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列車が止まった。いくら貧乏旅行でも、インドで三等車に乗る勇気はなかった。二等に乗ったため、コンパートメントの定員は守られており、車窓から外をゆっくりと見る余裕がある。窓から見える風景の中に駅のホームは見えないが、長い列車の一部がホームにかかっているのだろうか。<br /><br />そんな事を考えるよりも、線路の側で行われている風景に意味もなく釘付けになってしまった。風景は、ひたすら荒野の様な草原が広がっていた。特別な観光名所でもないため、目が留まったのはそこに動く人間がいたからだった。一人の男が手にハンマーを持ち、石を割っている。それはすぐにわかったのだが、何のために線路わきでこんな事をしているのかと思ったため注視してしまったのだった。男の側には、大きい石の塊が山となっている。反対側には、小さな石がこれまた山となっている。割った石の大きさが、線路の敷石と同じくらいだと気が付いた時、男の職業が何となく想像できた気がした。ここまで運ばれた大きな石を、小さく砕き線路の敷石と使用できるようにするのが役目なのだろうか。<br /><br />仕事をするそばには、棒と布で作ったような小さな家があった。しばらくすると中から子供を連れた女が出てきた。この線路際に家族で住んでいるのだろうか。いや、石の量を見ると住まなければできないほどの量だ。機械で石を砕き、列車で運んだ方が速いように思えるが、インドで合理性を考えてはいけない。ある意味では、石を手に持ったハンマーで砕く事は、そのカーストや一族だろうか。職業の保証を代々受け継がれる、逆な意味での合理性があるのかも知れない。<br /><br />動き出した列車は、やがてアグラに着いた。この町の雰囲気を味わおうとぼんやり立っていると、観光地だけにリキシャの呼び込みが激しい。この町に限ったことではないので適当に受け流していると、近くに座り込んで荷物を整理している外人旅行者を見つけた。聞いてみるとフランスからきて写真を撮っていると言う。大きなかばんは、プロ用のカメラなのだろうか。宿を探しているのは同じなので相談し、一人のリキシャのおっちゃんに任せてみることにした。まあ二人いれば、半額まではいかない物の安くなるだろう、と言うお互いに金銭的な妥協だった。リキシャは俺に任せとけと勝手に進み、ある中級クラスのホテルに着いた。降りるとリキシャはサービスでお金はいらないと言う。まあよくありがちな、ホテルからバックがあるパターンだろう。部屋へ案内されると、ベッドやバスの設備などは、それなりに中級だ。しかし、ここはインド。細かく見ていくと、ほころびや汚れが目に入る。フランス人はここに泊まると言うが、金額にあわないので他に行くことにした。すると案の定、リキシャはホテルの入口で待ち構えていた。自分の客が泊まるかどうか、確認したかったのだろう。出ていく私を見て「ここまでの料金をくれ」と言い出した。「一人泊まったから、ホテルからもらえるだろう」と追い返す。しばらくはぶつぶつ言いながら付いてきたが、適当なホテルの玄関へ入るといなくなった。このあたりはインド流にホテルとの仁義があるのだろう。入ったふりだけで、もちろん知らないホテルに泊まるつもりはない。ロンリープラネットの安ホテルを探す。インド的には清潔と書かれていたハウスへ行くと、一部屋空いていた。部屋にベッドがあるだけの極めてシンプルな宿だが、民宿的な施設できれいに清掃されていた方が、はるかにコストパフォーマンスにあっているように感じられる。<br /><br />ウロウロしながら細い路地から着いたのでわからなかったが、この宿はタージマハルの入口にとても近かった。荷物を置いて見学に行くと大理石の建物、別の言い方ではお墓が見えてきた。これまで見てきた風景の色を一言でたとえると茶色だが、目の前に見える白。インドの風景の中では、とりわけ印象的に見える。一通り見学してからは、一度宿に戻りシャワーで汗を流す。と言っても、安宿なので水のシャワーだけど。一休みしたのは、夜にもう一度タージマハルを見に行きたいからだ。満月の夜に見れば、その光で大理石が透き通るように輝いて見えると言う事なのだが。残念ながら、この日は曇り空で月の光はおぼろげだった。<br /><br />しかし、この大きさの物を大理石で作るとしたら、どれだけの年月と数多くの人が関わったことだろうか。計画はあったところで、インド的な時間の流れ方からしたら予定通りなどと言う事はありえないだろう。目の前には観光客の集まる歴史的な建造物があるが、誰が石を削ったかはわからない。墓の王の名前は残っても、作った職人は無名のままなのだろうか。<br /><br />大理石を削っても、線路の石を削っても、その後に残ることは変わらないのかも知れない。歴史に芸術として残れば、彫刻家と呼ばれるか。ただの敷石なら、石工程度の物なのか。どちらにしても関わった職人の仕事であり、その時代では家族の生計を支えたのだろう。<br /><br />今やインドでも、携帯電話やインターネットが繋がる時代である。職種やカーストを超えた情報の交流があってもおかしくない。石を彫る仕事、石を割る仕事は、どんな風に受け継がれていくのだろうか。<br />

石を割る、石を彫る。

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2012/01/10 - 2012/01/20

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マリオット

マリオットさん

列車が止まった。いくら貧乏旅行でも、インドで三等車に乗る勇気はなかった。二等に乗ったため、コンパートメントの定員は守られており、車窓から外をゆっくりと見る余裕がある。窓から見える風景の中に駅のホームは見えないが、長い列車の一部がホームにかかっているのだろうか。

そんな事を考えるよりも、線路の側で行われている風景に意味もなく釘付けになってしまった。風景は、ひたすら荒野の様な草原が広がっていた。特別な観光名所でもないため、目が留まったのはそこに動く人間がいたからだった。一人の男が手にハンマーを持ち、石を割っている。それはすぐにわかったのだが、何のために線路わきでこんな事をしているのかと思ったため注視してしまったのだった。男の側には、大きい石の塊が山となっている。反対側には、小さな石がこれまた山となっている。割った石の大きさが、線路の敷石と同じくらいだと気が付いた時、男の職業が何となく想像できた気がした。ここまで運ばれた大きな石を、小さく砕き線路の敷石と使用できるようにするのが役目なのだろうか。

仕事をするそばには、棒と布で作ったような小さな家があった。しばらくすると中から子供を連れた女が出てきた。この線路際に家族で住んでいるのだろうか。いや、石の量を見ると住まなければできないほどの量だ。機械で石を砕き、列車で運んだ方が速いように思えるが、インドで合理性を考えてはいけない。ある意味では、石を手に持ったハンマーで砕く事は、そのカーストや一族だろうか。職業の保証を代々受け継がれる、逆な意味での合理性があるのかも知れない。

動き出した列車は、やがてアグラに着いた。この町の雰囲気を味わおうとぼんやり立っていると、観光地だけにリキシャの呼び込みが激しい。この町に限ったことではないので適当に受け流していると、近くに座り込んで荷物を整理している外人旅行者を見つけた。聞いてみるとフランスからきて写真を撮っていると言う。大きなかばんは、プロ用のカメラなのだろうか。宿を探しているのは同じなので相談し、一人のリキシャのおっちゃんに任せてみることにした。まあ二人いれば、半額まではいかない物の安くなるだろう、と言うお互いに金銭的な妥協だった。リキシャは俺に任せとけと勝手に進み、ある中級クラスのホテルに着いた。降りるとリキシャはサービスでお金はいらないと言う。まあよくありがちな、ホテルからバックがあるパターンだろう。部屋へ案内されると、ベッドやバスの設備などは、それなりに中級だ。しかし、ここはインド。細かく見ていくと、ほころびや汚れが目に入る。フランス人はここに泊まると言うが、金額にあわないので他に行くことにした。すると案の定、リキシャはホテルの入口で待ち構えていた。自分の客が泊まるかどうか、確認したかったのだろう。出ていく私を見て「ここまでの料金をくれ」と言い出した。「一人泊まったから、ホテルからもらえるだろう」と追い返す。しばらくはぶつぶつ言いながら付いてきたが、適当なホテルの玄関へ入るといなくなった。このあたりはインド流にホテルとの仁義があるのだろう。入ったふりだけで、もちろん知らないホテルに泊まるつもりはない。ロンリープラネットの安ホテルを探す。インド的には清潔と書かれていたハウスへ行くと、一部屋空いていた。部屋にベッドがあるだけの極めてシンプルな宿だが、民宿的な施設できれいに清掃されていた方が、はるかにコストパフォーマンスにあっているように感じられる。

ウロウロしながら細い路地から着いたのでわからなかったが、この宿はタージマハルの入口にとても近かった。荷物を置いて見学に行くと大理石の建物、別の言い方ではお墓が見えてきた。これまで見てきた風景の色を一言でたとえると茶色だが、目の前に見える白。インドの風景の中では、とりわけ印象的に見える。一通り見学してからは、一度宿に戻りシャワーで汗を流す。と言っても、安宿なので水のシャワーだけど。一休みしたのは、夜にもう一度タージマハルを見に行きたいからだ。満月の夜に見れば、その光で大理石が透き通るように輝いて見えると言う事なのだが。残念ながら、この日は曇り空で月の光はおぼろげだった。

しかし、この大きさの物を大理石で作るとしたら、どれだけの年月と数多くの人が関わったことだろうか。計画はあったところで、インド的な時間の流れ方からしたら予定通りなどと言う事はありえないだろう。目の前には観光客の集まる歴史的な建造物があるが、誰が石を削ったかはわからない。墓の王の名前は残っても、作った職人は無名のままなのだろうか。

大理石を削っても、線路の石を削っても、その後に残ることは変わらないのかも知れない。歴史に芸術として残れば、彫刻家と呼ばれるか。ただの敷石なら、石工程度の物なのか。どちらにしても関わった職人の仕事であり、その時代では家族の生計を支えたのだろう。

今やインドでも、携帯電話やインターネットが繋がる時代である。職種やカーストを超えた情報の交流があってもおかしくない。石を彫る仕事、石を割る仕事は、どんな風に受け継がれていくのだろうか。

旅行の満足度
3.5
観光
3.5
ホテル
2.5
同行者
一人旅
一人あたり費用
15万円 - 20万円
交通手段
鉄道
航空会社
エアインディア
旅行の手配内容
個別手配
  • 当たり前すぎる所で写真を一枚、曇り空が残念だった。

    当たり前すぎる所で写真を一枚、曇り空が残念だった。

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