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ウシュアイアまで辿りついたまではよかったが、首都ブエノスに戻ることができなくなってしまった。<br /><br /> 何でも4月1日からはセマナ・サンタ(イースター復活祭)が始まり、南米中が休日となってしまうというのだ。この時期、あらゆる移動手段のチケットを取ることが1年のうち最も困難になってしまうという。言うなれば日本のお盆のようなものだろう。<br /><br /> それを教えてくれた友人のメールを見たのは昨日。慌てて航空会社のオフィスに行くと案の定もはや手遅れで、4月中旬以降まで空きは一切ないという。<br /><br /> 特に予定が差し迫っている訳ではないが、さすがに何もないウシュアイアの町にあと3週間近くもいるのは嫌だ。何とか他に方法はないものか。長距離バスという手もあるが、これまでのバスの旅でのお尻ダメージを考えると敬遠せざる負えない。<br /><br /> 町の旅行会社を方々まわると、3月30日夜発のフライトが唯一見つかった。しかし値段が高い。680ペソ(約2万7千円)もする。とり合えず予約だけ入れて一晩考えさせてもらうことに。もう少し早い時期に予約しておけば、この半額の値段で行けたはず。自分の相変わらずの無計画さを恨んでみるが今更どうにもならない。<br /><br /> 上野亭へ戻ると、飼い犬のトルーチャ(メス5歳雑種)が尻尾を振り振り、飛び上がって僕を迎えてくれた。落ち込んでいる僕を励まそうというのか、単に人恋しかったのか、ものすごい喜びようだ。<br /><br /> そうだ。どっちにしろ暇だし散歩に連れて行ってやろう。<br /><br /> お婆ちゃんから首輪と対野犬用の竹棒を借りる。トルーチャは散歩に連れて行ってもらえるのがわかるらしく、僕の腕や体に向かって甘噛みしてくる。しばらく振りであろう散歩が嬉しくて仕方ないようだ。こらこら暴れるな、おまえのせいで洗ったばかりのジャケットとGパンはヨダレだらけだよ。<br /><br />  外に出るなり、トルーチャは小柄な体つきからは想像できないほどの馬鹿力で僕を引っ張った。確かにこれではお婆ちゃんは散歩に連れて行けない。男性の僕ですらうまくコントロールできない。<br /><br /> 落ち着け、落ち着けって。<br /><br /> 日本語が通じないのか。勢いよく走り出しては突然止まるということを繰り返す。まったく落ち着きがない。待て、落ち着かないと小学校の通信簿に書いてしまうぞ。<br /><br /> 今度は道なき原っぱへ入っていく。だからそっちに行くなって!だめだって、そっちは。頼むよ。本当に、もう。<br /><br /> トルーチャという犬はまったく言う事を聞かない。それとも僕が舐められているのだろうか。散歩してたった5分で少し後悔。近所の小山を周って今日はとっとと戻ろう。<br /><br /> ウシュアイアの町は飼い犬だけに限らず野犬も多い。道を歩いていくと、そこ等じゅうから犬の鳴き声が聞こえてきた。なのにトルーチャは他の犬にはまったく興味がない模様で、ただ好きな匂いを追って、マーキングのためのオシッコに夢中だ。ひたすら自分の欲求だけを満たそうとする。<br /> <br /> あちこち寄り道しながら散歩すること20分。小山に着くと、さらにトルーチャは元気を増した。登りの急坂なのに飛び跳ねんばかりで、僕はもう着いていけない。<br /><br /> ぜぇぜぇ、はぁはぁ。ちょっとトルーチャ。いやトルーチャさん。もうちょっとゆっくりいきましょうよ。落ち着いてください。頼みますよ。お願いします。やんわりと慎重にじっくり着実に、ここは歩いて行きましょう。<br /><br /> いつの間にか敬語に変わり、主従関係は反対になっていた。こんな性格の僕だから管理職に昇進するのが遅れたわけで。このあっさり威厳をなくす特性、自分でも呆れるほどよくわかっています。<br /><br /> 残念ながら僕の敬語はさっぱり威力を発揮していないようだ。いまやトルーチャは首紐を引き千切らんばかりに僕を引っ張る。わかった、諦めて今日はトルーチャ・デイとしよう。今日はお前の第二の誕生日だ。今日一日は我侭を聞いてあげるよ。<br /><br /> 馬を追っかるトルーチャを止めたり、落ちた針金やガラスを避けるのに、ほとほと疲れ果てながらも、小山の丘までなんとか登りきった。<br /><br /> その景色の美しいことよ。いや景色自体はそれほどでもない。この暴れ犬トルーチャと登りきったこの達成感。それが故にいつもの何倍にも景色が綺麗に見えるのだ。<br /><br /> 地平線に浮かぶいくもの船舶、その左右には万年雪を積もらせた鋭利な山々、真っ青の空には日本では見かけない面白い形の雲が浮かぶ。何もないと思っていたウシュアイアにもこんな景色があったんだなあ。もうちょっとだけこの最果ての地にいても面白いのかな。このトルーチャとのんびり遊んでやる(もらう?)のもいいのかもしれない。<br /><br /> そんなことを考えることができたのも、つかの間、トルーチャは早くも次の行動に移る。<br /><br /> ちょっとトルーチャさん、それ馬糞ですよ。食べちゃダメ、ダメ。いや食べないでください。食べないで候。ぽるふぁぼーる!もぉーーーー。お願いしますよ〜〜!!あ、そっちはですね・・・、もうトルーチャさまぁ〜たら!<br /><br />

トルゥーチャと冒険@ウシュアイア

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2007/03/30 - 2007/03/30

164位(同エリア173件中)

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フーテンの若さん

フーテンの若さんさん

ウシュアイアまで辿りついたまではよかったが、首都ブエノスに戻ることができなくなってしまった。

 何でも4月1日からはセマナ・サンタ(イースター復活祭)が始まり、南米中が休日となってしまうというのだ。この時期、あらゆる移動手段のチケットを取ることが1年のうち最も困難になってしまうという。言うなれば日本のお盆のようなものだろう。

 それを教えてくれた友人のメールを見たのは昨日。慌てて航空会社のオフィスに行くと案の定もはや手遅れで、4月中旬以降まで空きは一切ないという。

 特に予定が差し迫っている訳ではないが、さすがに何もないウシュアイアの町にあと3週間近くもいるのは嫌だ。何とか他に方法はないものか。長距離バスという手もあるが、これまでのバスの旅でのお尻ダメージを考えると敬遠せざる負えない。

 町の旅行会社を方々まわると、3月30日夜発のフライトが唯一見つかった。しかし値段が高い。680ペソ(約2万7千円)もする。とり合えず予約だけ入れて一晩考えさせてもらうことに。もう少し早い時期に予約しておけば、この半額の値段で行けたはず。自分の相変わらずの無計画さを恨んでみるが今更どうにもならない。

 上野亭へ戻ると、飼い犬のトルーチャ(メス5歳雑種)が尻尾を振り振り、飛び上がって僕を迎えてくれた。落ち込んでいる僕を励まそうというのか、単に人恋しかったのか、ものすごい喜びようだ。

 そうだ。どっちにしろ暇だし散歩に連れて行ってやろう。

 お婆ちゃんから首輪と対野犬用の竹棒を借りる。トルーチャは散歩に連れて行ってもらえるのがわかるらしく、僕の腕や体に向かって甘噛みしてくる。しばらく振りであろう散歩が嬉しくて仕方ないようだ。こらこら暴れるな、おまえのせいで洗ったばかりのジャケットとGパンはヨダレだらけだよ。

外に出るなり、トルーチャは小柄な体つきからは想像できないほどの馬鹿力で僕を引っ張った。確かにこれではお婆ちゃんは散歩に連れて行けない。男性の僕ですらうまくコントロールできない。

 落ち着け、落ち着けって。

 日本語が通じないのか。勢いよく走り出しては突然止まるということを繰り返す。まったく落ち着きがない。待て、落ち着かないと小学校の通信簿に書いてしまうぞ。

 今度は道なき原っぱへ入っていく。だからそっちに行くなって!だめだって、そっちは。頼むよ。本当に、もう。

 トルーチャという犬はまったく言う事を聞かない。それとも僕が舐められているのだろうか。散歩してたった5分で少し後悔。近所の小山を周って今日はとっとと戻ろう。

 ウシュアイアの町は飼い犬だけに限らず野犬も多い。道を歩いていくと、そこ等じゅうから犬の鳴き声が聞こえてきた。なのにトルーチャは他の犬にはまったく興味がない模様で、ただ好きな匂いを追って、マーキングのためのオシッコに夢中だ。ひたすら自分の欲求だけを満たそうとする。
 
 あちこち寄り道しながら散歩すること20分。小山に着くと、さらにトルーチャは元気を増した。登りの急坂なのに飛び跳ねんばかりで、僕はもう着いていけない。

 ぜぇぜぇ、はぁはぁ。ちょっとトルーチャ。いやトルーチャさん。もうちょっとゆっくりいきましょうよ。落ち着いてください。頼みますよ。お願いします。やんわりと慎重にじっくり着実に、ここは歩いて行きましょう。

 いつの間にか敬語に変わり、主従関係は反対になっていた。こんな性格の僕だから管理職に昇進するのが遅れたわけで。このあっさり威厳をなくす特性、自分でも呆れるほどよくわかっています。

 残念ながら僕の敬語はさっぱり威力を発揮していないようだ。いまやトルーチャは首紐を引き千切らんばかりに僕を引っ張る。わかった、諦めて今日はトルーチャ・デイとしよう。今日はお前の第二の誕生日だ。今日一日は我侭を聞いてあげるよ。

 馬を追っかるトルーチャを止めたり、落ちた針金やガラスを避けるのに、ほとほと疲れ果てながらも、小山の丘までなんとか登りきった。

 その景色の美しいことよ。いや景色自体はそれほどでもない。この暴れ犬トルーチャと登りきったこの達成感。それが故にいつもの何倍にも景色が綺麗に見えるのだ。

 地平線に浮かぶいくもの船舶、その左右には万年雪を積もらせた鋭利な山々、真っ青の空には日本では見かけない面白い形の雲が浮かぶ。何もないと思っていたウシュアイアにもこんな景色があったんだなあ。もうちょっとだけこの最果ての地にいても面白いのかな。このトルーチャとのんびり遊んでやる(もらう?)のもいいのかもしれない。

 そんなことを考えることができたのも、つかの間、トルーチャは早くも次の行動に移る。

 ちょっとトルーチャさん、それ馬糞ですよ。食べちゃダメ、ダメ。いや食べないでください。食べないで候。ぽるふぁぼーる!もぉーーーー。お願いしますよ〜〜!!あ、そっちはですね・・・、もうトルーチャさまぁ〜たら!

  • ウシュアイアの日本人宿、上野山荘(亭、大学ともいう)では宿泊者が1人また1人と去っていき、ついに僕とS君の男2人だけとなってしまった。つい1週間前までは満室だったと聞いていたのに。<br /><br /> この宿は町の中心から離れている以外はとても居心地がよい。<br /><br /> 五右衛門風呂もあるシャワー室、広い洗濯場、使いやすいキッチン、暖房の入った寝室、NHKテレビの見れるリビング、人懐っこい飼い犬トルーチャ、何よりもやさしくて親切な綾子お婆ちゃんがいる。<br /><br /> あまりに宿の居心地がいいので、外に出るのがだんだん億劫になり、ずっと宿の中に篭ってしまう。今日も新しい宿泊者は来なさそうだ。S君と他愛もない会話を肴に夕方からアルゼンチンワインを嗜む。<br /><br />  独身男の会話は自然に女の話になる。ワインの酔いも手伝ってお互い口は滑らかだ。<br /><br /> NHKに出ているドラマの子はタイプ?芸能人と付き合うとしたら誰が好き?前に付き合っていた彼女はどうしたの?<br /><br /> やっぱ旅が長くなると男は女がとても恋しくなる。<br /><br /> 「一本のワインには2人の女が入っている。1人は栓をあけたばかりの処女。もう1人はそれが熟女になった姿である。」と言ったのは開高健。<br /><br /> 「処女でも熟女でも何でもいいから、このワインから実在する女が飛び出てくれないかしらん。」と思うのは今の僕。<br /><br /> でももしこの場に女が1人いたら確実に男2人は奪い合って喧嘩するよね。<br /><br /> この南の果てのウシュアイアで引き篭もりながら、考えていたのは結局、女のことである。今日も何の事件も起きぬまま、長い夜はまったりと更けていく。<br />

    ウシュアイアの日本人宿、上野山荘(亭、大学ともいう)では宿泊者が1人また1人と去っていき、ついに僕とS君の男2人だけとなってしまった。つい1週間前までは満室だったと聞いていたのに。

     この宿は町の中心から離れている以外はとても居心地がよい。

     五右衛門風呂もあるシャワー室、広い洗濯場、使いやすいキッチン、暖房の入った寝室、NHKテレビの見れるリビング、人懐っこい飼い犬トルーチャ、何よりもやさしくて親切な綾子お婆ちゃんがいる。

     あまりに宿の居心地がいいので、外に出るのがだんだん億劫になり、ずっと宿の中に篭ってしまう。今日も新しい宿泊者は来なさそうだ。S君と他愛もない会話を肴に夕方からアルゼンチンワインを嗜む。

     独身男の会話は自然に女の話になる。ワインの酔いも手伝ってお互い口は滑らかだ。

     NHKに出ているドラマの子はタイプ?芸能人と付き合うとしたら誰が好き?前に付き合っていた彼女はどうしたの?

     やっぱ旅が長くなると男は女がとても恋しくなる。

     「一本のワインには2人の女が入っている。1人は栓をあけたばかりの処女。もう1人はそれが熟女になった姿である。」と言ったのは開高健。

     「処女でも熟女でも何でもいいから、このワインから実在する女が飛び出てくれないかしらん。」と思うのは今の僕。

     でももしこの場に女が1人いたら確実に男2人は奪い合って喧嘩するよね。

     この南の果てのウシュアイアで引き篭もりながら、考えていたのは結局、女のことである。今日も何の事件も起きぬまま、長い夜はまったりと更けていく。

  • アルゼンチンとチリの旅で、とにかくお世話になっているのが、この「ドゥルセ・デ・レチェ」。直訳すると牛乳のお菓子という意味で、何処のスーパーでも見掛けるパンにつけるクリームだ。見た目はピーナッツバターのようだが、味は練乳とキャラメルを混ぜたようなねっとりした味で、日本にはない甘ったるさ。普段甘いものを食べない僕が、パンに必要以上にいつも塗り捲っている。こっちのスカスカのパンと、どうやらとても相性がいいようで、コイツがあればいくらでも食べることが出来てしまうのだ。バス移動が多いアルゼンチンとチリの旅でろくな朝飯が食べれない時、コイツはとても重宝する。だから僕はいつも肌身離さず手持ちの鞄に忍ばせている。<br /><br /> この「ドゥルセ・デ・レチェ」、聞いたところによるとアルゼンチンのママの味として有名らしい。アルゼンチンの子供は毎日、朝食にはコイツを漬けて食べるが習慣なのだそうだ。<br /><br /> 日本に例えるならご飯に欠かせない海苔玉フリカケのような存在だろうか。とにかく僕は毎日、この甘〜いアルゼンチンママアの虜になっている。<br />

    アルゼンチンとチリの旅で、とにかくお世話になっているのが、この「ドゥルセ・デ・レチェ」。直訳すると牛乳のお菓子という意味で、何処のスーパーでも見掛けるパンにつけるクリームだ。見た目はピーナッツバターのようだが、味は練乳とキャラメルを混ぜたようなねっとりした味で、日本にはない甘ったるさ。普段甘いものを食べない僕が、パンに必要以上にいつも塗り捲っている。こっちのスカスカのパンと、どうやらとても相性がいいようで、コイツがあればいくらでも食べることが出来てしまうのだ。バス移動が多いアルゼンチンとチリの旅でろくな朝飯が食べれない時、コイツはとても重宝する。だから僕はいつも肌身離さず手持ちの鞄に忍ばせている。

     この「ドゥルセ・デ・レチェ」、聞いたところによるとアルゼンチンのママの味として有名らしい。アルゼンチンの子供は毎日、朝食にはコイツを漬けて食べるが習慣なのだそうだ。

     日本に例えるならご飯に欠かせない海苔玉フリカケのような存在だろうか。とにかく僕は毎日、この甘〜いアルゼンチンママアの虜になっている。

  • 上野亭

    上野亭

  • トルーチャ

    トルーチャ

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