2007/03/23 - 2007/03/23
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フーテンの若さんさん
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風が吹いている。パタゴニア特性の南からの風だ。その風はかつて経験してきたどの種類の風とも違っていた。大人でも足元がぐらつき、小さな子供や犬などの小動物であれば吹き飛ばされんばかりの突風に変わることもあれば、それが一変、嘘のように穏やかなそよ風に変わることもある。普段は肉食動物のように形振り構わず強暴なのだが、時には郷里の母親のような安らぎを感じさせる包容力を持った不思議な風だった。
この後は世界最南端の町ウシュアイアを目指すのみ。思えば遠くへ来たものだ。
正直、僕は旅に少々疲れを感じていた。寂しい。人恋しい。友人に会いたい。そろそろ働きたい。なのに気持ちとは裏腹に故郷を遠く離れていく。
1年前は普通に東京でサラリーマン生活を謳歌していた。もちろん全てがうまくいっていた訳ではないが、上司、同僚、部下との仲も悪くなく、それなりに毎日を楽しんでいた。旅したい気持ちはずっと心に秘めていたものの、まさか1人でこんな南の果てに来ることになるなんて当時は想像すらできなかった。
僕は昔の生活に戻ることはできるのであろうか。日本に帰れるのだろうか。それとも日本という枠から外れ、このままずっと世界を放浪し続けることになるのだろうか。いったい僕はどうなっていくのだろう。これから訪れるウシュアイアのことに心巡らせようとしても、将来の自分のことばかり考えてしまう。
答えはこの風の中にあるのだろうか。
もちろんすぐに答えなど出やしないことはわかっている。南から吹き付けてくる風は激しさを増して、いつしか突風に変わり、もはや歩くことすら難しいほど僕を脅かす。風の力とはこれ程もあるものなのか。この広い世界にはまだこんな風があったのか。ただ一つ言えることは、34歳にもなってこんなことを考えていられる僕という人間は幸せに違いないということだ。
風はしばらくまだ止みそうにはない。風に逆らって僕はさらに南へ向かう。
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満室だった日本人宿FUJI旅館にやっと空きが出て泊めてもらうことに。
ラッキーなことに、その夜はみんなが釣ってきたマスで寿司パーチー!やっぱ日本人に生まれてきてよかったわぁ〜。
今夜の話題。
?アルゼンチンの経済史
?世界のトイレ事情と面白トイレ自慢
?最近の南米治安のネタ話
?昔の浅草花やしきって知っている?
?威嚇射撃で空に撃ったピストルの弾は落ちて人に危害を加えないのか?
?の答えはでなかった。でもたぶん僕は死なないと思う。理由はよくわからないけど威嚇射撃して死んでしったら報われないよ、それで死んじゃった人は。 -
髪をアップに上げて団子のように纏めた小柄な若い女性。うなじのラインがとても綺麗でそこから甘い匂いがほのかに漂って来る。身なりはパリッとしていて、小奇麗な感じ。見るからに着慣れないセーターは新調ものだからだろうか。
近づくなり、僕の手を軽く握って歩き始めた。僕のことをずっと待っててくれたようだ。その証拠に彼女の手は氷のように冷たかった。何処へ行くの?言葉ではなく、やさしい微笑みをそっと返してくれた。とにかく着いてきてとその顔は語っている。
近代的だが人間味が感じられず、モノトーンの薄暗い町並みをそろそろと歩いていくとほどなく真っ黒でノッポなビルに辿り着いた。ここよ。またも彼女は口に出さず、顔で合図をする。
少しだけ心配になりながらも、彼女の笑顔に後押しされ中に入る。ロビーを過ぎると見たこともない大きなエレベータ。そこは何十人ものエレベータ待ちの先客たちで溢れていた。どうやら僕らも上の階に向かうようだ。彼女に連れられるまま、最後列に並ぶことになった。
このビルはいったい何階まであるのだろう。気になって、エレベータのドアの上にある階数を確認してみるとそれはいつも目にしていたものとは異なっていた。アミダクジのようにピカピカ光る特大の階数盤。まるでウォンカーウァイの映画に出てくるような近未来的なギミック。ビルは複雑な構造になっているようで、目的地に辿り着くためには何度も乗り換えが必要なようだった。
彼女と一緒にエレベータを何度乗り換えただろうか。Aのエレベータに乗り、5階で降りた後はCに乗り換え、21階でEへ向かい、反対側のHに乗るといった調子で、道のりはかなり複雑だった。彼女がいなければ、僕はひとり迷ってしまっていたに違いない。彼女は全ての道を暗記しているかのように、てきぱきと先に進んで案内してくれる。
10回以上乗り換えてやっと目的地に到着したようだ。到着の安堵からか彼女の顔は綻んでいた。そこは病院の検査所のようなところで、たくさんの看護婦たちが忙しそうに小走りに駆け回り、白衣を着た男たちが何やら大声で指示を出していた。
さすがに僕は不安になった。何を検査するのか。僕の身体のどこに問題があるというのか。彼女にそれを問いただそうとすると、変わって眼鏡をかけた若い医師に声を掛けられた。
はっ。
そこで目が覚めた。実際に声を掛けたのはバスの添乗員だった。ここはアルゼンチンからチリへ抜けるバスの中。ウシュアイアへ向かうには一度チリ側に入り、国境のイミグレーション審査を受けねばならない。寝ていた僕を起して、彼はバスの外に出るように促したのだ。
夢の中だったが、あの彼女の姿が忘れられない。
今思えば高校のとき片思いの同級生に似ている気もするし、昔勤めていた会社の後輩の子に似ていた気もするし、まったくはじめて見る理想の彼女だったような気もする。
彼女は僕に何を伝えたかったのだろう。夢の彼女とはもう一度会って確認してみたい。その後、彼女に会いたくて何度も夢の続きを見ようと努力してみたが、バスの中では適うことはなかった。
世界最南端、ウシュアイアの町に到着したのはそれから数時間後だった。彼女とは現実の世界、この世界の果ての地で会えるのかもしれない。 -
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