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 ブダペシュトからのバスは広いバスターミナルで停まった。目的地の国の首都に着いたらしい。とりあえず地図を買って繁華街へ行くべきだろう。と、近くのキオスクで地図を買おうとしたがお金を持っていない。そうだ。通貨が何であるのかすらも知らないのだ。<br /><br /> こどもを連れた母親の言葉は英語ではなかったが、街の中心の方向だけはわかった。それと、そこまでの距離がかなりあることも。母親がキオスクでバス券を買うように勧めていたからだ。しかし、コインもお札もない旅行者は足を使うしかなかった。<br /><br /> その距離の長さと重い荷物で、街の中心に着いた時にはへろへろだった。「ユースホステルは満員だ」というツーリストインフォメーションの女性の言葉は、それ以上足を動かせなくするためには、じゅうぶんなひとことだった、、、<br /><br /> <br /><br /> 鍵を2つ持っている。ひとつはそのビル全体の入口の門の鍵。もうひとつは今泊まっている部屋の鍵だ。ベッド、カーテン、キッチン、バス、トイレ、クローゼット、電灯、食器、やかん、歯ブラシ、コップ、タオル、、、生活感で満ちている。アメリカ大使館のすぐ近くの、ある人の住まいの一室を借りることになった。ベッドも部屋も広すぎる。重い荷物が、広いカーペットにひとつ転がっていた。<br /><br /> スーパーマーケットまで買い物に行く。部屋の主の足は長くて、歩調を合わせるのが大変だった。人と会話をするのが、とても久しぶりに感じる。数時間前までブダペシュトで友人と話していたというのに。バスの時間と、寒さと、くもり空が、ひとりの旅行者に長い長い時間を作ってしまったようだ。空、建物、石畳、人、、、たくさんの灰色がまわりを覆っていく。<br /><br /> マクドナルドの店。異国で見るそれは、いつもケバケバしく目に入ってくるのに、この街ではくすんで見える。路面電車もひどくゆっくりと走っている。まわりの灰色のせいだ。<br /><br /> 灰色に包まれたオペラハウスは、今まで見てきたどのオペラハウスよりも、薄汚かった。ドナウも、城も、橋も、たくさんの落書きも、みんな灰色。<br /><br /><br /><br /> 灰色が広がる石畳の広場。太陽は見えないが夕暮れの時刻。 <br /><br />「夕飯をどこで食べようか」 <br /><br /> ポケットに手をつっこんで歩いていた。ひと気がない。<br /><br /> 広場から一本のびた細い路地へ入った時だった。ひとりの男が近づいてきた。みすぼらしい緑色のジャンパーを着ている。ひげも髪の毛も整えられていない。<br /><br />「ヤバイな」 <br /><br /> そう思った時、男は話しかけてきた。あきらかに英語ではない。おそらくその国の言葉であったのだろうが、呂律が回ってなく、言葉というよりも音がもれている感じだ。体をすり寄せてくる。後ずさりして避ける。 <br /><br /> 男はたばこを1本出してきた。しかし吸おうとせず、かといって異人に渡そうとするでもない。わからない言葉でまくしたてる。声がかなり大きくなってきた。同じ単語を繰り返しているのがわかった。ライターがないらしいのだ。 <br /><br />─ NO. <br /><br /> 喫煙の習慣がないのでライターは持っていなかった。男は大事にそのたばこをポケットにしまい、またもやわからない言葉でまくしたて始めた。なにか怒気を含んでいるような時もあり、にやにやと笑っている時もある。言葉が通じないことをわかっていて、あえて話しかけているのだろうか。 <br /><br /> わけのわからない言葉でずっと話され、コミュニケーションもとれていない状態が続くとだんだんと恐怖感が出てきた。遠くに離れようと思った時だった。 <br /><br /> バッ。 <br /><br /> 男は突然かがみ込み、異人の右の太股を両手でつかんだ。そしてそのまま持ち上げようとしてくる。そうする間中も、わからない言葉が耳に流れ込んでくる。恐怖した。必死にもがきはじめた。そのままどこかへ連れていこうとしているのだ。 <br /><br />─ やめろっ!! <br /><br /> 細く続いていく灰色の石畳が吸収してしまったのか。大声で叫んだつもりのその日本語は、灰色の空気を振動させることが出来なかった。<br /><br />http://www.geocities.jp/kanaibon/

Good times Bad times #3

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1998/01 - 1998/01

746位(同エリア778件中)

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kanai jic tokyo

kanai jic tokyoさん

 ブダペシュトからのバスは広いバスターミナルで停まった。目的地の国の首都に着いたらしい。とりあえず地図を買って繁華街へ行くべきだろう。と、近くのキオスクで地図を買おうとしたがお金を持っていない。そうだ。通貨が何であるのかすらも知らないのだ。

 こどもを連れた母親の言葉は英語ではなかったが、街の中心の方向だけはわかった。それと、そこまでの距離がかなりあることも。母親がキオスクでバス券を買うように勧めていたからだ。しかし、コインもお札もない旅行者は足を使うしかなかった。

 その距離の長さと重い荷物で、街の中心に着いた時にはへろへろだった。「ユースホステルは満員だ」というツーリストインフォメーションの女性の言葉は、それ以上足を動かせなくするためには、じゅうぶんなひとことだった、、、

 

 鍵を2つ持っている。ひとつはそのビル全体の入口の門の鍵。もうひとつは今泊まっている部屋の鍵だ。ベッド、カーテン、キッチン、バス、トイレ、クローゼット、電灯、食器、やかん、歯ブラシ、コップ、タオル、、、生活感で満ちている。アメリカ大使館のすぐ近くの、ある人の住まいの一室を借りることになった。ベッドも部屋も広すぎる。重い荷物が、広いカーペットにひとつ転がっていた。

 スーパーマーケットまで買い物に行く。部屋の主の足は長くて、歩調を合わせるのが大変だった。人と会話をするのが、とても久しぶりに感じる。数時間前までブダペシュトで友人と話していたというのに。バスの時間と、寒さと、くもり空が、ひとりの旅行者に長い長い時間を作ってしまったようだ。空、建物、石畳、人、、、たくさんの灰色がまわりを覆っていく。

 マクドナルドの店。異国で見るそれは、いつもケバケバしく目に入ってくるのに、この街ではくすんで見える。路面電車もひどくゆっくりと走っている。まわりの灰色のせいだ。

 灰色に包まれたオペラハウスは、今まで見てきたどのオペラハウスよりも、薄汚かった。ドナウも、城も、橋も、たくさんの落書きも、みんな灰色。



 灰色が広がる石畳の広場。太陽は見えないが夕暮れの時刻。

「夕飯をどこで食べようか」

 ポケットに手をつっこんで歩いていた。ひと気がない。

 広場から一本のびた細い路地へ入った時だった。ひとりの男が近づいてきた。みすぼらしい緑色のジャンパーを着ている。ひげも髪の毛も整えられていない。

「ヤバイな」

 そう思った時、男は話しかけてきた。あきらかに英語ではない。おそらくその国の言葉であったのだろうが、呂律が回ってなく、言葉というよりも音がもれている感じだ。体をすり寄せてくる。後ずさりして避ける。

 男はたばこを1本出してきた。しかし吸おうとせず、かといって異人に渡そうとするでもない。わからない言葉でまくしたてる。声がかなり大きくなってきた。同じ単語を繰り返しているのがわかった。ライターがないらしいのだ。

─ NO.

 喫煙の習慣がないのでライターは持っていなかった。男は大事にそのたばこをポケットにしまい、またもやわからない言葉でまくしたて始めた。なにか怒気を含んでいるような時もあり、にやにやと笑っている時もある。言葉が通じないことをわかっていて、あえて話しかけているのだろうか。

 わけのわからない言葉でずっと話され、コミュニケーションもとれていない状態が続くとだんだんと恐怖感が出てきた。遠くに離れようと思った時だった。

 バッ。

 男は突然かがみ込み、異人の右の太股を両手でつかんだ。そしてそのまま持ち上げようとしてくる。そうする間中も、わからない言葉が耳に流れ込んでくる。恐怖した。必死にもがきはじめた。そのままどこかへ連れていこうとしているのだ。

─ やめろっ!!

 細く続いていく灰色の石畳が吸収してしまったのか。大声で叫んだつもりのその日本語は、灰色の空気を振動させることが出来なかった。

http://www.geocities.jp/kanaibon/

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