1997/08/17 - 1997/08/20
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starchildさん
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当時、高校生で初めて訪れた海外ロンドン。英語をもっと話したいという想いと、一人だけで知らない土地へ旅してみたいという想いから、俺はスコットランドへ向かうことにした。ロンドンで再会した知り合いの話によると、スコットランド北部にあるイギリスで一番高い山からの景観が素晴らしいと聞いた。その名は、Ben Nevis−ベン・ネヴィス−。スコットランドではゲール語からの地名が多く、Ben NevisのBenは山のことでありNevisは高いという意味らしい。また日本の山に比べて、イギリスの山々は木々がほとんどなく、山肌が草原のように延々と続いているという。何か新しい感動を求めていた自分には、イギリス最高峰という肩書きも手伝って、早速計画を立て始めた。書店で購入した登山ガイドによると、標高1344mとさほど高くはない。ただ、麓町のFort William−フォートウィリアム−は港町にもなっており、ほぼ海抜0mから登らなければならない。富士山のように五合目まで車で行くということはできないようだ。更に、そのガイドブックには親切なことに、登山難易度まで表記されていた。ランクC〜Aで表示されていたが、Ben Nevisだけ[S]と表示されていた。「……笑えないな。」その横の説明表記に目を移すと「初心者は登らないこと。ある程度の経験が必要。」とあった。まあ、大袈裟に言っているのもあるだろうし、他に行きたい所もない。決定。早速、麓町までのチケットとホテルを手配した。■□■
いよいよ出発の日。友人の親父さんからセーターを一応借りて、中央駅に向かった。ちょうど駅にはアウトドアショップがあったので店員にこれからBen Nevisに登ることを伝えた。すると、防寒はしっかりしていかないとダメだと言われた。仕方なく、上から羽織れるウィンドブレーカーを購入。増えた荷物で、列車に乗った。まずは、中継地点のGlasgow−グラスゴー−へ向かう。その距離は時間にして約12時間。列車に揺られながら思ったのだが、一人旅というのを数日に渡ってするのはこれが初めてだった。17歳夏。初めての一人旅にイギリスの最高峰を登りに行くのはナカナカだなと、心も躍る。窓から見える景色は、日本の長距離列車から臨めるものとはまた一味違っていた。山には気が少なく、川や湖の水が鏡のように澄んでいる。なんといっても、眺める窓と自分の席のちょうど間に座っている女の子がかわいかったのがありがたい。チャンスがあれば、片言の英語で話しかけようと思ったが、途中の何もない駅で降りてしまった。こんなところで彼女はどんな生活を送っているのか……その想像力もたいして続かなかったけれども。それにしても、長い。12時間は思った以上に長かった。前日しっかり寝たからたいして眠くもない。その上、何かの不具合で到着時間が大幅に遅れた。GlasgowからFort William行きの列車は、予定では、乗継までに14分しかない。ここで遅れると、乗り継ぎに間に合わない。英語もまともにできない俺は、車掌に抗議する文章を頭の中でひたすら作り続けた。■□■
案の定、到着時間は30分以上も遅れた。着いてすぐに、事務室に駆け込み猛抗議。どうせ鼻から英語は通じないのだから、勢いで押し切るしかない。ところが、相手の英語がいつもより全く理解できない。訛っているのだ。ここは既にScotolandに入っていたのだが、ここまで英語に訛りがあるとは……。とても親切な駅員さんで、すぐに事情を察してくれた。今日は、Fort William行きの電車はもうないというので、明日の朝一のチケットと宿を用意してくれた。助かった。その夜は、ルームサービスの一番高い物から順番に食べてやった。■□■
翌日、10時間掛けてFort Williamに到着した。夏のスコットランドは日が長いのでまだ明るい。一本のメインストリートの両サイドに商店やホテルが立ち並ぶ小さな街。ホテルにチェックインして、明日Ben Nevisに登ることを伝えると唖然とされた。どうも一筋縄ではいかないらしい。行くなら、帰ってこない場合の事を想定して必ずプロフィールを残しておくこと。といわれ黄色い紙を渡された。しかも、明日はあいにくの雨らしい。だが、ここまで来て引き下がる気は毛頭ない。■□■
翌朝、残念ながら雨は上がっていない。ホテルが手配してくれたタクシーで登山口まで向かう。登山口から山を眺めようとしたが、あいにくの雨と霧でほとんど見えない。他に登っている人の気配もなかったが、時間ももったいない。早速、登り始めようと思ったときに、入口の右手に大きな立て看板とその柱に括り付けられている4頭の犬がいた。「なんだこれは?」注意書きを読んでみると「keep your dog」どうも、道に迷う可能性があるので初心者は犬を連れて行った方がいいということらしい。こんなシステムは初耳だ。それに、犬の扱いにも慣れてない俺は、スコットランド犬は遠慮しておいた。これが後で、悲劇を招くこことになるとも知らずに……■□■
1344m。完全になめきっていた。気候も読み間違えた。鼻水が軽く凍りつくぐらいになってきた。登山道も段差が激しく、腰を患っていた自分には困難を極めるものとなった。段々と、道幅も狭まってきた。地図によれば8合目辺りまで来ているのだが、何分、霧のため景色が全く眺められないので、気分も高揚しない。途中足もつってしまった。情けない。腰を痛めてからここまで体が鈍っているとは思わなかった。足を必死に揉みほぐした。ここで、歩けなくなっては登頂どころか下山もできない。なんとか回復して歩き出したが、足を踏み外してしまった。あまりにも濃い霧で気付かなかったのだが、歩いていた登山道のすぐ横は滑らかな崖になっており、一歩足を踏み外したら一巻の終わりだったのだ。これには、冷や汗をかいた。ずるりとすべり、両手で体を支えるような状態になったからだ。集中しないと登りきることはおろか、生きて帰ることもできない。完全に、山をなめていた。■□■
ロンドンで購入した登山ガイドを頼りに9合目まで登ることができた。ここからはもう少しだと思ったのも束の間。登山ガイドに、明確な登山道が記されていない。目の前を見渡すと、見渡す限りの濃霧。足元は真っ白の砂利道。1m先もハッキリ確認できない。登山口に、用意されていた犬はここで必要になるはずだったのだ。かといって、今から引き返すわけにも行かない。ちょうどその時、下山してきた男性に尋ねると頂上はもうすぐそこだという。彼が来た方向を辿るしかない。目を凝らして、なんとなく、人が踏み込んだ跡を探りながら進んでいった。風邪は強く、寒さもピークに達していた。頂上は近い。目の前に大きな岩石とそこに寄りかかる数人の登山者が見えてきた。「is this top?」「yes」頂上だ。5時間ほど掛けて登りついた頂上からは、濃霧のため下界を見渡すことはできなかったが、知らない国で一人で一つの山を登り切った快感が体中を駆け巡った。■□■
何度かあきらめようと思って登り切った道を振り返りながら、今朝にはなかった小さな自信と高揚感で、下山の足取りは軽かった。ちょうど山の中腹辺りに、小さな滝があり湧き水が出ているところがあるのだが、ここの水が登る時にも増して格別に美味かった。ペットボトルに満タンに詰めて更に山を下る。その時、突然左の方向からこれまでにない強い風が吹いた。その風は、今まで目の前を覆っていた濃霧を、まるで左から右に大きな白いカーテンを引くかのように綺麗に洗い流た。すると、目の前には延々と続く山々と木一つない草原のような山肌が延々と続いていたのだ。更に、霧の晴れた右手の方には大きな湖が広がっている。この湖は、山のくぼみにできた水溜りのようで、波もなく水は驚くほど澄み切っていた。そして、その水面には大きな山の姿があった。そう。それが、Ben Nevisだったのだ。目を疑い振り返ると、今、登ってきたばかりのその山の頂が雄大にそびえ立っていた。その一連の光景を見た瞬間に、思わず涙が溢れ出した。もし途中であきらめていたら、この瞬間を見ることはなかったのだ。濃霧が一瞬で晴れ、目の前に広がったスコットランドの大自然。最高の瞬間だった。■□■
まだ日没まで時間が合ったので、その感動的な景色を見せてくれた湖のほとりまで行き昼寝をすることにした。少し、露で濡れた草むらの上に寝転がると、野生の子羊が近づいてきた。もう一頭、たぶん親羊だったのだろう。心配そうに近づいてきたのだが、私が子羊を枕に仲良く寝始めると、親羊も安心して一緒に休息をとった。■□■
初めての海外での、初めての一人旅、初めての一人登山はこれでは終わらなかった。翌朝、お世話になったホテルをチェックアウトして駅に向かった。Glasgow行きの列車はあと2時間は待つという。街を少し散歩して戻ってきたが、まだ1時間ほど余っていたので駅のベンチに腰を下ろしていた。すると、隣に一人の男が腰掛けて話しかけてきた。彼の名前はジム。英語が未熟な自分に親切に話しかけてくれた。「どっからきたんだ」「日本から」「彼女はいるのか?」「いるよ」そういって、彼女に持たされた写真を見せる。ちょうど着物を着ていた写真だったので、これが日本の伝統的な衣服だと説明したがそれほど関心がなさそうだった。年齢を聞かれたので、彼にも一応尋ねると「38歳」「へ〜結婚してるの?」「いいや。してないよ。」「どうして?」余計なことを聞いた俺が馬鹿だった。「i am Gay」「oh - i see」これが人生では初めての同性愛者との対面だった。ジムには、俺が少し驚いた態度をとってしまったことを詫びた。ゲイにあったのは初めてで、日本ではイギリスみたいに同性愛者は受け入れられてないこと。でも、自分は同性愛については特に偏見もないが、自分は女が好きだということをしっかりと伝えた。そこが一番大事だ。■□■
ジムの友人を紹介された。二人は一緒に旅をしているらしい。どうみても二人は付き合っていそうだった。二人ともGlasgowまで行くらしい。アウトドアショップに行って時間を潰すというので、俺も誘われた。ちょうど暇をもてあましていたので助かった。ショップに入ると、二人は仲良くキャンプ用品を物色し始めた。なにやら、2人用のテントの前で話し込んでいる。どうも、このテントが気に入ったらしい。すると、二人で中に入り込み中で楽しそうになにやらやっている。う〜む。間違いない。デキテル。■□■
Glasgowまでの道のりは10時間と長く一人では退屈だったので、彼らと一緒なのはスリリングで面白かった。昼間から襲われる心配はない。二人仲良く前の座席に座り、その後ろに俺は座った。こりゃ面白い体験ができたなと、日記を取り出して書いていると、ジムがバナナをすすめてくれた。「do you wanna eat」「yes.thanks」するとなんと親切なことに、バナナを剥いて渡してくれた。笑顔で受け取り、バナナを頬張ろうとすると前方からなにやら鋭い視線を感じる。見ると、二人が座席シートの間の隙間から俺がバナナを食べるのを凝視しているのだ。そう。これは、ただのバナナじゃない。ボッキマンだったのだ。彼らは、俺が男性のモノを頬張るのを想像しながら眺めていたのだ。おいおい。本物じゃネーか。ここで俺は、折角バナナをくれたお礼に大サービスをしてバナナを頬張ってやった。食べ終わると、満面の笑みで親指を立てるジム。そうか。そんなに嬉しいか。お前ら面白すぎんぞ!■□■
ゲイと愉快な仲間達との10時間あまりだったがホットなひと時は、この一人旅を締めくくる最高の終幕を与えてくれた。きっと、この凝縮された4日間の経験がこれから数年後の自分に、世界一周に向かわせるきっかけになっていたのかもしれない。それほど濃く、感動的な旅だった。くれぐれも言っておくが、俺は今でもゲイではない。いまだに、行く先々でゲイにはナンパされますが……
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