2015/06/26 - 2015/06/27
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晴天物語さん
同窓会だった。でもただの同窓会ではない、長い間年賀状だけの友達と会えることになったのだ。15歳で別れてから72年が過ぎた。写真も見てない、記憶にあるのは子供の顔だ。神奈川と岡山、今ではそんなに遠くはないが、お互い忙しく、最近は友達の体調がすぐれなかったという。
タクシーに住所を告げ、家の前へ。立派な庭付きのお宅がそれまでの成功した人生を物語り、喜ぶ父。玄関で迎えてくれた白髪の男性と「かわらんなぁ」と笑顔で言葉を交わす。15歳と87歳、変わらないわけがない。だが、お互いの目を覗き込み、遥か昔を見ているのだろう。
たくさんの船舶模型が並ぶ部屋に案内され、船好きの父が「素晴らしいな!」と見入る。
「僕が作ったんだよ、時間はたっぷりあるからね」丸いきれいな目がにこりと笑う。
「彼は大変な美少年だったんたよ」と父。それは言われなくても想像できる、今でも大変な美老人だ。
しかし、友達の体調を気遣い、「会えて良かった」とすぐにお暇。
「またな」という言葉があまりにも軽く空を流れる。恐らくこれが人生で最後になろうかという再会であることを、お互い承知しているかのように。
「この公園に良く来て遊んだんだ、あまりかわらんなぁ。鶴が檻の中にいるのは初めて見たよ」きれいに整備された雨上がりの岡山後楽園を散策しながらつぶやく父。外に出されることもあるらしいとスマホを見せると、「そうかぁ」と笑っていた。
「この城にも良く入ったなぁ、中は全然違うけど」とエレベータと広い階段で岡山城内をゆっくりと登る父。
後楽園を出る時「これが見納めかなぁ」とひとりごとのように言うので、「明日また来れば? あさってだって、一週間後だって毎月だって来ればいいじゃない」と私が提案すると、ただ笑っていた。
先程会った友達とは別の学校の同窓会が、城の見えるホテルであった。付き添いの家族のほうが多いくらいの少人数。
「君にいいものを持ってきたよ」と同級生のひとりが親しげに父に近づいてきた。手には茶色くなった古い手紙の束。
「良く書いてくれたなぁ。随分と元気づけられたものだよ」と同級生。
17歳の父が学生時代、彼に送ったハガキだという。細かな文字でびっしりと書かれていた。この頃から筆まめだったのだ。
同級生は何度も繰り返し読み、そして70年もの間、とても大切にしていたのだろう。もう文字が小さすぎて読めなくなったと言いつつ、自分ではどうしても捨てる事ができなかったのだ。
父は「俺も読めんよ」と笑いながら受け取っていたが、彼は小さな新聞の文字も本も読んでいる。
「何書いたか覚えてる?」と私が聞くと「いや、全然」と笑ってかばんに入れてしまった。
楽しく、食事も美味しく過ごし、部屋へ戻ると、窓から、昼間登った城がライトアップされ、夜の公園に浮かび上がっていた。遥か昔と同じ姿を見せながら。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 5.0
- ホテル
- 4.5
- 交通
- 4.5
- 同行者
- 家族旅行
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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