2012/01/25 - 2012/01/27
123位(同エリア274件中)
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北海道には数十回訪れていますが、冬の北海道で「これぞ極寒!」「これぞ厳冬!」という場面に遭遇したことは数えるほどしかありません。
今年の冬は、本気で「日本の寒さを体験しよう」と考えました。
振り返れば、これまでは「旅行で北海道へ行ったらたまたま寒かった」程度のことで、なにも寒さを狙って行ったわけではなかったので、今回は「寒さ」を目的に北海道へ行くことにしました。
寒さが目的となれば、寒い場所に行くだけでは計画不足で、「寒い日」を狙いすまして北海道へと出発しなくてはならなりません。
確実にそれを可能にするのは飛行機の正規運賃なのですが、羽田から旭川を往復するだけで71,140円もします。そこで、飛行機は貯まったJALのマイルを使って特典航空券を取ることにしました。
これならば、出発4日前まで週間天気予報を見ながら旅の是非を検討して、しかも無料で飛行機に乗ることができます。現地では数日間レンタカーを借りて、温泉を巡れば良いだろうと考えました。
日本の最低気温ランキングを見ると、大部分が旭川または帯広周辺で記録されている事が判ります。
そこで、週間天気予報を見て、寒気団が入ると予想される日に、JALの特典航空券を使って旭川または帯広に飛ぶことにしました。
宿泊地はどうしようか…、冬季閉鎖されていないいかにも寒そうな温泉地を探しました。
旭川近辺からいくと、まずは2回ほど泊まったことがある層雲峡温泉。大雪山の北側の谷間にある大きな温泉地で、標高は600m程ですが北麓のせいかあまり陽も当たらず、寒々しいイメージがあります。そして層雲峡を通る国道39号線は、大型トラックのタイヤに雪が踏み固められ凍った路面が磨かれて、いつも泣けるほど凍結しています。寒さは十分そうですが、観光バスが多数発着して人も多いので、今回の旅行のイメージとはちょっと違う感じがしました。
大雪山を中心に地図を反時計回りで順位探して、次は旭岳温泉。旭岳ロープウェイの乗り口にあって標高は1100mほど。北海道としてはかなりの高地温泉です真冬に一度泊まったことがあります。
それから天人峡温泉。谷間にある寒い温泉で、2~3年前の2月に行って、吹雪に泣きました。
十勝岳温泉は通年営業の宿として北海道で最高所ではないでしょうか。標高1000~1260mの間、富良野を見下ろす十勝岳の中腹に数軒の宿が点在しています。
そして次は、帯広の平野部にある十勝川温泉、それから然別温泉と、その上流にある糠平温泉だろうと思ったら、奇妙なところに温泉マークが付いていました。
トムラウシ温泉…?
富良野から見て十勝岳の裏側、太平洋にそそぐ十勝川の源流に位置し、一番近そうな街である新得から60kmも離れています。
当然冬季閉鎖だろうとスルーしかけたのですが、そういえば、予約サイトで北海道の宿を探している時に、「トムラウシ」というのは時々見かけた文字だということを思い出しました。
予約サイトで確認すると、トムラウシ温泉の一軒宿『国民宿舎東大雪荘』は、どうも通年営業をしているようです。但し、2~5名になっていて、1人部屋設定は無いようでした。
非常に残念、二人分の料金を払って一人で泊まるのもちょっと口惜しいです。ただ、宿のホームページを見ると日帰り温泉もあるということが判りました。
そこで、トムラウシ温泉は日帰りで行くということにして、この近辺の他の宿を探しました。
よく探すと、今まで温泉宿は無いと思っていたエリアに2箇所、温泉宿が有ることが判りました。
一つはトムラウシへ行く道から、林道で山の中へと外れたオソウシ温泉。ポツンと一軒宿が有り1人でも泊まれるようです。それから糠平湖へ上がる道から東へ逸れた芽登温泉。こちらも山の中に一軒宿が有り、1人泊まれるようです。
あとはメジャーどころで、十勝川温泉、然別湖温泉(これも十分に秘湯)、糠平湖温泉、阿寒湖温泉など、とても寒そうな温泉がありました。
阿寒湖の近く、雌阿寒岳の山麓に雌阿寒温泉という硫黄泉があり、これも候補の一つとしてチェックしたのですが、温泉のみで大浴場にも部屋にもお湯のシャワーなどは無いと書いてあったので、ちょっと優先順位を下げました。特に強烈な硫黄泉へ行く時は、衣類にも温泉臭が付くし、カメラ類などのデジ物もそれなりのバージョンにしなくてはならないので、今回は見送りました。
今回の宿探しで、特別に気になったのはやはりトムラウシ温泉で、
「ここに温泉有ったんだぁー?」、「というか、冬も営業しているんだ?」
という驚きで、宿のホームページを端から端まで読んでしまいました。
そして気付いたことが、電話予約なら1名1室利用が可能ということ。しかも料金は8550円と、2名1室と同じでした。
これで1泊は決まりで、次はオソウシ温泉か芽登温泉かとなったのですが、オソウシ温泉はトムラウシ温泉からかなり近いので、せっかくの北海道なので大きく移動しながら色々な景色を見ようと、芽登温泉を選びました。
あとは出発のタイミングです。
週間予報を睨みながら、1/25~27に気温の低下があると予想し、また過去11年の日々の気温の平均値では1月26日というのが、最低気温の日になっていることから、以下のような旅程を考えました。
旅程というほど決まっていないのですが、とりあえず帯広の発着時間と、宿泊する宿、現地での足となるレンタカーだけ決めました。
<1/25>
羽田発8:00のJALで帯広 ⇒ レンタカーで帯広市街(豚丼を食べる) ⇒ オソウシ温泉(日帰り入浴) ⇒ トムラウシ温泉宿泊
<1/26>
トムラウシ温泉 ⇒ (経路は未定だが陸別や足寄に行ってみる?) ⇒ 芽登温泉宿泊
<1/27>
芽登温泉 ⇒ 帯広発20:30の飛行機までフリー
本当は1/24に出て、最初に十勝岳温泉も泊まりたかったのですが、そうしてもレンタカーが1/25からでないと確保できず、1/25出発の2泊3日になりました。
そして1/25の朝、羽田空港までの高速代800円をケチって、一般道で羽田に向かいました。
距離は30km、早朝5:45という事もあって1時間かからずに着くのではないかと思っていたら、通勤の車が多く、しっかり1時間半かかりました。
- 旅行の満足度
- 5.0
- 観光
- 3.0
- ホテル
- 4.5
- グルメ
- 3.5
- 交通
- 5.0
- 同行者
- 一人旅
- 交通手段
- レンタカー JALグループ
-
こんなところに温泉宿を見つけてしまいました。
-
<国民宿舎 東大雪荘>
そうそう、先に書きますが、この宿は良いですよ。
もちろん、国民宿舎なので「おもてなし」を受けたい人には向きません。
だけど、受身の旅ではなく、自分から積極的に旅を楽しむ、言ってみれば能動的な旅を楽しむ人にとっては、本当に素晴らしい宿です。
そう、能動的な旅…
なにも、大雪山で懐石料理やフレンチを食べる必要は無いじゃないですか?
どうしても食べたければ、街に下りてランチで食べればいいでしょう。
部屋まで荷物を運んでくれなくたって良いじゃないですか?
だいたいここまで自宅から荷物を持って来たのだから、宿の玄関から部屋まで荷物を持てない筈が無いでしょう。
蒲団敷きがセルフだって良いじゃないですか?
ケガや病気でもない限り、自分で自分の蒲団も敷けない…っていうのは、かなり稀なケースだと思います。
ただ、部屋に風呂が無いというのは、人によっては困ることがあるかも知れません。
赤ちゃん連れの場合、どうしてもお尻を洗いたい場面があるでしょう。
女性の場合は、部屋風呂が無いと旅行中お風呂に入れないという事もあるでしょう。
カップルの場合は・・・う〜ん、どうだろう? ・・・知らない。
まぁ、そんなこんなも含め、全ての人にとって快適とは断言できませんが、私の個人的な評価で感想を言えば、☆☆☆☆(星4つ)です。
京都で泊まったあの有名老舗旅館が私の評価で☆☆☆(星3つ)であることを考えると、いかに、この宿が良いか、私を良く知る人なら解かってもらえると思います。
ちなみに、京都の老舗旅館ともなると、料理も最高、おもてなしも最高ではありますが、1泊4万円台の料金を考慮に入れると「まぁ妥当じゃないの?」というところに落ち着いてしまいます。
また、星5つというのは、よほどのポジティブサプライズが有ったとき用ですので、普段は星4つが「皆さんにぜひお勧めしたい」という私のイメージだと思ってください。
そもそも、国民宿舎というのは長いこと私の旅のレパートリーに入っていませんでした。
お恥ずかしい話ですが、旅行というのはレジャーであるのだから、憧れるほどに「豪華」で「豊か」であるべき…みたいな変な固定概念を持っていました。
だから、国民宿舎=「国民の宿舎」、民宿=「民(たみ)の宿」は、旅館=旅の館やホテルに比べると、どうもパッとしない、もうちょっと率直に言ってしまうと、劣っているように思えていました。TVで度々放送される5つ星だか7つ星だかのホテル紹介…みたいな番組に毒されていたのかも知れません。
ただ5年くらい前から、自分よりお金のある人は、そういう憧れのホテルへ行けば良いし、また自分は自分で、憧れて背伸びすることなく身の丈にあった宿選びをすれば良い。
それから、自分よりお金の無い人も、その人に可能な範囲で旅を楽しめたら良いな…と考えるようになりました。
つまりは、その人が払った金額以上に、期待した以上に、「良かった」という見返りがあるのが最も幸せな旅の形なんじゃないかな…と思いました。
だから、クチコミとかクチコミ評価というのは、偏ってない正しい意見のように見えて、実は偏っているという欠点を持っています。
色々な予約サイトのクチコミ欄を見れば判るように、1泊数万円の高価な宿は、大体5点満点で4.5以上の高評価を得ています。だけどその評価って、その金額を余裕で払える人だけの評価であって、決して「広く一般から集められた意見」としてのクチコミではありません。だって、その金額を払えない人は絶対に泊まることも無いので、クチコミを書くことすら出来ないからです。だから、思い切り奮発して贅沢して数年来の憧れの宿に泊まった人が、本当に満足できるかどうかは非常に疑問です。
本当なら、クチコミも投稿者の経済的な立場とか、年間に旅行に使える金額なんかも一緒に書いてあれば、もう少し正確な評価になるのかも知れません。
極端な言い方をすれば、アラブの石油王が1泊100万円のスイートに泊まっても、「うん、快適で良いね」で済むけど、サラリーマン夫婦が1年間のボーナスを全額注ぎ込んで同じスイートに泊まったら、本当に満足できるのかということです。
クチコミ欄に欠けているものは、「投稿者の立場」だと思います。
私がクチコミサイトの運営者だったら、年収とかを回答してもらうのは無理があるので、普段1泊に使う金額とか、「奮発した」「普段どおり」「ちょっとリーズナブルにした」などを一緒に回答してもらうようにするかなぁ。
さて、前置きはこのくらいにして、旅の話をしましょうか。
さぁ、出発です。 -
9時半に帯広空港に着くと、予約してあったレンタカーを受け取って、慣れないナビで何度か道に迷いながらも帯広市内の豚丼屋さんに到着。
豚丼(肉だけ大盛り/肉小さめカット/タレ多目)を食べました。
それから、十勝川に沿うように国道と道道(県道と同じように北海道の管理する道路は「道道=どうどう」と呼ばれます)を使って北上、最後のコンビニとなるであろうセイコーマートを過ぎると、この先は目的地まで52km、コンビニの類は無いそうです。 -
暫く雪が降っていないのか、道路は完全にアスファルトが出てドライ状態。ところどころ凍結といった感じです。
途中で、「オソウシ温泉→こちら」という看板が出たのですが、同時に「通行止め」という但し書きがしてありました。昨年秋に道の崩落があったようです。
この奥にはたった1軒の温泉宿があるのですが、裏側から入る林道を臨時に除雪して、この冬も行くことが出来ると、オソウシ温泉の宿「鹿乃湯荘」のホームページに書いてありました。
日帰り湯も入れるので、その裏側の林道から行ってみます。
道道から外れ林道に入ると、すれ違いは絶対に出来ないような細い道が続き、きっと夏はダートなのでしょうが、いまは除雪されえたフラットな圧雪路です。路肩の雪壁は低く、(運転を)失敗すると横の林に落ちてしまいそうなので、少し慎重な運転を心がけます。
途中、ちょっと長い直線の向こうのカーブから、濃いグレーのピックアップトラックがドリフトしながら現れて、私の車に気付くと激しい勢いでバックして、地元工事の人らしきお兄さんは待避所で私に道を譲ってくれたのだけれど、あの勢いでカーブの真最中に私と出くわしたら、どうなっていたのでしょう?
もう一台車が来ないか心配しながら雪の細道を進むと、今度は道路の真ん中に複数の黒い影が…。
鹿が4頭現れました。カメラを鞄から出すのに手間取っている内に、鹿たちは崖を駆け登って視界から消えてしまいました。 -
そしてもう少し進むと、建物の壁に「オソウシ温泉」と書かれた一軒宿が見えてきました。
車を停めて玄関を入ります。古い診療所の受付のような宿のフロントで入浴料を払うのかと思ったら、入浴券の販売機があります。そういえば北海道は、雪秩父、薬師温泉…、結構な秘湯でも日帰り入浴できる温泉宿には、ほとんど入湯券の自動販売機があるなぁ…と思いました。
もしかしたら、そうしなければいけないような条例でもできたのでしょうか?
いずれにしても、北海道は日帰り入浴が当たり前の温泉文化なんだぁ…と思いました。
そういえば、日帰りでお風呂に入ってくる人(宿の浴衣を着ていない人)の多くは、プラスチックの篭にボディーソープ・シャンプー・垢すりを入れた「My入浴セット」を持っています。
確か札幌に住む友人の車のトランクにも、常に入浴セットが載っていたような…。 -
オソウシ温泉のお風呂はタイル張りの内湯と、冬季は閉鎖されている露天風呂。
お湯はちょっとだけ硫黄臭がする透明の温泉。
源泉温度は24〜26℃と書いてあるので、加温しているようです。
以前は、「25℃って温泉といえるの?」と思っていたのですが、考えてみれば東京の水道水の温度が15〜20℃くらいで、北海道の温泉宿の前を流れる清流の水温は殆ど0℃に近い。25℃の水が湧いているということは、温めるエネルギーを考えると、東京で言えば40℃のお湯が湧いているのと同じようなものです。
やはり温泉なんだなぁと素直に納得しました。 -
温泉を出ると、帰りはまた鹿が出てきても良いように、レンタカーに吸盤でビデオカメラを取り付けて、録画をまわしながら先ほどの雪道を帰りました。
しかし、準備万端の時に限って何も起こらないんですよね。
まぁ、慣れましたけど。
道道に戻りトムラウシ温泉を目指しました。
最後のコンビニから30kmほど進んだあたりに小さな集落があります。まず目を引くのは、最近建て替えられたような真新しい富村牛小中学校の校舎。山村という環境にマッチした木造平屋の教室と、その背後にそびえるように建つ都会のスポーツジムのような近代的なガラス張りの建物(たぶん体育館?)のコントラストが印象的でした。
集落の交流館で話を聞いたところ、校舎は最近の耐震基準の関係で2〜3年前に建て替えられたそうで、この学校では山村留学といって都会から田舎へと、小中学生の留学を受け入れているということでした。また集落の人口はだいたい50〜60人だそうです。
「何処から来たのですか?」、「東京ですか…」、そして、「東京は寒かったでしょう?」と言われ、ちょっと妙な感じでした。
下がっても氷点下1〜2℃の世界から、今こうして氷点下10℃以下の世界に来ているのだから、普通は「こっちは寒いでしょう?」では?
でも、なるほど、あのことを言っているのかと思いました。
この旅行の数日前、東京で4cmの雪が降り道路交通は大混乱。スリップ事故は2千数百件、歩行者や自転車が転倒して救急搬送続出しました。
「地デジ化されて東京の放送もだいぶ見られるようになったんですよね…」と言うその人の、目はちょっと笑っている気がしました。
確かに…、朝のトップニュースで、画面は災害情報バージョン、ニュースキャスターやスタジオゲストが雪の上の歩き方まで大真面目な顔で解説するというのは、北国の人にとってはさぞ衝撃的な展開でしょう。
横浜に住む私の視点から見ても、まぁそれなりの装備も無いし、また慣れてもいないので、雪や凍結で歩行者が転倒するのは仕方が無いと思うけど、自転車やバイクで転ぶとか、車がノーマルタイヤでスリップして僅かな坂も上がれないというのはどうかと思います。
数人に押してもらいながらアクセルをブンブン吹かし、湯気が出るほどタイヤを空転させている様は、北国の笑いを取るためにTV局が特別に演出しているんじゃないかと疑いたくもなるくらいで、ほんの少し頭を使って、教習所で習ったことをほんのちょっと思い出せば、ああはならないはずです。
この極めてバーチャル的な都会のリアルが、いまの世相というものなのでしょうか。
ちょうど、「思い込みと机上の空論だけで社会や経済を突き動かし、そして崩壊…」これを繰り返すという中央の論理・都会の論理と重なったような気がしました。 -
交流館を出て目的地を目指します。
最後の8kmほどは舗装も切れて、道も細くなると聞いていたのですが、想像していたよりは道幅は広く、また、土が凍結して固く締まった路面には轍も浮き砂利も無く、これは夏よりも走りやすいのではないかと思いました。
カーナビの「間もなく目的地です」と同時に見えて来たのは、国民宿舎東大雪荘。
こんな冬の平日、しかも北海道で屈指と言われる山奥の温泉。がらがらに空いているのではないかと思ったら、意外にも駐車場には車が十数台停まっていました。
東大雪荘の外観は三角屋根の山荘風で、内部は木が多く使われ温かい感じです。
チェックインすると早速大浴場へ行ったのですが、このお風呂は素晴らしいです。
木で出来た高い天井の内風呂には石で囲まれた2つの浴槽、そして露天風呂にも2つの浴槽、洗い場の蛇口の下には、桶を載せるためのステンレス製の台。
国民宿舎という名称から想像していた姿とはまったく違う広さと清潔感に驚きました。
17時30分から食事をとると、もうすることも無いので就寝。
いくら旅行中は早寝だといっても、夕方6時半に就寝は我ながら記録的早さです。
(宿へ行く途中、横道で見つけた謎の氷壁) -
23時に目が覚めたので大浴場に行き、露天風呂で寒さを確かめると、夕方入った時は比べものにならない程に気温が下がっていました。
金属の手摺は手がくっつくので怖くて触れません。絞ったタオルを振り回すと凍ります。
温泉でしっかりと温まり、さぁ活動開始です。
浴衣から洋服に着替えると、カメラと車のキー、それから携帯電話を持って駐車場に行きました。車に乗りエンジンをかけると外気温計が示した値は−22℃、期待通りの寒さです。車内の温度も相当低くなっていた筈です。先ほど車から出し忘れたペットボトルのお茶が、ゴチゴチに凍って鈍器のように堅くなっていました。
車を運転する時に通常上着は着ないのですが、この車内温度では脱ぐと危険なので、分厚い上着は着たままです。トレッキングウォッチを車外に飛び出すように窓に挟み、宿の周辺10kmほどをドライブに出かけました。走り出して1kmも行くと、外気温は−23℃まで下がりました。これがこの日に私が確認できた最低の気温になります。
10km走ったところで車を停めて空を見上げると満天の星空が広がっていました。
晴れれば晴れるほど、夜は放射冷却で気温が下がるそうです。
そういえば、窓に挟んだトレッキングウォッチは?
窓から外して手にとってみると、液晶画面は完全に消えていました。
少し手で温めると、時刻表示は復活したものの、気温はエラー表示、高度計などは5500mというあらぬ数字を表示していました。
液晶が凍ったのか、電池が凍ったのか、センサーが凍ったのか、いずれにしても−20℃以下の世界では、でこの腕時計は使い物にならないことが判りました。
また、氷点下20℃以下の雪道ドライブというのは初めてだったのですが、タイヤは殆ど滑りません。
それに、「滑る」の代表格であるブラックアイスバーンであっても、ブレーキを踏めば普通に止まります。
真っ白な雪の上なのに、真っ黒な氷の上なのに、土の道を走っているくらいのグリップの良さです。
噂によると、さらに気温が下がって氷点下30℃を下回ると、アスファルトと変わらないようなグリップ感になるという話です。
車の外気温計を記念撮影して宿に戻り、もう一度風呂に入って就寝しました。
それにしても、部屋の中と外で、寒暖差が45〜50℃もあるって、凄くないですか? -
明くる朝は朝食前に大浴場へ。すると、素敵な世界が広がっていました。それは、樹氷。
昨日からあったのに気付かなかっただけか、それとも夜中のうちに出来たのか…、露天風呂の湯気が凍って、手摺にも、岩にも、それから夏に張られた古いクモの巣にも、全てにエビの尻尾のような樹氷ができていました。
冬の北海道は空気中の水分が少な過ぎて蔵王や八甲田のような樹氷は出来にくいそうです。
しかし、温泉の周囲だけは水分がふんだんに有るため、局地的に樹氷ができるそうです。
短時間ではありましたけど、氷点下20℃台という寒さの中に身を置いて思ったことは、「人間にとって一番大切なのは熱エネルギーなんだなぁ」ということです。
何一つ不自由なく、生命の危険もない世界に住んでいると、ケータイやパソコンを動かす電気エネルギーが一番大切なように思えてしまいますが、命を維持する為にはやはり、熱が一番大事だと実感しました。
そういえば、北海道出身の友人が言っていました。
「お金がなくて灯油かお米かどちらかしか買えないとしたらどっちを買うか?」
「迷わず灯油を買う」と…。
空腹は数日なら耐えられるけど、灯油が切れて暖房が止まったら即、死に直結するということです。
この寒さで私は、単純ではありますが、温泉の有難味が急に大きく感じられてしまい、この宿だけで6回もお風呂に入ってしまいました。
26日の朝に占冠で今年1番の寒さ-31.4℃を記録した…というニュースを友人がメールしてくれました。どうやら旅行のタイミングとしては、大成功だったようです。
(ちょっと判り難いですが、温泉の近くにのみ樹氷ができます) -
2日目、トムラウシ温泉を出て山を下ります。
ダム湖である東大雪湖は、真っ白に凍っていました。
子供の頃、「凍った湖」というのは、池に氷が張ったように、透き通っているのかと思っていたのですが、確か阿寒湖だったかな、二十歳過ぎてから初めて凍った湖というのを見て、「あぁ、なるほど、確かにこれほどの寒冷地なら上には雪も積もって真っ白なんだ」と理解しました。
では、上の雪を削っていったら透き通るのかと、阿寒湖の湖上スケートリンクを見に行ったら、やっぱり真っ白でした。凍るときに、湖水に溶けていた空気が気泡になって、真っ白になるようです。 -
2日目の宿泊地である芽登温泉に直行すると、12時半に着いてしまったので、近くの山の周囲を一回りすることにしました。
北海道の場合、簡単に一回りといっても、150kmくらい有ります。
平均時速50km/h で走り続けても3時間、観光を入れると3時間半コースでしょうか。
芽登温泉から近くを走る道道88号線で北上します。
峠に近付くと道路は圧雪とアイスバーン。気温が氷点下10℃に満たない状態ではけっこう滑ります。
温泉から83km走って、日本一寒い町といわれる陸別町へ。
この「日本一寒い」のタイトルも時々入れ換わるのですが、今は陸別町と言われています。
いま40代後半の人は、日本一寒い場所は「朱鞠内」と記憶しているのではないでしょうか?
また、もっともっと年配の人は「旭川」、反対にもう少し若い世代は「占冠」辺りでしょうか。
「朱鞠内」の記録に関して言えば、昭和53年2月17日に水銀温度計の目視で-41.2℃、デジタル温度計で-44.8℃を、非公式ながら観測したとされます。
昭和53年時、朱鞠内にはまだ気象庁の観測所が無かった為に、非公式記録とされています。
この-41.2℃記録が理由なのか、昭和53年11月から朱鞠内の観測所がデータを記録し続けていますので、気になる方は気象庁のホームページで過去の気象データ検索を探してみてください。
ちなみに、気象庁による公式の最低気温は、旭川で1902年に観測された-41.0℃で、110年近く経った今も、この記録は塗り替えられていません。
朱鞠内湖畔には「日本最寒の地のモニュメント」というものもあります。
たぶんこの「公式記録を下回った」というニュースを印象的に覚えているのが、当時小中学生だった私達世代といったところでしょう。
その後、『日本一寒い』は「日本一寒い気温を記録した」というよりは、「最低気温の平均が低い場所」という評価に基準に変わり、1980年代のスキーブームの頃には、トマムリゾートで有名な占冠が「日本一寒い場所」の代表格になりました。
ちなみに、1〜2月のトマムは、日中でも氷点下10℃以下が当たり前で、滑っていると顔が痛い、息を吸うと歯が痛いと、軽い雪質を楽しむどころではないスキー場と一部では言われています。
ここは、スキーを集中的に楽しむというよりは、スパあり、プールあり、グルメありのトマムタウンで、「厳冬」を楽しみながら、ついでに時々スキーもする…という感じでしょうか。
今は、冬の最低気温の平均値が日本一低いとされる、陸別町が『日本一寒い町』と言われていますが、これも、観測地点の置き方による(同じ町内でも盆地に置くと低い記録が出やすく、また大きな河川の近くに置くと気温が高めに出る)ので、今後どう変わって行くかは分かりません。
この陸別町では毎年2月に「しばれフェスティバル」というものが開催され、その中に「人間耐寒テスト」という催しがあります。
フェスティバルの公式ホームページによると、
『陸別の厳しい寒さに、果敢にチャレンジしていただきます。宿泊は、当祭り自慢、スタッフ特製『バルーンマンション』。もちろんストーブなんてありません。チャレンジャーに許される唯一の暖、その名も『命の火』。しばれフェスティバル会場のシンボルでもある、巨大ファイヤーストームで身体を温めていただきます。死なない程度に大自然のパワーを満喫していただきます。』
死なない程度に…ってねぇ。(汗) -
陸別の次は、足寄(松山千春さんの故郷)を通って、芽登温泉に戻りました。
宿にチェックインすると、部屋は予約した通り、2階のバス・トイレ無し6畳間。
2階へ通じる階段は木造、洗面所は共同、トイレも共同、ただ古く秘湯感満点です。
しかし部屋だけは十分に暖かいという点は、「さすがは北海道」と感心させられました。
着替えや撮影機材などを車から降ろしていると、宿の人が、「あのままの部屋で良いですか?」
「1000円差でトイレ付のもう少し広い部屋が空いていますけど…」
と言ってきました。
今回は、北海道の「厳」を味わうツアーだったので、そのままでも良いか…と思ったのですが、本能的に気になるところがあって、「お願いします」と1000円払って部屋をアップグレードしました。
部屋の暖房は抜群に効いて、廊下もそれほど寒くはないです。
しかし、もしかしたらトイレが…と思いました。
部屋を移ってから廊下に出て、共同トイレの扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ出てきました。
やはり、トイレの個室にまでは暖房はありませんでした。
しかも和式。夜になればトイレの中も氷点下になるかも知れません。
その寒さの中、和式で大きい方を踏ん張るかも知れないことを思うと…、アップグレードは大正解だったと思いました。 -
18時から夕飯だと言うので、食事前に大浴場に行きました。
芽登温泉の大浴場は、男女別の内湯と混浴の露天風呂があります。
濁河温泉に続き、今年2回目の混浴でしたが、もちろん、女性が入って来ることはありませんでした。
食事を終えると19時、もう一度お風呂に入り温まってから、20時過ぎに車の温度計で外気温を測ってみるつもりです。
ところが、20時にはフロントが無人になり、また、宿の玄関が施錠されていました。
さすがは秘湯、20時で今日の日は終わっています。
さて、ここで困ったことが一つ。
宿の玄関が施錠されて外に出られないということは、車の外気温計が使えないということです。
トレッキングウォッチは、全く使い物にならないことが昨日から分かっています。
代わりの温度計を探すと、ありました。電波目覚まし時計に付いている温度計が。
今回は2種類の電波目覚まし時計を持っていたので、2つを窓の外に出し、40分ほど旅日記を書きながら時間をつぶしました。
そして窓を開けて、時計を2つ取ると…
なんと、両方とも昨夜のトレッキングウォッチ同様に、液晶画面が消えていました。デジタル物は低温に弱いと言われていますが、きっと携帯電話もこの気温では使えないんだろうなぁ…と思いました。
手でモニタを温めると、片方は「低すぎて測れません」を意味する『LL』表示、そしてもう一方は、薄ぼんやりと『-21.3℃』が見えました。
なんと、夜9時前にして-21℃以下、昨日の場所より寒そうです。
とりあえず、気温はまともに測れないので、夜は時々露天風呂に行ったり、窓を全開にして冷気を浴びたりして、極寒の地の夜を楽しみ(?)ました。 -
3日目は、寒さも2回体験したし、陸別も行ったし、日帰り湯も入ったし…、やっておきたい事を前倒しで済ませてしまったので、宿を出てからどうしようか、とりあえず23km程山を上がった糠平湖に行って、凍った湖でも撮ってみようかと車を出発させました。
ところが、糠平湖を一望できるダムサイトは関係者以外立入禁止。昔は一般車も入れたのに。
もうちょっと時間を潰しながら、飛行機を1本早めて帰ろうかな…なんて思って地図を見ていたら、なんだか、大雪山を一周しても夕方までに帯広に行けそうな気がしてきました。
そこで、まっすぐ帰れば83kmの道程を、340kmというとんでもない遠回りして帰ることにしました。こんな事ができるのも、交通事情の良い北海道ならではです。
糠平湖から糠平国道と呼ばれる国道273号線を北上。もう朝の10時近くだというのに気温は−20℃、交通量の少ない圧雪&所々アイスバーンの道はグリップも良く、快調に標高を上げて行きます。私が先行する車に追いつくと、その車は次の直線で素早く道を譲ってくれます。
流石は日本一運転が上手いと言われる北海道民です。雪路を運転している時でも、しっかり、後方に注意を払っています。
三国峠を越えると名前が上川国道と変わり、大雪ダムのところで大雪国道と呼ばれる国道39号線に合流します。ここから先は、層雲峡のうんざりするようなアイスバーンが待っています。
網走・北見と旭川を結ぶこの幹線国道は、トラックや観光バスの交通量が非常に多く、道は黒光りするアイスバーン。気温は上がって−13℃、後に車がいないタイミングで試しにフルブレーキを踏むと、ABSのカカカカカカッという素早いポンピング音はするものの減速感はゼロ。
初めて来た時から20年経っても何も変わらない層雲峡のアイスバーン。それでも交通量が多いので速度は50〜60km/h をキープしなくてはなりません。
とくに、滑ると対向車線に行ってしまう左カーブは、綱渡りみたいで本当にゾクゾウします。
北海道の人が初めて東京に来て首都高速環状線を運転した時に、『あの車間距離であの速度で走っているのは異常だ!』と言ったけれど、層雲峡をこの速度で列をなして走っている北海道民の方が、よほど異常だと思います。
首都高速はぶつかる相手が悪くても壁なので相対速度はせいぜい80〜90km/h 程度。しかも路面はドライでグリップ。しかしココではぶつかる相手は壁なら良いけど、反対側なら対向車なので相対速度は最低100km/h 、その上、路面はアイスバーンで常にスリップです。
しかし…、大雪山を回って帰ったものの、晴れていた南側(帯広側)と違い、北側は雪と曇り。
結局、山の雄姿を一目も見ることなく、遠回りドライブは終わりました。
帯広に戻り、着いた日の食べた豚丼屋さんで夕飯。日没すると気温は−15℃、そしてレンタカーを返す19:00には気温が−22℃まで下がりました。何という寒さでしょうか。
こんな感じで、私の2泊3日極寒体験旅行は終わりました。
利用金額は58982円、良い経験になりました。
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