Welcome To Dark Side Of Japan―Forget Them Not！　オウムは今も生きている（東京都葛飾区小菅東京拘置所及び旧オウム関連施設）

2018/08/01 - 2018/08/01

オウム真理教創始者の麻原彰晃以下地下鉄サリン事件に関与した
教団幹部の集団処刑が行われた２週間後の８月の暑い日、東京都
葛飾区小菅にある東京拘置所と埼玉と東京都内のオウム解体後に
設立されたオウム系宗教団体の施設と思われる場所周辺を訪れた。

エリア 北千住・南千住(東京)

• 旅行の満足度: 3.0

• 同行者: 一人旅
• 一人あたり費用: 1万円未満
• 交通手段: JRローカル 私鉄 徒歩

麻原彰晃をはじめとするオウム元死刑囚13名が
収容されていた東京拘置所は、東武スカイツリ
ーラインの小菅駅にある。

急行の止まらない小さな駅で、階段を降りるとき、
拘置所の巨大な建物が目に入った。

駅を出ると昭和の頃に建てられた疲れた切った小
さな民家が密集し、ひとたび火事が起きると、消
防車が入って来れないような狭い路地が行き交っ
ていた。

路地に立ち、家屋の間からも拘置所の建物はよく見えた。

小菅のどこからも東京拘置所はよく見えた。それだけ
周囲に巨大な建物がないということだ。

路地を抜けると拘置所の全貌がよく見えた。

建物は中央管理棟を中心に刑事被告人らを収容する
収容棟が南北にＶ字形に伸びていた。

この収容棟に麻原ら13人の死刑囚は20年近く収容さ
れていたわけだ。

当然のことながら周囲はフェンスで囲われ、一部は
小さいながらも濠があった。

拘置所の敷地と道路の間には緩衝地帯のように芝生
や植木が植えられていた。

面会者用の入口は立派だが、いろいろと禁止事項が
事細かに書かれていた。

面会者入口には差し入れ用の商品を売っている古ぼけた
商店があった。

中を覗くと、昔ながらのビスケットやクラッカーなどが
売られていた。まるで昭和の駄菓子屋だ。

とにかくどういう理由なのかわからないが写真撮影禁止
の看板がやたら多かった。

周辺を歩きながら写真を撮っていたのが監視カメラに映
っていたようで、警備員が自転車で来てジロジロとぼく
の方を見ながら走り去っていった。

窓という窓はすべてこのように目隠し版が取り付けられ
ているので、内部の様子など撮りようがないのだ。

オウム死刑囚13名のうち、井上嘉浩、岡崎一明、中川智
正、新実智光、早川紀代秀、林泰男、横山真人の７名は
３月に地方の拘置所や刑務所にバラバラに移送され、麻
原彰晃、遠藤誠一、土屋正実、豊田亨、端本悟、広瀬健
一の６名はここに残った。

半分以上を別の場所に移送した理由は、刑の執行はほぼ
同時でなければならず、13名を一カ所で一斉に処刑する
のは難しいからとしている。

なお刑は東京拘置所が７月6日、他の場所は7月26日に執
行された。

刑執行後、麻原の遺骨は今もここに残されている。

刑執行直前に遺骨の引き取り手について麻原は「四女」と
答えたというが、もし仮に四女に渡すときに、元信者らと
何かトラブルが発生するのではという危惧されている。

麻原の神性を否定する上祐らは海への散骨が望ましいとし
ているが、おそらくどこか国の施設内で保管されるのだろう。



1995年２月の地下鉄サリン事件後、オウム真理教の幹部
クラスが一斉に逮捕され、同年５月には麻原も逮捕された。

この時期に逮捕された教団関係者は403名に及ぶ。

逮捕を免れた村岡達子ら古参の出家信者らが中心になって
活動を続けていたものの、東京地裁から解散命令が出て、
1996年に法人格を失い、2000年には完全に消滅した。

教団消滅後も麻原に対する変わらぬ帰依を示す村岡達子
らを中心に、アレフという団体が設立され、再び宗教活
動を始めた。

本部が置かれたのは、オウム真理教が始まったころヨガ
教室があった東京都世田谷区南烏山である。

ここは、世田谷一家殺害事件現場を見るために降りたこ
とがある。

二度と来ることはないだろうと思っていたが、再訪する
ことになるとは。

どちらも日本を震撼させた事件の発生地である。世田谷
はプロ市民が多く住んでいるというし、原発事故の際、
東京各地で放射能測定が流行ったとき、なぜか放射能が
検知されたのもここ世田谷である。

高級住宅街が多く、金持ちが集うエリアが多い割には、
その華やかさゆえにか、抱えた闇も深そうである。

駅を出て歩行者天国となった道路をまっすぐ歩く。

ヒマと平和を謳歌する人たちが行き交う平日の午前である。

アレフは2002年に「ああ言えば上祐」と揶揄され、まる
でハライチの漫才のように、オウムへの批判をすべて拾
い、大したことのないレトリックを駆使してオウムの正
当性をメディアで主張していた上祐史浩が出所すると代表
に就いた。

麻原が上九一色村の本部の隠し部屋でうつ伏せになって
隠れていたところを逮捕されたとき、テレビのキャスタ
ーが「ずいぶんみっともない姿で逮捕されましたね」と
挑発的なことを言うと、上祐は「ああいう修行の方法も
あるんですよ」とごまかしていた。これを聞いた時、こ
の男はこの期に及んで、こんな誰からも嘲笑されそうな
バカげたことを言いたいのかと嗤ったものだ。

ここにオウム消滅後、長老派と呼ばれる古参幹部らが集
結し、再出発した。

上祐は代表就任後、麻原への帰依を否定し、仏教哲学サ
ークルへの宗旨替えを図った。

これに村岡達子、石井久子らが反発し、上祐は代表の座
を下ろされた。

代表を追われた彼は、旧オウム色を一掃した仏教哲学サークル
「ひかりの輪」を立ち上げ、本部をここ南烏山のマンションに
置いた。

駅を出て、緑のある狭い路地を進むと大きなマンションがある。

ここの2階にひかりの輪が入居している。

マンションの３～５階部分には、「我々はあのサリン事件を
忘れない」などという反ひかりの輪の横断幕が掲げられていた。

マンション前の空き地には警官詰所があり、ひとりの警官
が、椅子に座ってマンションをじって眺めていた。仕事熱
心な優秀な方のようだ。

ふと振り返ると、向かいの空き地からぼくを見ている男女
がいた。

ふたりの背後には「公安詰所」という巨大な４文字が三畳
ほどの板に書かれていた。

公安調査庁は民主党政権時代の「事業仕分け」で廃止の論
議がなされたところだが、今や社会的影響力を失くした宗
教団体の監視にもこうして人をつける予算があるのだから、
ずいぶん税金が入ってきているようだ。税金の無駄遣いの
中々すばらしいサンプルである。

女はぼくから目をそらし、男は意図的な目で見ている。歳
の頃なら40前後か。しかし、その筋特有の目つきではなく、
平凡な一般人の目立った。

普段は内勤で事務仕事でもやっているのだろう。

かつて、オウム真理教に出家した者たちは、今もこのように
露骨な嫌がらせを受けている。

元出家信者で、オウム解体後、現実世界に戻り、埼玉でパン
屋を始めた女性などは、材料を持ってきた車に対して「オウ
ムがやっているパン屋なんかに材料を売るな」とか、見に入
ろうとする客に「ここはオウム信者の店ですよ」と声をかけ
るなどいやらしい営業妨害を受けたという。ヤクザがみかじ
め料を払わない飲食店にするのと同じ嫌がらせだ。

アレフから上祐らが脱退した後、旧長老部の連中は、団体を
「アーレフ」と改称し、麻原への帰依を鮮明に打ち出した。

分裂後しばらくは南烏山に残っていたが、後に埼玉や東京北
部へ移住した。

世田谷を出たアーレフ一派は、活動の拠点を埼玉県越谷市に
求めた。

東武スカイツリーライン越谷駅を降り、線路伝いに北へ。

荒川を渡ったら北越谷である。

この近くにアーレフの拠点はあるはず。

区画整理された土地に古めかしい民家と新しいマンション
が建ち並ぶ住宅街で、人の往来はほとんどない。

これまた古い住居表示。

アーレフがあるのは20番地である。

大きな寺のその向かいがちょうどその一角なのだが、
細かい番地表示がなく見当がつかない。

ネットで見た建物が見当たらず、そこはどうやら駐車場
になったようだ。

その隣にはくたびれ方に萌えてしまいそうなマンションが。
ここだろうか。

101号室がアーレフということになっているのだが、
気配が全くない。

インターフォンを鳴らして、「すみませんがこちら、
アーレフさんですか？」などと確認するわけにもい
かないし、

カーテンが閉められ、中の様子は一切わからなかった。

あのマンションにアーレフが入っているという確証が
得られなかったが、確かにあの一角に入っていたはずだ。

次は、足立区にあるアーレフの拠点である。足立区に
は何ヵ所か彼らの拠点がある。

暑い中、越谷駅まで戻り、竹ノ塚まで戻った。

日光街道を目指して、暑い中とぼとぼと歩いた。
とにかく暑い。この日の気温は37度だった。
ペットボトルの水が何本あっても足りない。

アレフがひかりの輪とアーレフに分裂した後、アーレ
フは世田谷を引き払い、ここ足立区にやって来た。

日光街道を出て草加方面に歩くと、やがて保木間とい
うところになる。

日光街道から枝分かれした道路を行くと、神戸児童殺
害事件の犯人酒鬼薔薇を名乗った少年が住んでいたと
いう花畑団地がある。

日光街道と枝分かれしたところに屋上に大きな看板を
乗せたマンションがある。

そのマンションの手前に妙なコーティングの施され方
をした４階建てのビルがある。

これがアーレフの施設である。

屋上からホースが部屋に垂れ下がり、窓はすべて目隠しを
されていた。

ビルの入り口横の駐輪場には自転車が無造作に立てかけら
れていた。

入口周辺には何台もの監視カメラが歩道を向いている。

ぼくが周辺を歩き回っていた十数分間は、人の出入り
は全くなかった。道行く人も全く気にするそぶりもない。

ここでは、今も出家信者たちが共同生活をして修行に
励んでいるという。それにしてもあまりにも静かだ。

保木間から竹ノ塚駅まで戻り、今度は区内循環バスに乗
って入谷へ向かった。

入谷は台東区にある谷中とどうしても混同してしまうが、
ここは川を渡ればもう埼玉。東京のはずれである。

バスを降りた公園にはご覧のように反オウムの幟が何本
も立っていた。

この幟、ここ入谷ではあちこちで目にすることになる。

高速の高架下を渡ったあたりからは、産廃処理場やリサイ
クル工場があり、産廃物資を積んだ大型車が行き交っていた。

民家と小さな工場、中規模の工場、そしてラブホテルまで
ある。

こんなところまでヤリに来るカップルってどんな奴らなんだ？

工場の塀には空き巣注意の表示が。ちょっと多すぎる空き
巣の数である。

昼でも人は少ないし、夜になると工場から人は消えるので
うら寂しい雰囲気になるのだろう。工場から物を盗む輩が
いても不思議はない。

この先はもう埼玉の川口である。

東京と埼玉を隔てる川。

こんなところにおよそオウムの施設などある雰囲気では
なかったが、入谷の外れまで来たら、あの「アレフ出て
行け」の幟が何本か立っていた。

風雨にさらされ、日に焼けてすっかり色あせた幟が立つ
路地の先に白い工場のような建物があった。

入口は工事現場のようなジャバラ式のゲートでふさがれ、
ゲートの左右からはやはり監視カメラが歩道をを向いて
いる。郵便ポストには全く表示はない。

ネットで見たアレフの施設はこんなところにあった。

保木間の施設のように人が住むような建物ではなく、工場
を買い取って内部を人が住めるように改装したようだ。

何人信者がいるのかわからないが、食糧の買い出しやゴミ
出しも行うのだろうが、一体どうしているのだろうか。

アーレフは現在、創設者の村岡達子、石井久子野田成人、
杉浦兄弟らは失脚したか身を引いたかで一線を退き、その
したの世代の連中が中心になって運営されている。

世田谷区南烏山のひかりの輪の不快感を覚える公安、警察
による監視体制も意味があるとは思えないが、なぜかアー
レフに対しては、あからさまな監視がなされていない。

この違いは一体どういうことなのか。ひかりの輪は今もオ
ウム全盛期の上祐史浩が代表として就いているからだろうか。

オウム真理教から派生した宗教集団には、石川県の「山田
らの集団」、東京の「ケロヨンクラブ」などが有名である。

「山田らの集団」とはおかしな名称だが、これは山田美砂
子が中心人物と目されているという理由から公安が名付け
たものである。

「ケロヨンクラブ」は1995年に北澤優子が設立したもので、
「原点に帰る（＝カエル）」ことを標榜するためにこのバ
カげた名称にしたという。

この団体は2004年に東京中野区のアパートで女性信者を殺
害する事件を起こしている。

麻原彰晃以下、一連の殺人事件を引き起こした幹部連中は、
林郁夫を除き全員が処刑された。

連中のほとんどはが錚々たる学歴の持ち主だったことはよ
く知られている。その代表格、林郁夫などは、慶応中高大
と出て、東海村国立療養所循環器科の医長を務めていた。
日本に何人もいないようなエリート中のエリートである。

なぜこんなに「デキる男」がオウムなどというインチキ
臭い宗教に傾倒し、出家までしてしまったのか。

確かに、日常的に人の死に日常的に接する医師ならば、
精神面への探求心が芽生えて来るのはあり得るかもしれ
ない。

林のような優秀な医師であればあるほど、医療技術とい
うハードに限界を感じ、ソフトである人間の内面への旅
を始めたくなるのもうなづける話ではある。

広瀬健一は、早稲田大学在学中に書いた、超電導に関する
論文が世界的に認められ、そのまま研究を続けていれば、
その道の世界的権威になっていたかもしれない頭脳の持ち
主であった。

他にも目を見張るような高学歴の出家信者はゴロゴロいた。

地下鉄サリン事件の被害者をインタビューして『アンダーグラ
ウンド』という本を書き、オウムの出家信者たちにインタビュ
ーして『約束された場所で』を書いた村上春樹は、高学歴の者
たちが相次いでオウムに入信したことについて、満洲国建設の
ために大陸へ渡った若き技術者たちになぞらえている。

確かにあの時代、満洲だけでなく、台湾へも才能のある若者が
日本を見限るように旅だった。オウムもそれと同様ではないか
というのだ。

年功序列やしがらみで自分のやりたいことができない日本社会
から離れて、自分の能力を発揮させたいと思う若者たちの受け
皿となってしまったところがあるのかもしれない。

林郁夫は医療と福祉と住民が相互に密接した緑の多い街で
暮らすロータスヴィレッジの建設を夢見ていたという。

麻原が彼の夢にどう応じたのかはわからない。他の高学歴
の幹部たちも林のような夢の実現をオウムに求めていた可
能性はある。

では、大した学歴もない一般の出家信者たちはどうだった
ろう。『約束された場所で』において村上春樹は、８人の
信者にインタービューを行っている。

ほとんどの人たちがぼくと同世代、つまり、50歳前後である。

村上春樹の問いかけに答える彼らは実にいい人たちだった。

自分の知っていることだけを淡々と語り、余計な注釈は入
れず、自分の主張を長々と語ることもせず、誰かを批判す
ることもない人たちだった。

逆に被害者の方たちに個性が突出した人が多く、良くも悪
くも今を生きる人たちという感じだった。

彼ら元オウム信者のインタビューを読むと、ひどく自分に
似ていた。

入信したのが20代半ば、中には1990年前後である。

あのころぼくは会社を辞め、バイトで金が出来れば旅に
出るといういい加減な生活をやっていた。「フリーター」
という言葉が生まれたのもこの頃で、その第一世代とい
える。

一番儲かったのがバイク便の仕事で、世がバブル経済の
真っ只中ということもあり、朝から晩まで途切れること
なく注文が入った。依頼主はほとんどが広告代理店や印
刷機を持たない印刷屋、つまり印刷ブローカーだった。
要するに自分では何も生み出さない虚業屋である。

都内から横浜まで運び、帰ってきて今度は八王子まで走
り、ちょこちょこ都内の配達をこなせば、１日２万円以
上になった。月に50万は稼いでいた。トップクラスだと
100万以上稼いでいる人もいた。1日200キロ近く走るか
ら、バイクは3ヶ月でダメになり、中古の20万円程度のも
のを買い換えて使っていた。

当時、佐川急便のドライバーの月給が数十万円だと評判
になっていたが、彼らは朝7時前には出社して荷物の仕
分けや積み込みをし、伝票を書き、夜、配達が終われば
会社に戻って伝票整理、ついでに営業もこなしての月数
十万円だった。

しかし、バイク便は荷物を受け取って配達すれば終わり
なのである。その分、社会保険等は一切なし、事故って
入院でもすれば、そこでゲームオーバーである。

バイク便で世田谷方面に行くと、あちこちでオウム真理教
のポスターを見かけた。ブルーの背景の前で麻原彰晃が下
を向いて笑っていた。髪は短く、ひげも生やしていなくて
こざっぱりしていた。ほかに「麻原彰晃ザ・コンサート」
というポスターもあった。ヘッドフォンを頭に乗せて
（いたと思う）キーボードを弾いていた（と思う）。風貌
から喜多郎のようなシンセサイザーを使ったヒーリング音
楽のようなものがイメージできた。正直言って、少し興味
を持ってしまった。

「ザ・コンサート」には行かなかったが、後に彼が選挙戦
に打って出て、自作の「彰晃彰晃、しょこしょこ彰晃～♪」
「進めー彰晃、走れー彰晃～♪」といった、昭和アニメの
主題歌を元にしたような恐ろしく幼稚な歌を聞くと、行か
なくて良かったなと思う。

行ったら最後、いろいろ話を聞かされて「じゃあ、入信し
ちゃいましょうよ」と言われていたかもしれない。元オウ
ム信者は、こんな感じでサクッと（最近はこんな言い方を
しないが）入信した人が多いのだ。

彼らの多くがノストラダムスの大予言を真面目に信じ、オ
カルト的なことや宗教の神秘性に興味を持っていた。

ヨガに興味を持ち、オウムでヨガを始めたら、アトピーが
たちどころに治ったという女性もいた。

彼らの姿はそのまま当時のぼくと重なってしまう。

自宅周辺にオウムの道場があれば、通っていたかもしれない。

当時のオウムは、サブカルチャーの端っこと結びついていた
ところがある。

いささか滑稽なデザインセンスが「キッチュ」などと一部の
若者たちにもてはやされていた。

幸福の科学の本の装丁のダサさかげんもそうだが、宗教が現
実世界に発信する情報は受け手に笑われてしまうことが多い
ものだ。

タイの民族衣装がかわいいからといって買って帰っても、日
本の街中ではとても着れた代物ではなく、部屋儀として使う
しかないのと同様だ。

当事者たちは大まじめだが、自分たちの思いや思想が現実世
界と乖離が生じているのだ。そこに彼らはもう気づかなくな
っているのである。

「組織が純化されていくと内部抗争が増える。起きないよう
にするには外に敵を作らざるを得なくなる」とは『約束され
た場所で』において村上春樹と対談したユング心理学者の
河合隼雄である。

オウムはこの言葉通り、外部との戦いを始めた。それが衆参
議員選挙への出馬だった。

彼らの選挙戦術は実に奇妙なものだった。選挙戦の最中ＪＲ
荻窪駅の階段を上ったところにクルタを着て、麻原の顔に似
せたあまりにクオリティの低い面をかぶった者がテープレコ
ーダを持ち、麻原の演説を流しているのを見た。また、西武
新宿線井荻駅前ではワゴン車の上で例の「彰晃彰晃しょこし
ょこ彰晃～♪」の歌に合わせて、像の帽子をかぶった女の子
たちが踊っていた。女の子は可愛かったが、誰も足を止めて
いなかった。
　
結果は惨憺たるものだった。　当然のことながら、当選ゼロ。
麻原でさえ５千票に届かなかった。

己に厳しい修行を課し、それによって得た教えで信者を獲
得し、自らの王国を築き上げた彼にとって、現実から突き
付けられた惨めな結果は受け入れがたいものだったに違い
ない。

ここからオウムの、いや麻原の暴走が始まる。オウム真理
教が起こした一連のテロ事件は、麻原による現世への復讐
だったのかもしれない。

麻原の暴走を幹部連中は止めることが出ず、追随するしか
なかったのだろう。彼ら各々が描いていた約束の地から遠
く離れた場所に来てしまっていることに気付いたとしても。

そして、一般信者は何も知らされず、ただ日々の生活を送
るだけだった。

大量殺人に関与した者たちは、林郁夫を除いて一斉に処刑
され、教団は消滅し、その意志を受け継ぐ者たちによって
細々と存続するだけになった。

「法的には」オウム事件は終わったことになっている。し
かし、それでイッツＯＫだとは誰も思っていないはずだ。

なぜなら、林郁夫のように、自分の理想を具現化させたい、
生きている証をこの世界に残したいと誰もが思っているし、
オカルトや神秘的なものに興味を持つ人はいるからだ。

彼らは、ぼくより頭のいい人かもしれないし、電車の中で
スマホをいじっているあなたと何ら変わらない人かもしれ
ない。しかし、何かのきっかけで人はたやすくあっち側の
世界に踏み込んでしまうものなのだ。

元カノと寄りを戻すことが不可能なように、向こう側へ行
ってしまった人を現実世界に引き戻すことなどまず不可能だ。

そこに麻原のようなものがいれば・・・、第二第三のオウ
ムはまた生まれる。あんな忌まわしい事件を起こさせない
ために、こちら側の私たちは常にそれを防ぐことを考え続
けねばならない。たとえ答えが見つからなかったとしても。

オウム信者はぼくやあなたとなんら変わりのない姿をして
いる人たちなのだから。

この旅行記へのコメント （8）

• 横浜臨海公園さん 2018/09/01 10:44:40

  オウム真理教

  ハイペリオンさま、こんにちは。
  
  小生、個人的体験ながら、オウム真理教から執拗に勧誘され、苦労させられた体験を有しております。
  
  
  横浜臨海公園

  ハイペリオンさん からの返信 2018/09/02 17:08:06

  恐ろしい話です

  こんにちは。
  
  投票と書き込みありがとうございます。
  
  
  > 小生、個人的体験ながら、オウム真理教から執拗に勧誘され、苦労させられた体験を有しております。
  
  
  恐ろしい話ですね。いつ頃なのか分かりませんが、
  よくあちらさんが手を引いたなと思います。
  
  お体の具合はいかがですか？
  体調が戻ればまた旅を楽しんでください。
  
  では。

  横浜臨海公園さん からの返信 2018/09/03 16:32:18

  拝復

  ハイペリオンさま、こんにちは。
  
  
  掲示板を拝見させて頂きました。
  
  
  本当に恐ろしい体験でした。
  拒否を貫くというのが、実は恐怖と表裏を一体化したものであると云ふ実体験でした。
  
  この夏は、体調不良と共に、中国四国地方の水害被害者の方々の事を思うと、とても旅に出る心境にはなれず、何処も行かず仕舞でした。
  
  
  
  
  横浜臨海公園

• winningさん 2018/08/31 23:01:05

  トラベラーというよりジャーナリストですな

  兄貴、力作お疲れさまです。
  本作、旅行記というよりも雑誌の記事みたいですね。ジャーナリズム系に行ってしまうのでしょうか？
  
  個人的に一番ツボだったのは、東京拘置所面会者入口前にある店。
  「差入屋」ってそのままかい！と突っ込みたくなりました。
  後、最後の鳩ショットは美しいですね。ロート製薬のCMを思い出してしまいました。
  まぁそんな感じで、上手いオチが見つけられないのでこの辺で。

  ハイペリオンさん からの返信 2018/09/02 11:52:51

  通報されると一発削除かも・・・

  > 兄貴、力作お疲れさまです。
  > 本作、旅行記というよりも雑誌の記事みたいですね。ジャーナリズム系に行ってしまうのでしょうか？
  
  旅行記じゃないですよね。前の事件現場のと言い、
  誰かに通報されるとヤバいかも…と戦々恐々として
  います。
  
  でも、４トラ会員以外のアクセスが多くてけっこうお
  いしいんです。
  
  > 後、最後の鳩ショットは美しいですね。ロート製薬のCMを思い出してしまいました。
  > まぁそんな感じで、上手いオチが見つけられないのでこの辺で。
  
  何十枚も連写して一枚だけまあ使えそうなのがありました。
  
  台湾紀行やってますか？　わたしはそろそろ写真整理に入ります。
  
  では。

• yasakiさん 2018/08/31 22:12:22

  知らぬ間に

  ハイペリオンさん こんばんは(｡ﾟωﾟ)ﾉ
  
  今回も力作ですね。
  わたし、知らぬ間にオウム関連の施設のそばにいたんだなとこれを拝見して驚きました。
  
  独身時代に住んでいた場所の方は知っていましたが、数年前に仕事していた足立区の地名が出てきてビックリ！知らないって怖いですね。
  (||ﾟДﾟ)
  
  続きも楽しみですが、マカオ&台湾旅行記も心待ちにしております。
  
  yasaki

  ハイペリオンさん からの返信 2018/09/02 11:48:09

  世田谷は怖いところです

  世田谷の闇は深いです（笑）。
  
  ４トラの件で何度か行くことになろうとは思いも
  しませんでした。
  
  調べると、まだまだいろいろ出てきそうです。
  
  
  > 独身時代に住んでいた場所の方は知っていましたが、数年前に仕事していた足立区の地名が出てきてビックリ！知らないって怖いですね。
  > (||ﾟДﾟ)
  
  えっ、あの近辺で仕事していたとは。
  竹ノ塚？　保木間？　まさか入谷の産廃工場じゃないですよね。
  
  
  > 続きも楽しみですが、マカオ&台湾旅行記も心待ちにしております。
  
  これから写真整理に取り掛かります。ごゆるりとお待ちください。

  yasakiさん からの返信 2018/09/02 12:04:29

  RE: 世田谷は怖いところです

  ズバリ保木間です（；＾ω＾）
  
  前の会社にいた時に社長が決めてきた仕事だったんですが
  家から遠くて大変でしたよ。拒否権無いし…
  
  竹ノ塚駅から自転車漕いで通っていた思い出の地ですよ。
  もう行く事はないでしょうけどね。
  まさかあの犯人がいたとは(||ﾟДﾟ)
  
  写真整理サクサク頑張って下さいませ〜
  
  yasaki