御手洗・・・遊女たちの墓を求めて

2016/03/25 - 2016/03/25

もう十年くらい前になるが、御手洗を訪ねたとき、民家の裏の狭い路地を抜けたところに遊女の墓があった。

がけの際のようなところに、ほんとうにネコのひたいほどの狭いスペースがあって、板の墓標がびっしりと並んでいた。
店の若い者の墓もあった。遣手の女の墓らしいのは小さな石の墓標で、遊女の墓に比べれば立派だった。
　
日本を旅していて今までで一番衝撃を受けた光景だった。
さすがに十年たったらあの墓はないだろうか。再び御手洗を訪ねた。

エリア 大崎下島・豊島・下蒲刈島(広島)

• 旅行の満足度: 5.0

• 交通手段: 船 徒歩

御手洗の観光の中心地は若胡子屋から南の界隈になっていて、一度は訪れたい印象的な昔の町並みが残る。だが、そこへは行かず、ここは町の中心から北東方向のはずれた一角。

たしか、こういう感じの民家の裏手の路地だったが・・・

御手洗の町並み 名所・史跡

あちこち歩いてみたが、どうも場所がはっきりとわからないので、船大工の宮本国也さんの家を訪ねる。10年前も町を歩きながらこの家の前を通りかかった。
宮本さんは１０年前と同じように、家の前に坐って海を眺めておられた。
　
雑談をしていても、話は昔の御手洗の賑やかさになる。話を、むかし遊女の墓があったのだがと向けてみると、
「ああ、そんなら、あっち（と腕で指し示しながら）の電気屋の裏じゃろ。」と、さすが！ご存知でした。
　
宮本さんの家にはおちょろ舟全盛の頃の写真が貼られている。昭和３０年代までおちょろ舟はあって、それはそれは賑やかだったという。
午前中は静まり返っていて、２時半頃になるとみな「おはようさん」「おはよう！」といって起きだしてお風呂に行き、路地は人であふれたそうだ。

若胡子屋だけで９９人の女性がいたという。
遊女たちは毎日涙にかきくれて暮らしていたわけではない。旦那の噂話や悪口でおしゃべりに忙しかっただろう。四人も集まれば十分に盛り上がるところを、若い女の子が１００人もいたのだから、それはさぞかし賑やかだったにちがいない。

御手洗の町並み 名所・史跡

おちょろ舟
　
模型をみると大きく思ってしまうかもしれないが、全長６ｍほどの今のボートほどの小さな船。中に部屋が作られ、ひとつの舟に４人の遊女がいた。
潮待ち・風待ちでやってきた船乗りたちは、後ろの板をはずして中に入り、一夜のお情けにあずかったという。
　
乗組員の中でも上位のものは陸に上がって見世に入った。
下級の船員たちがおちょろ舟でやってくる女たちと情を交わした。
舟で身を売る女は遊女の中でも最下層だった。多くの遊女が三十そこそこで死んでいった。
　
・・・映画「泥の河」の加賀まりこの場面が思い浮かぶ。
少年の友達の母親だが、実は舟で春を売って生計をたてている。
せりふはたしか「坊や・・・」のひと言だけだったと思う。わずか一場面なのだが、圧倒的な存在感だった。

御手洗の町並み 名所・史跡

先ほどの北東のはずれの路地にもどる。
路地の一角に「和田電気店」があり、その家の間をすり抜けていく狭い路地がある。今はゴミが山積みになっていて、観光で生きていく御手洗らしからぬ場所だが、そこを無理して入っていくと確かに記憶のある場所に出る。

しかし、今は崩壊予防の新しい法面が張り出し、草が生えるに任せてゴミも散乱している。墓地の跡形もない。

ここに眠っていた遊女たちの霊はどうなっただろうか。

御手洗の町並み 名所・史跡

ついでに若胡子屋裏の墓地にも行ってみる。

この墓標も古くて、江戸時代のものだ。
小さい石の墓標が並んで立っているが、遊女はこんな立派なお墓には眠っていない。板か、せいぜいありあわせの石が立っているくらいだ。

同じように「おいらん公園」にある墓地も遊女の墓ではない。

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墓地を探して半日歩き回ったが、やはり10年たつと墓地を見つけ出すのは不可能だった。がけの法面の工事で消えたのか、放置されたまま雑草の下に埋もれたのか。

最後に御手洗観光。
　
「村尾昌文堂」の店先にあった謄写版。

豊町御手洗重要伝統的建造物群保存地区 名所・史跡

「ふるさと学園」

小学校だったか。狭い御手洗だが、校庭はなかなか広い。

豊町御手洗重要伝統的建造物群保存地区 名所・史跡

郵便局の角の理髪店。
　
「本日２５日おやすみします」とのことで、普段は営業しているようだ。
　

豊町御手洗重要伝統的建造物群保存地区 名所・史跡

「越智医院」
　
御手洗には洋館が多く、それぞれ個性があっておもしろい。

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ピンクの洋館
　
個人宅。

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