2006/08/02 - 2006/08/02
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night-train298さん
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8月2日(水)Cornellana 37.7km
早く起きたものの、私たちのグループは朝が遅い。
ゆっくりと支度し、コーヒーを飲み出発する。
例によって、大きな街からの脱出には時間がかかる。
みんなと同じ歩調で歩くのはつらい。
自分のペースであるいてこそ、気持ちが解放されていくはずなのに、これでは苦痛なばかりである。
田舎道に入ると、ウシは私の近くを歩いている。一緒に歩んでくれるのはわかるのだが、少しでも立ち止まれば、
「早く歩きなさい。」
とか
「前を向いて歩きなさい。」
そんなアドバイスが、私にとっては命令にしか聞こえない。
下を向いて歩くには、二つの理由があった。
一つは常に誰かの背中を追っているため、どうしても足下を見ながら足早になってしまう。
もう一つは、地面に落ちているものを観察するため。
前者は、不本意なことであり、私は誰かの背中を見ながら追いかけて歩くなんてまっぴらなのに。
後者は私の楽しみでもあり、そこで木の実や石を拾ったり、草花(持って帰るわけにはいかないので、写真に収める)を見たり、誰かの足跡を発見したり、田舎歩きの楽しみでもあるのだ。
今まで一緒に歩いてきた人に、こんなことを言われたことはなかった。
こんな時に、地図さえあれば、自由になれるのに。
何も持たない私は、次の町どころか、今日の目的地さえも知らないで歩いているのである。
早くガイドブックを買いたい。
それさえ手に入れれば、同時に自由を手に入れられるのだ。
しかし問題は、大きな街でなければ本屋はない。しかも本屋が開いている時間に街にいることは難しかった。
この道を選んだことは、やはり失敗だったのだろうか。
La CostaとPrimitibo。どちらを選ぶべきか、これだけ悩んだ選択は過去を振り返っても、幸か不幸かなかったのである。
悩みに悩み、直ちに結論を迫られるというのは、たかが巡礼かもしれないが、私にとっては大いに悩ましいことであった。
そもそも、どちらを選ぶかなんていうことは、たいしたことではないはずだ。どちらに行ってもそれぞれの苦しみも楽しみもあるはずである。
しかしこの時の私にとっては、大きな人生の分かれ道のような気さえしていたのだ。
誰でもふとした時に、過去を振り返り、いくつかの分かれ道で決断したことに対し、もしや『別の道』を選んでいた方が良かったのではないかと思うことがあると思う。
私も歩いている時に、ふと思いがよぎることがある。
もし「もう一つの道」を歩いていたら・・・・・・・。
結論はいつも同じだった。
『やっぱり自分が選択した方の道で良かった。でなければ、今の自分はないのだから。』
それなのに、今回だけは違った。
選んだ目の前にあるこの道は、本当に「私の道」だったのだろうか。
そしてその思いは、現実の自分の生活とだぶってくるのである。今度は、それさえも自信がなくなってくる。
こんなことは初めてだった。
なんだかこの不安は、単にLa Costa とPrimitiboの選択には収まりきれなくさえなっていった。
一緒に歩いている他の四人は、みな優しい。特にロベルトは、常に変わらない優しさで接してくれた。
時間が経つうちに、彼は明るさと、利発さを兼ね備え、内面的にも充実している人に思われた。
でも、最初の印象から、疑惑が100パーセント晴れていたわけではなかった。
相変わらず、軽い人なのではないか。表面的に女性に親切な人なのではないか。そして一つ、大きく不審に思うことがあったのだ。
ロベルトがPrimitiboを選んだ理由は・・・・・?
単にビンゲンに付いて来たのではないのだろうか。
ビンゲンは私たちにお茶などをご馳走してくれる。巡礼中は、貧富の差なく割り勘で払うのが普通だが、気前が良い。
そのうち、私たちも順番でご馳走しあうことになる。
しかしロベルトは、いつもお金を持っていない。お財布さえ見たことがないのだ。そして一度、食事代を、ビンゲンに出してもらっているところを見たのだ。
たまたまお金がなくて借りただけなのかもしれないが。
もしやロベルトがビンゲンに付いてきた理由は、お金の援助のためであり、そのためにビンゲンが行きたいというPromitiboを選んだのか?
それに私もくっついて来てしまったのだろうか?
私は単純な人間だと思う。
と言うよりも、単純でありたいと思っている。
こんな風に考えるのは、自分らしくないと思うのに、自然と頭の中で作り上げてしまうのだった。
もう、かき消したくても浮かんできてしまうのだ。
そうなると、私の悪い空想は、果てしなくネガティブな世界に迷いこみ、自分の選んで来た人生の、折々の道さえも疑問が生じてきた。
もう、誰かの背中を追いながら、歩くなんてまっぴらだ。
誰かに命令されながら歩くなんて、とんでもない。
そして自分がグループの中にいながらも、ひとりぼっちであると感じてくると、もう前には進めなくなって、草むらで荷物を放り出し、思い切り大声を出して泣きたくなった。
誰もいない田舎道のこと、多少のことは許されるだろう。
「もうイヤだぁ〜!」と叫んだとたん、イノシシのような獣の影が前方から音を立てて突進してきた。
ロベルトだった。
それほど離れた場所にはおらずに、異常に気がついて飛んできてくれたのだった。
その早さは、何も考えずに飛んできた弾丸のような早さだった。
私が「ひとりぼっち」ではない証拠でもあった。
ロベルトは
「僕には何を言ってもいいよ。」
私のむしゃくしゃした気持ちをぶつけられるのは、ロベルトだけしかいなかった。
ひどく当たってしまいそうだったので
「ロベルトがそんな役目をすることなんてないよ。」
すると
「僕に面倒をみさせてよ。世話を焼きたいんだよ。」
どうしてそこまで言ってくれるのか。私の頭の中は、依然として疑惑のロベルトなのに・・・・・・。
いつのまにか他の三人も戻ってきてくれた。
そして後ろから見知らぬ巡礼のグループが通りがかると、恥ずかしくなってきて、再び歩き出した。
すぐにビンゲンのおごりでお茶にする。
その後も、ロベルトとマリアは気にしてゆっくり歩いてくれた。
マリアは言う。
「平らな道では早いけど、登りでは急にゆっくり歩きになるの。ウシからいつも離れてしまのよ。」
ウシとマリアの荷物の重さは半端ではなかった。
二年前のスペイン勢の荷物もけっこう重かったが、最近は、かなり荷物を小さく軽くしてきていた。
ドイツ勢は、体格がいいせいもあり、荷物が重いことはそれほど負担ではないらしい。
ウシはテントを背負い、一眼レフのカメラも持っている。食べ物や水の量もかなりある。
別のドイツ人からこんな話を聞いたことがある。
「僕たちは心配性なんだ。Tシャツを二枚持って行こうって思うと、いや、もしかして洗えないかもしれないから4枚持って行こう。もしかしたら素敵なレストランに行くこともあるかもしれないから、おしゃれなシャツも一枚持って行こう。泊まる所はどうだろうか?もし何処にも泊まるところがなかったら大変だから、テントを持って行こう。その上レストランもなかったら大変だから、たくさん食料を持って、コンロも持って行こう。」
ってことで、荷物はどんどん膨れ上がるのだそうだ。
二人も例外に漏れず、大きくて重いリュックを背負っていた。
ロベルトは、そんな二人の陰でこっそりと、
「ドイツ人の女性を怒らせたらコワイよぉ。やっぱりスペインの女性がいいな。」
と、冗談まじりに言っていたこともあった。
ここが最後の休憩の村という場所では、ビールを飲んで乾杯する。
そこから私は一人でゆっくり歩くことにした。
ロベルトには、
「もし目的地の村でコピー機が見つけられるようだったら、ビンゲンのガイドブックをコピーしておいてね。」
マリアには、
「アルベルゲに先に着いたら、下段のベッドを取っておいてね。」
歩くペースを人と合わせるのも、合わせてもらうのも苦痛だった。
もうここまで来たら、少しくらい迷ったとしても、先は見えている。
ここまで来て、やっと自由になれるのだ。
最後はご褒美に音楽を聴きながら歩こう。
普段はなるべく自然の音に耳を傾けたい。でも、コンクリートの退屈な道とか、最後のスパートには音が必要になることがある。
思いっきりノリノリの、嫌でも足が進んでしまう曲を聞きながら、走り出しそうな勢いで坂をかけ降りる。
曲を聴いているうちに気分がどんどん前向きになる。
道ばたの草花から、すれ違う車から、道しるべの矢印から、すべてのものが、自分を応援してくれるような気になってくる。
『ありがとう!ありがとう!』
と笑顔で答えたくなってしまう。
まるで変な人みたいだけど・・・・・・・・・・。
曲が変わると、今度はじんわりしてくる。
♪絶望の真ん中をみつめましょう・・・・・・♪
目を逸らさないで現実を見つめよう。
そして再びノリノリの曲に戻す。
足は止まらないどころか、もう操縦すらできないほど、勝手に進んでしまう。
曲がり角を抜けると、教会があり、入り口の階段の上で、みんながそれぞれ疲れ果てた様子で、横になって休んでいるのが見えてきた。
私に気がついたみんなも、半分起き上がって手を振った。
「オラー!!!」
と元気よく呼びかけ写真をぱちり!と撮り、次の瞬間私は
「アシタ・ルエゴー!」(またねー!)
と言って、止まらずに、そのまま歩き始めた。それを見て全員が、大爆笑。
当然一緒にここでの休憩に私も参加すると思ったのに、後からきたくせに、元気良く先に行ってしまったからだ。
背後からのみんなの笑い声を聞きながら、益々元気になって、足が止まらない。
大きな道に出た。
道の両側には大規模なキウイ畑が広がっていた。
見慣れない光景だった。スペインでもキウイを栽培していたのか。
珍しく人が道を横切った。
行き先が不安だったので、確認しておこう。
農家のおじさんというよりは、大規模農園の主といったこざっぱりした男性は、もしかしたらキウイ畑の持ち主なのかもしれない。上手な英語で親切に道を教えてくれた。
やはり旅人を元気にしてくれるのは、道ばたの草花であり、地元の優しい眼差しなのだと思う。
いよいよCornellanaという今日の目的地の町に入ると、人々が競うように、アルベルゲはあっちだ!こっちだ!と教えてくれる。
今日のアルベルゲは、教会の敷地の中にあった。
受付をしてくれたのは修道士なのだろうか。とても優しくて感じが良いが、普通の服装だ。
我々は全員で5人、後の4人はもうすぐ来ると言うと、部屋を案内してくれ、ベッドを5つ取らせてくれた。
シャワーも清潔でいくつもあり、とても居心地の良いアルベルゲだった。
急いでシャワーを浴びて洗濯物を久しぶりに洗濯機で洗った。乾燥機もあるので、大量につっこんだ。
戻ってくると、同室のオラヤとユリアが居た。
初めて会った巡礼者で、オラヤはシャワーから出てきたばかりで、一糸まとわぬ姿で、髪をタオルで乾かしている。
二人はバレンシアから来たと言う。
後から来るロベルトはマドリッドの出身だが、今はバレンシアに住んでいると話した。
そのうち、4人が到着した。
みんなは口々に
「ベッドを取ってくれてありがとう、さっきの歩き、すごかったね。」
そしてロベルトは紙の束を渡してくれた。
待ち望んでいた、ガイドブックのコピーだった。
みんなが遅かったのは、コピーをする店を探し、こうして11枚分のページをコピーしてくれていたのだった。
とてもありがたかった。
これで本当に自由に歩くことができる!
そしてガイドブック通りに歩けば、あと11日間を、残すのみとなっていたのであった。
夕食はキッチンにパスタ入りのサラダが作ってあった。
修道士が多めに作ってくれたらしい。
パンもあり、私たち5人とオラヤとユリア、そしてホルヘというやはりここで初めて出会った男性も一緒に食事をした。
部屋に戻ると、ビンゲンとウシがBarに飲みに行くという。
私たちは断って、部屋に居た。
マリアが聞いてきた、
「ねぇ、あなたは何座なの?」
私は蟹というスペイン語を知らなかったので、指をチョキ状態にし、横歩きをして説明すると、彼女は転げるように大笑い。
マリアは天使のように素朴で純真、包容力のある素敵な暖かい女性だった。
今度はロベルトも加わり、自分たちの歯磨きの自慢が始まった。
ロベルトの歯磨きは定番のミントの香り。私はご自慢の、子供用歯磨きのイチゴの香り。そしてマリアのはアニスの香りだった。
スペインでよく飲まれるオルッホという酒の香り付けにもこのアニスが使われる。
私はこの香りに弱い!ピンときた!オルッホを飲みに行こう!!!!!!
急いでウシとビンゲンを追いかけた。
一杯だけオルッホを飲んで今日は寝よう。
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