2007/03/31 - 2007/07/01
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captainさん
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「エスファハンへのダッシュ」
レールの継ぎ目を打つ音と心地良い振動を感じながら、真っ暗な寝台に横たわり眼を閉じる。
いよいよイランへ向かう。今回の旅で唯一事前のビザ取得が必要だった国だ。
パスポートを開き、デジタルカメラのディスプレイの明かりで取得したビザを何度も確認した。
取得時の問い合わせ電話に出たイラン大使館の女性は恐ろしく無愛想な対応で、先行きは不安である。
「イスラム共和国」であるイランには興味は尽きないが、イランに対するイメージは楽しいものばかりではない。
ホメイニ師率いるイスラム革命。アメリカ大使館人質事件。イランイラク戦争。
少しの緊張と高揚感であまり眠れずにいると、列車が停まった。窓の外を確認すると、夜明け前の闇をバックに、いくつか
の照明が見える。駅のようだった。車掌が各コンパートメントを周り、「パスポートチェック」と教えてくれる。
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貴重品を持って電車を降りると、ぞろぞろと眠そうな眼をこすりながらトルコ人やイラン人と思しき人々が、駅舍の一角に向かって
歩いている。とりあえず着いていくと寂しい照明に照らされた窓口に、数十人の人々が並んで出国手続きを待っている。
僕に気づいた係員が隣の窓口を開けて、どうやら呼んでいる。どうやら窓口が別らしい。静々と列に並ぶ数十人の皆様の視線に、
多少後ろめたい気持ちを感じながら、トルコ出国手続きを済ます。自分だけ手続きが終わっても全員が終わらなければ、当然列車は
発車しない。一蓮托生である。駅の水道でグルーミングをする人々に混じり、歯磨きをする。そんなことをしているうちに夜が明けてくる。
つくづく駅に縁がある旅だ。 -
列車がカピキョイ駅を出発するころには完全に日が昇っていた。列車はイラン側国境の駅「Razi」に停車し、今度はイランの入国審査を受ける。
陸路での国境越えは、「出国審査、緩衝地帯、入国審査」の三段階のステップを踏む。これは徒歩、車両、列車共に変わらない。
僕にとっては人生初の列車での国境越えだったが、イランの入国審査に多少時間がかかっただけで、無事にイラン入国を果たした。
タイムテーブル通りに行けば夜中の三時頃にはイラン入国をはたしているはずだが、時間は既に朝の九時を過ぎている。 -
車窓からは爽やかな朝の光が差し込み、列車は国境駅を出発し、再び走り出した。
同コンパートメントのイラン人のおじさんにペルシャ語の挨拶を教えてもらったりした後、気分転換のために食堂車に行くことにした。
車内にある食堂車の営業時間は確認済だ。
タバコを一服しながらチャイでもすすれば、気分はまさに「世界の車窓から」だし、去年乗ったトルコ国鉄の食堂車の朝食はずいぶんといい雰囲気だったからだ。しかし、この期待は食堂車のテーブルでおしゃべりに花を咲かす乗務員達の姿を見て、甘かったと気づいた。
「Lunch is not ready」ヘラヘラと言う。「じゃあ、チャイと灰皿を頼む」と言うと「You can't smoke here」と返され、いかにも仕事はしたくないご様子。
僕は他の乗務員が奥の客席でタバコを吸っているのを見て灰皿を要求していたのだから、これにはさすがにカチンと来た。
トルコ国鉄との落差もあって、昨夜からの乗務員の態度のいい加減さに腹を立てていた僕は、つい声を荒げてしまった。
「Your friend is smoking now!」。これは意訳すると「あなたの友人はタバコを吸っているように見受けられるのですが、
いかがでしょうか?」となる。なりたいところだが、この時は「ワレのツレは吸うとるやないかっ!」となる。
僕は、これを捨てゼリフにコンパートメントへ戻るか、荒げた声に顔をあげた数人の乗務員との乱闘覚悟(うそ)だったのだが、意外にもこの乗務員はびっくりした顔をしたかと思うと態度を変え、神妙な顔で「じゃあ、ここに座って待っててちょ」という感じで、僕に着席を促し、灰皿と熱々のチャイを運んできてくれた。これではゴネ得である。自分の気短さへの恥ずかしさに耐えながら、チャイをすすっていると、
「一緒に食べようぜ!」と山盛りのパンとヨーグルトまで運んできてくれ、他乗務員も一緒に昼食タイムになった。「どっから来たの?」
「日本から!へー!」と、昨夜から先ほどまでの無愛想で怠惰な姿勢とは打って変わって、やたらフレンドリーで親切であり、かといって媚びているわけでもない。この変化はなんなんだろうか。挙句の果てに支払いは断られた。短気な自分がさらに恥ずかしくなる瞬間だった。
これは休憩中の乗務員に仕事を強要するたちの悪い乗客ではないか。だって営業時間内だったんだもん! -
タブリースで下車する同コンパートメントの3人に別れを告げ、遠慮なく個室を一人で独占した。昼寝、読書、車内探検。グダグダである。
コンパートメントにはディスプレイまで装備されていて、なかなかに近代的。イランのメロドラマが上映中だ。 -
ゆったりした優雅な列車の旅を楽しんでいるうちに日が暮れる。途中いくつかの駅に停車したが、乗り降りする乗客は少なく、
ここでも列車の人気の無さが伺える。列車ファンの僕には少し寂しい事実だ。しかしこの遅れがちな運行状況では無理もない。
時間に余裕のある人間しか、このアバウトな姿勢は受け入れられないだろう。海外で、ルーズなスケジュールを自信たっぷりに実行する
列車に直面する日本人は、全員が口を揃えて祖国を想う。「JR偉大なり」。 -
夕食時には、個室まで簡単な食事が供された。パンとツナ缶とか。予定では8時頃にテヘランに到着。同地で一泊した翌日、
深夜の夜行バスでエスファハンへ向かうプランを考えていたのだが、このままではテヘラン到着は大幅に遅れるだろう。
夕食の時点で9時を過ぎていたからだ。深夜の宿探しにはロクなことがない。
一計を案じた僕は、テヘランに到着した足で深夜バスに乗り、そのままエスファハンへダッシュするプランを思いついた。天才かもしれない。
だが、うまく行くだろうか。不安が胸をよぎるわけである。
某地球の歩き方には「毎日頻発」との記述があるし、なんとかなるかもしれない。そんな決意をしていると乗務員がコンパートメントに来て、「そろそろテヘランに着くよん」と教えてくれる。
昼間からお世話になった乗務員達にお礼と別れを告げると、昼間に灰皿とチャイをくれた件の男が「あんたは俺の友達だ、困ったことがあったら電話してくれ」と、
番号の書かれたメモをくれた。なんていい人なんだ。。。
別れを惜しみつつの降車準備だ。 -
列車は程なくしてテヘラン駅に到着する。なかなか立派で巨大な駅である。時刻は11時半。速歩。駅の出口に停車しているタクシーを見つけ、
「ブース、テルミナーレ!エスファハン!」と無茶苦茶に告げると、運転手は驚きの理解力で対応してくれたが、しきりに時間を気にしている。
そして夜のテヘランを飛ばす。怖いぐらいに飛ばしてくれる。5分ほど走って、なんとターミナルの中に停車する大型バスに横付けである。
この運転手ただ者では無い。運転手はバスの係員に早々に話をつけ、「ブース、エスファハン」と僕に乗車を促してくれた。
「OKかい?」と笑顔で確認すると僕の荷物を係員に渡す。この手際の良さ。
もちろんチップを多めに渡し、感謝を告げた。わずか10分に満たない付き合いだったが、ベストタクシー オブ ジ イヤー である。 -
ほぼ満員のバスは出発寸前だったらしく、僕を乗せるとすぐに出発した。席は一番後ろの5人席で体格の立派な迫力のあるおっさんばかり。
かなり窮屈かつ、文字通り肩身も狭い。飛び入りっぽく席に着いた僕はなんとなく申し訳なかったが、両サイドのおっさんは飛び入り日本人の僕に興味津々である。ナッツをくれたり、ジュースをくれたりやたら親切で、飛び入り日本人の僕に興味津々である。
座席のあちらこちらで携帯が鳴ったりおしゃべりしたりと、深夜便のわりに賑やか。そんな車内の夜間照明も派手めのネオン管だ。
そんな中で写真の見せっこや、ペルシャ語講座が続く。 -
2時間程走った頃、バスはドライブインのような所で休憩をとる。初のイラン売店体験とトイレを済ませ車内に戻ると、
係員が座席の変更を僕に告げた。最後列の窮屈さをさすがに不憫に思ったのか、新しい席は最前列の補助席である。
「まじで?最前列?ラッキー!」と単純に喜び、運転手視点でのイランハイウェイを堪能する。しかし、これは諸刃の剣。
補助席はあくまで補助席。30分ほど経過すると、その座り心地の悪さに気付かされた。「腰が。。。」
それでも運転手視点からの夜明けを迎えるイランのハイウェイは、なかなかに迫力のある異国体験だ。 -
次の休憩は、夜明けのお祈りのためにモスク前の駐車場に停車。バスを降りると、同じようにハイウェイを使うバスや乗用車、トラックが停車中だ。多くの乗客やドライバー達が、美しいモスクに消えて行く。一緒にお祈りをするわけでは無いが、補助席の座り心地に辟易している僕は、
長めの休憩がありがたかった。長距離ドライブの合間にもきっちりと夜明けの祈りを捧げる彼らの背中には、敬意を払った -
バスは通算6時間程で、朝から賑わいを見せるエスファハンのバスターミナルに到着。タクシーに乗り換え、あらかじめ調べておいた
ホステル「アミールカビール」に辿り着いた。エスファハンへのダッシュは、めでたく成功となった。 -
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