1998/04/28 - 1998/05/06
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金魚のじいちゃんさん
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私は音痴である。小学校の合唱会で「口パク」を強制され、自覚して以来だ。だからスナックなどでカラオケの順番が回ってきてもパスする。歌は苦手である。
そんな私でも、歌詞カードを見なくても歌える(口ずさめる)歌がある。「琵琶湖周航の歌」「神田川」そして「アルト・ハイデルベルク」だ。数十年も前の、私の青春時代の歌ばかりだ。
「琵琶湖周航の歌」は、高校時代ボート部に所属し、何度も琵琶湖遠征(なつかしい言葉)をしたため、自分のテーマソングと位置づけている。私の葬式のとき、BGMで流してもらおうと思っている。「神田川」は、下宿していた学生時代をロマンチックに振り返る青春のご詠歌である。そしてこの「アルト・ハイデルベルク」。
若きカルスブルグの王子、カル・ハインリッヒが、その青春のひと時を過ごした、ネッカー河畔の古都ハイデルベルク。酒場の娘、ケーティーとの瞬間の恋。この甘いロマンチックなマイアー・フェルスターの小説は、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」とともに、私の青春の聖書だった。
今でも車の中や、散歩の途中で思いついて口ずさむと、目じりが濡れてくる。なに、年を取って涙腺のしまりがなくなったのだといえばそれまでだが。
そのハイデルベルクに、いま居る。夢にまで見た、というより、夢にも思わなかったハイデルベルクである。
ノイシュバンシュタイン城、ロマンチック街道、ローデンブルグと、定番のドイツ観光にパリが加わったツアーに、ハイデルベルグ一泊がスケジュールされていたのだ。
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季節は五月初旬。まさに春のさかりだ。ハイデルベルク城に向かう道の両側には、真っ白な花弁を青空に向かって突き上げたマロニエの花が咲き誇り、香りを惜しげもなく振りまいている。古城を囲む空気は、清澄でいて生暖かく、当地に長年住み着いているという、片足を引きずった中年の日本人ガイドも、なにやら由緒ありげで、私の舞台は膨らむ一方だった。清楚なデザインの五つ星ホテルで、夕食に出されたホワイトアスパラガスのスープは、今まで食べた中で一番美味しかったと断定できないにしても、いちばん上品な味わいがした。
日が昇り、部屋の窓越しに、小鳥のさえずりが飛び込んできて、とても寝ている雰囲気ではない。寝ているかみさんをそのままにして、 ひとりでホテルの玄関を開けて表に出た。二区画ほど下るとネッカー河にでる。早朝の所為か、道路には車の姿もほとんどない。そのままテオドール・ホイス橋を渡り、案内板(シュトラーゼとかヒロゾフィーとか、たどれる単語で推察)に従って山裾の舗装路を歩くと、哲学者の道に至った。 -
閑静な住宅地を抜け、緩い昇り勾配の地道を上がってゆくと、しだいに眺望が開けてくる。夜露をしっとりと含んだ瑞々しい樹木の枝越しに、ネッカー河やハイデルベルク城が見えてきた。さらに登ると、木のベンチが置いてある展望台のような空き地に出た。周囲は小鳥の鳴き声だけで、街の生活音もここまでは上がってこない。
音もなくネッカーの大河がたゆとうている。テオドール橋がある。白い脚塔が目立つ。角ばった黒い屋根は精霊教会だ。その右手にハイデルベルク大学が見える。山の端から、陽光が滑り降りてきて、いままさに街は目を覚まそうとしていた。「時は春、日は朝(あした)」と歌った、あのブラウニングの詩そのものの光景が展開していた。
あそこが駅だとすると、ハインツ(ハインリッヒ)王子の宿はあのあたりだろうか。ケーティーの働いていたリューダーの酒場は、河岸にあったからあの辺に違いない。川向こうの街並みをたどりながら、おもいは小説のなかへ入り込んでゆく。
王子は、勉学のためハイデルベルクにやってきて、酒場の給仕ケーティと瞬間の恋に落ちる。不運にも数ヶ月を経ぬうちに国王が逝去し、帰国し即位するが、ハイデルベルクが忘れられず、数年後公務の間に数日間だけ舞い戻ってくる。
しかし、取り巻く風光は以前のままなのだが、往時の人は去り、残った人も国王への対応は、慇懃でよそよそしい。ひとりケーティだけが、再会をよろこび、昔のままのハインツとして遇してくれた。ふたりはニ度とは逢えない逢瀬をおもいでに別れてゆく、というストーリーだったと記憶している。 -
わたしは、人がいないのを幸いに、決して忘れていない歌を、声を出して歌った。
遠き国よりはるばると
ネカーの川のなつかしき 岸に来ませるわが君に
今ぞささげんこの春の いとうるわしき花飾り
くりかえしてもう一度。
情けないほど涙もろくなっている。老化現象の所為にしてハンケチを取り出した。
だれはばかることなく、青春の一時期に里帰りした私は、ニ度と訪れることはないであろう、このシャングリラの景色をしっかりと目に焼き付けて、山道をもどっていった。
今ごろホテルでは、私のケティーが、散歩の帰りの遅いのをいらいらしながら待っていることだろう。
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この旅行記へのコメント (2)
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- ドイツ太郎さん 2004/11/28 23:18:34
- ハイデルベルク!
- 来年の夏に行こうと思ってるんですよー。シュトゥットガルトを拠点に
いくつか小さな街を回るうちのひとつにハイデルベルクを考えてます。
ここって半日でひととおり見て回れますか? 感想などぜひ聞かせてください!
- 金魚のじいちゃんさん からの返信 2004/11/29 07:53:59
- RE: ハイデルベルク!
- ハイデルベルク!! 素晴らしいところです。出来たら4月末から5月の頃がおすすめです。マロニエの花が咲く古城の周辺は、この世とは思えぬほど雰囲気があります。それと、ぜひ川を渡って反対側からハイデルベルクを眺めてください。絵葉書が目に前に広がります。
街自体は小ぢんまりしていますから、半日でもじゅうぶんです。もっとも、小説「アルトハイデルベルク」の王子は、三ヶ月の滞在では足らず、再び訪問しては居ますが。そうそう、この時期はホワイトアスパラガスが採れる時期です。日本のそれのようなスジスジのではなく、口の中で溶けるようです。是非ご賞味ください。
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