聞かない。

若者に「一番尊敬する人は？」と質問すれば、ほとんどから「お父さん」という答えが返ってくる。

ザイール人は厳しい自然と闘いながら生きているために、家族の団結が強いのだろうか。

始めてみる赤ちゃん「カタセ」は、予想にたがわぬ可愛さだった。

同行した家内も、思わず「可愛いイ」と、だっこする。

連れてきたヤギは、待ち構えている最後の役目を知ってか知らぬでか、落ち着いて従容として、勝手口に引き込まれていった。

私は屠殺場で見たことのある、最期を迎えた牛の悲しげな足掻きが眼底に残っているので、ヤギの態度についても手綱を引き始めてから注意していたが、その平然とした態度がかえって私の心を打った。

通されたサロンは、ランプの光で思いのほか明るかった。

たった一つの石油ランプだが、「噴射式」とのことで、60ワットの電球ほどの明るさはある。

キンシャサの電気契約者数は、まだ三万件を超えたところと聞く。

町の夜景を展望しようと、小高い丘に登った時のことを思い出した。

人家がいっぱい集まっているはずのところに、大きく黒い、海のような暗黒のゾーンが至る所に横たわっていたのだった。

電気が通っていない、地域だ。