<br />1976年6月<br /><br />赤道直下の太陽は、午前１０時を過ぎれば次第に正体をあらわにして、コートにジリジリと絶え間ない熱波を送ってくる。<br /><br />そんなときに「パトロン、コカコーラが欲しい」という声が高まって来た。<br /><br />「今朝5時に起きて、3時間歩いてきた。もう練習を中止して一休みしたい」<br /><br />なんて言っている者もいる。<br /><br /><br />「バス代を渡したのに、まだコカコーラ代が欲しいのか？」<br /><br />これからテニスをやりたい人がもっと増えれば、私の懐が干上がってしまいそうだ。<br /><br />１００人の人に１００円渡せば１万円、土曜日日曜日と毎週２回やれば、１年間で１００万円もの出費となる。<br /><br />そもそもそんなに甘やかしていては、ザイール人のためにならないのでは、人間が育たないのではないだろうか。<br /><br /><br />とは思ったが、とにかく人が集まらない限り発展はあり得ない。<br /><br />まあしばらくは彼らの要求を入れながら様子を見ようと、全員にコカコーラ一本分の代金を渡すことに踏み切る。<br /><br />ただし彼らのほとんどは、バス代を使わずに歩いてくると同じように、コカコーラなどを買わないで、この金を懐に入れてしまっているようだった。<br /><br />要するにコカコーラの要求は、日当のベースアップだったのだ。<br /><br /><br />中には、「もっとTシャツが欲しい。靴も貰えないか」と言う者も出てきた。<br /><br />良く見れば、ボロボロのシャツを着て、ほとんど裸に近い者もいれば、靴底が破れて裸足に近い者もいる。<br /><br />そもそも彼らから我々を見れば、よほどの物好きに見えて、何が目的でソフトテニスを教えようとしているのか、なかなか理解できないのも無理はない。<br /><br />「きっと何かうまいことがあるから、やっているのだろう。ならば、分け前は当然」<br /><br />と考えている節も見える。<br />

キンシャサ日記【626】僕たちにも分け前が欲しい

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1976/06 - 1976/06

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#その他

ソフィさん

1976年6月

赤道直下の太陽は、午前１０時を過ぎれば次第に正体をあらわにして、コートにジリジリと絶え間ない熱波を送ってくる。

そんなときに「パトロン、コカコーラが欲しい」という声が高まって来た。

「今朝5時に起きて、3時間歩いてきた。もう練習を中止して一休みしたい」

なんて言っている者もいる。

「バス代を渡したのに、まだコカコーラ代が欲しいのか？」

これからテニスをやりたい人がもっと増えれば、私の懐が干上がってしまいそうだ。

１００人の人に１００円渡せば１万円、土曜日日曜日と毎週２回やれば、１年間で１００万円もの出費となる。

そもそもそんなに甘やかしていては、ザイール人のためにならないのでは、人間が育たないのではないだろうか。

とは思ったが、とにかく人が集まらない限り発展はあり得ない。

まあしばらくは彼らの要求を入れながら様子を見ようと、全員にコカコーラ一本分の代金を渡すことに踏み切る。

ただし彼らのほとんどは、バス代を使わずに歩いてくると同じように、コカコーラなどを買わないで、この金を懐に入れてしまっているようだった。

要するにコカコーラの要求は、日当のベースアップだったのだ。

中には、「もっとTシャツが欲しい。靴も貰えないか」と言う者も出てきた。

良く見れば、ボロボロのシャツを着て、ほとんど裸に近い者もいれば、靴底が破れて裸足に近い者もいる。

そもそも彼らから我々を見れば、よほどの物好きに見えて、何が目的でソフトテニスを教えようとしているのか、なかなか理解できないのも無理はない。

「きっと何かうまいことがあるから、やっているのだろう。ならば、分け前は当然」

と考えている節も見える。