飛行機が、ようやく雲を抜けたと思ったら、またその下に雲があった。<br />雲海を一層抜けるたびに、上空は暗さを増した。<br /><br />そして、三層目が終わったとたん、眼下に黒々とした熱帯雨林のうねりが見えた。<br />やがてその黒いうねりの果てるところに、ザイールの大河が、視界いっぱいに水を湛えていた。<br /><br />ひとつの河の流域面積だけで、日本の10倍を超える、化け物のような巨大さである。<br />水は曇り空を映して、薄紫に淡く光り、色といい、濁りかたといい、まさに泥水そのものを思わせた。<br />この大河を横切ったところ、そこがこれから私の住むべき国、ザイールなのだ。<br />夜来の雨が上がったばかりのンジリ空港。<br /><br />その世界一長い滑走路に、飛行機は一回大きくバウンドして、無事着陸する。<br />湿度と高温のために、窓は瞬く間に曇り、窓外の景色は何も見えなくなった。<br />何も見えない状況は、私のこれからの運命を示唆していると感じた。<br /><br />タラップが取り付けられるのを待ち、開けられたドアからは、熱風が吹き込んできた。<br />昨夜の吹雪から、今朝はサウナ風呂へ飛び込み。<br /><br />気候の変化は、即文化のギャップにつながるのだな、と実感する。<br />ショックは、体感にとどまらず、精神面に達することを、覚悟しなければならない。<br /><br />キンシャサは今、アンゴラ戦争の脱走兵が自動小銃を持って出没し、厳戒体制下にある。<br />平和の無事平穏に慣れた心を、緊迫した戦時下にスイッチする必要もある。<br />

ｷﾝｼｬｻ日記　112　キンシャサ到着

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1975/01/03 - 1975/01/03

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#その他

片瀬貴文さん

飛行機が、ようやく雲を抜けたと思ったら、またその下に雲があった。
雲海を一層抜けるたびに、上空は暗さを増した。

そして、三層目が終わったとたん、眼下に黒々とした熱帯雨林のうねりが見えた。
やがてその黒いうねりの果てるところに、ザイールの大河が、視界いっぱいに水を湛えていた。

ひとつの河の流域面積だけで、日本の10倍を超える、化け物のような巨大さである。
水は曇り空を映して、薄紫に淡く光り、色といい、濁りかたといい、まさに泥水そのものを思わせた。
この大河を横切ったところ、そこがこれから私の住むべき国、ザイールなのだ。
夜来の雨が上がったばかりのンジリ空港。

その世界一長い滑走路に、飛行機は一回大きくバウンドして、無事着陸する。
湿度と高温のために、窓は瞬く間に曇り、窓外の景色は何も見えなくなった。
何も見えない状況は、私のこれからの運命を示唆していると感じた。

タラップが取り付けられるのを待ち、開けられたドアからは、熱風が吹き込んできた。
昨夜の吹雪から、今朝はサウナ風呂へ飛び込み。

気候の変化は、即文化のギャップにつながるのだな、と実感する。
ショックは、体感にとどまらず、精神面に達することを、覚悟しなければならない。

キンシャサは今、アンゴラ戦争の脱走兵が自動小銃を持って出没し、厳戒体制下にある。
平和の無事平穏に慣れた心を、緊迫した戦時下にスイッチする必要もある。