2000/02/12 - 2000/02/17
5425位(同エリア5794件中)
早島 潮さん
2月12日オークランドで乗り継ぎクライストチャーチへ到着した。機上から俯瞰すると樹木の生えていない山が多い。山並みの北側と南側では樹木の生え方が違っている。北側で濃度が濃く南側で薄い。これは太陽が北側を通るせいであろうか。南半球だからこその植生である。一瞬焼き畑かと紛うほどに黒く見える箇所がある。これは松や杉などの針葉樹が植林されている場所である。
クライストチャーチでは美しい花の咲き乱れるモナ・ベイル邸を見学してから、次に標準的な市民の実生活を見学するため、郊外にあるフォーリー・キーズ氏夫妻の邸宅を訪問した。紅茶と手作りのお菓子・スコーンを御馳走になった。この家の主人は鍛冶屋さんということであるが、ガーデニングが好きでおよそ300坪ほどもある敷地には二階建ての邸宅と物置や作業小屋、鳥小屋が建っており庭の一部150坪程の所には芝生が植えられていた。芝生は綺麗に手入れされていて雑草一本も生えていないし、周囲を取り囲んで植えられている色々な種類の庭木の手入れもよく行き届き、その下には色とりどりの花が咲き乱れていた。家の壁という壁には花の入ったバスケットが吊るされていて今を盛りと沢山の花が咲いていた。敷地内には5坪程の子供用水泳プールもありこれは手作りであるという。ガイドの説明によればニュージーランド市民の平均的な住まいは120坪位の敷地に三つのベッドとダイニングルーム、リビングルーム、キチン、風呂場、手洗いのある一戸建ての家が1200万円程であるというから、訪問したこの民家は標準以上の住まいということになるのであろうか。
クライストチャーチはカンタベリー協会が1850年にイギリスからの移民船四艘で派遣した800人が入植して開いた町である。そのリーダー達の出身校がオックスフォード大学クライストチャーチカレッジだったことからこの町名が決まった。彼らは故郷を偲んでイギリス風の町作りをしたので、主要な通りにはオックスフォード通りとかケンブリッジ通りとかイギリスそのものの名前がつけられている。
大聖堂はこの町のランドマークともなっており、ゴシック様式の美しいイギリス国教会の教会である。教会を中心とした広場は町の中心になっている。クライストチャーチの中心部には全長2,500mの長方形のルートを走るトラムと称する路面電車が走っており町並みを鑑賞するには恰好の乗り物であり、観光客の人気も高い。我々も翌朝、始発のトラムに乗って一周し町並みを見学した。運転手や車掌ものんびりしていてエイボン川にかかる橋の近くの乗り場では停車中に電車から下りて川の中に鰻がいるかどうかを観察したりしている。乗客達もぞろぞろ降りだして運転手の視線の先を追ってみたりしている。この間約10分、なんとものどかな光景である。
トラムの停車地点で観光ポイントの一つアートセンター横の広場には工芸品や骨董品の青空市場がたっており多くの観光客が掘り出し物を物色していて楽しい場所であるし、周囲に立ち並ぶ歴史的な建物群はイギリス風の景観を呈しており落ちついた雰囲気が漂っている。パステルカラーの店が軒を並べるニューリージェントストリートにはブティックや装飾品店やレストランが立ち並んでいて買い物客で賑わっており、おしゃれな感覚に溢れている。
この市は別名ガーデンシティとも言われる程沢山の美しい公園をもっている。その公園の一つハグレー公園は182ヘクタールもの広大な広さを持ち、東京ドームが38個も入ってしまうほどの大きさで公園の中には18ホールのゴルフ場まで備わっている。来る2月18日からは花フェスティバルが開かれる予定になっており、公園ではその時開かれる彫刻展に出品するために最後の仕上げをしている数多くの芸術家達が熱心に鑿をふるっていた。トラムの通る通りにはその日のための絵がアーティスト達によって思い思いの題材で路面に描かれていた。昼食に日本料理を食べてから次の宿泊地テカポ湖へ向かった。
クライストチャーチの郊外へでると間もなく広大な緑豊かな平野が広がっており、夥しい数の羊が放牧されていてのんびりと草を食んでいた。牛も沢山放牧されており色は黒、茶、黒と白のまだらとさまざまである。馬も放牧されているし意外に思ったのは鹿の群れがやはり放牧されていることであった。鹿も食用に飼われているとのことである。
通り抜けたカンタベリー平野はニュージーランドの穀倉地帯であり、その広さはニュージーランドの平野部分の43%を占めるというが、入植は1864四年に始まり荒蕪地であった所を開墾し、樹木や牧草を植えて今日の緑豊かな平野に変貌したのである。この一帯の農家は牧畜と農業を兼業する混合農家と言われており約三万六千軒あるということである。三時間ほどものどかな田園風景を楽しみながらバスドライブを続けるうちにやがて正面に湖が見えてきだした。
テカポ湖である。この湖は約二万年前の氷河から融けだした水でできた氷河湖である。湖面は碧色に光輝いており、畔には小さな教会も建っている。
昨夜泊まったホテルを朝早く出発してフッカー谷のトレッキングのため、マウントクックビレッジのヘリテージホテルへバスで移動した。このホテルのある村はマウントクックへ登山するための基地になっていて標高は760mである。日本人の若い男性ガイド二人が大きなリュックサックを担いで我々のグループが到着するのを待っていた。生憎雨が降っており、夏とは思えない程の寒さである。この地は国立公園になっていて樹木の伐採や植物の採取は禁止されている。また公園管理者及びガイドとその家族だけしか居住できない定めになっているし新たな建造物の建設も禁止されているそうである。人間が入り込んできて環境が破壊されることを防止するための措置であるという。原生林をそのままの状態に維持するために今では国を挙げて取り組んでいるのである。
小雨がそぼ降る中をバスでホッカーバレーのキャンプ地まで運んで貰い、ここからU字谷の砂利道を登ったり下ったりして、左右にモレーン(氷河で押し流され堆積してできた小高い丘)を見ながら、ミューラー湖の岸辺にフッカーズ氷河の先端が迫っているところまでトレッキングした。往復約二時間の距離であったがマタゴオリと言われるトゲの生えた原生植物やワイルドスパニッシュ等の植物の説明を受けながら、途中フッカー川にかかる吊り橋を恐る恐る渡って目的地まで到達した。
今はマタゴオリやワイルドスパニッシュと呼ばれる原生植物は保護しなければならないほど少なくなっているが、この地へ初めて人間が調査に入った頃には密度濃くマタゴオリが繁っていた。しかし入植した村人達が原生林を伐採して薪にしたため現在のような見る影もない姿になったのだという。
フッカーズ氷河は一見砂利の集積した河原にしか見えない。然し説明されてよく見ると河原の所々に逆三角形の形をした白い割れ込みがあるのが判る。これが氷河の先端であって、白く見えるのが氷なのだ。この地の氷河は長い年月をかけて地下に潜り込み土石を下流に流していくのであるが、地球の温暖化の影響を受けて一部が融けだし、今我々が逆三角形の白い形として観察しているのである。ノルーウェーで見学した氷河の先端は十数mの高さにも及ぶあたかもビルデイングの如き氷の壁であったが、ここでは河砂利の下に僅かに顔を覗かせているだけの氷河であった。同じ氷河と言っても場所が違えばこのように違うものかとの思いで一杯であった。
フッカーズ氷河の見学を終え、再びテカポ湖畔の「羊飼いの教会」まで戻ってくると丁度日本人同志の結婚式が行われており、花嫁が父親に腕を預けてバージンロードを行進しようとしているところであった。
翌朝九時にオークランドのホテルを出発してロトルアへ向かい、途中パームスプリングという場所で羊の毛刈りショーを見学した。ショーは羊の群れを巧く柵の中へ追い込む牧羊犬二種類の実演と羊の毛をバリカンで素早く刈り取る実演が行われた。三八秒で一匹の羊の毛を一本も残さず刈り取り、しかも羊の体に切り傷一つもつけないその手際よさには感心したものである。
ロトルアではテ・ワカレ・ワレア・タンガオ・テ・タウア・アワヒ・アオという舌を噛むような名前の国立公園で間歇泉の噴出する状況を観察した。ここはもともと先住民であるマオリ族の人々が温泉の湧き出る神聖な土地としてその領有を争った所である。今は屈指の観光地として賑わっており、この柵で囲われた公園の中にはマオリ族の装飾を施した神聖な集会所も設置されている。公園の中ではマオリ族の女性が龍舌蘭の葉に似たフラットと呼ばれる植物繊維で民俗衣装を織る実演をしている。この夜は民族舞踊を鑑賞後温泉に入り気分よく盃を重ねたので酔いも廻って快眠を貪った。
翌朝は最後の観光地ワイトモへ長駆バスドライブである。ここでは蠅の仲間であるグロー・ワームが光を発する所を鍾乳洞内で観察した。この虫は昆虫や虫を捕獲して食べる習性があり、獲物をおびきよせるために光を発するのである。このグロー・ワームは学名アラクノエアンパルミノサと呼ばれ通常「土蛍」の名前で知られている。湿気が多くて餌も豊富な、そしてぶら下がることの出来る岩壁があるところに生息している。土蛍は粘液とシルクで空洞のチューブ状の巣を作り、シルクの糸でこれを洞窟の天井に接着する。巣の下には釣り糸の役割を果たすねばねばした粘液でコーティングされた20〜30本の糸がぶら下がっている。これに吸着された虫を捕らえて餌にするのである。
洞窟の中の池にはボートが用意されておりこれに乗って約5分間、真っ暗な中を声をださないようにして就航し、天井に光輝いている土蛍の発光を見学する仕掛けになっているのである。暗闇の中で天井に無数に光輝いている有り様はまさしく幻想的なパノラマの世界であり、星空よりも密度濃く土蛍が瞬きもせず静かに光っている。
このあとニュージーランドでしか見られない夜行性の飛べない鳥キウイが真っ暗な飼育場で飼われているところを見学することもできた。この鳥は光や物音に敏感なため、撮影禁止となっており、明るい所では剥製でしか見ることができない。
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