旅の途中で出会った旅行者にぜひにと薦められたのが、このビーグル水道クルーズだ。しかも大型船ではなく、ヨットのクルーズ。１００ペソもの大金を払って天気のいい日に乗ってみた。何でも昔、椎名誠がこのヨットクルーズに参加したことがあるそうだ。<br /><br />　寒い。日は出ているのだが、凍えるような冷たい風が体を突き抜ける。その風をまともに受けるヨットの上は極寒の地だった。<br /><br />　近郊の島に上陸して歩く。海草や植物、海鳥の説明があるが特に目を引かれるものはない。アザラシもたくさん見られるが、だからどうなのだろう。ここが世界の終わりという名目がなければ取り立てて大した見所などないような気がする。島の散策は１時間ほどで終了し、またヨットに戻る。<br /><br />　夕方近くになって、さらに寒さが増したようだ。とてもじゃないが、寒さで僕はヨットの船上に出ることはできない。<br /><br />　大騒ぎして写真を撮る欧米人旅行者をよそに、暖かい船内でコーヒーでも啜っていよう。そう思って、一人でずっとヨットの内に篭っているとガイドが心配して様子を見に来た。<br /><br />　「おまえ何してるんだ？景色見ないのか。」<br /><br />　「僕はとにかく寒いんだ。僕にとってはここが一番心地よい世界さ。」<br /><br />　　ワハハハハハハハハ。<br /><br />　熊のような大柄なガイドは何がそんなに可笑しいのか、突然大きな声で笑い出した。その声はヨットの中で甲高く響き、いつまでも笑いが止まらない。<br /><br />　つられて僕も笑ってしまう。他の旅行者たちも気付いて笑い始めた。何だかサザエさんみたいだ。そしてガイドはこう言った。<br /><br /> 「どうだ、暖かくなっただろう？」<br /><br />　世界の終わりの果ての地は不毛の地なんかではなく、思った以上に寒いけど何だか楽しそうなところのようだ。<br /><br />　とにかく笑って笑って体を暖めよう。お日様も笑っているようだし。<br />　<br />　ワハハハハハハハハ。

世界の終わりとハードコールドワンダーランド＠ウシュアイア

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2007/03/25 - 2007/03/25

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#世界一周

フーテンの若さんさん

旅の途中で出会った旅行者にぜひにと薦められたのが、このビーグル水道クルーズだ。しかも大型船ではなく、ヨットのクルーズ。１００ペソもの大金を払って天気のいい日に乗ってみた。何でも昔、椎名誠がこのヨットクルーズに参加したことがあるそうだ。

　寒い。日は出ているのだが、凍えるような冷たい風が体を突き抜ける。その風をまともに受けるヨットの上は極寒の地だった。

　近郊の島に上陸して歩く。海草や植物、海鳥の説明があるが特に目を引かれるものはない。アザラシもたくさん見られるが、だからどうなのだろう。ここが世界の終わりという名目がなければ取り立てて大した見所などないような気がする。島の散策は１時間ほどで終了し、またヨットに戻る。

　夕方近くになって、さらに寒さが増したようだ。とてもじゃないが、寒さで僕はヨットの船上に出ることはできない。

　大騒ぎして写真を撮る欧米人旅行者をよそに、暖かい船内でコーヒーでも啜っていよう。そう思って、一人でずっとヨットの内に篭っているとガイドが心配して様子を見に来た。

　「おまえ何してるんだ？景色見ないのか。」

　「僕はとにかく寒いんだ。僕にとってはここが一番心地よい世界さ。」

　　ワハハハハハハハハ。

　熊のような大柄なガイドは何がそんなに可笑しいのか、突然大きな声で笑い出した。その声はヨットの中で甲高く響き、いつまでも笑いが止まらない。

　つられて僕も笑ってしまう。他の旅行者たちも気付いて笑い始めた。何だかサザエさんみたいだ。そしてガイドはこう言った。

「どうだ、暖かくなっただろう？」

　世界の終わりの果ての地は不毛の地なんかではなく、思った以上に寒いけど何だか楽しそうなところのようだ。

　とにかく笑って笑って体を暖めよう。お日様も笑っているようだし。
　
　ワハハハハハハハハ。